──○○学園高等学校での事件からおよそ1年。
忌まわしい惨劇は人々の記憶から次第に薄れつつあった。
しかし同年の8月██日の早朝、『ペディキュア絞殺魔』が
再び世の若い女性達に牙を剥き始めた。
事件当日、██市内に位置するスポーツセンターで
合宿中だった△△女子大附属高等学校の女子吹奏楽部の部員が
死亡しているのを同施設の管理人、他の部員達が発見した。
死亡していたのは当時、女子吹奏楽部の部長だった
3年生の宮中 都美(みやなか さとみ)さん、
1年生の部員の新宮 柚(あらみや ゆず)さん、
甲斐田 藍佳(かいだ あいか)さんの3名で
発見された際、爪先にペディキュアが塗られた状態だった。
奇しくもこの日の午前3時頃から、施設全体の冷房並びに
空調設備に不具合が生じて建物内の気温、湿度が高くなっていた
事も相まってか遺体の腐敗が進んでしまっていた。
その後の捜査、並びに遺体の司法解剖により、
都美さんは就寝中に犯人によって枕で鼻や口を塞がれて窒息死、
柚さんと藍佳さんは消灯後、おそらくはトイレに行く目的で
部屋を出た所を犯人に麻酔薬を嗅がされ昏倒、その後は合宿所内の
リネン室で手足を縛られた状態で紐状の物で首を絞められ、
絞殺されたと判明し…………(以下省略)
引用元
南杜花(なんとか)出版社刊
『現代日本残酷残虐猟奇殺人録』より
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「……ね………おき………て…………起きてよー……」
「………んー……今何時だと思ってんの………………
明日も朝早いってのに………………」
「ねぇ、藍佳。
一緒にトイレについて来てくれない?」
「一人で行けないの…………?」
「やだよ怖いんだもん………………。
夕食後に先輩達が話してたんだけど、
ここって………出るんだって聞いてさ〜。
お願ーい、一緒について来てよー」
「……はぁ………しょーがねぇなぁ…………。
分かった、一緒に行ってあげる。
おっと危ない………部長、起こさないようにね」
「分かってる、ありがと藍佳」
今、私をトイレに誘おうと叩き起こしてきたのが
私の友人で同じ吹奏楽部に所属している新宮柚だ。
私達が所属する△△女子大附属高等学校の女子吹奏楽部は毎年、
全国大会で上位に食い込む強豪校として名を知られている。
私達が入部してまだ半年も経たない内に、夏休みに行われる
一週間の強化合宿に参加する事になったのだが………。
……………………ハッキリいってかなりキツい。
現に私達と相部屋の部長──宮中先輩は普段は物腰の柔らかい
親しみやすい人なのだが、部活動中はまるで人が変わったかの
ように厳しい態度で私達後輩を指導してくる。
顧問も厳しいのだが、それ以上に宮中先輩は気合いが入ってて
さながらVシネマに出てくる姐御というかその筋の人……みたいな。
本当に部活動中でなければ、滅茶苦茶良い人なんだけど…………。
それ故に部員達からの評判も悪く『二重人格サイコパス部長』だの、
『立てば罵声座れば威圧歩く姿は鬼ババア』など、
裏で散々陰口を叩かれているのは吹奏楽部内外でも有名な話だ。
そんなおっかない人と相部屋になった理由は分からない。
他の部員達より私や柚は演奏が下手だから?
それとも将来有望な新入生コンビとして期待されてるのかな?
兎に角、良くも悪くも恐れられてる人を起こしてしまったら
どんな目に遭わされるか分からないので、私達は忍び足で
部屋を出て合宿所の1階にあるトイレに向かった。
「藍佳は大丈夫?」
「ぜーんぜん平気、私はここで待ってるよ。
オバケが出てきて襲われてもすぐ助けに行くから、
早いとこ行ってきなよ」
「ん……ゴメンね………………すぐ戻るから………」
申し訳無さそうにトイレに入っていく柚。
扉が閉まり、私は入口前の壁にもたれ掛かって
彼女が用を足し終えるのを待っていた。
「………おっそいなー、アイツ便秘だったっけ?」
「いや…………前に言ってたっけ、オシッコの切れが
悪いだとか中々オシッコが出ないとか…………。
中年のオッサンかよお前………………」
「…………あー、ねむいなぁ……んうぅっ!?」
次の瞬間だった。
後ろから突然、誰かに布で鼻と口を塞がれ、
ツーンとした酸っぱくて思わず吐きそうになるくらいの
刺激臭が鼻の中に一気に突き刺さる。
「ん゛!! ウゥゥ……………………ぅ………………………」
あっという間に手足が痺れて動かなくなる。
強烈な眠気に襲われ、瞼が重くなっていく。
「………………ぅ………………ん……」
もう目を開けていられなくなり、瞼が閉じて暗闇に包まれる。
ズルズルと何処かに引き摺られている感覚と同時に
私の意識はすぅっ、と遠ざかっていった………………。
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「ふぅーっ、お待たせー。
やっぱ全然オシッコでねぇわwww………なーんて……。
……………………アレっ? 藍佳?
嘘でしょ…………冗談はやめてよ藍佳〜…………」
「藍佳ー? どこ行って……ゔゔっ!!」
「ん゛ーっ!! ン゛ヴゥゥゥーッ!!」
「うぅ………………っくっ…………………ん……………」
「………………………………………………………」
─────────────────────────
「………………ん………んんっ………………むっ………………」
息苦しさで目を覚ますと、何処か薄暗い別の部屋にいた。
両腕と口元に圧迫感を感じる。
どうやら麻酔薬を嗅がされて意識を失っている間に
手足を縛られ、猿轡を噛まされているみたいだ。
ぼんやりとした視界に、自分の爪先が見える。
いつの間にか、鮮血のように真っ赤なラメ入りのペディキュアが
塗られていて、部屋の中の僅かな光でキラキラ反射している。
「ん……ぅ?」
「(え……? 私、ペディキュアなんか塗ってないのに……。
うぅ………こんなキラキラしたラメ入りのやつなんて
めっちゃ目立つじゃん……………………恥ずかしいよ……)」
私の向かい側、真正面には柚の姿があった。
どうやら私と同じく手首を縛られているものの、
足首は自由で、猿轡はまだ噛まされていない状態だった。
だが麻酔の効き目が切れていないようで時折小さく呻いたり、
爪先をモゾモゾさせるだけで意識は無いようだ。
目を凝らしてよく見ると柚の爪先にも私と同じく、
真っ赤なラメ入りのペディキュアが塗られていた。
「……ゅうっ!………ゆふっ!…………おふぃふぇっ!」
「…………ぅ………………ぁ………………………」
『柚っ! 柚っ! 起きて!』と声を掛けたつもりが、
猿轡のせいでくぐもった変な声が出てしまった。
柚からの返事が無く、少し呻いただけで
意識は戻らずぐったりしたままだった。
「……ん!?………ん……うっ……うぅ!!?」
気が付くと柚の背後に、見知らぬ誰かが立っていて
私は驚いて変な悲鳴を出してしまった。
部屋の照明が薄暗いせいで顔は分からないが、体格からして
全身黒ずくめの服装を纏っている男だという以外に、
奴に関しては何一つ分からない。
男は意識が戻った私をちらりと一瞥した後、
ポケットから何か細長い物を取り出した。
茶色っぽいナイロンの紐みたいな感じのそれの
端と端をそれぞれ左右の手に巻きつけ、ピーンと伸ばした。
この後、男が柚に何をするか察した私がくぐもった声を上げて
必死に制止しようとするよりも早く、
男は柚の綺麗な首を素早く紐で絞め上げた。
「ん…………ぎゅ……ぐ………カハッ!!」
「ゆふぅ!! ゆふゔゔぅゥゥゥーッ!!」
「んぐごぇっ!! げっ………ひゅぅ!!
かはっ!! ………藍………佳ぁっ……!!」
目を覚ました柚が、苦しそうに身を捩らせる。
私に気付いて、涙目でげぇげぇと助けを求める柚の顔が
みるみる内に毒々しい紫色に変色していく。
「(駄目…………やめて!!
柚が、柚が死んじゃうよ!!)」
すぐに助けに行きたいのに、さっき嗅がされた
麻酔薬のせいで私の手足はまだピリピリ痺れていて
思うように力が入らない。
そうこうしている内にまた一歩、柚が死に近づいていく。
「ぐゔ……げっ………………ぐぇぇえーっ!!」
「あ゛ゔっ、グゲぉぅっ!! ごげぇぇぇェェッ!!」
「ゆふっ!! うゔぅーっ!! んゔぅゥゥゥーッ!!」
柚とは中学校の頃からの腐れ縁だったが、彼女の口から
今まで聞いたこともないような悍しい奇声が漏れ出る。
縛られていない柚の両足が、爪先を忙しなく開いたり閉じたり
しながら、床の上で激しくバタバタとのた打ち回る。
「ぐ……くぅぇっ………………ウウッ!」
「う………うぅ………ゆう゛ぅぅ………………!」
あれだけバタついていた両足がペタンと床に着いて
急に大人しくなったと思いきや突然、両足をピーンと
突っ張らせたまま、全身をガクガクと激しく痙攣させ始めた。
…………もう柚は手遅れのようだった。
「く………ぁ…………ぁぅ………………げぽっ」
奇怪な断末魔を上げて柚の口からビュッ、と粘着質な涎と
ナメクジみたいにねっとりとして浮腫んだ舌が飛び出ると、
男は彼女の首から紐を外した。
カクンと項垂れたまま息絶えた柚の身体が死しても尚、
ビクン、ビクンと脈打ち続けている。
やがて柚の股間から強烈なアンモニア臭を纏った湯気が漂い、
ジワリと体操着のハーフパンツからオシッコが床に滲み出る。
私は自分自身の無力さを嘆きながら、
凄まじい形相で恥辱を晒して死にゆく柚を只々、
見つめる事しか出来なかった……。
自分の頭の中で、これまで柚と過ごしてきた
大切な思い出が次々に駆け巡る。
中学校に進学して一緒のクラス、隣の席になった柚と
初めて知り合った入学式の日の事。
すぐに打ち解けて大切な友達になってからは、
中学校を卒業するまで同じクラス、同じ部活動で
宿泊学習、修学旅行でも学校ではいつも一緒だった事。
高校に進学する前、帰り道の誰もいない公園のベンチで
私が心の奥にしまっていた柚への恋心を告白したあの日、
彼女は私を拒絶したり罵ったりせず、私の事を受け入れて
大切なパートナーになると言ってくれた事。
「うっ……ぐすっ………………ぅぅ………………」
今すぐこの場でわんわんと大声で泣き叫びたいのに、
猿轡のせいなのか、はたまた今度は自分が殺される番に
なって死の恐怖に感情を支配されてしまっているからなのか。
あれこれ頭の中で考えている内に、
柚はもうピクリとも動かなくなっていた。
…………逃げる気すら起こらなかった。
柚がいないこの世界で生きてたって、何も楽しくない。
………………生きる希望もない。
…………だから早く、殺してよ。
……………………私を柚のいる天国に連れてってよ!!
男が私の思考を読んだのかは分からないが、
たった今、柚を殺したばかりの凶器の紐をぶらぶらさせながら
何故か私の両足の拘束を解いて、私の背後に立った。
目の前にピーンと張られた紐が自分の首に
巻きつけられるまで、そう長くは掛からなかった。
「ゔぐっ! ヴッ…………ヴゥぅぅヴゥゥゥゥーッ!!」
……………………とても苦しい。
ドクンドクンと激しく心臓が脈打つ。
酷い耳鳴りと頭痛に襲われ、涙が止まらない。
締め付けられた喉が、焼けつくようにヒリヒリする。
私は無意識の内に柚と同じように両足を床に叩きつけ、
激しくバタつかせながら藻掻き苦しむ。
でも…………柚が死ぬ間際まで受けた苦しみなんて
こんな物じゃない筈だ。
大切な人を、見殺しにしたのも同然の私に下された罰なんだ。
でも…………とっても苦しい………………。
早く、早く……………………終わって………………!!
プチプチと、頭の中か何処かで何が弾けるような音が聞こえる。
激しく脈打つ心臓が、今にも爆発してしまいそうだ。
視界が端から真ん中へ、次第に真っ赤に染まっていく。
私はバタ足を止めて、ギューッと爪先を折り曲げながら
ただひたすら最期の瞬間が来るのを待ち続けた。
そして……………。
「ヴゥ………ぐっ………………ぐお……………え゛っ!!」
…………全身から力が抜けて、動けなくなった。
股間の辺りがジワリと暖かくなり、ツーンとした強烈な
アンモニア臭が猿轡の布越しに鼻を突き刺す。
オシッコを漏らした後、男は私の口から猿轡を外した。
「きゅ…………ご………………オェ…………ッ………………」
変な声と涎が私の口から飛び出した。
漏らしたオシッコが水溜りのように床に広がっていく。
折り曲げたままの爪先を硬直させたまま、ビクビクと
痙攣し続ける私の身体は着実に死へと近付いていく。
男は私の横に息絶えた柚を引き摺っていく。
カクン、と柚の頭が私の頭にもたれかかる。
白目を剥き、舌をベロンと突き出したまま息絶えた
柚の死に顔から目線を反らしたくてもそれは出来ない。
カシャッ、カシャッ、とスマホのカメラで写真を撮る音がした。
人を殺して、死体の写真を撮るなんて………悪趣味過ぎる。
続いてペチャペチャと粘着質な音がした。
何なんだろうか。
しばらくすると自分の足裏に、ねっとりとした
生暖かい何かが這いずり回る感触がした。
まさかこいつ………私や柚の足の裏を舐めてるの……!?
………………汚らわしい。
やめてよ………………………汚らわしい。
やめろ………………私や柚に汚らわしい手で触るな!
お前みたいなサイコ野郎のクズが、
私達に気安く触っていい訳ないだろ!
本当に………………最低っ!
お前なんか死刑になって、地獄に落ちればいいのに…………!!
だけどもう………私達には悪態をつく気力も、
抵抗する力も何一つ残されていない………………………。
天国に行ったら、向こうでも柚に会えるんだろうか?
お父さんやお母さんはきっと悲しむんだろうな………。
私が同じ女の子に恋愛感情を抱いていると告白しても、
怒ったり罵ったりせず、背中を押して応援してくれたのに
自分の娘がこんな最期を遂げるだなんて………………。
やがて男によって白い布で私達の死体は覆われると
照明が消えて、部屋の中は真っ暗闇になった。
「(ごめ………んね………………柚…………。
私も………………そっち………に……いく…………ね………………。
ずっと………い………っしょ……だ……………………よ………………。
あい………し…………て………………る………………………………)」
………………こうして、私は柚と一緒に天国へと旅立った。
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ペチャペチャ…………ペチャペチャ…………。
入浴してから時間が経っている筈だが、柚と藍佳の足裏からは
汗の匂いにまじって微かに優しいボディーソープの香りがする。
柚と藍佳を殺害した████は、激しいバタ足でしっとりと
汗ばんだ2人の足裏の匂いを嗅いだり、粘着質な音を立てながら
舐め回した後、ウェットティッシュで足裏についた自身の唾液や
指紋を拭き取り、証拠を隠滅した。
そして柚と藍佳がトイレに行っていた際に履いていたスリッパを、
それぞれ一足づつチャック付きのポリ袋に入れて密封し、
背負っていた斜めがけバッグに入れてリネン室を出て扉を閉めると、
昨年の永塚姉妹、そしてたった今殺害した新宮柚、甲斐田藍佳を
含めて5人目となる犠牲者──宮中都美の元へ向かった。
本当は部員全員を手に掛けたいと思っていた████だったが
時間帯が深夜であっても、時間を掛け過ぎればそれだけ施設内で
自分が発見されるリスクが高くなる。
惜しみつつも、████は他の部員が寝ているであろう部屋を
スルーして柚と藍佳が出てきた部屋の前に立った。
先程、麻酔薬で昏倒させる直前に盗み聞きした2人の会話が
正しければこの部屋で都美が寝ている筈だ。
あの2人が部長と相部屋だった事は████にとって好都合だった。
事前に学校のホームページやコンクールでの笑顔に満ちた写真を
見た時、一目で写真にも写っていない彼女の爪先や足の裏に
自分の性癖をぶつけてみたいと考えていた。
………勿論、息の根を止めてからではあるが。
意を決して扉をゆっくりと開けて侵入し、再び扉を閉めた。
中の照明は運良く豆電球が点いていたがそれでも薄暗い。
そして畳の上に敷かれた空っぽになった二つの布団の側、
一番奥の押入れ前の布団の中で都美は自分が狙われているとは
露知らず、気持ち良さそうに寝息を立てて静かに眠っていた。
「すぅーっ………………すぅーっ………………………」
████は先程と同じ凶器で絞殺しようと鞄から取り出したが、
ピーンと張った瞬間にロープが切れてしまった。
自宅の物置に放置されていた物で見た目が頑丈そうだったので
持ってきたが、経年劣化で内部の繊維がボロボロになっていた
ようで、どうやっても使い物になりそうにない。
両手で首を絞めようにも、下手な運動部よりも体力が資本の
吹奏楽部の部員であり部長でもある都美と比べて、実質帰宅部も
同然の自分が正面きっても、凶器無しで勝てる自信が無い。
かと言って、このまま黙って帰る訳にもいかない。
熟睡している都美の前でしばらく悩んだ末に、
████は都美が後頭部を乗せていた枕に目を付けた。
忍び足で都美の頭の方にしゃがみ込むと████は
枕の両端を掴み、そっと引き抜くと違和感で彼女が目を覚ます前に
素早く枕を顔面に押し付け、一気に体重を掛けて窒息させる。
「う……ぐぅ!! ンヴウゥーッ!! ンゥヴゥゥゥン!!」
くぐもった声を上げて、布団の中で藻掻く都美。
やがて掛け布団が勢いよく払い除けられ、敷布団の上で赤い
ジャージパンツを履いた両足がバタバタと激しくのた打ち回る。
激しくバタ足しながら、靴下を履いていない都美の爪先が 忙しなくクニュクニュと開いたり閉じたりして悶え続ける。 枕を押さえつける████の両腕をペチペチと軽い音を立てて 引っ掻いたり叩いたりして無駄な抵抗を何度も試み………。 それからしばらくして突然、都美に異変が起こる。 「んゔ………………んむゔっ!! ぅぅゔうっ………………ん゛ぅゥゥーっ!」 「ウウぅぅうゔーっ!!………ゔっ……ゥゥゥ………………」 「んむっ!………ぅゔん!………………ぅゔんっ!………………」
長時間、窒息し続けた都美は深刻な脳障害を引き起こし、 ノイズの混じったしゃっくりのような奇声を上げながら、両足を 斜め上にピーンと伸ばしたままブルブルと激しく痙攣し始めた。 「ゔっ……………ん……………………ウウッ………………………………」 「………………………………………………………………………」 パタッと敷布団に着地して力尽きた都美の両足が ビクッ、ビクッ、と数回震わせた後に動かなくなった。 失禁したのか、部屋中にアンモニア臭が漂う。 肩で息をしながら████は少しの間、呼吸を整える。 バタバタさせながら藻掻いていたので誰かが音を聞きつけて しまうのではないかと内心ビクビクしていたが、 都美が動かなくなるとすかさず彼女の爪先にオレンジ色の ラメ入りペディキュアを塗り、カラフルな爪先を写真に収める。
爪先の後は足の裏を撮影し、手袋を外すと 微かにピクピク痙攣している都美の踵や土踏まず、足指の間の 感触を確かめたり匂いを嗅いだり、ペチャペチャと舌で舐め回す。 先程の2人と比べて、少しツンとした酸っぱい匂いがする。
足裏を堪能した後は枕を退かし、目や口を開けっ広げたままで 息絶えた都美の死に顔も撮影する。 チアノーゼを引き起こして青紫色に変色して浮腫んだ顔は、 枕の表面と同様に鼻水や涙、涎でベタベタになっていた。 死の直前で必死に枕を下から退かそうとしていたのだろうか、 いつの間にやら枕の下に右手が差し込まれていた。 ふと時間が気になった████が腕時計に目を遣ると、 時刻は既に午前2時になろうとしていた。 ロープが切れさえしなければまだまだ殺せた気はするが、 途中で誰かに見つかったりしたら一巻の終わりだ。 それに、建物の中が何だか妙に蒸し暑い。 長袖の服や手袋を着込んでいるせいなのかも知れないが それにしては変だし、節電という訳でも無さそうだ。 「今日はここまでにしとこう………………。 ヤバっ、足裏拭いとくの忘れてた」 慌てて都美の足裏に付着した指紋や唾液を拭き取り、 彼女の死体に枕や布団を被せ電気を消して部屋を後にした ████は、音を立てないようになるべく早歩きで廊下を進み、 侵入した際に使った施設1階の廊下の窓から脱出し、 逃げるように夜の闇に消えていった……………。 ───────────────────────── それから約5時間後。 午前7時を迎えようとしていた頃、 施設の管理人が雑用の為にリネン室を訪れた。 「!?」 「何なんだ一体!?」
「おいまさか…………!?」 「うっ、うわぁぁぁーーーーっ!!」 恐る恐る、シーツを剥ぎ取った管理人が絶叫した。
そこには変わり果てた姿となった柚と藍佳の姿があった。 それからしばらくして、3人が就寝していた部屋でも………。 「せせせっ、先輩っ!! 大変なんです!! 柚ちゃんと藍佳ちゃんがっ!! うっ!! 何なのよこのニオイっ!! あ……あれっ? せん………ぱ………い…………………?」
………………返事が無い。 凄まじい悪臭に包まれた薄暗い部屋で都美は枕を頭の上から 被って布団から足先を出したまま、反応がない。 「え………………先輩…………う……嘘でしょ……………………?」 「(何これ………えっ? 先輩、ペディキュアなんかしてたっけ?)」
部員が電気を点けると、変色した都美の爪先がハッキリ見えた。
「ねぇ先輩!? 先輩っ!!」 「いっ……嫌あぁぁぁぁーーっ!!」
不安を感じて枕を退かした部員は悲鳴を上げた。 悲鳴を聞きつけて入ってきた他の部員も、 変わり果てた姿となった部長──都美の姿を見て泣き叫ぶ。 それからしばらくの間、部員達の悲鳴と泣き声に包まれた 現場は騒然とし、大混乱に包まれたのだった。 ───────────────────────── 『ニュースをお伝えします。 ██県██市のスポーツセンター内にある宿泊施設で 3人の女子高生の遺体が発見されました。 死亡していたのは、数日前から合宿に訪れていた △△女子大附属高等学校の女子吹奏楽部の部員の宮中都美さん、 甲斐田藍佳さん、新宮柚さんとみられ、3人は何者かによって 窒息死させられた状態で発見されたとの事です。 詳しい情報について、現場から██リポーターの中継で………』 「やぁねぇ、まだ若い女の子が可哀想に………。 ████、アンタの学校でも殺人事件があったでしょ? ホント気を付けなさいよ? 前に母さんが見たテレビ番組で犯罪心理学の先生が言ってたけど、 ああいう事件を起こす頭のおかしい人は、若い女の子だけ じゃなくって同じ年頃の男の子も見境なく殺しちゃうんだから」 「ん………………分かってるって。 大丈夫だって、今日は寄り道せずに帰るからさ。 やべっ、ニュース見てたらもうこんな時間かよ!! 学校に遅れる!! 行ってきまーす!!」 「あ、ちょっと待ちなさい! ……って、もう行っちゃった。 全くあの子ったらもう………………」 宿泊施設で起こった事件は永塚姉妹の事件と同様、 犯人が分からないまま年月は過ぎ去っていった。 その間に████は高校を卒業、大学に進学して 気ままなキャンパスライフを過ごしていた。 …………その傍らで次の獲物を見定めながら。
SITH
2023-06-15 16:06:05 +0000 UTC