大学の夏季休暇に僕は五島列島の小さな島にある父方の祖父の実家へと帰省した。
実に六年ぶりのことだった。
以前訪れたのは中学の一年で、その時は父の仕事の都合で早く帰ることになり、妹と共に両親に不満をぶつけていたことを覚えている。翌年は台風の影響で定期船が運航困難なため中止となり、三年に上がってからは高校受験で忙しく行く暇がなかった。
そうするうちに祖父の実家という存在そのものを忘れてしまったかのように、帰省という夏毎の恒例行事はなくなってしまったのだった。
久しぶりに島へ戻ろうと思ったきっかけは、郷愁感とでも言えばいいのだろうか。
バイクの免許を取って、どこへでも行けるのだと考えた時に、戻ってみたいと心に浮かんだのである。
磯女島とも呼ばれるこの島へのアクセスはとても不便だ。佐世保からフェリーに乗り中通島から定期船を乗り継いでようやく小さな船着き場に辿り着いた頃にはもう夕方になっていた。
迎えに来てくれた祖父と時間の隔たりを感じるぎこちないやり取りをしながら、祖父の家へと続くだらだらとした坂道を上った。
祖父は僕が来たことを喜んでくれたが、どこか困ったような、よそよそしい感じがあった。僕に長居して欲しくない、そんな印象を受けたが僕自身が祖父との接し方を掴み切れていなかったからかもしれない。
僕にとって祖父は怖いおじいさんだった。まあ、その原因は僕にあるのだが。なにせ晴樹と一緒に悪戯をしたり、入ってはいけないと言われている「お山」へ入ろうとしたり、手を煩わせてばかりだったのだから。そのたびに「悪さをするとお山の「ばんぴろさま」がお前を攫っていってしまうぞ」と脅かされたものだった。
祖父の家で海の幸をふんだんに使った夕飯を平らげた後、僕は向かいにある晴樹の家へお邪魔した。二人で飲もうと約束をしていたのである。
「よう、コー! おひさ!」
「はは……すごいな。実物もチャラくなってる」
「はぁ? うるせーし!
そういうコーは変わんなすぎだろ」
晴樹は幼馴染というやつなのだろうか、同い年というよしみからか物心ついた頃には仲良くなって、帰省のたびに一緒に遊ぶようになっていた。
僕が島へ帰らなかったことにより、自然と疎遠になっていたのだが、SNSを通じて思わぬ再会を果たして以来、ちょくちょく一緒にゲームをしたり、オンライン飲みをしたりするようになっていた。
今は実家を離れ、博多で一人暮らしをしつつ大学に通っているが、毎年夏には島に帰っているようだった。
だから久しぶりに島に帰ってみようと思う、という話をすると、久しぶりにリアルで遊ぼうという流れになるのは、当然と言えば当然なのかもしれない。
六年ぶりの晴樹は髪を染め、耳にはピアスが並んでおり、良く言えば都会っぽい、悪く言えばチャラついた風貌になっていたが、人懐っこい喋り方と僕のことをコーと間延びした呼び方をする所は少しも変わっておらず、アルコールの力も助けて、すぐに昔のように打ち解けることができた。
それで、打ち解けすぎたせいかもしれない。
入ってはいけないと言われている「お山」に入ってみようという話になったのである。
「せっかく数年ぶりに会ったんだしさ、長年の謎を解きにいこうぜ!」
漁港以外何もない、六十代を捕まえて若いと言うような島だから、大学生の男二人が遊ぶ場所なんて海ぐらいのものだ。それも一日中堪能すればすぐに飽きが来る。
そこで僕らは刺激的なレジャーを求めて禁じられた「お山」の探検に乗り出したのである。
翌日の朝早く、僕は晴樹と合流して山に向かった。
お山と言っても小高い丘に林を乗せたような小ぢんまりとしたもので、面積は小学校のグラウンドより少し広いくらいだろうか。周囲にはフェンスが張り巡らされており、祖父の家の裏にある入口の門には立ち入り禁止と書かれた古びた看板がかかっている。
晴樹はフェンスの一角に破れて通れるようになっているところがあると僕を案内してくれた。
ちょうど草の影に隠れてはいるが、確かに大人一人が通れるくらいの穴が開いていた。
侵入は拍子抜けするほど簡単だった。それもそうだろう。誰も見張っていないのだから。
祖父は下の畑に野良に出ていてお昼時まで帰ってこない。
初めて足を踏み入れる禁断の地だったが、特に変わったものは何もなかった。
いたって普通の山で、侵入を計画していた時やここに来るまでの道中に感じていた、浮き足立つような楽しさは急速に色褪せていった。
「なぁ、コーってさー
いい加減彼女とか作らんの?」
晴樹も同じ気持ちだったのだろう。退屈を紛らわすためか、いつものイジリが始まる。
僕とは違い晴樹は島を出てからかなりモテているらしい。
今付き合っている彼女で確か4人目。経験人数はもっといることをほのめかしていた。
「またその話かー? 何度も言ったろ、タイプの人が身近にいないんだよ」
「いや、タイプってさー! あれだろー
背がこーんなに高くてエロい外国人のねーちゃんみたいなのだろ?」
こーんな、と言いながら晴樹は背伸びをしてさらに両手を伸ばした。
流石にそこまでの高身長を望んではいない。そんな女性がいたら会ってみたいけれど。
「日本じゃ無理だってーこの前だってさー、元ハリウッド女優だとかいう美人マジシャンの動画でヌいてたしな!」
「う、うるさいな……っ!! てかなんで知ってんだよ!」
「おいおいマジかよー
SNSでいいねしてたからカマかけただけなのに図星かよ」
「うぐっ……」
「はははははっ……てもよー文字通り高望みじゃねー?
あんな外国のさー背ぇ高い美人女優と付き合ってもさー
キスすんのも大変だろ、コーの身長じゃー」
親友の晴樹が言うからまだ許しているが、身長をイジられるのは今でもかなり堪える。
成人した今でも身長が160cmに満たないことは、僕のコンプレックスなのだ。
僕の好みが――それはもう病的と言えるレベルで――高身長の女性なのは、
いわばその反動なのかもしれない。
クラスの背の順で最後尾とかいう程度じゃ満足できない。
最低でも20cmくらいは身長差がないと興奮できなかった。
僕より背が高くモテている晴樹への対抗心もあるのかもしれない。
自分でもおかしいと思うし、それも彼女ができない大きな要因であろうことはわかる。
でも、性癖というのは自分ではどうにもならないのだ。
「あん? なあコー。あっちになんか建物ないか?」
「え?」
ふいに晴樹が僕の肩を叩いてそう言った。指さす方を見ると鬱蒼とした木立の隙間から漆喰の塗装がところどころ剥げた洋風な白い建物が目に入った。そぞろ心に惹かれるまま、僕たちの足はその建物へと向いていた。
「これ、あれだよな……教会? なんでこんなところに……」
晴樹はその古びて今にも倒壊しそうな建物を見上げてそう呟いた。確かに屋根には十字架が半ばから折れたような飾りがついているし、左右対称のどっしりとした構えは映像や写真でしか見たことのない教会のそれと似通っていた。
「ほら、この辺りって宣教師の活動が盛んだったとか隠れて信仰してた人が移り住んで来たとかそういう歴史があるし」
「へえーコーって物知りなんだな。俺ここに住んでたけど全然知らねーや」
「今では全然そんな感じじゃないけど、晴樹の家にもあるだろ?
赤ちゃんを抱いた観音像? みたいなやつ。あれは聖母観音って言って――」
僕は晴樹にそんな話をしながら、廃教会の中へと吸い込まれるように入っていた。
「集会所って言うより小さなお堂って感じだな」
「けほっ、けほっ……すげえ埃っぽい……でもなんで禁断の山にこんな教会があるんだ?」
「さあなあ…普通だったら文化遺産だよな…他の島にもそういう昔の教会とかって結構あるみたいだし」
スマホのライトで周囲を照らしながら、教会内を調べていると不意に異様なものが目に入った。
巨大な棺だった。
小さな祭壇の前に安置されたその六角形の棺桶は、縦幅が3メートル近くあり、通常の人間が――特に僕のような低身長の人間が――入るにはあまりにも大きすぎた。
それだけではなく、周囲には千切れかけた注連縄や錆びた鎖が巻き付けられており、木製の表面には何枚ものお札が張り付けられていた。
古いもののようでお札は黒ずんだり破れたりで判然としないが、書かれている文字や文様に統一感はなく、体系も何も無視して霊験のありそうなものを張り付けたように見えた。そのうち一つが効果を発揮すれば御の字だというように。
「なんだこれ……なんか封印されてるみたいじゃん。開けてみようぜ」
「いや、そんなことしちゃまずいだろ。それにしてもこれ一体なんなんだ……」
頼りないライトを手掛かりに、棺の周辺を探る。祭壇の上には祖父の家にも置いてある聖母観音の像があった。長い年月のためか全体的に黒ずんでいて、首から上がもげてしまっていた。
その像の後ろに、文字の書かれた板切れがあった。
「……ニテ……封ズ……『ばんぴろ』なあ、晴樹ばんぴろってこれ……ばんぴろさまのことだよな」
「あー懐かしいな。お前のじいちゃんによく言われたやつな。村の年寄とか俺の両親もおどかすのに使われたお化けらしいぜ。これがそのばんぴろさまの棺なのか? だったら余計気になって来た」
そう言うと晴樹は棺に取りついて蓋を引っ張り始めた。
「うわっ、なんだこれかってえ……全然、開かねえぞ……なあ、コーもやってみろって……」
「いや、だから止めた方がいいって……」
「棺を開けなさい」
突然、誰かがそう言った。銀鈴の転がるような美しい女の声だった。
「晴樹? 何か言ったか?」
「いや、だから手伝ってくれって言ってんだよ。中ちょっと見るだけだからさ。多分こっちが開く側だ」
「あ、ああ……」
流石にそんなことをするべきではない、そう思っていたはずなのに、僕の体は何かに操られるかのように棺の蓋に手をかけていた。
「え……軽……」
僕が手をかけると、なんの抵抗もなく棺は開いた。
思いっきり引っ張っていた晴樹がその拍子に後ろに転げる。
「だ、大丈夫?」
「いってて……コーすげえな、めっちゃ力強いじゃん」
「いや、全然力入れてないよ……勝手に開いたみたいでさ」
「まあ、それより『ばんぴろさま』を拝んでみようぜ。どうせ何も入ってないだろうけ――」
言いながら、棺を覗き込んだ晴樹は息を飲んで固まった。
「どうしたの? 何か入ってた?」
僕は晴樹の肩越しに棺の中を覗き込んだ。
そして、僕もまた固まってしまった。
そこには、一人の女性が横たわっていた。
ライトブラウンの巻き毛に縁どられた雪花石膏のように白い顔。目鼻立ちは日本人のそれとは大きくかけ離れていて信じられないくらい整っていた。
絶世の美女。そう形容するほかないほど麗しい。その首から下は艶めかしい光沢を帯びた黒い布で覆われていて、その青白い美貌だけが闇の中に浮いている。
「こ、これ女の死体……だよな……? え、いや、おかしいだろ……いつの時代のやつだよ……」
晴樹の声は困惑と恐怖に震えていた。だが僕は、不思議と恐怖は感じなかった。
あまりにも、美しかったから。
魅了されるというのはこういう状態を言うのかもしれない。ずっとその妖艶な美貌に見惚れていたいとそう思ってしまっていたのである。
「はぁ、はぁ……」
僕はその美貌を間近で見ようと頭の方に移動していた。
するとどうだろう、突然女性の眼がカッと開いたのであった。
「え……!?」
血のように赤い色をした妖し気な瞳。それが、チラッと僕の方へ向けられた。
スッと細められる目。笑っていた。微笑みかけられた。
その目で見つめられているだけで胸がドキドキした。ああ、なんて美しいんだろう。これが運命の出会いなのかもしれない。この人のモノになりたい。跪いて足を舐めたい。そんな考えが思考に流れ込んでくる。
そして、グロスをつけたように艶々とした唇が薄く開いて、中からマゼンダ色の舌がぬるりと這い出して――。
バタン。
突如として黒い十字架の模様が描かれた板に、顔は隠れてしまった。
晴樹が棺の蓋を閉じたのだった。
「もう行こうぜコー……これ、ヤバいよ」
晴樹の顔は蒼白だった。その表情を見て、ようやく僕も棺の中身の異様さを再認識できた。
何百年も昔の棺の中に、あんな綺麗な死体があるわけがない。
それから僕らは逃げるように山を下りた。二人共、一言も口を利かなかった。
「今日見たことはさ……絶対秘密だからな」
「うん……」
破れたフェンスを潜ってから、それだけを言って僕らは別れた。
僕はその日の残りをぼんやりと過ごした。
ご飯を食べている時も、お風呂に入っている時も、布団の中でも、ずっと棺の中の女のことを考えていた。
あれが「ばんぴろさま」なのだろうか?
お化けにはとてもみえなかった。美しい女神のようにさえ思えたのだから。
日本では怒れる神を怨霊として封じたり、逆に手に負えない怪物を神様として祭ったりする向きもある。「ばんぴろさま」もその一種なのかもしれない。
けれど、スマホで検索してみても、そのようなお化けや神様の名前は出てこなかった。
そこで思い切って祖父に「ばんぴろさま」とはなんなのか尋ねてみた。
もちろん、お山への侵入を悟られないように。
「何て言われてんなあ「ばんぴろさま」は「ばんぴろさま」や。
お山におる恐ろしい化け物でな、悪さばっかりしちょったら
お前も連れていかれてまうぞて俺も昔よう親父に脅された」
と、要領を得ない答えが返ってくるばかりだった。
奈良の辺りでは「がごぜ」とか「がんこ」と呼ばれる妖怪が悪い子を食うという伝承があるようだ。やはりそれと似た子供を脅かして言うことを聞かせるための道具なのだろう。
だとしたらあれは、あの女性は一体?
いくら考えても答えはわからなかった。
棺に入っているなら死体のはずだけれど、ただ眠っているだけのように見えた。
死体なら匂いもするはずだし、腐っても干からびてもいなかった。
それに、あの一瞬、僕を見て笑っていたように思う。
喜んでいたのだろうか。いや、そもそも見間違いかもしれない。
あの一瞬の表情。妖艶な美しさが僕の瞼に焼き付いていた。
思い出すだけでドキドキして、顔が熱くなった。
中学時代から大学になった今でも、女性に対してそんな風に感じたことはなかったのに。
あの場に晴樹がいなければ、きっと僕は彼女に口付けをしていただろう。
そうしてあの黒い布に包まれた肢体を――気づけば僕は自らの硬くなったモノを握りしめていた。
明日、もう一度棺を開けに行こうか。
しかしそれは絶対にやめた方がいいと理性が激しく訴えていた。
とりとめもなく悩んでいるうちにいるうちに眠気が僕の意識を弛緩させていった。
闇の中を歩いていた。
ふらふらと、けれど気持ちは急いていた。
僕は裸だった……。
生まれた姿のまま、この闇の先にある何かを狂おしく求めて歩いていく。
やがて、目の前に棺が現れた。
廃教会で見た、巨大な棺が横たわっていた。
それは闇よりも黒く、くっきりとその輪郭を浮き立たせていた。
棺の蓋が、音もなく開いていく。
中にはあの女性の「ばんぴろさま」の白い顔があった。
「ふふふ……」
死んでも、眠ってもいなかった。
「おかえり……ボウヤ♡ 会いたかったわ……♡」
ばんぴろさまの目が僕を射貫く。
その真っ赤な瞳の輝きはどんな宝石よりも妖しく僕を魅了する。
「ふふふ……何を我慢しているの?
せっかく会えたのに……そんな風に見惚れているだけ?」
「あ……ああぁ……!!」
目に見えない抗い難い力が……彼女の瞳を通して僕の頭に入ってくる……。
「わかるでしょう? 私が何を望んでいるか……」
見つめられているだけで、僕の中に彼女の意思が入り込み、内側から支配されていくような心地になる。
僕の身体が熱くなる……その魔性の魅力にひれ伏したいと欲望が訴えかけてくる……。
「味わわせなさい……。今のボウヤの全てを……!!」
「あああぁぁ……っ!!」
右手がひとりでに怒張した股間に伸びていく。
そして、一心不乱にそれを扱き始める。
「ふふふふ……♡」
魅惑の瞳から目を逸らせない……。
彼女はただ横になっているだけなのに、瞳から流れ込んでくる邪悪な力だけで
僕は意のままに操られ無様な痴態を晒し続けるのだった。
「あ……!! ああぁぁぁ……!!」
#ばんぴろさま
「ほほほ、良い子だわぁ……♡ とっても良い子♡」
まだ出してすらいないのに、手を少し動かすだけで、
身体がビクゥッと跳ね上がるくらいに気持ちいい……。
もっとしたい。もっと扱きたい。もっとこの気持ちよさが欲しい――。
手が止まらない。快感を求めて貪るように扱き続ける。
僕の意思でやっているのか、それとも彼女の瞳の魔力に操られているのか……
もうそれすらわからない。どうでもいい。
「は……っ!! ああぁぁ!! ああああ~~~~っ!!!」
ドクッ……ドクッ……
「んああぁぁぁっ!! あああぁぁ~~~~!!!」
自分で扱いて、自分で出しているはずだというのに
その強烈な放出の快感に僕は意識を失いそうになる……。
今までオナニーでこんなにも気持ちよくなったことなんてない。
あまりに常軌を逸した快感だった。
出せども出せども止まらない……。
まるで放尿かと見紛うほど長く大量に放たれた精液が
「ばんぴろさま」の白い顔を一層白く染めていく。
「ほほほほ……おーっほほほほほ……♡」
「いいわぁ……とっても美味しい。
なんて濃くて……、若い味かしら……♡」
射精を終えると僕は倒れそうになる。
見の内にある興奮をすべて精液に変えて吐き出したみたいだった。
けれど、白濁に塗れた彼女の美しい顔を見ていると、劣情が再び鎌首をもたげてくる。
「ねぇ……もっと味わわせてちょうだい……♡」
妖艶な微笑みを浮かべながら、彼女は棺から滑るように出て来た。
異様に長身の女性だった。2メートル、いやそれよりも遥かに背が高い。
確かに棺の大きさを考えると、それくらいの体躯になるだろう。
見上げるほどの巨体に黒い布を纏った「ばんぴろさま」がゆっくりと迫ってくる。
彼女が両手を広げる。同時に、艶めかしい光沢を帯びた黒い布がバサァッ……と音を立てて左右に広がった。
布じゃない、あれは――マントだ。僕はなぜかそれを知っていた。
恐怖と危機感に、僕はその場から逃げようとした。
けれど、その力強い眼差しに射貫かれると体は全く動かなくなってしまうのだった。
「可愛い……ボウヤ♡ 私のモノにしてあげる……♡」
「ばんぴろさま」がマントをはためかせる。
薄いピンクの靄が周囲に立ち込め、同時にうっとりとするような甘い匂いがふわりと鼻先に香った。
その匂いを嗅ぐと、僕の理性はたちまち蕩けてしまう。
「さあ、こっちへきて……♡
私の中に、帰っていらっしゃい……♡」
「あ……ああぁぁ………!!」
薄暗く輝きながら揺らめく真っ赤な裏地。
その妖美な煌めきが目を刺すと、
命じられるがまま、ふらりと彼女の方へ歩みだす。
バサァッ……音を立ててマントが翻り、その裏地の血のように鮮やかな赤が露出し僕の体を包み込む。
マントの下には何も身に着けていないのだろう。肌が直接僕の肌に触れてきた。
僕もまたいつのまにか裸になっていた。彼女の温かさを直接感じながら、僕は甘えるようにその豊満な肉体に抱き着いていた。
「いい子ね……とっても可愛いわ、ボウヤ……♡」
闇に閉ざされた世界の中で感じる妖しい囁き。心地よい温もり。甘い匂い。
マントが生きているようにざわめく。爛れたような甘美な感覚と興奮が高まっていく。
「さあ……イきなさい……私に全てを捧げなさい……♡」
耳の奥に、脳の芯に沁み入ってくるような心地よい声に命じられると、身も心も蕩けるような快楽が僕の全身を駆け巡った。そして、力がすっと抜けていく。
知っている。僕はこの夢を知っている。この女性を知っている――!
「あぁ……!! あああぁぁぁ~~~~っ!!!」
マントの中に満ちる心地よいぬくもりと甘い匂いによって、
僕の下腹部は内側から燃えるような悦楽とともに一気にはじけた。
ドクドク……ドクドク……
身体が蕩けていくような恍惚の渦に飲み込まれる。
耐えがたいほどの快楽の坩堝のなかでどんどん身体が融解していくような……。
そんな、破滅的な快楽に呑まれ……僕は暗く深い奥底にまで墜ちていった……。