SS)悪い子は“袋”の中へ
Added 2023-12-25 10:06:05 +0000 UTC実生活がイラスト描けない状況で申し訳ないです。現在はSkebでいくつかの文章リクエストを頂いておりまして、支援頂いている方に特別何もできませんと申し上げつつも、何かお礼がしたいという事で、急遽クリスマスSSを書かせて頂きました。
手癖で2時間程度で書いたので、いわばイラストの落書きにあたるものでして、読みぐるしい部分が多いかとは思いますが、聖夜のお供にもしよろしければお使いいただければ幸いです。
公開は全体ですが、ファンで居てくださる皆様に、愛をこめてお送りいたします。
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ここは山間の街道沿いの街。薄暗い街頭に照らされた夕暮れの石畳を、住人たちは小走りに帰路へと就く。家族との団欒を主旨とした、聖夜と呼ばれる行事。そして窓からそれをずっと見つめているのは、独り身の少女であった。
「もう、こんな時期かぁ……」
窓を吐息で白く染めながら呟いた。家族の居ない者であっても、そういった家には「紅衣の老人」が訪問する。深夜の灯りが全て消えたころ、どこからともなく現れるそれは、ドアの前に贈り物を置いて去っていくのだという。寂しい想いをしないようにとの計らいだろうか。ここ数年、毎年のようにドアの前に置かれていく菓子や衣服をありがたく頂戴していた。
好きでやっている独身だったので、羨ましいとかそんな風に思ったことはなかった。ただ、邪魔をしないように生きればどうしても暇を持て余す。そんな彼女が思いついたのは、少し危ない遊びだった。
「バレなきゃ……少しぐらいはいいよね」
決して「紅衣の老人」の姿を見てはいけない。それは、街に暮らすものであれば絶対に破ってはいけない掟だった。もちろん、彼女も破ったことはない。だが、そのまま数年を過ごすうちに、どうしても、どうしてもそれを確認してみたいという欲が頭から離れなくなっていた。それはダメだと否定すればするほど強く膨れ上がるその欲望は、街の掟なんてちっぽけに思えてしまうくらいだった。
「これで、よし……と」
彼女は家のドアに細工をすると、少し触れただけでもガラガラと音がなるように仕込んでいた。その分開きやすくなってしまった扉ではあったが、それこそ大きな動物でもなければ大丈夫。ぶつかったぐらいでは簡単には開かないだろう。音がしたら窓から外を確認するだけだ。たとえバレても偶然を装える。そんな確信が、彼女をどんどん突き動かしていた。
◆◇◆◇
聖夜。彼女は寝巻のまま、ベッドの上で暇を持て余していた。灯りを消した暗闇に目が慣れ、薄暗い部屋に差し込む月明かりが眩しいくらいだった。
そうして突然、大きな音が鳴る。ガラガラと音を立てていたのは、間違えようもなくこの家の扉。老人が来たのだ。彼女は期待に胸を膨らませながら、冷たい窓に頬を押し付ける。
「ん……んん……?え?」
だが、そこに居たのは老人のような見た目のものではなかった。馬車のように大きなものが、ひとつ。その幌は、後ろの方まで大きく伸びながら、裏手の山の方まで回っている。暗くてよく見えないが、赤っぽいことだけは分かる。
再び大きな音。先ほどよりも長い。ドアが音を立てるのにも構わず、その塊はどすどすと扉を押しているようだった。軽くパニックになりながらも、このままでは扉が壊れてしまう、そんな予感がして、少女はベッドから飛び降りる。
恐る恐る近づいた扉は、ミシミシと音を立てていた。これが紅衣の老人なのだろうか。不安に駆られながらも様子を見守る彼女の眼前で、それは開いてしまった。冷たい風と共に、嗅ぎなれない匂いが飛び込んでくる。
「っ……!!!」
ほぼ同時に彼女の眼にも、月明かりに照らされたその姿が飛び込んで来た。それは、赤黒く巨大な獣の頭部だった。ゴツゴツとしたトカゲのような皮膚を持つそれは、盛んに鼻先をドアに押し付けながら、恐らく中に侵入しようと試みていた。
「ひっ……嫌ぁぁっ!!」
少女は立ち上がる事ができなかった。尻もちをついたままの姿勢で、じりじりとその場から遠ざかる。こつんと、背中に触れた壁の感触が意識を一瞬引き戻した。幸い、この獣は大きすぎるようだった。頭の幅はドアの三倍は広く、鼻先ですらその半分程度。つまりこいつはここまで入ってくる事はできない。その事実が彼女の心を少しだけ落ち着かせてくれた。
壁に背を預けながら、獣の様子を見守る少女。物理的に不可能だろうという慢心と、家ごと破壊されてしまったらという恐怖が半々。これが紅衣の老人を見てはいけない理由なのだろうか。確かに赤い色をしている。そもそもどうやって贈り物を置いていくのだろうか。そんな興味半分の心が、落ち着いてしまった少女の身体をその場に釘づけていた。
そのうち、巨大な獣は鼻先をゴリゴリ押し付けるのを止めてしまう。もしかしたらようやく贈り物を置く段になったのだろうか。彼女の目は、その頭を興味津々で見つめていた。そうして、開かれる。開かれる大きな口の中にあったのは、桃色の舌だけだった。
「えっ……?んひゃっ!!!!」
突然その舌が膨張する。正確には、したように見えた。それは彼女の身体にべとりと触れると、そのままくるくると少女を巻き込んでしまう。
「んむ~!!!んんん~~~~~~っ!!」
何が起こったかを理解する前に、頭の先までをピンク色の粘膜に包み込まれた彼女は、くぐもった叫び声をあげる。分厚い布団のような柔らかい肉が、余すところなく全身をぐるぐる巻きにしていた。見えなくなってしまった少女の身体が中で暴れているのだろう、叫び声の合間に時折もぞもぞと蠢く様子を見せる舌の塊。隙間からじわじわと漏れ出る透明な唾液が、どろりと床を汚していく。
「~~~~~っ!!!~~っ!」
そのままゆっくりと元の場所――獣の巨大な口内へと収まっていく舌。中に居る少女は自分が今どうなっているのかもわからないのだろう。続いていた叫び声は、ばくんと閉じられた獣の唇に遮られた。一瞬で静寂が訪れると、獣はその鱗を月明かりに光らせながらゆっくりとその頭を持ち上げた。少女の家の屋根よりも高いその頭。白い下あごの肉がうねうねと蠢くその中には、先ほどの彼女の身体がまるごと収まっているのだろう。やがてそれがぎゅうと絞るような動作で収縮したかと思うと、その長い首をわずかな膨らみがゆっくりと下っていくのが見て取れた。
獣はその巨体を月明かりに晒すと、巨大な翼を広げて飛び立ってしまった。重そうな腹部からはいくつかの小さな悲鳴が聞こえてきたように感じられるのは、風の音だろうか。獣に生きたまま丸呑みにされてしまった人間――少女がどうなってしまったのかを知るものは、本人以外にはもう居ないのだった。
◇◆◇◆
「おや……?ここの子は……留守なのじゃろうか?」
それから数十分後。彼女の家の前にいたのは、深紅の衣服に身を包んだ、恰幅のよい老齢の男性。長い髭を撫でながら開いたドアを思案気に見つめると、大きな袋を担ぎ直す。そのままふと何かに思い当たったように踵を返すと、ゆっくりとした足取りで次の家へと歩いていくのだった。