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とろくじら
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1/5(冒頭無料分)ある研究者の末路 - どらごはん!2 cover story

「ふふ……皮肉なものだ。私がこうして……」


白衣の女性はそうつぶやくと、自らの漬かっている液体を片手で掬った。高く持ち上げるとすべて零れ落ちそうになるほど、とろみの強い液体。それは酸っぱい匂いを放っていた。サウナのような高湿の環境の中で、彼女は独り閉じ込められている。その壁はぐにゅぐにゅと波打ち、柔らかいゴム風船のように形を変えながら全身を取り囲んでいた。人が一人座れるほどのスペースも、ついさきほどまでは隙間もないほどに閉じられていた。粘液と粘膜の隙間で摺り擦られ、暴れてもがいてもぶよぶよと柔軟な壁は手応えもない。自由など一切ない、肉の牢獄。立ち上がる事さえ、新鮮な空気を吸う事さえ許されず、全ての生存権を奪われる。それが食べ物になる、という事。


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 私は竜種の研究者だった。獣害における人的被害のリスクマネジメントの一環として、彼らの身体能力を研究することは、現代の世においてもなお重要な事だ。彼らの生息地に近い地域では、別個に数えても年に数人は被害者が出ている。とりわけ私が取り組んでいたのは、竜の分泌物に関するものだった。唾液、涙液、胃液、生殖腺液……彼らの体液はどれも特殊で、魔法とも言っていいぐらいの働きを持っている。犠牲者の残滓から回収したそれらの液体を解析、人工的に再現。竜種の生態を深く知る事と、研究の成果を医学や生活に応用していくことのできる、たいへん有意義な仕事だ。つい前日も、生きたマウスを果食性竜種の人工胃液に漬けたまま、竜種の体内を再現した環境下において何日目まで生存可能かどうかの研究をしていた。まだ発表段階にないが、それは考えられないほど長かった。

 もの思いにふけっている間も、胃袋の蠕動は続いていた。滑らかな粘膜が、へばりつくように身体を舐めまわしては、悠々と確認するように離れていく。泡立ち、ネバ付いた粘液と胃液の混合物が、胃壁や私の身体中にもったりとした糸を掛ける。こうしてから既に数時間が経過していたが、身体にも衣服にも変化は見られなかった。果食性竜種は消化能力が低い、ここまでは実験の通り。今でこそ余裕があるが、最初は食べられたパニックで泣き叫んでいた。呼吸も自由にできず、体勢も安定せず、死の恐怖と不安の中で揉みくちゃにされる。落ち着きを取り戻せたのは、一度気を失ってからだった。かなりの時間が経っても、まだ生きている。体内の奇妙な匂いにも慣れ、強い喉の渇き以外に異常は見られなかった。とはいえ、閉じ込められている限りは助かる見込みもないのだが。

 私は犠牲者たちの報告を思い出していた。(続く)

1/5(冒頭無料分)ある研究者の末路 - どらごはん!2  cover story

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