「私が私じゃなくなった時は、あなたが私を殺してね」
ひまわりに囲まれ物騒な事を言い微笑む少女は、隣の病室の患者であり僕の初恋の相手である。
先生やナースからは「プシコちゃん」って言われている。だから僕もこの子をプシコちゃんって呼ぶようにした。
プシコちゃんの病気は、幻覚や妄想のせいで現実と非現実の区別がつかなくなるというものだった。
症状は悪化していき、日に日に人格が崩壊していくようで、
僕はおかしくなってゆくプシコちゃんの姿を見るのが本当に辛かった。
だからプシコちゃんがまだプシコちゃんであるうちに思い出を残したいと考え、病院に内緒で外に連れだした。
病院の近くには河川敷がありそこには遊具が少しあって虫や魚がいた。
僕たちは遊具で遊んだり草に寝転がって空を見たり虫を観察したり、とにかく夢中になって遊んだ。
8月の真っ昼間。
凄く蒸し暑かったけど、入院生活が長い僕たちには、暑さも流れ出る汗も蝉の声も、草の匂いも土の感覚も全てが新鮮な体験だった。
気付けば、日が落ち始めていて、美しいオレンジ色の光が水面に反射し、温かみのある空間を作り出していた。
僕はプシコちゃんの手をそっと握り「また来ようね」と言うとプシコちゃんは「うん」と笑顔で返し続けて言った。
「私が私じゃなくなった時は、あなたが私を殺してね」
これはプシコちゃんの口癖だ。一日一回は聞いてる。だからいつものように「そのときは一緒に死んであげるよ」とカッコつけて返事した。
別に冗談で言ってる訳じゃない。
本気でそうなってもいいと思っていた。
その後も僕たちは、時々病院を抜け出しデートをした。
2回目のデートで告白した。僕たちは正式に付き合う事になった。
5回目のデートで初めてキスをした。
そして
6回目のデートは、深夜の誰もいない外来の待合室でキス以上のことをした。
不思議と2人で居る時は、プシコちゃんが幻覚や妄想にとらわれることはなかった。
次はどこにいこうかな。そうだ、深夜の河川敷で夜の虫の声を聞きながら星を見よう。そうしよう。
でも...
7回目のデートの時にはプシコちゃんはもう自分を保てなくなってきていた。
僕はおかしくなってしまったプシコちゃんに急いで薬を飲ませて落ち着かせた
おそらく今日がプシコちゃんでいられる最後の日であろう、と悟った。
僕は...
プシコちゃんのことが好きだ。
好きだ、好きだ。プシコちゃんが好きだ
―でも好きだからこそ、僕は病気で狂ってしまったプシコちゃんは見たくない。頭がおかしくなったプシコちゃんを見たくない
僕はどうすればプシコちゃんのそばにいれる?
僕はどうすればプシコちゃんのことを好きでい続けられる?
どうすれば?どうすればいい??どうすすればいい?!
“ 私が私じゃなくなった時は、あなたが私を殺してね ”
ふと彼女の言葉は頭に過る
そうだ。今がその時なんだ。
今までずっと目を背けていた現実が来てしまったんだ
プシコちゃんをプシコちゃんのまま終わらせる時がきてしまったんだ
プシコちゃんをみると、飲ませた薬の副作用のせいか眠っているが、目を覚ましたらプシコちゃんとしての人格は保たれてないだろう
やるなら今しかない
そして僕はプシコちゃんの首に手をかけた。眠っていていたから抵抗しなかった
手に力を入れていくと怖くなって、息苦しさを感じ汗が止まらなくなった。
だから僕はプシコちゃんの首を締めながら、自分の行為を正当化する理由を考えていた
僕とプシコちゃんの思いを最高の状態で終わらせることは僕にとってもプシコちゃんにとっても最善の選択なんだ、
そんな事を考えていたら、プシコちゃんの細い首から ジャキッ と喉が潰れるような感覚が手に伝わり 死んだ と分かった
....
「僕らはこんなに必死になって生きてるのに、人間ってこんなにアッサリ死ぬんだ」
人を殺して一番に思った感想だった
僕はその後しばらく、冷たくなったプシコちゃんの手を握って星空を見ていた。
虫の声と時々橋を通る車の音しかきこえず、静寂な夜だった。
冷たくなったプシコちゃんを見ていると次第に罪悪感が湧いてきて胸が苦しくなるから星をみていた。
流れ星だ
僕はお願いをした。
もし生まれ変われかわれるなら、今度こそ僕はプシコちゃんの救世主になりたい
例えば、僕は精神科医で彼女を治してあげられるようにいっぱい勉強してそれからー...
なんて考えながら
僕もその場で眠りについた。
相思相愛の仲にある病気の少年少女が心中デートする話、おわり