遥か高みから大陸全土を見くだしながら宣言する皇女ルシア。
麗しい微笑をたたえているが、巨大さ故、下界の人間には途轍なく不気味な笑顔にしか見えない。
ルシアと対照的に如何にも何も考えていない奴隷女巨人カマラ。
巨大な衝撃波が上空から襲いかかり、大洋が割れ、山脈が崩れ、群衆が潰され血煙に変わる。
巨大な衝撃波の正体は『ただの拍手』だった。
不満気に口を尖らせる奴隷女巨人。
下界の人間からしたらたまったもんじゃない。
人類にとっては笑えない冗談だ。
彼女こそ、
歩くだけで、呼吸するだけで、立っているだけで、存在するだけで、大破壊をもたらす、
暴力そのものを体現したような存在だ。
もちろん、
人々は、そびえ立つ『生きた超巨大災害』を目の前にして、
戦争を継続する余裕などない。
それでも死者数が増え続けている原因は、
巨人2人の何気ない仕草(呼吸や立つ重心を変えたりなど)である。
魔法奴隷とはルシアの傘下にされた元・魔法大国の魔術師集団で構成される奴隷軍団である。誇り高き最強の魔術師集団だったが、ルシアには極めて原始的な隷属関係を結ばされている。(命令を聞かなければ国ごと潰される)
ルシアが外遊に赴く際は彼らの首都ごと携帯される。
ルシアの命令を遂行する為には膨大なマナ(消費魔力)を要するが、特殊な魔石により、ルシアの無尽蔵の筋力値をマナに変換することにより、遂行を可能にしている。
そして、今回彼女が命令した『転送魔法』とは、
その名の通り、物体を瞬時に遠く離れた場所へテレポートさせる空間系魔法だ。
それで転送する物体は…
人間約800人。
八王国の8人の王を含み各国から百人程の王族貴族官僚達。
転送先は、広大な平原。
「ど、どこだここは!?」
「巨人女ら何処に行った!?」
パニックになる王族達。
見渡す限りの肌色の平原。
大地には谷が、奇妙な規則的模様で走っている。
独特な匂い。
巨人襲来時から脳を溶かし続けていた濃厚なフェロモンが、更に濃度を増している。
肌色の谷からも淫臭の雲が昇り、更に特濃の匂いが空からも叩きつけられてくる。
見上げる人々は恐怖で固まる。
こちらを睨みつける…
眼。
「ヒィッ…」
「ば、バケモノ!」
そう。
彼らの転送された先は…
ルシアの指の先だ。
一瞬で遥か上空、雲海より数kmもの標高の移動は気圧差に人体は耐えられない
はずなのだが、彼らは爆散しなかった。
魔法奴隷の強力な防御魔法により彼らの肉体の耐久値は数兆倍にまで激増された。
彼らは、今や剣も槍も矢も通さぬ強靭さを得たのだ。
ドラゴンのブレスさえも痛くも痒くもない。
加えて複雑な魔法術式により、酸素の薄い上空でも地上と同様の呼吸が可能になっている。
そのため、彼らの周囲から酸素が一気に無くなった事に気が付かなかった。
周辺の大気は全て、極太の鼻毛ジャングルが生い茂る巨人女の鼻孔に吸い付くされていた。
巨大な声帯が蠢く。
突然の轟音に、指紋の上の王族達は地に這い、のたうち回る。
超巨大皇女の口腔から発せられた轟音は、ドラゴンのブレスとは比にならない破壊力を持つ。
魔法で耐久値を上げられているから圧壊しないで済んでいるが、もう少し大きな声を出されたら四肢が千切れ内臓も潰れてしまうだろう。
ドラゴンのブレスなどミジンコの鼻息、
いや細胞膜呼吸以下だ。
這いつくばりながら、血反吐で皇女の指の大地を汚す王族達。
阿鼻叫喚の彼らと対照的にルシアは指の腹のゴミ粒をまじまじと観察する。
彼女にとって、点以下の存在の彼らを目視することなどできないが、
魔法奴隷による高度な魔術により、
彼らの細部まで視認することができる。
血反吐にまみれ無様に泣き叫ぶ貴族の表情までよく見える。
魔術により、視覚情報だけでなく、
音も聴き取ることができる。
絶叫、慟哭、怨嗟、悲嘆、号泣。
それらが織りなす不協和音。
眼球の下部を覆う涙袋が
っと隆起する。
巨人女が指先のコーラス隊を見下ろし愉悦の表情を浮かべたのだ。
彼女が快感に浸る間に、
何人かの貴族達は立ち上がり果敢にも、
いや無謀にも巨人の瞳孔目掛けて矢を射る。
何kmもの厚みの指の腹に剣や槍を振り下ろすも、
武器の方が粉砕する。
彼女の一言で王族達は恐怖に襲われる。
何人かは即座に履物を脱ぎひれ伏す。
急ぎ履物を脱ごうにも、騎兵用の具足は脱ぐのに時間がかかる。
普段は従者に武具の着脱を任せていた為に具足の脱ぎ方もわからない者もいる。
そして、これはかなり少数たが、
引き続き剣を振るい届きもしない眼球へ矢を放つ者もいる。
「 「 「ふ〜ん…
じゃあ、こうしましょう。
魔法奴隷のみなさん…
お前達に命令します。
靴を脱いでひれ伏している者『以外』全員の防御魔法の効果を半分にしなさい。
」 」 」
彼らの仕事は早い。
すぐに無礼な対象者の防御効果が半減する。
半減したとはいえ依然ドラゴンのブレスを涼しめるほどの防御力は残されている。
半減された側も特に魔術効果減少の実感もなく、
視覚的変化も無い。
『ルシア様。完了いたしました。』
魔法奴隷の長が魔法でルシアの頭に直接そう告げた。
ルシアは嗜虐的な微笑で舌舐めずりしてから…
プチプチプチプチ
わざと低くドスを効かせた巨声が、
音の巨塊となり王族貴族達を押し潰した。
恐怖に屈服され、ひれ伏していた者たちは防御魔法で一命をとりとめたが、
それ以外の無礼な虫けら達はあっけなく爆ぜた。
人差し指の上には服従の形を見せた者のみが残された。
「ひいいいっ」
「な、何てバケモノだ…」
「声だけで、一瞬で血煙となったぞ…鎧一つ残さず…」
「巨人よ!王の座をそなたに譲ろう!だから我一人でも助けよ!!」
「な、何でもします!奴隷にでもなりますので命だけは…!」
プチプチプチプチ…
防御魔法の限界を余裕で凌駕する握力により彼らは一瞬で爆縮された。
下界を睥睨するルシア。
彼女の言うように、8個の政治体制が握りつぶされた。
そして彼女の意図通り、戦争は終わった。
一部始終を恐怖の面持ちで見上げることしたできなかった哀れな兵士たちにルシアは声をかける。
突然人々の頭上にしゃがみ込む巨人女。
塵のように軍が舞い上げられる。
反応あれば続きます。
武蔵坊pencase
2026-02-08 08:32:36 +0000 UTCtake
2026-02-08 07:36:21 +0000 UTC