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サメゲーム 3

連作3番目になります。 文字数制限のために後日もう一回更新いたします。 【1】 14番が浮上を続けていた頃、もう一体…水色に近いラバーが目を引く22番の挑戦者にも動きが出始めていた。先に浮上した14番と同じように大きく下半身をのけぞって前後に振る動作を繰り返し続けると、ようやく彼自身を水底に押さえ込んでいた150kg近い重りがズルズルと動き始めたのだ。 しかし会場内では司会も観客も14番の挑戦者の動向に注目していて、22番の動きに気づく者はいなかった。 もちろんそのような地上の状況などは知るはずも無く、22番は懸命になって足をばたつかせ、それに呼応する形で連結されている重りの動きの振れ幅も次第に大きくなっていた。 それと比例するように口元の呼吸穴から溢れ出る気泡の量は多くなっていく。それは彼の限界が近づいてきていることを示していた。 「ああっ! 皆さんご覧ください!! 14番にばかり注目していましたが今度は22番の挑戦者が浮上しようとしています! 重りが動き出し、水底から浮き上がってきているのが確認できます!」 司会がようやく彼の変化に気付き、声高らかに彼が奮闘している場面を中継しているメインディスプレイの箇所を指差した。 観客たちからは更に大きな歓声と拍手が沸き起こる。 そうしているうちに22番も要領が掴めてきたのか、次第に重りの動きの振れ幅は大きくなっていき、水底に置かれていた重りが動き出してから30秒あまりで重り2個分の高さまで浮き上がろうとしていた。 彼の視線は真上を浮上中の14番を捕らえており、彼に少しでも追いつこうと必死に身体の動きを真似て生存への浮上を続けていた。 ・・・しかし、そんな22番の挑戦者に不幸が舞い降りてきてしまったのだ。 彼の頭部の中の空気が抜けつつある状態で、彼は無意識のうちに咥えている呼吸穴からプールの水を吸い込んでしまったのだ。 吸い込んだものが空気ではなく水だったことで彼の集中力が一気に切れてパニック状態になり、頭を激しく揺さぶりながら口と鼻腔部分両方から今までの数倍もの大量の気泡を水中へと噴出してしまった。 その反動で下半身の動きも緩まり、浮き上がりつつあった体がぴたりと止まる。 ゆっくりと全身が重力に従いプールの底へと引き寄せられていき、重りがプールの底に再び接地する頃には彼の頭部の動きは急速に収まり、呼吸穴から漏れ出す気泡の量も減少していき、瞳の眼光は黄色い蛍光色から彩度の無い灰色に変化を終えようとしていた。 そして、再びスタート位置に戻った22番の挑戦者は右肩に頭をもたれかけた姿勢で完全に動かなくなてしまったのである。 【3-2】 「ああっ、22番の瞳の色が変化してしまいました! せっかく浮上しかけたのですが…生きようとする力があと一歩のところで足りなかったようです、残念ですね…。しかし彼の命を賭けた最後の努力を私達は目の当たりにすることができました。皆様22番の挑戦者に祝福と哀悼の意を込めて拍手をお願いいたします!! 興奮をありがとう!」 司会の語りに誘われるかのように観客席からは今日一番の拍手と歓声が響き渡った。 まもなく命の灯火を完全に消すことになる者を放置して余興の演出に使うこの行為は残酷極まりないものでもあった。 もしこの瞬間にダイバーが彼を水中から救い上げでもしたら、身体機能に後遺症が残る可能性が高いとしても命だけは繋ぎ止めていただろう。 しかし、既に水中で動かなくなった15体を超えるサメのラバースーツ姿の挑戦者達も同様に放置されていることから、この余興の企画者や観客たちはそのような人道的な行為を最初から必要の無いものだと断定しているのだろう。 「さぁ、再び14番の挑戦者にクローズアップしたいと思います、水を得た魚のようにしなやかにプールの浮上を続けております! このまま私達のいる地上に顔を出してチャレンジ成功となるか、はたまた先ほどの22番のようにチャレンジ失敗となるか、最後まで目が離せません!」 14番の挑戦者は生存への浮上を続けており、地上まであと1mの場所まで近づいていた。 身体の動きは依然として衰えることがなく、呼吸穴から出る気泡もまだ微量で冷静さを維持しているようであった。 その水中では・・・ ーーーーーーーーーーーーー 俺はただ地上に浮き上がることだけを考えて全身を動かしていた。 水底にいた時よりも随分と身体の圧迫感が薄れきているのは、それだけ水面が近くなってきていて水圧が低減されている証拠なのだろう。ただし身体の消耗は限界に近づいてきているのが実感できていた。 間に合わないかもしれない。 でも生きたい。 生きたい・・・。 生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい・・・ 念仏を唱えるように俺は脳内で想いを連呼していた。 そして頭の中で何かがはじけるような感覚があって、そこからの記憶が一切飛んでしまった・・・ 【3-3】 「さあ、ついに14番がこの地上に浮上いたします! 昨年は全員失敗に終わってしまいましたが今回は期待できそうです! 皆様歓迎の準備をよろしくお願いいたします! あと30cm、20cm…」 音割れがしそうなほどの絶叫をする司会につられるように観客席のボルテージは最高潮に達していた。 そして・・・ 最初に水面から空気に触れたのはサメのラバーマスクの鼻腔部分で、次いで口の呼吸穴、頭部全体と地上に姿を現してくる。 プールサイドにスタンバイしていたスタッフたちが彼の両肩を掴み上げ、上半身を水上へと引き上げる。そして残りのスタッフ数名が尾びれに連結されていた重りを手にしていたワイヤーに引っ掛けると、予め設置していた機械で引き上げ始めた。 プールサイドに引き上げられた14番の挑戦者は、呼吸穴から水気を含む空気を吐き出し、荒々しく外気を体内に取り込んでいて、本当に限界が近かったのがわかる。 「改めて水中カメラの映像をご覧ください。現時点でこのプールの中にいる挑戦者達は全員息絶えております。ただその際に起こる現象が確認できるかと思います」 既に事切れて動かなくなった挑戦者達からはある変化が出始めていた。 口からは気泡ではなく粘度の高い泡のようなかたまりが溢れ、それに加えて死の間際での生存本能からなのか、ほとんどの者達が最後の射精を行っていたのだ。 身動きひとつしない体から漏れ出す精液は、最初の強制射精のデモンストレーションとはまったく違う異質さを醸し出していた。 「とても神秘的な現象ですが、息絶える瞬間にこのように本能的に射精をしてしまうのです。一番最初に事切れた21番を筆頭に、瞳の色が暗くなった順に変化が現れてきております。彼らはどういう思いで水底で最後の時を迎えたのか、それぞれドラマがあったのかと思います。彼らの勇気と名誉を称えて、もう1日ほどはこの水底で滞在してもらおうと思っております。…え? 絶対に挑戦者の命を絶つためなのではないか、ですか? いやはや、そのようなことはございません、断じて違います。今も申し上げましたが最後の射精が完全に生命活動した証拠ですからね!」 つたない演技をする司会に、ギャラリーからは笑い声が聞こえてきた。 【3-4】 水中から脱出できた俺はそのまま気を失っていたようだ。 気がつくと俺はサメのスーツを着用したまま、大きなソファーに腰かけられた姿勢になっていた。 視界の先には俺が沈められていたであろうプールがあり、その周囲3方向に並ぶテーブルには俺の姿とは場違いな正装をした人間達が着席していて、皆俺のことだけを注目しているように見える。 右肩に触れられた感触があったのでその方角を見上げると、そこにはハンドマイクを手にした白い背広姿の男が立っていた。 「…さぁ、では脱落者のお話はここまでにして再度ゲームの勝者、生還者である14番の挑戦者に注目してみたいと思います! ギャラリーの皆様こちらをご注目ください!」 男は俺の体を見回したあと、両腕が組まれた状態で身動きが出来ない身体を何度か触り、着席していた人間たちに話しかけた。 「改めまして、挑戦者達はこのように腕が組まれた姿勢でスーツを着せております。腕の機能が完全に使えない状態でした。加えて足に関しても人魚のように密着しているために人間のように泳ぐということは極めて困難で、とても強いハンデを背負っていたのです。そして、それ以上に過酷なハンデがこちらです」 男が指差した先には、手押し台車に乗せられたコンクリートの塊が置かれていた。 すぐさま俺はそれが俺を…俺達を水底に縛りつけていた重りだということを察した。 「こちらが挑戦者達を水底に押さえつけていた重りです。この挑戦者の場合は体重の倍、150kg以上の重量のものを連結しておりました」 150kg…こんなにも大きな塊が繋がれていたのに俺は地上まで浮き上がれたのか。 正直信じられなかった。 「今一度、彼に盛大な祝福をお願いいたします!」 ギャラリーから鳴り止まない拍手と大歓声が俺だけに向けられている。この時だけは不思議と悪い気分はしなかった。この時だけは… 「では、満身創痍かと思いますが生還した挑戦者にお話をうかがいたいと思います!」 男のハンドマイクが俺の口元に向けられた。 「今回のゲームでは20名もの挑戦者が名乗りをあげました。その中で生還したのはあなただけなのです!」 『んん~?』 俺はえっ、と言い返したつもりだったのだが、最初にこの姿にされた時と同じく人語として会話を返すことができなかった。物を咥えられている状態なので無理も無いのだが。 それよりもこのマイクを向けている男が話した、生還したのは俺だけという文言が妙に引っかかった。俺以外のサメのスーツを着せられた者達はどうなったんだ? 「惜しくも14番のあなた以外の挑戦者達は全員が脱出に失敗し、残念ではありますが全て命を落としてしまいました。今もプールの底で最後の表情を浮かべていることでしょう」 司会は俺の首を背面のほうに曲げさせると、そこには大きなディスプレイがあり、さきほどまでいた水中内とおぼしき光景が映されていた。皆身動きひとつせずに水底に沈んだままだ。 ・・・・・・・・。 言葉にならなかった。 水中にいた俺以外のサメのスーツ姿の者達は全員死亡している。 そしてこの状況をあまりにも淡々と話しているこの男に対して怒りがこみ上げてきた。 人の命が奪われているんだぞ・・・ 「残念ながら命を散らせた挑戦者たちに一言コメントをお願いします」 男は俺を元の姿勢に戻してハンドマイクを口元に寄せ、俺の本意などまるで知らないかのような残酷で感情の無い質問を投げかけてきた。 『何が命を散らせた挑戦者達に・・・だ! 人の命を何だと思っているんだ! なんでこんなことを企画したんだ!?』 俺はチェアーから立ち上がる勢いで、ありったけの大声で叫んだ。 しかし呼吸穴から漏れる音は先程と同様のくぐもった声でしかなかった。 「渾身の言葉をいただきました! 要約すると14番も大変悲しがっているとのことです、仲間想いの心温まるコメントですね!」 勝手に誤翻訳されてしまった俺はがっくりとうなだれるようにソファーにもたれ掛かった。 もうこいつらに何を言っても無駄だということを悟ってしまったからだ。 理不尽なことがありすぎたが、これで開放される。そう思っていた矢先のことだった・・・。 【最終章に続く】

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