こちょクエ!? ④『理不尽を具現化したような世界がココだったようで……』
Added 2025-08-03 13:23:35 +0000 UTC4:『理不尽を具現化したような世界がココだったようで……』 「お~~~い、そろそろ起きろ~? こんな所で寝てると風邪ひくよぉ?」 意識の遠い所から聞き覚えのある女性の声が聞こえて来る。 その声は酷く馴れ馴れしく粗野な言葉遣いだが、子供のような可愛らしい声質をしている。 「ったく……。僕にモーニングコールまでさせておいて、まだ起きないだなんて……中々に図太い性格の勇者様みたいだねぇ? 起きないんだったらこっちにも考えがあるけど……良いのかなぁ?」 私が目を開かないでいるとその“僕”が一人称な女性の声は粗野な言葉から意地悪な声色に変わり、何かが足元に移動する気配を感じ始める。 私は嫌な予感を覚えつつも、眠気に抗えず二度寝の気持ち良さを味わうべくもう一度意識を手放そうとする。 しかし…… 「返事が無いって事は良いってことだね? だったらぁ~~~~こうだぞ! ほ~~~れ、コチョコチョコチョコチョ~♪」 うつ伏せに寝ていた私の足裏を誰かが突然羽根の先端の様な物でくすぐり始めた。その刺激に私は微睡もうとしていた目をカッと開いて、悲鳴と笑い声を上げてしまう。 「うひぃぃぃ~~~~~~っひひひひひひひひひひひひひひひひひひ!! ちょ、やめっっ!! やめてぇへへへへへへへへへへへへへへへへへ!! くすぐったぃぃ!!」 私は必死に足をバタつかせその不意のくすぐり攻撃から足を守ろうとする。しかし、そのくすぐりは私の足を追尾するように回り込んできてしつこく足裏をコチョコチョと刺激してくる。 「なにさ……やっぱり起きてたんじゃん! 狸寝入りしてたなぁ? 嘘寝をしていた悪い子にはもっとお仕置きだ! そ~れ、コチョコチョコチョ~♥」 視界が開かれると、すぐさま身体を反転させ上半身を起こし足元に目をやる。 すると、自分の身の丈程はありそうな魔法の羽根を召喚した妖精のピリカがそれを魔法の力で操って私の足裏をくすぐっている姿が見受けられ、私は慌てて足裏を地面に押し当ててくすぐりから守ろうとする。 「あぁ! こらぁ~~! 足裏を隠すなぁぁ! もっとコチョコチョさせろぉ♥」 ピリカはその様に意地悪な笑みを浮かべ足裏と地面の隙間に羽根を潜り込ませて無理やりくすぐりを継続させようと試みる。私はその行為に頭をブンブンと横に振って必死に制止を訴えかける言葉を吐いてしまう。 「ちょ、やめて! やめてよぉぉほほほほほほほ! 何すんのよぉォ!!」 私の制止の声は笑い声と共に吐き出され、いまいち真剣味を帯びない。だから、ピリカは調子に乗って羽根の動きを活発にさせる呪文を唱え始めるのだけど……私はそれに対抗するように脚をバタバタと暴れさせ羽根の動きに必死に抵抗する。 「もぅ! そんなに暴れたらくすぐれないじゃん!」 私の脚が本気で逃げに転じると、ピリカはその動きを追えなくなり頬を膨らませながら諦めるように魔法の羽根を消して見せる。 私は羽根が消えた事でようやく安堵の息を零し、足裏を守るように胡坐をかいてその場に座り込むのだった。 「ハァハァハァ……! なんで死ぬほどくすぐられた後にまたくすぐられなきゃなんないのよ!」 っと、文句を言う私にピリカは蝶の羽根をはばたかせて私の顔の正面にホバリングして見せる。 その顔は……最初に会った機械染みた笑顔ではなく、悪戯が出来て楽しかったと言わんばかりの心の底から浮かべた意地悪な笑顔だった。 『(くっ! こいつ……なんなの? 急に生き生きしちゃって……さっきとは別人じゃない!)』 活発そうな緑色の短い髪、エルフのように尖った耳、童顔だが目鼻口のパーツがすべて整っている女神のような端正な顔……。衣服は白い薄手のワンピースという簡易的な格好で、足は妖精らしく素足の格好をしている。 背中の蝶の羽根と直径20センチほどのフィギュアくらいしかない身長を除けば、あどけなさの残る少年のような女の子……と黙って大人しくしていればその様にも見える容姿だが、今のように意地悪そうな目と歯を見せるような笑い方をしていれば年相応……というか見た目のサイズ感相応な悪ガキ(もしくは悪戯好きな妖精)を彷彿とさせる認識に落ち着く。 「えへへ……良いじゃん♥ どうせ君もくすぐられたいって思っていたクチでしょ? 僕にぃ♥」 ピリカはニヤリと笑みを浮かべて私の顔の前に手を差し出してコチョコチョとくすぐるフリをして見せる。私はその手を見てドキリと胸を高鳴らせてしまうも、自分の心内を悟られないようにととぼける仕草を取ろうとする。 「え? そ、そんな事ぉ……ある訳ないしぃ?」 私がたどたどしくその様に返すと、ピリカはジト~~っと湿っぽい目で私を睨み始める。そして、知ってたぞと言わんばかりに口元をニヤつかせて……私の言葉を否定する。 「さっき……ワザと腕を上げて歩いてたよね?」 その言葉に私は再びドキンと心音を高鳴らせてしまう。 「僕がゲームのキャラだから意志なんて持ってないだろうって油断して……腋を晒してエロい事妄想してたよね?」 図星を突かれ私の額からは焦りの汗がタラリと垂れてしまう。私はその言葉に抵抗するように顔を横に振って否定する構えを取るのだが…… 「僕が“ワザと”くすぐるような仕草で武器召喚の魔法を唱えてあげたらさ、君はずっとその手の動きを生唾飲んで見てたじゃん。あの時こう思ってたでしょ? もう少し手を伸ばしてくれれば腋に手が触れるんだけどなぁ? その手でコチョコチョされたら……きっとくすぐったいだろうなぁ♥ って♪」 その時の私の心情を正確に読み取って言語化して見せたピリカに、私は流石に驚く事を隠せなくなり……ついつい否定の言葉も紡がず素の返答を彼女に返してしまう。 「ちょ! な、何でその事をっ!? ま、まさか……私の思考を読めるのっ!?」 私がその様に返すと、ピリカは小声で「やっぱりねぇ♥」と呟いて、私の顔を変態を見るような蔑む目で見つめ話を続ける。 「読めなくても簡単に分かったさ! 君のあの時の顔……欲情しきっただらしない顔になってたんだから♥ それを見れば君がエロい事考えてるって丸わかりさ……」 「うぐぅぅ!! じゃ、じゃあ……あの時は……キャラのフリをしてたって事? 無害そうなキャラを演じて……私の事……騙して……」 「騙してなんかないよ? 僕は、このゲームのいちキャラに過ぎないしプログラムの一つでしかない。それはその辺の村人とおんなじだよ……」 「プ、プログラム? で、でも! 今は全然態度が違うじゃない! 自分の意思で喋ってるみたいだし……さっきみたいな機械的な受け答えでもない!」 「そりゃあ……ゲームがシャットダウンされたからねぇ~? “見られて”いなければ自由に振舞うのが許されるのは当然でしょ?」 「見られていない?? だ、誰に??」 「そりゃあ……“キミ”に決まってるじゃん!」 「……ッっ!? はぁ? わ、私??」 「そ♥ 君は、知らなかったかもしれないけどさ……君の身体を操作していたのは何を隠そうキミ自身だったんだよ?」 「わ、私ぃ?? 私に……私が操作されていた?? な、何を言っているの?」 「正確に言えば……現実世界のキミが、コピーされた人格の君を操作している……というのが正しいかな?」 「……??? コピーされた人格??」 「そっ♥ 君は、この“こちょクエ”の世界にサンプラーとして召喚されたコピーの人格なんだよ♪」 「さ、サンプラー? サンプラーって……なに??」 「サンプラーは、ゲームの世界や出来事を実際に体験してデータとしてフィードバックするサンプルデータの事さ。そのサンプルデータに人格を宿らせたのが君という存在ってわけ♪」 「私が……サンプル?? 人格を宿らせた??」 「主人公の身体に、実際の人間からコピーしてきた人格を移し替えて、実際にゲームの中で冒険させながらリアクションや感情の変化をデータとして収集する……そして、次回のアップデートでより高品質なくすぐりゲーに進化させられるよう、そのデータを活用してイベントを練り込む……そんな実験的な試みの為にコピーされたのが君って訳さ」 「…………??? い、いや……意味分かんない! 言ってる言葉の意味がさっぱり分からない!」 「まぁ、難しい言葉を抜きに話すと……こうなるよ? 君はオリジナルのキミからコピーされた人格で、そのコピーの人格がこの勇者の身体に宿っている……と。そういう解釈で良いよ」 「そういう解釈……って言われても……」 「感覚も意識も身体能力も経験も全部……現時点でのキミの記憶からコピーして切り取ってあるから、あたかもキミ自身がこのゲームの世界に転送されたかのような錯覚を覚えたかもしれないね。だけど……実際は、キミの脳波をコピーしてゲームキャラに落とし込んだだけだから君であってキミでないとも言えるかな?」 「……はぁ? 私が私でない??」 「コレも簡単にするならば、君の意識や心は君自身のもので間違いないけど身体だけ代用品にした……と言えば伝わるかな?」 「え? でも、感覚とかに違和感は全くないわよ?? 植物に触れば植物の感触をリアルに感じるし……剣や衣服だって触った感覚に違和感もない……」 「そりゃあ……体に君の思考が馴染むように調節してあるからねぇ♪ 痛覚や触覚、味覚なんかもリアルに感じられるようAIが差異無くフィードバックしてくれてるんだ♪」 「あぁぁぁ、また難しくなってきた! つまり何? 私の脳は本物で身体は偽物って事?」 「偽物であって偽物でない……君は……元のキミから切り離されたもう一人の君なんだよ」 「あぁもう! 何その哲学みたいな答えっ! 意味分かんない! 理解も出来ないぃぃ!」 「難しく考えなくていいってば。つまり君はキミだってコト♪ 自我もあるし自分で思考も出来る、今までの知識や経験をそのまま引き継いだ新しい自分だって思い直して貰えれば良いと思うよ?」 「んな……簡単に言ってくれてるけどさぁ! そもそも、そういう事……どうやってヤれた訳? 脳波がどうのこうの言ってたみたいだけど……それってどうやってコピーしたのよ?」 「コピーした方法なら簡単だよ? 君は“あの”ヘッドセットを購入して装着しただろう?」 「……ッっ!? もしかして……あの買ったばかりのヘッドホンの事言ってる?」 「そっ♥ アレはうちのマスターが作り出した“脳波読み取り機”を内蔵した特別品だったんだ……」 「脳波……読み取り機??」 「アレを装着すればプレイヤーがどんな思考でゲームをやっているか、何処が気に入っていて何処が気に入らないか……何処が一番興奮したか……っていう思考や感情の動きを読み取る事が出来るようになってるんだ。マスターはそれを“こちょクエ”の製作の為に利用しようと開発したんだけど……そのオマケの機能として、脳波をコピーして疑似人格をゲームに落とし込めるようにも改造を施したんだ……」 「疑似人格……? つまり、脳波をコピーして今までの記憶やら経験や意識やらをこの身体に入れ込んだという事よね? じゃ、じゃあ……私って……誰? 外の世界の自分とは……別物になったって事?」 「だからそう説明したじゃん。君はキミという人格を手に入れて独自にこの世界で生きていく存在になった……それだけの事だよ」 「じゃ、じゃあ! 成績優秀、容姿端麗、スポーツ万能で、皆から慕われていた完璧だった私は……今、ココとアッチで二人存在してるってことになるの?」 「…………。君ってなかなかの自信家だよね? まぁ……二人居るっていう言い方に問題が無いわけではないけど、その認識でも良いと思うよ? 君はこれからこの世界で、この世界のルールに従って生きていく。コピー元のキミは普段通り大学に行っていつも通り夜な夜なこのゲームをプレイする。そういう役割分担になった……と理解した方が早いかもしれないね♪」 「ちょ! だったら、私を外のワタシと入れ替えてよっ!! 私は大学行ったりゲームをプレイする側の方がいい!!」 「それは無理だよ。だって、君の人格はゲームの中だけのものだし……」 「ちょ、そんなの理不尽じゃないっ!! 何で私がこんな目に合わなきゃいけないの?」 「そうは言っても……これはキミが望んだ結果なんだよ?」 「……っ!? 私が……望んだ?」 ピリカの言葉に私はピクリと片眉を持ち上げてしまう。今まで散々理不尽だと思い憤慨していたこの事象が、私の望んだことだと言い始めたのだ……それを素直に受け取れるわけもないが、しかし何とも嫌な予感がして背中が震えてしまう。 「キミはあのヘッドセットを購入する時……パッケージに書いてあったあの文言を見た筈だよね? “このヘッドホンでゲームの世界へ飛び込む体験をしてみよう”っていう文言を……」 「うっ!? み、見たけど……?」 「あの文言を見て君は想像したよね? もし自分が“こちょクエ”の中に入れたらどんな体験をするのだろう? って……」 「し、したけど……それが何だというのよ! そんな文言……ただの大袈裟な商品の広告に過ぎないじゃない!」 「でもキミは……このゲームを起動してヘッドセットを装着してからも本気で願ったよね? 本当にこちょクエの中に入れたら良いのに……って……」 「うっ! うぅ……」 「その願いを脳波で読み取ったから、君をこの世界へコピーする事をマスターが決断したんだよ。君の希望を叶えるために……ね♥」 ヘッドホンという単語がピリカから出た時点で嫌な予感がしていた。確かにあのヘッドホンの箱にはそのような文言が書かれていたと言うことをしっかり覚えている。それを見て……空想だけでもゲームの世界に入ってみたいと思うのは私にとっては当然のことだった。なにせゲームのタイトルを見ただけでも中身を妄想してしまうほどのくすぐり中毒患者なのだ……そんな心躍る文言を見て妄想しないはずがなかった。 「そ、そんなの……叶う訳ないって思ってたから気軽に思い浮かべた願いに決まってるじゃない! こうなると分かっていたら……本気でそんな事思う訳が……」 「いいや、キミの意思はそんな中途半端な思考をしていなかったよ? 本気で羨んで本気でそうなりたいと願った……ちゃんと脳波を調べてそう思ってるって結論を下したから、了承の意思があると認められてコピーの実行を行ったんだ」 「くっっぐっ!! うぐぐ~~~~」 ピリカの言葉は何一つ間違ってはいなかった。確かに私は……あのヘッドホンの文言を見てその様に思うようになっていた。 この言葉通りに……ゲームの世界に入ってみたいなぁ……とか、ゲームの中で死ぬほどくすぐったい目に合わされてみたいなぁ……とか、そういう妄想を繰り返していた。 ゲームを起動したときも……その箱は私の目の前に置いてあったから、起動しながら妄想を膨らませてもいた…… まさか、本当にこんな理不尽な世界に放り込まれるなんて思っても見なかったが……でも、あの宙に浮かぶタイトルを見た時……驚いたと同時に心の中では胸躍る気持ちになっていたのは確かだった。 アレを見て……私は、ゲームの世界に入れたんだ! と歓喜したのだ…… それが事実である為、私はピリカの説明に怒りの衝動を向けられない。 彼女の告げる一言一句が間違いではなかったのだから……それに異を唱えても意味などないと理解が及んでしまう。 「くぅ! そ、そんな理不尽な……」 「理不尽じゃないでしょ? だってこの体験は君の願望そのものなんだから……」 「そ、そうだけど……。せめて私に許可ぐらい求めてくれても良かったはずじゃ?」 「AIにそこまでの気遣いを要求するのは酷ってもんだよ……」 「……エーアイ??」 「そ♥ この世界の支配者……“クスグリすぐる”の人格を投影したAIが君をこの世界に召喚した張本人だよ♪」 「クスグリすぐる……って、このゲームの製作者の一人である……あの?」 「彼女の性格や思考をコピーした存在が、かの女王……サキュリアその人なんだよ……」 「淫魔女王……サキュリアに……コピーした?」 「彼女がその決定を下して君をコピーしちゃったんだから、まぁ……不運だと思って諦めるしかないね……」 「女王サキュリアはクスグリすぐるさんのコピー……という事? あの……鬼畜なくすぐり描写を作るのが大好きな……界隈では“リョナ好きのすぐる”って呼ばれてる彼女が……ラスボスの殻を被っている……と?」 「ちなみに、私もゲーム外ではコピーを宿してちゃんとこのゲームの中で生活を営んでいるんだよ? まぁ、私だけでなく主要なキャラ殆どにも宿らせてあるって感じなんだけどね♪」 「ゲーム外……って事は、今がそういう時間って事?」 「そうそう♪ 外の君がゲームをシャットダウンした後の世界が今の状態さ。ゲームは落ちててもサーバーの中の生活はMMОみたいに続いてるって……そう思ってくれて良いよ」 「なるほど? だから、さっきまでとは様子が違うのか……」 「えへへ♥ こっちの方が好みでしょ? 美人で清楚そうな妖精が僕っ子になって口汚く罵ってくれるんだから♥」 「好みじゃないっ! ただの悪ガキみたいでムカつく!」 「はぁ~~い、はい♥ 隠さなくても分かってるって♪ だって……君の感情が素直じゃない事は丸分かりなんだからさ♥」 「うぐっっぐぅぅぅぅ!!」 「ちなみに、僕の人格はゲームデバッカーの“コチョバ氏ぃ”からコピーされてるんだ♪ だから、僕の役割もデバックをする事に重きを置いてる♥」 「コチョバ氏ぃさん? って、確か……このゲームの絵師も担当してた女子だったよね?」 「そうそ♥ 彼女ってば君みたいな可愛い女の子をくすぐって虐めるのが大好きだからさ……僕の性格も同じように意地悪くて悪戯好きって設定になってる訳♥ これから一緒に旅するのは苦労するだろうけど……ヨロシクねぇ~?」 『(うぅ……確かに、コチョバ氏ぃさんのイラストは可愛い女の子をいたぶる様にくすぐる攻め描写が多かった気がする。クスグリすぐるさんと相性が良すぎ……って界隈ではこのコンビは有名だったわ……)』 「さて、一通り必要な説明は返してあげたと思うけど? まだ気になる事とかある?」 ピリカにその様に聞かれ、私は首を横に捻る。気になる事が無いかと聞かれれば、小さい事含めまだ大量にあるけど……そういう疑問はまたゆっくりした時に聞いても良いだろう。 今は街道のど真ん中に座っている状態であるし、モンスターとも遭遇したばかりで安全であるとも言い難い状況だ。あまりこの場所に長居はしたくない……と、感じた私は最後に一番気になっていた事を聞き出そうと口を開く。 「私って……もう……この世界から出られないの?」 コピーされた人格であるというのならその質問は意味がないとは思っているが、確認を取るのは大事な事だ。 「う~~~ん、君がその身体を持って外の世界に戻る……って事は出来ないね。だって、この世界にある今の君の身体はプログラムに過ぎないんだから……」 そうだよな……と、私は諦めの溜息を吐く。 ゲームの世界にコピーされたという時点で、本体との世界とは切り離されていると理解しなければならない。私はゲームのキャラに過ぎず、画面の内側の世界に意識体だけが入れ込まれたに過ぎない存在だと言うことなのだろう。……いくら、元の人格と同じ記憶を持っていたとしても……住む世界が変わってしまったのだから戻る事など叶わないというのも当然の話だ。 しかし……例えゲームの中のキャラになったと言われても、感覚や行動……思考に至るまで全部私のまんまな訳で……そこに違和感など全くない。 むしろ何が現実と違うのか? を探す方が難しい程で……それがプログラムとAIの組み合わせであるとは認識できない。 だからこその質問ではあったのだが……返ってきた答えは無情であり私を失望させるものでしかなかった。 「でもさ、ココの世界も悪いもんじゃないよ? 現実では絶対にできない魔法が使えたり、回復薬とかを飲めば気休めではなく本当に体力が回復したりするし……死んでも復活できるし、操作されてる間は何もしなくて良いから楽だし♪」 「……でも、痛いじゃん! 苦しいじゃん! ちゃんとくすぐったく感じるじゃん!」 「そりゃあそうだよ♥ だって、この世界は現実世界と同じ様に五感が働くよう調整されているんだから……」 「現実と同じ……じゃないでしょ! 私の身体っ! 現実よりも敏感にされちゃってるんですけど?」 「アハハ……そりゃあ災難だったね♪」 「災難だったで済ますな!」 「でも、それを選択したのはキミだよ?」 「私じゃないっ! 画面の外に居るワタシの方っ!!」 「同じだよぉ……立場が違うだけで♥」 「立場が違うから平気で選べんのよ! こんな鬼畜な難易度ぉォ!!」 私は、スッキリしてベッドで眠りについているであろう外の自分の寝顔を思い浮かべて思いっきり不満を言い放ってやった。聞こえる筈もないが、叫ばないとやっていけないという気分になっていたのだから仕方がない。私は感情を爆発させる様にその様に言い放つ事で今一番に感じている憤りを解消させる。 「あ、そうそう……言い忘れてたけど……」 そんな私の態度を見てピリカが思い出したかのように言葉を続ける。 「そういう態度とか叫び声は現実のキミが認識する事はないから、ゲーム中いくらでも文句を叫んで貰っても構わないよ♪ 現実のキミにフィードバックされるのはゲーム内の君の本気の笑い苦しみ様のみ♥ 余計な言葉や不適切な態度なんかは画面に反映させないように僕がその都度デバックしてあげてるから安心してね♪」 そう言えばこの妖精はデバッカーのコピーを反映させたと言っていたっけ? デバッカーというのは、ゲームのバグ(プログラムの欠陥やミス)を見つけ修正する役割を担う人物の事を指す言葉だが……どうやらその役割はゲームキャラである彼女にも投影されているらしく、本体の私に不都合がないよう見せる役割を担っているようだ。 なるほど、確かに……そういう役回りであるなら、主人公である私に最後まで同行する妖精の役に落とし込むのは正解だと言える。 問題なのは……そのデバッカーの性格が……ちょっとアレなくらいか…… 「む? 君……今、失礼なこと考えたでしょ?」 「い、いや? 別に……」 「あまり僕を怒らせないほうが良いよぉ? 僕がその気になれば……君の身体を魔法で拘束する事なんて容易いんだからねぇ?」 「う、うぅぅ! ズルい……(でも、拘束されたらナニされんだろ? もしかして……♥)」 「こ~~らぁ~~~! 目がエロくなってきてるぞぉ? 今……妄想してるだろ? 僕に拘束されてナニされるのか……想像して興奮してるんだろ!」 「し、し、してないわよ! 失礼なっ!」 「ホントかなぁ~? でも、コレはよく覚えておきなよ?」 「……?」 「このゲームの世界で“ズル”なんてしようと思わない事だね。もしそんな舐めた真似しようとしたなら……僕が直々に死ぬほど苦しいお仕置きを施してやるんだから♥ 覚悟しておきなよ?」 「ひっ!? お、お仕置きぃぃ?(ドキッ♥) で、でも……ズルって……どんな?」 「例えば! ゲームがシャットダウンした後に次に戦うボスの体力を削りに行っておくとか、予め罠を無効化しに向かうとか、湧く予定の雑魚を先に倒しておいて操られても楽に冒険を進めようとするとか……。君は何度もこのゲームをクリアしているんだから分かってる筈だからね、効率よく冒険を進められる方法を……。それを姑息に悪用するようなら、それはズルとみなすから!」 「うぐっ!? うぅぅ……」 「あぁ! その反応は……やろうと考えてたなぁ~?」 「ち、違っっ!」 「良かったね? 実行に移す前に警告されて♥ もし本当にそんな事をヤったら、素っ裸にひん剥いて動けないように拘束して……身体中をこしょぐり倒して死ぬまで反省させるからね?」 「ひっ! ひぃぃぃぃぃ♥」 「ったく、お仕置きだって言ってんのに……想像していちいち悦ぶなっての!」 「だ、だってぇ~~! あんたが裸にひん剥いてなんて言うからぁ……」 「あぁ、もう! 面倒臭い! 指導のために一旦くすぐってやろうかしら?」 「うひぃぃぃ♥ やだぁぁ♥」 私はピリカとそのように言い合いながらも身体を起こし、村へと続く街道に視線を移していった。 夕暮れの影が伸び始めたその街道には魔法によって作られた街道灯が黄色い光を帯びて灯り始めている様子が見て取れる。その光を頼りに少し歩けばすぐに最初の村である“リヤの村”に辿り着くのだが、ピリカはまだ文句を言いたそうな顔をして私に不満をぶつけ続けている。 私はその不満を聞き流しながらも、彼女の羽ばたかせている羽根やら……ワキワキ動かしている手やらに視線を奪われ、また新たな妄想を頭の中に繰り広げる事となった。 こんな理不尽な状況に置かれているのにどうして私はいつもこうなのだ? と、自分の愚かさに呆れもするけど……でも、この愚かさこそ私だもんなぁ……という妙な納得感が得られ安堵の息を零してしまう。 なんか……複雑な状況に追いやられたとは思うけど……私は、これが私であると納得してこの世界を生き抜くしかないようだ。 この夢にまで見たくすぐりの溢れる世界で……思う存分にくすぐられる事を堪能しながら……