離島に暮らす漁師、原 郷地は眠気を噛み殺しながらどっしりと港を歩いていた。
傾き始めの太陽を見るのは久しぶりだった。朝日より弱いことなどない筈なのに妙に目に染みる。
「ン――…………むぅ」
再び込み上げた欠伸を郷地はもう一度顎の力で押さえつけた。愛する息子を迎えにいくのだ。気持ちの上では、たとえ三徹していようと跳ね起きてやるつもりだ。
だが漁師として日々体に刻み込まれた習慣が、彼を泥のような眠気に引き込んでいた。
本来ならばこの時間は、家で眠っているはずだった。
漁師である彼は毎朝早朝に漁に出る。息子は連絡船で本土の学校へ通っており、寄港した後は島の漁業組合に魚を卸して一眠り。夕方息子が帰宅する頃に目覚め、夕飯を済ませて早朝の漁に備えてまた早寝する。その繰り返しだ。
そう、息子は本来ならばこの時間も学校にいるはずだった。
「帰るぞ、ほれ」
やがてたどり着いた港で、息子はいつも以上に小さく縮こまっていた。
「…………」
港を歩く親子に会話はなかった。
郷地は海で鍛えられたガッシリとした足腰で堂々と、しかし随分ゆっくりと歩いていた。
日々海と太陽と戦い続け、真っ黒に日焼けした荒れた肌。腕は太く、背中は分厚い、腹も丸く突き出ているがそれ以上に胸板がせり出した頼もしい体格だ。体一つで息子を養ってきたことが伝わってくる男、それが郷地という男だ。
髪など当然短く刈っただけ。服装も動きやすさ重視。そんな服装は洒落っ気や女っ気を感じさせない。大切なのは家族と仕事。そんな宣言を全身でおこなっている。どこか雄の余裕というものがあった。
ラウンド髭に覆われた口はむっつりと閉じたままだが、そのぶんしっかりと耳をそばだてていた。背後に感じる小さな足音。それをひとつたりとも聞き逃さないようにしていた。静かな波の音に隠れるように、小さな足音と、それより更に小さくカサカサと紙袋が擦れる音がした。
郷地は振り返ったりはせず、けれど息子の歩調に合わせながら、ゆっくりと港を歩いていた。
正直なところ、なんといえばいいのかわからなかった。
腹がたっていないと言えば嘘になる。だが、息子を怒鳴りつける気分にはなれなかった。
息子は学校をサボっていた。
――昼も夜も働きながら汗水色々と垂らしてきたのはひとえに息子の学費のため、未来のため、自由のためだ。
本来ならば今の時間も、息子は本土の学校に通っているはずだ。
息子の頭の出来は自分より遥かに良い。
亡き妻に似て色白で、細身で、気弱で、だけれどとびきり優しく努力家の息子を、父はなにより自慢に思っていた。
自慢であり続けてほしいと願っていた。
「…………」
そんな願いがプレッシャーになっていたのだろうか。
息子は学校にいかず、本土に渡ったあと街で買い物をしているところを島の人間に見つかった。
息子の懐には今も、こっそりと買った何かがしまわれている。
それを隠したがっているのは明らかだが、打ち付ける波風が容赦なくそれを揺さぶってガサガサと音を立てていた。
詮索はしなかった。
親に隠れて欲しがったものだ、まさか教科書や参考書ではあるまい。だが息子も年頃の男だ、『そういうこと』に興味が出てきたとしても不思議はない。
以前チン毛が生えた生えないで随分と無神経な対応をしそうになったことを思い出した。もうそんなことも、随分と前の話なのだ。
「今どきの学校がどんなもんか、オレにはわからんがよ」
背中を向けながら郷地は呟いた。
成績は順調だと聞いてる。
友人関係に後ろ暗い話も聞いていない。
いじめ? そんな野郎がいたらこの俺がぶっ潰して――などと宣言したことはないが、こんな親父をもった息子をいじめる度胸など進学校にはいやしないだろう。
「まあ、色々とあるわな、そりゃあ」
一体何が不満なのだろうか。
荒波に揉まれ、男ばかりの世界で生きてきた彼には、繊細で引っ込み思案な息子の心を解きほぐす自信がなかった。
お前がどんな道を選んでも俺は構わない。だから隠し事だけはやめてくれ。
最初にそれだけは伝えておいた。その宣言を示すように、男の背中を見せ続けてただ歩いている。それが冷たいものに思われるかもしれないという不安を感じながらも、父はただ歩き続けるしかなかった。
足音が消えたことにはすぐ気がついた。
「……あ」
それと同時にあがった小さな声も郷地は聞き逃さなかった。
振り返っても、なにか特別な景色があるわけでもなかった。海も港もほかと何も変わらない。だけれど、それは確かに思い出の場所だった。
「ここか」
まだ息子が、今よりずっと幼い頃、それこそチン毛の一本も生えてない頃の話だ。
「覚えていたのか」
素直で実直な息子が嘘をついたことが、数年前にも一度あった。
家庭ごと島を離れていく友人がグズり学校からも家からも逃げたことがあった。息子は泣きじゃくる少年につきあって、ここに停泊してあった船の中で一夜過ごした。そんなことがあった。
「そういや……どうしてるんだろうな、あの子は今頃」
彼は振り返り、昔を懐かしみながら今は船のない海を眺めた。
結局あの家族は島を出ていくことにはなったが、それでもあの大騒動が無駄だったとは思わない。息子は泣きじゃくるあの子の心を、幼いなりに救おうとしたのだ。
「おまえは昔から……やると決めたら意外と大胆で、無鉄砲なやつだったな」
漁師らしく真っ黒な手を息子の肩にやって父親は笑った。
「オレに似てよ」
そしてそう付け加えた。
「まあ、ここの出来ばっかりは随分違ってるがな」
そういって片方の手を頭に、もう片方の手をするりと背中に回した。膝をつき、大きな体を精一杯小さくした。
海の香りを全身から立ち昇る体が、太く立派な逞しい腕が、息子の体をすっぽりと抱きしめる。
「どうなっても構わん、どう生きてもいい、だから、オレに隠れて悩むんじゃねえぞ」
抱きしめた息子の息は荒く、小刻みだった。
そんな不安を感じ取っては、抱きしめざるを得なかった。不安や自信のなさなどおいておいて、父としての本能が体を突き動かしていた。
「俺はよ、父ちゃんはよ、お前のためにすることならなんだって苦しくねえんだからよ」
暫くの間、息子はなにもこたえず、何もしなかった。
それでも構わず父は抱きしめ続けた。
「お」
そうして待つうち、意外なほど力強く息子が自分の背中を締めるのがわかった。自分を基準にしてばかりいたが、男として育ってきているのには間違いないのだ。
――――――
僕を迎えにやってきた父の姿は遠くからでもすぐにわかった。
生まれたときからこの島で生きている父は、海と風に鍛えられた逞しい体の漁師だ。縦にも横にも太く大きく、全身余す所なく日に焼けた肌は太陽の中で輝いて見える。
海で生きるために生まれてきたような体と顔をした父は、きっと自分がいなければ漁師だけをして過ごしていたに違いなかった。
それが幸せだったのではないかと、ついつい考えてしまう。
直ぐ目の前にやってきた父は、いつもよりさらに数段大きく見えた。影が自分に覆いかぶさると同時に、僕はとっさに視線を逸らしてしまった。
学校をサボった罪悪感。
それがバレた後ろめたさ。
だが、理由はそれだけではなかった。
ちょうど目線をおろした先には父の分厚いズボンに覆われた股間があった。
体が熱い。握りしめた紙袋が音を立てる。スマートフォンで見た父の姿が鮮明に蘇る。
漁師であって、漁師でない父。
いつも見ている父とは別物のようなあの姿。
「帰るぞ、ほれ」
父は優しく肩に手を置いてくれた。
そんな父のもう一つの顔。名前。そして活躍ばかりが頭に浮かんでしまっていた。
『オヤジ漁師1234』
いかにも適当につけられたハンドルネーム。父のもう一つの名前。父はネットの一部ではかなりの人気者になっていた。
センズリ配信。
センズリ配信二。
漁師のセンズリ配信3。
漁師親父のセンズリ配信part4。
まだ顔を隠している初期のサムネイルの中であっても、その背景は明らかに僕の自宅、鍛え上げられた固太りの体は僕の父に違いなかった。
父は隠れて、動画配信をしていた。
勇猛で優秀な漁師である父は明らかにヘテロセクシャルで、なんなら性的なことに関してはセミリタイアのようになっていた。趣味ではない。問題は僕にあった。
ここは狭い島だ、漁師の稼ぎというのは大幅に増えたりはしない。息子の自分の進学の為、未来の為、父はもっと金が必要だと考えたのだろう。
そうしてたどり着いた答えが、あの姿だった。
『よう……あー…………じゃあ、始めるとする』
動画のはじめに父は男臭い声で宣言すると、スマホカメラの前でどっかりと座り込む。汗ばんだタンクトップを脱ぎ去ると、分厚い胸板と丸く膨らんだ腹がどっしりと画面に映る。
そのまま躊躇いながら下半身も脱ぎ捨てると、体同様に太くて立派な肉棒が半分以上勃起していた。
数少ないコメントに目を通しながら、もっと足の裏を見せてだとか、凄えエロいっすね、なんてものに律儀に返答しながら父は竿を扱いた。
『イくぞ……おぉ……おぉぉ……っ…………』
気持ちよさそうに呟いて、父は射精を見せつけた。
それが最初の動画、配信だった。
いかにも不慣れな男のそっけないオナニー動画だったが、それが逆に受けたのか、それともコメントにちゃんと応えたのが効いたのか、ともかく二回目からはより多くの視聴者とコメントがやってきた。
……父は人気者だ。
……まさか軽蔑しているわけではない。
むしろ逆だ。
だからこそ苦しかった。
自分のためにそこまでしてくれる父を尊敬し、愛していた。そしてどうしようもなく、僕はあの痴態に興奮していた。
「………………」
大きな父の背後を見つめながら、僕と父は家までの道を真っすぐ歩いていた。狭い島の中で迷うことなどあるはずないのに視線だけはずっと彷徨っていた。
四角くて大きな背中、がっしりと尻、丸く盛り上がった二の腕。
そんな場所を次々に見つめてしまう。意識してしまう。
隠し持った紙袋が心臓の音に合わさるようにガサガサと鳴った。
今日こっそり向かったのは、街の薬局だった。
島の顔見知りもおらず、島では手に入らないものが並べてあった。その中で一つだけ、XLサイズのコンドームを買った。
他にもいろいろな道具があったが、そういったものは全部アダルトショップというものに売られていて買うことはできなかった。唯一コンドームだけは、必要なものということで手が届く場所にあった。
父はこれを自分の肉棒に、見せつけるようにはめていた。
『まあ、ハマりはさうるがちょっときついな……』と一言添えて。
先端は余るくらいだったが、父の極太の漁師チンポにとっては、XLでも太さが足りないようだった。
僕はさっき一枚だけ取り出して指に巻いて形にしてみた。指一本ではとても足りなかった。なにかの間違いではないかというくらいに太く大きかった。
僕のお父さんのチンポは、この直径より太く立派なのだ。そして、父はそんなデカい凶器を世界中に向けて発信していたのだ。
僕はまた父の動画を思い出していた。
不慣れな時期が終わった頃の、確か『漁師親父が初めてオナホ使ってみる配信』だったと思う。
『う、ぐう、はあ、ふう、んっ、うお、あっ、いくぞ、そろそろぶっぱなすぞ!』
父は真っ昼間っから厳重に戸締まりをして、障子を閉め、声が外部に漏れぬようわざと扇風機を最大風速で回しながら、スマホのカメラの前で何千人もの同接ユーザーの前で絶頂に達していた。
コンドームつきの肉棒を、何度も何度もオナホールに出し入れして射精していた。
『うーークソッ、こんな玩具に……漁師チンポイかされちまった……あーー……うっ……うっぅ……!』
カメラの前で喋るのにも慣れた父は、生来の豪快さや物怖じしない性格からかよく声をだすようになっていた。
口をすぼめ、髭面から男らしい声を出すとコメント欄の日本人は大盛りあがりだ。海外の人の反応もほしいからか、父はわかりやすく大げさなくらいに気持ちよさそうに、あるいは悔しそうに、そして恥ずかしそうに射精するようになっていた。
『はぁ……はぁ……出たぞ……今日は……どんなもんだ……』
ペニスをオナホールから引き抜くと、父はそのままコンドームも取り外した。ゴムの先端には、ドロドロの白い精液がたっぷりと溜まっていた。父は照れ笑いながらも、スマホのカメラにその男の証を大写しにした。
そうすると、英語と日本語、たまに中国語やそれ以外の言語のコメントが一斉に流れるのだ。
『ふぅ……ふぅ……おまえらが煽るもんだから……こんなに出ちまった……。こんなオヤジのセンズリ見て楽しむなんて……変態共がよ……』
父は煽りながらも、自分自身の射精したてチンポをヒクヒクさせていた。
その後も父はこの一種の儀式、プレイを続けた。
漁師親父が初めてのエネマグラ使ってみた配信。
変態漁師親父のセンズリ配信。
変態漁師の偽チンポを舐めてみた配信。
どれでも最後はコンドームの中に射精して、大量に出たたっぷりの雄汁を得意げに見せつけていた。
一度など出した種を自分の丸い腹の上に出して、『あーこりゃすげえ臭いだな……』なんて言って……指先をちょっとだけ舐めたことがあった。
父は明らかに変わっていった。
よりいやらしい男になった。より大胆な性格になった。よりホモに望まれる男に変えられていった。
息子である僕のために、父は変わっていった。
(お父さん……)
そんな父の変化を歩きながら思い出すものだから、僕の下半身はすっかり大きくなっていた。まるで叱られたように前かがみに、うつむいて歩いた。
どうしよう。どうすればいいんだろう。どうしてこんなに興奮するんだろう。
街の学校でも今どき男同士はヘンタイだなんてことを言うような人間はいない。だれれど、自分の父親に股間が痛くなるほど興奮するという人間もいない。
だけどしょうがないじゃないか。皆は父さんのような逞しい男に愛されて愛されて尽くされていないからわからないんだ。そんな自分勝手な怒りさえ湧く。
どんなときも自分の味方。なにがあっても守ろうとする。逞しくて頼もしくて、だけどガサツで……目的のためなら自分の痴態を全世界に配信することも厭わない変態オヤジ漁師。それが僕の父だ。
「…………」
足が止まってしまった。
ついに歩けないくらいに勃起していた。
前がこすれて痛いくらいだった。
そこで初めて、僕はそこがどこであるかに気がついた。
「……あ」
思わず声が出てしまった。
何事かと振り返った父と目があった。慌てて股間を隠したが、父が見ているのは周囲の景色だった。
心臓が跳ね上がる。
偶然。なのだろうか。二人が通った道、ちょうどそこは父が少し前に動画撮影をしていた場所だった。
変態漁師親父の初めての変態露出センズリ配信2
父がつけた動画のタイトルまで覚えている。
父はこの場所で素っ裸に真っ黒いゴム製の長靴だけの姿になっていた。
『…………ハァ……ハァ、やっべえ……くそっ……』
一つ前の動画で、父は高額のリクエストに応えて家の前で初めての露出をした。
下半身に何もつけずにちょっと家の周囲を徘徊する配信だった。
それが過去最高の視聴者数と、話題を生んでしまった。動画や話題は拡散されて、海外のコミュニティにまで及んでしまった。
大量のリクエストが届いた父は止めることができず、漁師としての自分をアピールする姿で二回目の露出を敢行した。
『ちょっとだぞ……いいか、これっきりだぞ……』
視聴者に向けての言葉か、自分に言い聞かせているのか、父は呟きながらガチガチに勃起したチンポを見せつけた。
それがこの場所だ。
腰を突き出してガクガクとオナニーをしていた場所だ。
何度も見た動画だったからか、すぐにわかってしまった。
同じ場所を歩くものだから、声が出てしまった。
父は暗い中で船の明かりをスポットライトにして、『おうおう』と男らしく呻いていた。
『クソ……これ、これやばいな……』
父は支援者から送られてきたインカムをつなぎながら、右を見たり左を見たりしながら猛烈に股間を擦り上げた。
ゴムに包まれた黒いチンポが、そこだけ異様に目立って光っていてとてつもなく卑猥だったのを覚えている。
「――ここか」
聞こえたのは今ここを歩く、漁師としての父の声だった。夕日に照らされる海を見ながら、父は思い出深そうに低く唸っていた。
心臓が唸る。てっきり知らないフリ、なにもわからないフリをすると思っていた。男同士の世界のことはよくわからない、けれどもあれが普通ではないことくらいは知っている。
……もしかして、もうバレているのだろうか。僕が父の痴態を見て、時々学校をサボってまで生配信に参加していること、時折コメントをしていること、父を深く愛していること。
全部わかっていて、見せつけていたのだろうか。
「あ……の……」
かすれた声が喉の奥で上がった。
どうしよう。どうすればいい。本当のことをいってしまったら、それはどうなる。
ずっと伝えたかった。
だけれど、何を伝えればいいのかわからなかった。
隠し通したかった。
けれども明かしたくもあった。
罪悪感と、そして……仄暗い喜び。
理性を無視した性的な興奮が湧き上がる。
「覚えていたのか、お前も」
だが父の口から出たのは、随分昔を懐かしむような言葉だった。
「そういや……どうしてるんだろうな、あの子は今頃」
あの子。
そこまで言われてようやく思い出した。
ここは昔、自分が船に隠れて一夜を過ごした港だった。
実のところぼんやりとした記憶しかない。泣きつかれてすぐに眠ってしまったからだ。その翌朝、友人と交わした握手や約束のほうがよほど覚えている。だけれど、自分たちを探していた父にとって、あの夜こそが思い出の日だったのだろう。
「おまえは昔から……やると決めたら意外と大胆で、無鉄砲なやつだったな」
漁師らしく真っ黒な手を息子の肩にやって父親は笑った。
「オレに似てよ」
――まさにここで変態的な露出行為に及んだなど少しも感じさせない、優しさと厳しさを併せ持った父親らしい笑顔だった。
あのとき、懸命に自分の竿をいじっていたあの大きな手が、自分を包みこんでいる。
『シコるのとまらねえ……とまらねえ……ッ』
配信はすぐ終わる、などと宣言しておきながら父は随分とじっくりここで楽しんでいた。
明らかに射精を寸止めして、スリルに病みつきになっている姿を晒していた。
……いや、すごい人数から応援のおひねりが届いていたから、やめるにやめられなかったのかもしれない。
僕の学費を稼ぐために、父は人生の破滅に片足を突っ込みながら、片手では肉棒をいじめ続けていたのかもしれない。
どっちなのだろう。
父はあの時何を考えていたのだろう。僕はどっちであって欲しいと思っているのだろう。
脳が混乱していた。
そんなことを考えてる場合ではないのに、ずっとずっと興奮がとまらない。
「お父さん」
「まあ、ここの出来ばっかりは随分違ってるがな」
父が抱きしめてくれる。頭を撫でてくれる。
何千人という人間の肉棒を勃起させ、精液を絞りっている父が、躊躇いなく抱きしめる男は世界で自分だけだ。
『漁師の変態ズリとまらねえ……やべえ……変態オヤジになっちまう、息子に自慢できねえ、変態オヤジになっちまう……!』
そんなことを語った父の口がすぐ近くにある。
大丈夫だよ。
どんな変態でもお父さんは僕の自慢だよ。
そう一言告げたら父はどんな顔になるだろうか。
安堵か? いや、絶望だろうか。
それとも……興奮するんじゃないだろうか。
『こ、ここでケツ見せろ……って、そんなもん……クソ、…………」
父は要求に弱い。
金に弱い。
そしてなにより僕に弱い。
『ああ、仕方ねえな……ったく、オラ……お前らの変態ホモの相手してやるのも……一苦労だ……ッ!』
いつも少し迷っては『息子のためだ』と自分に言い聞かせては変態行為に及ぶ。コメントもそれがわかっているから、どうしても渋るときには僕の存在をちらつかせるのだ。
そうすると、外で尻の穴を晒すような……変態漁師そのものの行為も行ってしまう。
まさか最後の一押しをしたそのコメントに、実の息子も混じっているだなんて知りもしない。
「どうなっても構わん、どう生きてもいい、だから、オレに隠れて悩むんじゃねえぞ」
何でも晒しながら、僕にだけはひた隠しにしている父はそんな事を言った。
ただ息子である僕に誠実に生きろといっているだけだ。
それなのに、自分のようになるなと言っているようにも聞こえ、俺の秘密を暴いてくれという言葉にも聞こえてしまう。
本当のこと。
父を裏切ることになるだろうか
それとも、父はお気に入りのコメントを見つけたときのように、チンポをわかりやすくヒクヒクとさせてその指示どおりの姿をするだろうか。
「ハァ……ハァ」
興奮と動揺で息が上がった。
なにか声にだそうとすればするほど、過呼吸になったようになにもでてこない。
「……大丈夫だ、無理しなくってもいい」
それを無理に喋ろうとしていると思ったのか、父は優しく背中を抱きしめた。
勃起した竿があと少しであたるくらいに近づく。
分厚い父の体。
動画ではわからない、汗と海の臭いが染み込んだ男らしい香りが首筋から香ってくる。
『やべえ、すげええ出た……外でぶっぱなすのも……悪くねえ……ハマっちまったら責任とれよ……おまえら……』
動画の最後、射精した肉棒をわざとらしくヒクヒクさせながらそんなことをいった口が、どこまでも優しい言葉をくれる。
「俺はよ、父ちゃんはよ、お前のためにすることならなんだって苦しくねえんだからよ」
『スゲ……気持ちいい……気持ちいいぜ……ああ……やべえ……こんな場所まで感じちまう……!』
父は確かに、苦しそうではなかった。
最新の動画では、ついに父は大型の肉棒のおもちゃにまたがって、尻の開発を始めた。
『こんなもん何が楽しいんだ』なんて言っておきながら、熟した父の尻穴はあっというまに偽物の『男』の味を覚えてしまっていた。
僕のために父は犯される準備までしている。男と交わったことなど一度もない父の浅黒く垢と汗にまみれた純粋な体。その尻は僕のために、感じまくる性器に変わっているんだ。
「お」
気がつけば手を伸ばし、背中に回して強く握りしめていた。
父の口から上がったのは、息子に抱きしめられて嬉しいという、ただそれだけの声だった。
もう少し手を下に向ければ、父の声はきっと変わる。
『ここ……まじか、すげえ……ああッ……こんな気持ちいいことしてんのかよ、ホモってのはよ……あぁッ……!』
そう言っていた尻だ、きっと少しいじったら……とろとろになってしまうだろう。
ここにはゴムもある。愛する人もいる。父は外でやるのも大好きだ。
今すぐ押し倒してなにもかも伝えて僕の恋人にしたい。
父の初めてを奪って、これまでどんな動画にも残さなかった声を上げさせたい。
『お、お前のチンポで……父ちゃんイッちまう…………!』
そうだよね、お父さんは僕のためにこんなに変態になったんだもんね、じゃあ僕のチンポでイッちゃうのも仕方ないよね。
『ああ、そうだ、お、お前の為に父ちゃんは、も、もう嫁も貰えねえ変態漁師になっちまったんだ……!』
大丈夫だよお父さんは僕と結婚すればいいんだ。
『ああ……こんな変態漁師オヤジと結婚してぇのか、ああ、クソ、や、やっぱりお前は……俺に似て……チンポもデケえし、変態だなあ……ッ』
そうだよ、僕はお父さんの息子だから、だから……こんなに変態なんだよ、変態の精液全部入れてお父さんをもっと変態にしてあげるからね。
『ああ……なっちまう、なっちまう…………お前の汁で父ちゃんもっともっと変態父ちゃんになっちまうぅぅぅ…………ッ』
「お父さん、………………大好きだよ」
僕はそれだけ告げて父から離れた。痛いくらいの勃起を隠して、僕は父の前を歩いた。
「明日は……ちゃんと学校いく、ごめんなさい」
「おう」
父は満足げにそれだけ言って、あとはなにも追求しなかった。
露出していた父のようにギリギリのところで寸止めした僕は、両手を握りしめながら家へと向かった。
その夜、眠りかけの体はあるはずのないスマートフォンに通知に叩き起こされた。
『変態漁師1234さんが配信をはじめました!』
深夜でもない。早朝でもない。僕の学校にいる時間でもない。
そんなときに父が配信を始めた。
壁の向こう側で父が服を脱ぐ様子が、生配信で僕のスマートフォンにうつっていた。
ジャパニーズ変態漁師親父の変態露出ケツ拡張初配信。
タイトルを見た僕の眠気は完全に吹き飛んでいた。
僕の妄想が妄想のまま終わらないかもしれない。
そんな恐怖と興奮の混じった感情のまま、僕は配信に応援のコメントをつけた。