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広域はんい
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⑤縮小奴隷日記 11話 後編~新たな犠牲者~

「ゼェ……ハァ……」


 ――あれから人通りが少なくなったのを見計らい、一階の廊下を歩いていた。

 そうした事によって、また身の危険にさらされてしまうのだが……まあそれは仕方がない。

 むやみやたらと廊下を歩いている訳ではなく、これは、助かるためにしている行動だから。


 ドシィィィンッ!


「うわぁッ!」


 すぐ傍に、廊下を歩く女生徒の上履きが降って来た。

 そんな女生徒の地面を踏む風圧だけで、情けなくも尻もちをつく。


「あ、あぶねぇ……」 


 ドシィィン……ドシィン…………


 女生徒は、とてつもない足音を響かせながら遠ざかっていく。

 本当に怪獣のようである。


「もっと廊下の片隅、ギリギリを歩いて行かないと危ないな。 些細な事にも注意しないと」


 すぐに教室とは真逆である、窓側の廊下の端にまで移動する。


「よし、ここなら踏まれる心配はないだろう」


 そう一人呟き、時には危険がないか後ろを振り返ったりしながら、自分はまた廊下を進み始めた。


「ハハ……ハハハハ…………」  


 歩く最中――自分自身がどうしても滑稽に思えてしまい、笑ってしまった。

 今の自分と、この廊下を歩く下級生達と比べてしまったが故。


 この廊下を歩く下級生の全員が、綺麗な制服を着て廊下のど真ん中を堂々と歩いている。

 代わってコソコソと怯えながら、裸で廊下の端を歩く自分の姿。


 ……何というか、奴隷か何かになったような気がしてならない。

 強烈なほどの身分差がある、学生達の奴隷に……。


「でさ~何て言ったと思う?」

「え~ほんとにぃ~?」


 頭上でヒラヒラとなびくスカート。 天井を仰ぐだけで、女生徒が穿いている色とりどりのパンツが見えるので、尚の事そう思わされる。

 通常、見えないようにスカートで隠したその中身を、惜しみなく晒して歩く姿に。


 ――自分の存在なんて、まったく意に介さないその様子が、異性から同じ人種ではないと、行動で示されている気がしてならないのだ。


「まあ、そんな事を考えている場合じゃないか……。 今は、この廊下を進んで行かないと」


 ぶんぶんと頭を振って、また歩き始める。

 下級生の生徒達が闊歩する、危険な廊下を。


 全ては、職員室にいる先生に助けてもらう為に。


「急ごう!」


 少しペースを上げる。 この最悪な状況から抜け出すために。

 喉が渇き、へとへとになっても立ち止まらず、疲弊した体に鞭を打って。


 それでも気を張って、頑張って……頑張り続けてやっと、先生達がいる職員室の前に辿り着くことが出来た。



「ハァハァ。 つ、着いた……着いたぞぉッ!」


 運よく職員室のドアが開いていたため、中の様子が伺える。

 朝礼だろうか? 先生達全員が、それぞれ自分の椅子に座って、何やら話をしているようだ。


 また、ドアのすぐ近くにある椅子に座っている、キノちゃん先生の後ろ姿も確認できた。

 キノちゃん先生一人だけ、スマホで誰かと話をしているみたいだが……いいのだろうか?


「……まあきっと、何か大切な電話なんだろう。 それよりも――」


 さっそく職員室の中へと入る。

 普通、朝礼をしている最中、突然生徒が職員室の中に入って来たら叱られるだろう。

 だが、当然誰にも叱られる事はなく、すんなりと中に入る事ができた。

 惨めなほど、身体が人形のように小さいので。


「おーいッ! 先生~! せんせぇぇッ!」 


 職員室の床から、電話をしているキノちゃん先生に大声で呼びかけてみる。

 近くに座っている先生達にも同じように。

 だが、誰一人の耳にも届かなかった。



「……やっぱり駄目か」


 もうこの結果は、予想できていたから今さらだ。

 この職員室に来るまでに、どれだけ呼びかけても、誰にも気付かれなかったのだから。


 だからずっと考えていた。 足元に意識を向けてくれそうな方法を。

 キノちゃん先生が、俺を跨いで素通りして行ったあの時から。

 

「絶対大丈夫だ! 必ず成功する! よし、行こう」


 なのでさっそく机の下――椅子に座っているキノちゃん先生の足元に移動する。 考えていた方法を試すためだ。


 しかしどうだろう。 先生の足元、履いている靴を改めて間近くで見ると、やはり圧倒させられる。


「……で、でッか!」


 と、思わずそんな言葉を口からこぼしてしまうほど。


 これは靴。 キノちゃん先生が履いているただの靴である。 だが、乗り物のように大きい……。


「こ、これを、今から登るのか……」


 げんなりとしながら、恐る恐る登り始めていく。

 ――先生が履いている、右足の大きな靴に。



「はい、福田です。 あ、岩田さん……へ? 岩田君も昨日から帰ってこられていないのですか?」

「……え!? 俺の事?」


 先生の足の甲まで登った時、上から俺の名字を呼ぶ先生の声が聞こえた。


「はいそうなんです。 藤田君と大友君も、昨日から家に帰っていないと連絡がありまして、まさか岩田君もだったなんて……」


 どうやら先生が電話で話している相手は、俺の家族のようだった。


(多分母さんと話をしているんだな。 よかった、心配して連絡してくれてたんだ)


 家族が自分の事を心配してくれているのだと知って、元気が出た。

 そればかりか、何だか運が向いてきた――そんな気さえしてくる。


「よし! 後少しだから頑張らないと!」


 俺は気合を入れなおし、足の甲から更に登っていく。

 結局は、誰かに今の姿を気づいてもらわない限り、助かる事は出来ないからだ。


「ゼェ……ハァ……」


 荒い吐息を出しながら登り続け、先生の靴下にしがみ付く。

 それからも更に上へ上へと目指し、やっと目的の場所にまで辿り着く事が出来た。

 先生の脚の、脛(すね)である素肌の部分まで。


「ハァハァ。 つ、着いた。 後は実行するだけだ。 頼む、これで気づいてくれよッ! 先生――」


 そうして俺は、先生の素肌に爪を立て、力いっぱい脚の皮膚をつねりあげた。


「先生、俺はここだ! 気づいてくれ!」


 何故かと言うと、考えていた案はまさにこれだからだ。

 足元で叫んでも気付かれないのであれば、無視できない痛みを与えたらどうだ? と考えたから。


 その答えが皮膚をギュッ! とつねる事。

 痛みを与える事によって、これが最も先生が自分の足元に、意識を向けてくれそうな方法だと思い至ったため。


 ――しかし、


「な、ちょ! せんせぇぇッ!」


 グオァァァァッッ!

 キノちゃん先生は足元を見る事もせず、手だけを俺の方に下ろしてきた。


「ヒィィィィッ!」


 確かに脚の皮膚をつねった事によって、先生は反応を示してくれた。

 でもそれは、ごくわずかな “痒み” を与えただけだったようだ。

 なんせ実際に、


 ボリッ ボリッ ボリッ

 と、痒そうに脚を掻いているのだから……。


「ウワッ! ウワッ! ウワァァァッ!」


 代わって俺は先生の手に驚いて、思わず掴んでいた手を離してしまい、滑り台のように先生の脚を滑り落ちていた。 物凄いスピードで滑っているため、自分ではどうしようもない。


 あわやこのまま地面にまで落ちるかと――そう思っていた時、スポッ! と僅かな隙間がある “先生の靴” と、“足の甲” の間に挟まり、運よく床にまで落ちずに済んだ。


「た、助かった……?」


 自分の身が無事だった事に一先ず安堵する。

 この姿のまま怪我をしなくて本当に良かったと。


「だが、助かった事は良いのだが……」


 ポリポリと、脚を掻きむしっている先生の巨大な手を、呆然と見つめる。

 結局自分がした事は、“些細な痒み” を与えた程度。

 虫と同じ、いや、それ以下の……。


「く……くそう……」


 こんな結果になってしまったのは、疲弊しきって満足に力が出せなかったせいだろう。

 夜からずっと動きっぱなしだったため……。


「まあ、だからって、このまま諦める訳にはいかないよな」


 頭をフル回転させる。

 そしてすぐに新しい案を思い浮かべた。


「……そう、そうだ。 力が入らないのなら、次は思いっきり噛んでみたらどうか? 流石に皮膚を噛んだら気づくだろ」


 次に行動するプランが出来た。 

 幸い、痒みが消えたのか、先生の手は脚から離れている。

 後に残るは掻いた事によって出来た、少し赤らんだ先生の脚だけ。


「よし、行こう……って、あれ? 体が……抜けないッ!」


 再度気合を入れなおしてまた登ろうとした時、どういう訳か自分の脚が、先生の “足の甲” と “靴の間” に挟まっていて動けない事に気付いた。


「ちょ、え? まじかッ!」


 どれだけ足掻こうが、ピッチリと挟まれているため動けない。

 そんな時、追い打ちをかけるように先生が立ち上がったせいで、更に挟まれた脚に圧力が加わった。



「あの、教頭先生。 いえ、他の先生方も良いですか?」

「ん? 福田君、どうしたのかね?」

「はい、実は……私の生徒3名が昨日から家に帰っていないらしく」


 ザワザワと職員室内がざわめく。


「確か以前にも、福田君の生徒一人が行方不明になっていたな」

「はい、だからサボっているんだと無視出来なく、先生方にもご協力をお願いしたいんです。 それぞれ受け持った生徒達に、昨日3人の生徒を見なかったかを聞いてほしいんです。 どうかお願いします!」


 ペコリとお辞儀をするキノちゃん先生。

 ここまで俺達の事を心配してくれているなんて、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


「当然協力をしよう。 先生方も出来うる限りご協力を。 それともう警察には連絡をしているんだね?」

「今日の朝方に、生徒の親御さんの方から連絡はしたと聞いています」

「なら、校長先生にもお伝えして、三人の生徒の顔写真も用意しないといけないな。 警察の方々も学校へ来られるだろう。 ――とりあえず福田君も先生方も、通常授業の方をお願いします。 福田君は、用がある際は呼び出すと思うから、そのつもりにしておくように」


「「はいッ」」


 大きな返事の後、ぞろぞろと職員室を退室していく先生達。

 キノちゃん先生も、当然退室しようと歩き出した。

 俺を挟んだままの――その足で。

⑤縮小奴隷日記 11話 後編~新たな犠牲者~

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