SakeTami
茶

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幼なじみが俺で、俺が俺の妹で(34)『二度目のチャンスと、ちょっとしたペナルティ』

 ショックを受けて立ち尽くしてしまった俺の横で、光莉は機敏に動いていた。  救急車を呼び、冷静に報告し、ついでに待つ間にできる適切な処置も聞き出しているようだ。 「階段を転げ落ちたように見えます。気を失っていて、息はしています。……はい、安定しています。……はい、脈はあります」  電話を切ると、動かさないようにと俺に注意してから、タオルケットを持ってきて横たわったままの瑠璃に掛けた。体温を保つ必要があるらしい。  それらを済ませて一息ついた後、光莉は言う。 「瑠璃ちゃんのこと疑ってごめん。あたしたち、もっと早く帰っていればよかったかもしれないのに」 「そんな言い方しないで。早さも遅さも、瑠璃の容態には関係ない」  もっともな光莉の言い分を闇雲に否定した。自分の行動の遅さが瑠璃に悪影響を及ぼしてしまったかもなんて、どうしても考えたくなかった。  不安を募らせるサイレンの音が、次第に大きくなって近づいてきた。 *  救急車に同乗した。光莉は、親に連絡するからと家に残った。  救急隊員の人たちは手際よく瑠璃を救急車に載せた。最初は緊迫していた隊員さんたちだけど、出血してないし骨折もなさそうな瑠璃の様子に、少しばかり安堵の雰囲気がにじむのを感じた。こちらの願望かもしれないけれど。  病院で何もできずただ瑠璃の検査が終わるのを待っていると、光莉と『両親』がやって来た。 「瑠璃ちゃんも戻ってきたばかりなのにごめんなさいね。うちのバカ息子が心配かけちゃって」 「い、いえ……」  これまでの『瑠璃』の記憶、さっきまでの光莉の記憶、そんなものを駆使すると、いかにも『瑠璃』っぽく振る舞うことはできた。本当はわたしがそのバカ息子なんですよ。なんて面白がる余裕が、その時点であるわけもない。  でも、次第にいたたまれなくなってくる。  今の俺は『瑠璃』であって、『光彦』の幼なじみではあっても恋人ではなくて、この場ではまだ部外者に過ぎないことをひしひしと感じてしまう。  瑠璃の容態はものすごく気になるけれど、ここにいるのも何か違うとしか思えない。俺は『自分の家』へ帰ることにした。  瑠璃の家に帰る。家は暗くて、一人で、自分の荷物はまだ届いていなくて、瑠璃のことは心配で、こんな一日になるなんて思ってもいなかった。  親同士の付き合いで話が伝わったのか、『お母さん』から『光彦』を心配するメッセージが来ていた。どうにか返答する。  と、新たなメッセージ。返信にしては早いなと思って見てみると、光莉からだった。 『瑠璃ちゃんは、脳にも頭蓋骨にも異常なし。全身あちこちに打ち身はあるけど、怪我としてはその程度』  その連絡に、心の底から安心した。 「よかったぁ……」  思った以上に大きな声がこぼれ出る。そして後を追うように、涙がぽろぽろとこぼれ落ちていった。  瑠璃が、よくないことにならなくて本当によかった。  数分かけて気持ちを落ち着ける。画面を見ると、追加でメッセージがさらにいくつか来ていた。 『で、どうするの?』 『できる限りの手伝いはするよ?』  何を言ってるのかわからなくて訊き返すと、どこか呆れたような返答。 『元に戻るんじゃないの? 瑠璃ちゃん起こして、病院を脱走させて、タクシーでも使えば神社へ行けるよ』  光莉に問いを突き付けられて、考えた。  あまり悩まず答えを出した。  今の瑠璃に無理はさせたくない。自然に目が覚めて、事情を知って、何が何でも元に戻りたいと言うならともかく……そうでないならこのままでいい。  そう伝えると、光莉はさらに問いを重ねてくる。 『あんな推測してたあたしが言うのも何だけど、瑠璃ちゃんがどうしても戻りたいと思ってたなら、それ一生恨まれる判断だよ』 『頭を打って危険かもと考えるんなら、元に戻ってお兄ちゃんがその危険を引き受けるという選択肢もあるんじゃない? もちろん、今動くのが一番危ないという考え方はあるけれど』  光莉もただの混ぜっ返しで訊いてるわけじゃないのはよくわかる。 『一生、入れ替わったままでいいの?』  戻れるなら戻りたい。でも、今の瑠璃に無理させてまでじゃない。  だから、瑠璃が退院したら、改めて神社へ行きたい。  そう説明すると、光莉は納得してくれた。 『神様の怒りを買って、今度は動物に変えられるなんてことにならなければいいね。まあ、あの神様はそこまでひどくもなさそうだけど』 *  四月四日、瑠璃は退院した。  神社で待ち合わせたものの、どうにも気まずい雰囲気になった。 「ごめんなさい、みっくん……」  瑠璃はこの世の終わりのような顔をしている。頭に後遺症はないという話だし、転げ落ちたことによるダメージも回復はしているけど、もちろんポイントは肉体的なところにはない。 「なんであの日に限って階段を転げ落ちたりしちゃったんだろう……」  申し訳ないという感情だけを純度100%で表現したような、そんな顔つき。 「事故なんだからしかたないよ。こっちこそ、瑠璃を寝かせたままにしたのは勝手すぎた」  昨日までとは違う視点から違う角度で『光彦』を見る。これが『瑠璃』の身長で、『光彦』との位置関係なんだなと改めて思う。  もしかしたら、これから一生俺たちはこの位置関係で生きていくのかもと、ふと思った。  あの日俺が、瑠璃を起こさない選択をしたために。 「ううん。みっくんは何にも悪くない」  互いに相手は悪くないと言い合う。でもそれは、自分が悪いという自責の念も付きまとっていて。  今は、元に戻れないこと以上に、この罪悪感がつらかった。自分だけが抱えて済むならまだいいけれど、瑠璃も下手したら一生この気持ちを抱えてしまうのかもしれないと想像するのが何よりつらかった。 「行こうぜ」  俺は拝殿の方向を向いて瑠璃に言った。  これを解消できるかもしれない可能性は、あそこにしかない。あの神様が俺たちのミスを許してくれるかどうかにかかっている。  そもそも、あの声を聞ける空間へもう一度入れるかもわからないけれど。  俺は、瑠璃と並んで賽銭箱の前に立つ。  お賽銭を入れ、手を合わせ、一心に祈った。 *  ――三日ぶりです!  アニメ美少女の声がする特殊な空間に入る。入れた。  ここでは土下座もできないけれど、とにかく誠心誠意謝ることにしていた。  言われたことを守れなくてごめんなさい!!  神様にどれぐらい謝罪が通用するのかわからない。神話なんかだと神様というのはとにかく強い力を持っていて理不尽で、人間の願いや祈りなんてろくに考慮しない。でも、こちらにできることなんて他にない。  瑠璃も戻るつもりはあったんです。でも事故のせいでここまで来られなかった。どうか、瑠璃を元に戻してあげられませんか!?  戻りたいという以上に、瑠璃にあんなつらそうな顔をさせたくなかった。  ――少し心外ですね。わたくしは、人の願いを叶えることが大好きなんですよ?  茶目っ気のある言い方だけど、それはさっきの俺の思考を踏まえたもので。  ごめんなさいごめんなさい!!!  ――瑠璃さんからも深い深い謝罪の言葉をいただいています。理不尽な神なんて呼ばれるのは願い下げですので、ここは事情を酌んでお二人も元に戻すといたしましょう!  やった!! これ以上ない回答!!!  ――と言いたいところなのですが。  あれ?  ――わたくしは大した力のある神ではないもので。二年前はのべ百万人の参拝者の信仰や祈りを少しずつ貯めていましたし、今回も元に戻す場合に備えて二年前から下準備しておいたわけです。具体的には、四月一日限定で神通力を周辺の力ある神々から貸してもらうという段取りですね。  と、いうことは……。  ――なので、四月一日を過ぎた現在、わたくしに二人の入れ替わりを元に戻すほどの力はないのです。  そんな……。  ――ですが、そこは今回と同じようにやれば大丈夫!  え、ええと?  ――再来年の四月一日に神通力を貸してもらえるよう、またご近所にあいさつ回りをしておきます! 今度こそはちゃんと当日に来てくださいね?  神通力ってそんなしょう油借りるような感覚で借りられるのかなとは思いつつも、笑みを含んだ声で言われた俺は、もう一度土下座せんばかりの勢いで答えた。  ありがとうございます! 本当にありがとうございます!  もう二年、俺は『瑠璃』で瑠璃は『光彦』。でもそれくらい、構わない! 元に戻れる可能性は残ったんだから!  ――まあ、わたくしとしては、お二人の気持ちを尊重しますので。二年後に気持ちが変わっていても腹を立てたりはしませんよ。戻るも戻らないもお二人の自由です!  朗らかに言ったその声に、含み笑いが混じり込む。  ――ただ。この前も言いましたけど、お二人にはちょっともどかしさがあったんですよね。なので、今回の遅刻には少しペナルティを課しちゃいます!  え、な、何?  ――お二人が相手に知られないようにしていた、お互いへの気持ち。その記憶を解放しちゃいます!!  ま、待って! そんなことされたら……!  ――大丈夫大丈夫! 絶対悪いようにはなりませんから! では二年後に、まだ元に戻りたいならお会いしましょう!!

Comments

うーん、現光彦の射精係の役割は誰が? 男に染まる現光彦の向こう二年間がおだやかであります用に! 少女から女性へと変貌したシン瑠璃の変化も気がかりですね! 今後が楽しみです

じゃいあん

あらら?

丸井主将


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