カリスマモデル殺害事件を調査している女性警察官は、抗えない衝動に襲われた…
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~~以下はSSです~~
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作者:成崎直
この世界の女性は「肉畜」と呼ばれている。
肉畜は家畜から派生した言葉で、家畜として飼われている動物と同じようにこの世界の女性は死後、食肉や皮革、嗜好品などヒトの生活物資として加工される。
その肉畜を屠ること――つまり殺害することを『屠畜』という。
肉畜にとって屠畜は至上の快楽である。この世に生を受けた女性は皆屠畜による死――屠畜によって生じる快楽――を求めて人生を歩む。
肉畜を屠畜することは肉畜に快楽を与える行為とされており、屠畜する者にとっても、また肉畜自身においても屠畜する/されることに忌避感を持つものはほぼいない。
また、肉畜は家畜とは違ってあくまで人間、就学・就職などの権利を有する市民である。家畜のように飼い主から餌を与えられて飼育される存在ではなく、肉畜ではない人間(=男性)と同じように教育を受け、勤労に励んでいる。個人の差別意識や(例えば社長と平社員のような)職業上の階級などを除いて男女の間に身分差というものは存在しない。
なお、屠畜という概念があっても殺人は重大な犯罪となる。
『無理屠畜』――つまり、肉畜の同意を得ない屠畜、許可のない屠畜は殺人と見なされる。
屠畜は『屠畜者が肉畜を屠殺する』行為であるものの、その理念は『屠畜という快楽を求めた肉畜の夢を叶えてやる』行為。あくまで屠畜は肉畜ファースト、肉畜本人の意思によるものは例外として、他の者が強いるものではないのである。
* * *
夕方、日没前の強い日差しが窓から差し込む捜査一課のフロアで、池尻清美(いけじり・きよみ)は一人机に向かっていた。耳に引っ掛けるタイプのヘッドホンを着用し、黙ったままノートパソコンの画面を見つめている。他に人はおらず、部屋に流れるのは空調と時折パソコンが鳴らす冷却ファンの音だけ。
清美は警察官である。
この世界の警察は民営化されていて、公的機関ではない。罪を犯した人々の取締りや街の警備などを行うが、あくまでも私企業である。会社にもよるが、「警察会社」の職員は「警察官」、特に捜査部門に勤務する職員は「刑事」と呼ばれている。
ナチュラルなショートヘアにメガネが似合う彼女は街で芸能関係のスカウトを受けるくらいには美人である。支給された制服もしっかりと着こなす彼女だったが、その美貌を活かすような職業には就かず、あえて"お堅い"仕事を選んだ。
彼女が警察を選んだ理由は、死体を見ることができるからだ。
屠畜という概念が生まれてから、街を歩いているとたまに屠畜の風景に出くわすことがある。この世界にとって死は身近でありふれたもの。ただしそれはあくまで合法的な、幸せな死だ。屠畜以外の無残に殺されてしまった死体などはたとえ屠畜の概念があるこの世界でもそう見ることはできない。
肉畜が屠畜ではない死に方をするのは最も歓迎されない、肉畜としては最悪の最期で、極力避けるべきものであるが、フィクションの中ではよく見られるシチュエーションである。犯罪を扱った映画や推理小説などは普通に売られているし、そういった最悪の最期を迎えた架空の肉畜に自己投影する肉畜も少なくない。清美もまたその一人だった。
昔読んだ本の中で無残に殺された肉畜に自分の姿を重ねたことがある。自分の意志を蔑ろにされ、好き放題されるその肉畜にえらく感情移入してしまい、内に秘めていた被虐嗜好を強く刺激された。清美がはじめて及んだ自慰の"オカズ"もまさにそういったシチュエーションだった。以来、清美は無残に殺された、不幸せな死を求めることになる。
清美にとってこの部署、殺人や強盗などの凶悪な犯罪を扱う捜査一課はまさに天職といえる職場だった。
しかし、なにもうまい話ばかりではなかった。清美にとって誤算だったのは、思ったよりも屠畜ではない死というものが少なかったことだ。
この世界、特にこの地域は刑事事件など起こらず平和な日常が続いている。たまに通報があり、殺人事件と思しき死体が見つかったとしても、一見無理屠畜かと思いきや、捜査の結果、実は合意の上で行われた屠畜(つまり、そういうプレイ)であることも多く、肩透かしを食らうようなことも多々ある。
あるいは、そもそも清美の興味を惹かない男性被害者の場合もあった。
期待に胸膨らませて現場に出ても結局はただの合法的屠畜。いわゆるオオカミ少年のような状態に、通報があってもどうせまたただの屠畜だろう――と、清美の心はすっかり躍らなくなってしまっていた。
それでも"ちゃんとした"殺人が発生すると、現場に出て殺された死体を見たり、捜査資料に添付された死体写真を見た日は毎度のように帰宅後に自慰に耽っていたが、そんなことはめったに起こらない。
なかなか期待通りの案件に遭遇できない日々が続いていたが、清美はこの仕事を辞めようとは考えなかった。この仕事続けていればいつか、私を満足させてくれる死体を見ることができるだろう。そう自分に言い聞かせながら早5年、清美は今30歳になっている。
そして――今扱っている案件。
この事件の詳細を聞いたとき、渇いた心に潤いが戻ってきたような気がした。
久しぶりに清美の心を躍らせたその案件は『瀬里沢(せりざわ)エリー殺害事件』という名前をつけられていた。
被害者・瀬里沢エリーは、現役女子高生にして若者から強い支持を受けるファッションモデルだった。同じくモデルをしていた遠い地域出身の父を持ち、その血筋を受け継いだ抜群のスタイルで他のモデルの追随を許さない活躍を見せていた。
先日、彼女が高校卒業とともに雑誌専属モデルを卒業、さらには屠畜されることが発表された。この報せを受け、ファンからはもうエリーの姿を見ることができないのか――と惜しむ声も出ていたものの、やはり肉畜にとって屠畜は名誉なことだから、と笑って送り出されるはずだった。
しかし、屠畜の日を目前にして――エリーは狂信的なファンに殺害されてしまった。
エリーは仕事で滞在していたホテルの一室で死体となって発見された。犯人の男はまもなく逮捕され、素直に罪を認めた。
取り調べでは「僕がエリーちゃんを屠畜した!」「僕は選ばれた人間なんだ!」などとよくわからない供述も目立ったが、自分の罪は自覚しているし、質問の受け答えもある程度まともに行っている。このまま裁判まで持っていけるだろうと思われていたが、一つだけ無視できない発言があった。
「エリーちゃん、僕に屠畜されて本当に喜んでたよ。最初は嫌がってたけど、だんだん『もっとやって!』とか言い出してさ」
逮捕された男はそう笑いながら言った。
肉畜の同意なく屠畜したのであれば殺人だが、もし被害者が男の言う通り「もっとやって」などと懇願したのであれば、これは殺人ではなく合意の上で行われた屠畜と見なされる可能性がある。そうなれば、事件の様相は大きく変わる。 警察は男の発言の真偽を確かめるべく、追加の捜査を開始したのだが、その過程でもう一人の狂信的なファンの存在が明らかになった。一人の男がカメラを持って会社にやってきたのである。そのカメラは電源タップを模した形をしており、明らかに盗撮目的のために作られたものだった。
カメラを持参した男は、エリーの屠畜に不満を持っていた。
エリーがジュニアアイドルとしてデビューした頃からエリーのファンであり、成長してモデルに転向した後も熱心に追いかけていたが、ある日突然そこにエリーが屠畜されるという報せが届いた。
子供のころからエリーを見ていた男は、大人になり、一人前の美しい女性になった姿も見守りたいと思っていた。肉畜であるエリーにとって屠畜は祝福されるべきイベントだったが、この男にとってはそうではなかった。
だからといって、この男に屠畜を止める力はない。せめてもの抵抗として、エリーの部屋にカメラを仕掛けた。もしスキャンダラスなものが映っていたら、それを使ってエリーを貶めてやろうと思っていたが、実際に映ったのはエリーが惨たらしい最期を迎える瞬間だった。
カメラの中にはエリーが殺される様子、そしてその後犯される様子が映っていた。鑑識の調べにより、映像に合成の様子はなく、この映像は本物であることが確認された。
捜査一課の刑事たちも確認してほしいと鑑識から映像が届いたわけだが、あいにく刑事たちは皆出払っており、唯一残っていた清美が映像を確認することになった。
* * *
今、清美が見ているのはまさにその映像である。
再生が始まった映像には、ホテルの一室が映っていた。音は収録されておらず、粗い画質の動画のみが記録されている。
清美は手元にある捜査資料に添付されている現場写真を確認した。写真には映像の中の部屋と同じ内装が映っている。この映像は間違いなくエリーの部屋を撮ったものだ。
再生当初は人は誰も映っていなかったが、20秒ほど経つと、画面右側からエリーが入ってきた。
前髪ぱっつんのサラサラとしたロングヘアに鈍色の瞳。薄紫のパーカーに黒のデニムを履いている。足元は素足にホテルのスリッパを履いていて、手には冷蔵庫から持ってきたのだろうペットボトルを持っている。ラベルから見ておそらくミネラルウォーターだ。
清美は再び捜査資料に目をやった。被害者のデータとしてエリーの生前の写真が貼られている。校門の前で撮られた一枚。映像と同じ髪型の少女が微笑んでいる。グリーンのブレザーにグレーのスカート。生徒から建設現場と揶揄されている、黒と黄色のチェック柄ネクタイ。この独特のカラーリングの制服はエリーが通うトウサク学院高等学校の制服である。
服装は違えど、映像の中の少女は間違いなくエリー本人だ。
映像の中のエリーは、手に持ったミネラルウォーターの水を飲みながら画面左側へとフレームアウトした。それからややあって、さきほどエリーが持っていたはずのミネラルウォーターのペットボトルが画面左側から飛んでくる。封がされておらず、中身の水をぶち曲げながら床に落下した。
エリーが、後退りするかのように左側から画面に入ってきた。
エリーの前からは黒いマスクに黒いマフラー、その他全て黒い色の出で立ちをした男が近づいてくる。
清美は逮捕された男の情報を確認した。映像の中の男の服装は、逮捕されたときの男の服装と一致しており、背格好も非常によく似ている。映像の中の黒い男は逮捕された男と同一人物と見るのが妥当だろう。
黒い男はエリーに掴みかかると、その体を床に押し倒した。映像の中でエリーは、怯えた表情で男の体を振り払おうと必死に体を動かしている。
やがて、男の脇腹を足で蹴り、なんとか男の体を引き剥がした。エリーが男から逃げようとこちら――カメラ側に駆けてくる。一方黒い男は付けていたマフラーを首から解き、背後からエリーの首に引っ掛けて引き寄せる。
勢いよく男のほうに引っ張られ、エリーの体がカメラから遠ざかっていく。
男はマフラーに力を込め、一気に絞め上げた。首を絞められたエリーは眉間に皺を寄せ、目を剥いた苦しそうな表情でなんとかマフラーを振り解こうと首元に手を持っていくが、まったく歯が立たない。
こちら側に足を放り出し、バタバタと動かしているエリーの顔色はみるみるうちに紅潮していった。
男は残酷にもマフラーにさらなる力を込めていく。エリーは左手の指をマフラーと首の間に挟んで呼吸を緩和しようと試みながら、まるで助けを求めるかのように右手をこちらに伸ばした。こちらの存在、カメラの存在など知らないはずにも関わらず。
しばらく絞められた後、エリーの体が突然びくんと弾かれるように大きく痙攣した。
映像の中の男もこれに驚いたようで、一瞬首を絞める力が弱まったように見える。
その一瞬――エリーの口が動いた。何かを話しているような口の動き――男のほうを見ながら、何かを語りかけようとしているように見えた。
清美は映像を戻し、エリーの口元を凝視した。何度も何度も再生しては戻してを繰り返す。
「も」「と」「し」「め」「て」――。
「お」「か」「し」「て」――。
清美が唇を読んだところ、映像の中のエリーは『もっと絞めて』『犯して』と言っているように見えた。声が入っていないので100%正確とは言えないが、この通りなのであれば確かに逮捕された男が言っていた通り、エリーが自らの殺害を願ったことになる。
映像の中の男は、その気持ちに応えるかのように、再び力強くエリーの首を絞め上げた。
エリーは目を見開き、足の指先までピンと全身に力を込めた。左手を股間を、右手で乳房を掴もうとするような動きを見せるが、ピクンとまた弾かれたように体を震わすと、今度はその体がぷるぷると小刻みに震えだした。口から舌を突き出し、遅れて口の端から涎を垂れ流す。
やがて――エリーの体から一気に力が抜けていった。
エリーは男の体に背中をあずけ、床に座るような体勢になっている。こちらに足を向け、両足を少し開いていた。
映像の中の男は大きく深呼吸をしていた。しばらくして呼吸が整うと、エリーの頬をつねるなどして彼女の生死を確認した。
エリーはまったく動く素振りを見せず、既に死んでいるようだった。
男は不意に立ち上がると、エリーが履いていたデニムを脱がせた。白ベースの、シンプルなデザインの下着が顕になった。続いてそれも脱がせる。エリーの若き秘部が丸出しになった。
今度は自らのズボンと下着を脱ぎ、男は下半身裸の状態になる。
男はそのままエリーの死体に挿入し、正常位の体位で腰を振り始めた。
映像には腰を振り乱す男の背中と、されるがままに揺れるエリーの足裏が映っている。
それから数えること5回、男が絶頂と死姦を繰り返したのち、カメラが電池切れを起こして映像は途切れた――。
* * *
「……」
清美は映像を食い入るように見つめていた。
心を鷲掴みにされたような気分だった。心臓が、脳が「もっと見たい」と叫んでいた。
ふと、無意識の内に制服越しに胸と股間を擦っていたことに気がついた。清美はエリーの死に様に性的興奮を覚えていた。しかも――股間を見ると、薄くではあるが染みができている。服の外からわかるくらい愛液を漏らしてしまっていた。
「はあ、はあ――」
荒い息を吐きながら、清美は捜査資料に目をやった。
エリーの死体を撮った写真。写真の中のエリーは概ね映像の中と同じ姿だった。
部屋の床の上に仰向けで倒れている。首にはマフラーで絞められた痕が残っていて、目を開けたまま口から舌と涎を垂らしている。その死に顔はどことなく口角が上がり、微笑んでいるように見えた。服装は同じく薄紫のパーカーを着ていたが、映像の中では男に死姦されていたのに、きっちりと黒のデニムを履いていた。これについては男が取調べで語っている。
「僕以外の人に、エリーちゃんの大事なところを見られたくなかった……!」
だから、あの映像の後――死姦を終えた後、わざわざ下着とデニムを履かせ直したのだという。もっとも、殺人の一部始終は盗撮されていたため、男の目論見は外れてしまっているのだが。
足は素足で、足の裏をこちらに向けている。足元には死ぬ直前にエリーが手にしていたミネラルウォーターのボトルが転がっているが、エリーの股間から広がる染みはこぼした水よりもずっと大きく広がっていた。おそらく、映像の後、時間が経ってからエリーが失禁したのだろう。デニムの股間にもわかりづらいが染みのようなものができている。
清美はエリーの気持ちを想像した。
屠畜を目前に、どこの誰かもわからぬ男に殺された上、同じく誰かもわからぬ男に最期の姿を盗み撮られている。しかも、その男たちに性器を見られた上、死姦までされた。さらには男の奇妙なこだわりによりされるがままに着替えさせられた。その後やって来た警察には捜査という名目で再び死体の写真を撮られ、たくさんの見知らぬ捜査員に捜査資料として配られる。解剖もされているから、まったく知らない解剖医に自分の意思とは関係なく裸体を晒されている。
エリーにとっては不本意で屈辱的な扱われ方だろう。でも、もしこれが自分だったら――。そう考えると、清美は心が高鳴るのを感じた。
そしてエリーが言った最期の言葉――『もっと絞めて』『犯して』、肉畜としての本能丸出しのこの言葉。無理やり首を絞められているはずなのに、それを求める言葉を吐く意味。同じ肉畜だからこそわかるそれは、きっと肉畜にしかわからない気持ちなのだろう。
「シたい――」
心の中の声が、実際に口をついて出た。清美は慌てて掌で口を押さえるも、もはやこの想いは抑えられない。
(う――シ、シたい)
体の奥底、芯から噴き上がる衝動に、体がぷるぷると震えだす。
清美は勢いよく椅子から立ち上がると、一目散に廊下へと駆け出した。
* * *
捜査一課のフロアを飛び出した清美の行き先はトイレだった。
青を基調としたタイルが壁に貼られ、小便器が立ち並ぶ薄暗い場所――ここは男子トイレだ。
清美は自分が男子トイレと女子トイレを間違えたことに後から気づいたが、もはやそんなことは些細な問題だった。
個室に入り、鍵をかける。
上着をドアフックにかけた後、便座に座るとハンカチを口に詰め、さらに靴下を脱ぎ始めた。そして脱いだ靴下をハンカチと一緒に口に含む。
シャツのボタンを外し、乳房を顕にする。ズボンと下着をずらし、手で秘部を刺激し始めた。
「……んっ」
乳房を揉み、掌で硬くなった乳首を刺激した。胸の先から、電流が走るような快楽が体を貫いていく。
今まで、殺害された死体を見た日は家で自慰に励むこともあったが、職場でするのは始めてのことだった。職場では社会人としてそういうことはやらないようにしよう――と自分なりに線を引いたつもりだったが、さきほどエリーの死に様を見てからというもの、性衝動を抑えることができずにいる。久しぶりに"素晴らしいオカズ"を見つけたからなのか、今まで飢えていた性衝動が一気に噴出したのか自分でもわかっていなかったが、とにかくシたくてシたくて仕方がなかった。ハンカチと靴下を口に入れたのは、万一喘ぎ声が漏れても他人に自分のしていることがバレないようにするための対策だった。
さきほど見た映像や写真を、清美はもう一度思い出す。
近々行われる屠畜を楽しみにしながらホテルでくつろぐエリー。その後、不審者に殺されそうになるエリー。首を絞めながら、苦痛が快楽に変わっていくエリー。事切れた後、抵抗する術もなく犯されるエリー。警察に鑑識写真を撮られ、何十年も事件の記録として保存されるエリー。冷たい解剖台に載せられ、見ず知らずの解剖医によって体にメスを入れられるエリー――。
もし、それが自分だったら――そんな妄想を膨らませるたび、胸や秘部を擦る勢いが増していく。
「ん、んん――!」
布でふさがった口から声が漏れる。警察官という他の職業よりも倫理性が求められる職にありながら、薄暗い異性のトイレでハンカチや靴下を含む恥ずかしい姿になりながらも、自慰をしたくて仕方がない。そんな自分の哀れな姿もまた、清美を興奮させた。
ぐちょぐちょといやらしい音を立てて愛液が分泌されていくのを感じる。清美は下着越しに、今度は指でアナルを刺激した。
ここまで激しい自慰に耽けるのは、いったいいつぶりだろうか。
激しく、何度も何度も秘部や乳首を刺激する。舌で唇を舐めるだけで体に性が走った。
(だ、誰か――首締めて……!)
(あの、あの娘のように……!)
(殺して!誰か今すぐ私を屠畜して――!)
指で陰核を擦りながら、清美は頭の中で叫び続ける。
そしてついに――清美は果てた。
「――んっ……」
肩に誰かが乗っているかのような疲労感が伸し掛かってきたが、どこか心地よかった。
「はあ、はあ……っ」
口からハンカチと靴下を取り出し、乱れた息を整える。
ここ数年で最高の自慰だった気がした。
ぼんやりとドアフックにかけた上着が目に入ったとき、以前見た死体を思い出した。
あれは確か自主屠畜の疑いがある死体が見つかったとき。ふたなりの少女がトイレで首を吊った状態で発見されたときだ。ちょうどこんな感じの殺風景な男子トイレで、ドアの上枠にロープを引っ掛けて首を吊っていたんだった。
あのトイレの個室中に飛び散る、濃厚な白濁した液体。むせかえるふたなり精液の匂いは、その少女は極上の快感を感じながら絶命したことを示していた。
清美はおもむろにネクタイを外した。
(ここで首を吊ったら、すごく気持ちいいかも――)
もはや性衝動に狂った獣と化したこの女は、自らの被虐欲求を満たすことしか考えられなくなっていた。
清美はドアを開くと、ドアの上枠にネクタイをかけ、輪っかを作った。
そして、その輪っかに恍惚の表情を浮かべながら首を通した――。
* * *
その頃、捜査一課のフロアでは外に出払っていた刑事たちが戻ってきていた。
待っているはずの清美がいない上、いつまで経っても姿を現さない。さすがに様子がおかしいと思った刑事たちは、社内を探し回った。
清美はあっけなく発見された。
偶然男子トイレの前を通りかかった若手刑事がドスンという大きな物音を聞いて様子を見に行ったところ、中で清美が倒れているのが見つけたのだった。
清美の姿を一言で言うなら、『淫らな死体』だった。
男子トイレの床に仰向けになって倒れていた。制服のシャツはボタンが外され、乳房が丸出しになっている。ズボンや下着はずり下がった状態で、こちらもまた秘部が丸出しになっていた。足は素足で、唾液のついたハンカチや靴下、脱いだ靴などが体の近くに転がっている。ちょうど職員が来たタイミングで清美はちょろちょろという音を立てて失禁し、ズボンに染みを作り、足先を濡らし、床に水溜りを作っていた。
首には輪のようになったネクタイが巻き付いていたが、ちぎれてしまっていた。その下にはネクタイの痕がくっきりと残っている。顔は赤紫色に鬱血し、口からは泡を吹き出して頬を汚している。そしてなにより目を引くのがその表情だ。
目を開けたまま舌を出しているが、苦痛というよりはいわゆるアヘ顔の状態で絶命していた。
死の快楽に溺れた肉畜は、自らその命を断った。はからずも、その死体の様子は快楽に火をつけたエリーと少し似ていた。
自殺(肉畜の場合は自主屠畜という)とはいえ、状況のわからぬ死体――それも自社の社員の死体が見つかったということで、念入りな現場検証が行われた。
何らかの原因で死を選ぶことになった清美がトイレで首を吊った。ドアの上枠にネクタイで輪っかをつくって首を吊ったが、体重を支えきれずにネクタイがちぎれてしまった。清美を見つけた若手刑事が聞いた物音はおそらく死体が落下したときの音だろう。便座や床についていた体液や、乱れた衣服から察するに、死の直前清美は自慰行為をしていたと思われる――と、検証結果はほぼ正解を言い当てた内容だった。
しかし――その死の原因については、清美が直前に見ていた『瀬里沢エリー殺害事件』の証拠映像にあるものと推察されるが、具体的なことは何もわからなかった。
それから半年が経過したある日、清美を見つけた若手刑事が、昼休みに食堂で解剖医と昼食をともにした。その時に、清美の死について意見を求めたのだが、若手刑事に対して解剖医が意味深な一言を口にした。
「池尻は瀬里沢エリーに"共鳴"したのかもしれんなあ」
「共鳴?」若手刑事が聞き返した。
「以前とある屠畜現場に行った時、横で屠畜を眺めていた肉畜が突如サカってその場でオナニーを始めたことがある。そしてある程度イッたかと思うと、一目散に窓に向かって走り出し、そのまま飛び降りた。2階だったからそこまで高くなかったが、打ちどころが悪くて死んでしまった。満足そうな顔をしていた――衝動的に自主屠畜したようなもんだな」
解剖医はカレーを頬張る。「どうやら肉畜によっては、目の前で行われた屠畜に感化され、その場で屠畜されたくなる衝動に襲われる者がいるらしい。まあ、スケールの小さい例えになるが、例えば――」
解剖医は掌を見せ、片方の手で小指の第二関節を指差した。
「ここに"命門"というツボがある。押すと集中力が高まるとされているツボだ。これと同じで、目の前で屠畜を目撃した肉畜は、何らかの要因でその屠畜欲求が高まるツボが刺激されているとすれば――ありえない話でもないだろう。私はこの屠畜の連鎖を勝手に"共鳴"と呼んでいる」
解剖医の見解に興味を抱いた若手刑事は、映像の中で瀬里沢エリーが殺される寸前に『もっと絞めて』『犯して』と自ら殺害を願うような一言を口にしたことについて話をした。肉畜にとって、屠畜以外の死に方は嫌がるはずにも関わらず、なぜそんなことを言ったのか。未だにその謎が解けずにいたのである。
「肉畜というのは生物としては男と変わらない。あくまで『肉畜は屠畜される運命にある』というシステムがあるからその屠畜を受け入れている。だから、仮に肉畜なんてものが存在しない世界があるとするならば、我々男と同じように殺されることに快楽なんて感じないはずなのだ――ところが」
解剖医はコップの水を一口飲んだ。
「ところが――DNA的には男も肉畜も変わらないはずなのに、肉体が死を快楽だと感じるようにプログラムされてるんじゃないかという反応を見せる時がある。私の仲間が独自に調べた結果、肉畜が屠畜のときに感じる快楽というのは、最高の条件で行った性行為と同じかそれ以上らしい。ところで君――乳首は感じるタイプかね?」
解剖医は突拍子もないことをさらりと口にした。若手刑事は面食らっていたが、「いいえ」と否定した。
「例えば男性が乳首を感じるようにしたいとき――いわゆる開発だが、ペニスを擦りながら同時に乳首を擦る。それを繰り返すことで、ペニスを擦ることで得られた快感が、乳首を擦ることで得られていると脳が認識して、やがて乳首が感じるようになる。それが瀬里沢エリーの死の間際にも起こったのではないか――と私は思うね」
「では、殺害の苦痛を屠畜に伴う苦痛と脳ミソが認識したと?」
「結局、やっていることは同じだからな。そこに至るまでのシチュエーションが違うだけで。何らかの要因で、瀬里沢エリーは死の間際、殺されるときの苦痛を屠畜されるときの苦痛と誤認し、今自分は屠畜されているかのように思って感じてしまった。そういうこともないとはいえないな。あるいは――」
解剖医は再びカレーを頬張った。
「これまた私の仲間の話で恐縮だが、肉畜の生命活動が終わる時、快感物質が分泌されているなんて話も出ている。これは男が死ぬ時には起こらない現象だ。さっき言った、肉畜が死を快楽だと感じるようにプログラムされているのではないか?と考えるのはこういう話があるからだ。生命活動が終わるというのは屠畜によるものでも殺害によるものでも同じことだ。瀬里沢エリーは屠畜ではなかったが生命活動が終わろうとしていたことには間違いない。だからその時――快感物質が分泌され、より多くの快楽を求めて『もっと絞めて』と言った……そういう説もなくはない」
「でも、そうなると肉畜って屠畜じゃなくても感じることになっちゃいますね」
「ま、これはちゃんとした研究じゃないんでね。あくまで説。説なんてものは山のようにあるからね。要するにハッキリとしたことは私にもわからんということだ」
結局、解剖医にもどうしてエリーが自ら死を望んだのかはわからず仕舞いだった。
ただ、後日、女性警官たちが給湯室で清美の一件に絡めてこんなことを話していた。
「ね、もし屠畜じゃなくて殺されるとしたらどうする?」
「え、ヤダ――思い通りに死ねないってことでしょ?」
「じゃ、例えば屠畜されたいシチュエーションと同じようなシチュで殺されるとしたら? でも屠畜じゃなくて、全然心の準備もしてない時にやられちゃう」
「ええ、心の準備もしてないとき? うーん……。でも、本当にこういう屠畜されたいって思ったシチュだったら――ちょっとムラムラするかもしれないな……」
ちなみに、清美の死体は現在会社の預かりになっていて、制服のサンプルを着せたマネキンとして使用されている。
なお――清美が見つかったとき、現場検証があらかた終わり、死体が現場から運び出される直前。一人の刑事の言葉で清美は再び淫らな姿を晒すことになった。
「こいつ、仕事ほっぽりだしてオナニーですか。俺たちは靴すり減らして外歩きまわってたのに……」
「池尻先輩、意外とエロい体してるんスね。毎日見てるのに気づかなかった」
「ちょっとだけ、疲れ癒やしてもらいましょうよ、ね?」
清美の肉体は、その日一日の捜査で疲弊した男たちを癒やすために使われた。他の部署の刑事も合わせて総勢15人の男に輪姦され、最後は全身精液まみれになっていたという。
生前に自慰を繰り返していたせいか、清美の肉体と交わった男たちからの評価はすこぶる良く、『名器』などと絶賛されている。このときの様子は今でもたまに捜査一課の男衆の間で話題になり、中には当時撮った清美の死体写真を未だに持ち歩いているものもいた。今もなお、清美の恥ずかしい姿は刑事たちの間で共有されている。
* * *
『瀬里沢エリー殺害事件』は、結果的にエリーが同意したような素振りを見せたとしても、意識が混濁した状態で放った言葉であって、いわゆるシラフの言葉ではないと判断され、犯人の男は罪に問われた。
ちなみにエリーの死体は事件の後引き取られ、最期の写真集に載せる写真を撮るのに使われた。エリーが辿った悲劇的な末路もあってか、売上は上々だという。
これにてようやく、『瀬里沢エリー殺害事件』は終わりを迎えた。
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tao2
2021-05-08 00:25:18 +0000 UTC