SakeTami
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狩られる世界

人間(小人)視点だと全貌がわかる前に死んじゃうやつ。

その巨人たちは、決して突然現れたわけではなく、

従って、こうなることをまったく予期していなかったわけでもない。


当たり前になりすぎて今では報道に乗ることも珍しくなった。

そう言えば、地上波は以前と同じように放映されているが、

以前の水準と比べると出演者の平均年齢が随分と上がった気がする。

人が、もっと言えば若者が、減っているのだろう。


避難所情報の紹介もあるが、あれは罠だというのがネットの見解だ。

そのネットの世界も日増しに密度が薄くなっていくような気がする。

更新停止されたサイトやアカウントは体感で3割を超えたのではないか。


それにしても、だ。

宅配ボックスの受取りを監視されていたのだろうか。

以前の業者が使えなくなって、レビューを慎重に精査して選定

したつもりだったが、粗悪な業者に当たったのかもしれない。


「ここ?あー、ここだな」


そんな巨人の声が聞こえることは、特にここ最近はよくあった。

決まってそのあと何かが壊れる音がして、更にしばらくすると

シンと辺りが静まり返る。


巨人のたてる物音や振動は生活に溶け込んで気に留めなくなったから

接近されていることにも気づかなかった。あれを気にしていたら

とても正気ではやっていけないんだから仕方がない。


いや、声が近いな、とは思ったんだ。


ガラスが割れる音。

閉まったカーテンを窓ごと突き破ってくる大きな手。

柔らかそうなシリコン製のイボイボがついたラテックスの手袋を

装着していてなお、その有機的な動きには怖気を感じる。


指が左右に揺れて、明らかに目的をもって何かを探そうとする動きだ。

テーブルに指がかかる。軽く握っては開き、を何度か繰り返す。

その後また握り込むと、今度はミシミシと嫌な音がする。


バキッとまずは一本、脚が折れた。その後は速かった。

天板が割れ、全ての脚がなくなったテーブルの残骸を床にぐりぐりと

押し付ける。これではフローリングもぼろぼろになっているだろう。


家具の影に隠れるのは逆に危険だと判断。ひとまず部屋の隅に身を寄せて、

手が届かないことを祈るしかない。


壁や床をペタペタと這い回る指に少しでも触れたら終わりだ。

幸いにも指は乱雑にあちこちを探っているだけだったので

結果的に部屋の隅はほぼ安全地帯となっていた。


「あっれえ?居ないな……」


夜の空に不気味に響く声。


ずるりと引き抜かれた前腕が引き抜かれると、

窓枠ごとカーテンが引きちぎれてしまう。

その向こうからこちらを見つめる有り得ないサイズの双眸が、

室内照明を反射してきらりと光る。


目が合ってしまった。


「居るじゃん!」


次の瞬間には巨大な手袋の壁が目の前を覆いつくしていた。


指先でほじるように部屋のコーナーから引っ張り出され

そのまま掌の中に。手袋についた柔らかい素材のイボはすべて押しつぶされ、

信じられないほどの圧力が360度全方向からかけられ、呻き声すら出せない。


「明かり漏れてたから居ると思ったんだよ~」


手袋をつけていない掌の上に落される。表面から発せられる熱と手汗の影響か、

屋外に居るのにサウナみたいな心地がするが、締め付けから解放されたことが大きい。


片手が塞がっているので、手袋を歯で押さえて引き抜く。

そのまま口を開けると、手袋は1秒以上かけて地面へと落ちていった。

着地の際に金属音がしたので、落下した先に車でもあったのかもしれない。


ごそごそとポケットをまさぐって取り出したものは巨人サイズのスマートフォン。

ただの人間では携帯どころか持ち上げることすら困難だろう。


こちらの背丈ほどもある筐体の上部に着いている、

顔くらい大きさのあるこれまた巨大なレンズがこちらに向くと

すぐさまシャッター音が鳴り響いた。


「どれどれ……」


スマホを操作しながら出てきた情報を読んでいる巨人。

背面しか見えないから何が書かれているのかわからないが、

画面を覗く表情が徐々に曇っていくのがわかる。


「チッ、次行くか」


そう不機嫌そうに言うガラの悪そうな巨人。

既にこちらにはまったく興味をなくした様子で、

かといって解放してくれるでもなく、チャック付きのポケットに

乱雑に放り込まれてしまった。


何も見えない状態で暑く狭苦しいポケットの中。揺れも相当酷い。

脱出しようにも手探りでチャックの金具を探して、それを自力で開ける

なんてことが出来るかどうか。


チャックそのものはひんやりした感覚でわかったものの、

持ち手の部分は当然ポケットの外だから、根本の部分だけを

押し下げる必要がある。


揺れに耐えながらも金具と格闘しているが一向に動く気配がない。

何度も試してむきになる余り、周りへ注意が疎かになっていた。


「ごそごそ動いてんじゃねえよ」


そう言って布越しに揉みくちゃにされる。

空間ごとシェイクされたせいで上下すらわからなくなり、

またそのまま握りつぶされるのではないかという恐怖に

反射的に叫び声をあげると、それに反応するかのように

けらけらと笑う野太い声が響いてくる。


「ちゃんと怪我しないように加減してんだろうが。

あ、小便とか我慢しろよ。中でしたら殺す」


尿意があっても引っ込みそうな発言ではあったが、正直

これだけ広大な布地なら一人分くらいは気にならないのでは

ないかと思う。


ポケットの中で大人しく待っている間に、3件の襲撃があった。

「アタリ」が1つ出たらしい。基準はわからないが

残り2件のうち一人が自分と同じポケットに詰め込まれた。


「ひっ」

「あ、すいません。私もさっき捕まりました」

「これからどうなるんでしょう」

「さあ……」


ハズレのうちもう一人は「リリース」されたらしい。

巨人の口ぶりからの判断だが、何が基準なのかわからない。


「高齢者は狩られないって噂ほんとなんですかね」

「じゃあ、さっきのも?」

「そうかも」


ご近所付き合いがあれば、そういうこともすぐわかったのだろうか。


巨人が表れてからというもの、不用意な外出は出来なくなった。

住宅街も、退去した形跡のない空き家ばかりになっていて

今日まさに自宅がそうなったように、ぽっかり穴の開いた家も

ちらほらと見かけるらしい。肉眼で直接見たわけではないが。


というのも、動画配信しながら街を散策する配信者が

少し前までは結構居たりしたのだ。

反面、同じテーマの動画投稿は当時から極端に少なかった。


配信者が捕まった際、すぐに機材が破壊されているようだから

映像記録が残らない。つまりはそういうことなのだろう。

撮ったその場で配信するなら配信が生きていれば視聴者に届くが

撮影しただけの状態では誰の目に触れることもない。


宅配サービスのマッチ率がそこまで酷くなっていないのは

もしかすると、運ぶ人が減ったぶん、利用者の方も減っている

ということなのかもしれない。


「僕らはなんかの基準を満たさなかったようですが」

「じゃあその場で捨て置いてくれたら良いのに」

「ほんとですよ!」

「あ、大きい声出さないで!気づかれたらまずい」

「あっ、すみません」


また握り込まれて、この同乗者と抱き合う形になるのは

あまり望ましくない。とは言え……


あれだけ生身で人と関わらない生活を好んできたというのに、

この状況では隣に人が居るというだけで幾分安心するのか。


「あ゛ー、だりぃな」


弛緩した空気を切り裂くように巨人が呟く。


「こっち、先済ませとくかあ」


ガリガリと、ファスナーの開く音と共に、大きな指が侵入してくる。

抵抗はきっとしない方がいい。


巨人の指は凶器だ。指先だけでもこちらの太腿より太い上に、

その先には腕が、肩が繋がっているのである。

実際、テーブルを簡単に破壊してしまうのを見た。


入り口近くに居たはずの同乗者はいつの間にか自分より奥に居て、

巨人の指が先に絡みついたのはこちらの胴体だった。


闇夜で逆光になっているから表情はよくわからないが、

じっと無言でこちらを見ているようだ。

くるくるとこちらの体を指で回転させながら、様々な方向から

こちらの身体を検分していく。


一通り見終われば、ペタペタとこちらの身体を触れていく。

ただ触れているだけなのに軽く殴られているような衝撃が加わる。


「ん~ん~♪」


鼻歌を歌いながら。無遠慮に身体全体を撫でまわしてくる。

股間をまさぐられたときに反射的に股を閉じてしまったが、

指一本でこともなげに開かれてしまう。


更に、服のたるんだ部分を持ち上げてはぎゅっと強く摘まむ。

破れこそしなかったが、摘ままれた部分は強い皺になっている。


「まあ、こんなもんかな」


そう言って、地面に降ろされた。背後にわらわらと人の気配がある。

数分するとポケットに居たもう一人も降りてきたようだ。

もう巨人の姿は見えない。足音が遠ざかっていくのが聞こえる。


「あっちに居るのも捕まった人……?」

「たぶんそう。行きますか?」

「向こうから声を掛けてくるのを待った方が良いのでは」


結局その晩はお互いに動くことなく、地面に寝転がって

夜を明かした。翌朝、自分たちの置かれている状況を目にして

驚愕することになる。


四方が崖になっていて、土が剝き出しの地面には草一本生えていない。

その崖も、不自然に直線的で、まるで地面を掘って作った穴のような

……いや、実際そのようにして作られた穴なのだろう。


まず先住の方々と挨拶を交わした。そこそこの数が居るのだが、

全員、ここ1~2日で連れてこられた人たちらしい。


「巨人の言葉を信じるなら、ここに居るのは一週間だけ」

「その後は?」

「わからない」


巨人が何のために人を捕まえているのか。捕まえた人がどうなるのか。

噂は数々出回っていたが、実のところはよくわかっていないのだ。


「食事は配給されるし、トイレはあそこ」


指さした先。隅の方に、今いるよりさらに一段深い穴があった。


「くれぐれも落ちないように気を付けて」


一旦落ちたら上から引き揚げることすらできないだろうから。


そんなことを聞いていたら、地面が揺れた。

3人の巨人が崖の上に姿を現す。崖の高さは大体巨人の太腿くらいだろうか。


巨人の背丈は人類の10倍以上。

遠目には普通の若者のように見えるが、それもそのはず。

この巨人たちは、実は元人間である。巨人が現れ始めた初期の頃、

知人が巨人となっている、という報告が相次いだのだ。


巨人は両手に何か持っていて、それを我々の居る穴の中に降ろしていく。

よく見ると、保存の利く食品が山のように積み上がっている。


「ほら、よく食べろよ~」

「折角持って来てやったんだからな」

「前もまだ残っとうやん」


この人数にこれだけの補給を行うとは気前がいい。

と言っても、正規の方法で入手したものではないだろうが。


「でもまあ、こいつらには正直、勿体ないよな」

「いいんだよこんなもん今後は余ってく一方なんだから」


余っていく、とは?


巨人はどこかから人間を連れ去ってはここに放り込む、ということを

している。こちらにたむろして雑談に興じていることも多々ある。

おかげで、彼らのやってることやその目的が徐々にわかってきた。


「やっぱ初期にシェルター行ったやつが勝ち組だと思うわ」

「えー、うちらじゃなく?」

「いやそれは別枠w」

「だよなー」


シェルターというのは、極小サイズで作られ、外界と隔離された生活空間。

当然、人間のままでは入ることができない。


彼らは数十分の1程度の大きさにまで縮められて、

隔離されたシェルターの中で生きることしかできなくされてしまうそうだ。

避難所が罠だという噂はある意味で間違ってはいなかった。


それを続ければ人口は減っていく。人口が減れば食糧は要らなくなる。

だから今現在余った食料品をこちらに回しても問題ない、ということだと。


「まあ、無条件であっちに行けるのは初期だけなんだけどな」

「今は厳選してっからな。お前らじゃ入りたくても入れない」

「まあ結局?早いうちに行動したってのも一つの条件やけん」

「筆記試験とかやってられんしなー」


シェルターに入る条件は行動パターンによる選別に加え、

容姿や個人の能力によるところが大きいらしい。


「もちろんお前らは入れない側ね」

「今の今までのうのうと街に残ってる時点で積極性なし判定」

「ある意味ユーシューだと思うが」


無差別に縮めればいいだけなのにどうして選別なんかを?と

疑問に思ったが、それにも理由があったようだ。


「縮めんのもタダじゃないけんね」

「そうそう。多少手間でも繁殖させた方が儲かるって」


巨大化、あるいは縮小させるための装置がリース契約で、

使用人数に対する従量性の料金体系になっているらしい。

そのコストがバカにならないのだが、かといって

恐るべきシステムの元締めだけあって、そこを不法に突破するのは

不可能に近いとのこと。


「巨大化したり戻ったりとかは自由なんだけどな」

「月の回数超過したら追加料金だって」

「そんなん普通にしてたら超えんて」


巨人になったのではなく、一時的に巨大化した人間だったということか。

それにしても、儲かる儲からない、の話をしているからには

彼らは、その、同胞である人類を取引の対象としているわけで。

当たり前のように行われる人身売買に思わず気が遠くなる。


血統を管理してブリーディングのようなこともしているのかもしれない。


「こーいうの、街の方ではなかなか話せねーからなあ」


巨人側の内情を知ることができる特別感があるからなのか、

穴の中は特に暴動が起きるようなこともなく淡々と時が過ぎていく。


衝撃的な出来事は2つほどあった。


ちょうど自分がトイレ穴の淵に立って小便をしているときのこと。


「俺もやってこっと」


ひょいと崖を降りてズンズンと近づいてくる。

ちょうど俺の両脇に足を下すと、穴の中に小便を落とし始めたのだ。


ドドドドドと滝のような音に、生暖かい水しぶきがこちらにもかかる。


自分たちの糞尿はすぐに乾くし後から土をかけるから気にならないが、

泡立った黄色い尿がしばらく底に溜まった状態だったからか、

当然、穴の中にひどいアンモニア臭が充満することとなった。


別の巨人が穴を埋めてくれるまではその状態で、気分が悪くなる者も居た。


もう一つの大きな出来事は、捕まえてこられた人数が多くなりすぎて

穴の中が手狭になってきたことだ。


天にまで届きそうなサイズの巨人がスコップ片手に現れて

あっさりと壁を拡張していった。地中深くまで突き刺さる

巨大なスコップは、街中で使えばとんでもない惨事になるだろう。


巨人の顔はいつもの巨人の一人だった。見覚えがあった。

どうやら巨大化の倍率も自在に変えられるようだ。


そんなこんなで6日が経った。最初の人間が捕えられてから一週間。


「まあ、薄々気づいてるとは思うがさあ」


今まで入れ替わりで訪れていた巨人たちが穴の淵にずらりと立ち並ぶ。


「お前らね。ハイキブツなんだわ」

「正真正銘のゴミってこと」

「繁殖用個体にもならなければ、行動性が低いから労働力にもならない」

「即時で売っぱらう商品としても……な」

「見た目も肉付きも悪いから買い手も付かないよ」

「老人は除外ってことになってるけん、お前らはそれ以下ちゅうこと」


散々な言われようだ。しかし考えてもみれば、

これだけの期間あって、巨人に反抗する者も居なければ、

脱走を試みるものも居なかった。つまりそういうことなんだろう。


「そんなお前らにも、お前らにしか果たせない役目があります」

「何々~?」


上空にて大スケールで繰り広げられる茶番。

我々は何を見せられているのだろう。


「俺らの捌け口?」


何がおかしいのか、ゲラゲラと笑う巨人たち。


「まだわかってないんじゃない。これから何が始まるか」

「“始まれば”わかるしいーじゃん」

「じゃ、そろそろさ」

「そうそう、早くしようぜ」


穴の中に降りてくる巨人たち。

自分たちの居るスペースが圧迫されていく。

こちらを見下ろして揃ってニタニタと笑みを浮かべている。


「さあ、俺たちと遊んでくれよ」


(続?)

Comments

小さい側の視点だと何が起こってるのかわからないままショッキングな出来事が次々起こっていく、みたいな描写になっちゃうので 説明不足感はんぱないですけどその分臨場感は出るんですよね~。 結局続編も同一視点のままだったので説明できず仕舞いっていう←

か、狩られ方がリアルでヒヤヒヤしちゃいます……!! 手が引っ込んで助かったと思ったとたんの眼!!絶望…… 襲われる理由がわかんないってのも確かに怖いですね……

ichiya / ichiarrow


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