バイト(前編)
Added 2024-10-31 00:00:00 +0000 UTCここ最近ずっと書きたかった話なんですけど、うーん、導入部が難しい…!
◆
スマホの画面を握り締める手が緊張で震える。
「連絡してみるくらいなら、いいよな……」
もちろん、ただ話を聞くだけのつもりは毛頭ない。
収穫の手伝いのバイト。単発だけど普段行ってるバイトの
一月分以上を一回で稼ぐなんてどう考えたって魅力的だ。
「もしかして農業高校だから案内来てたのかな」
バイト希望と打って、アプリにメッセージを送る。
友達に入れてもらったやつだ。
即、返信が来た。ご応募ありがとうございます、だってさ。
色々質問とかしたけど、全部すぐ答えてくれるじゃん。いい人。
難しいことはないし、何かわからないことがあったら
当日もサポートしてくれる人がつくから大丈夫らしい。
そしてなんと、今日承諾したから、前金で1割入るらしい。
仮想通貨払いだけど、ギフトカードとかへの替え方を
教えてもらったし、レート低いけど換金もできるらしい。
「何買っちゃおっかな~」
残金は当日手渡しってことだった。現ナマで。
全部入るのを待って、何かデカいものを買うのも手だな。
当日。
集合場所には見知った顔があった。
「あれ、お前も応募したの?」
「あんなん応募一択でしょ」
「まじそれ~」
少し残っていた不安も、同級生2人が一緒だと知って
一気に吹き飛んだ。アプリ教えてくれた友達は居なかったが
どうしたんだろう。勿体ないな。
ただ、肝心の向こうの人が居ない。
スマホがブルっと鳴る。他の2人も同様だ。
植木鉢の下に封筒があるからそれを確認してくださいだって。
見ると、新幹線のチケットが人数分入っていた。
それで移動しろってことらしい。
早速電車に乗り込んで目的地へ向かう。
他愛もない話をしていたが、元々友達ってわけでもないから
ネタはすぐに尽きて、自然と今日のバイトの話になる。
あっち2人も別に示し合わせて応募したわけじゃないっぽい。
1:2だとちょっと嫌だなって思ってたからよかった。
「何のだと思う?」
「松茸とかじゃね?値段的に」
「ならトリュフ的な奴じゃない」
「順当に果物とかだと思ったんだけど」
新幹線で3人横並びになって予想大会が始まるが、
特に結論は出なかったので、面白かったゲームの話とか
誰が誰と付き合ってるとか、牛の話とか、やってるうちに
乗り過ごしそうになったので、慌ててホームに飛び出る。
「指示来てる」
見ると、さらに鈍行に乗れってことみたい。
日帰りって行ってたよな?移動でどんだけかかるんだよ。
「だっる」
「帰ろうにももうここまで来ちゃったしな」
「いや帰るとか普通にナシでしょ」
そうして辿り着いた先は地元以上に何もない田舎だった。
指定された先に居たのは、割とイケメンのお兄さんだった。
たぶん大学生くらい?
メッセージでやりとりしていたのはまた別の人らしい。
挨拶もそこそこに、お兄さんが俺たち一人ひとりに
手首につけるバンドみたいなものをくれた。
艶消しの黒一色でまあまあお洒落かもしれない。
「今日の仕事に必要になるタグみたいなものだから」
もちろんお兄さんの手首にも同じものが巻かれている。
「似合ってる?」
「いいんじゃない」
「似合う似合わんとかあるか?」
ちょっと広めの何もない場所。
車が、恐らくお兄さんが乗ってきた一台だけ停まっている。
そのちょうど真ん中辺りに連れてこられた。
「ちょっとここでじっとしててくれる?」
スマホの方にも、案内役の指示に従ってくださいと来た。
かなり離れたところまで後退していったお兄さんは
何やら自分のスマホを弄っている。
すると、いきなり目の前がチカっと光った。
「まぶし……」
「なんだなんだ」
目をゆっくり開けると、別に何も変わったところはない。
が、何か見えている景色に違和感がある。
下を向いたときに違和感の正体がわかった。
「ちっっっさ」
車や遠くに見えていた建物。お兄さん。全部が近い。
近くて、おまけに小さい。
スマホには、どう?驚いた?って書いてある。
別の名前からもメッセージが入っていて、どうやら
それが小さくなったお兄さんからのものみたい。
<俺は今日は案内だけだから、君らの内の誰かと
一緒に行動するよ
ひとまず手のひらに乗せて欲しいけど、こっちからは
摘まんだりせず、そっと目の前に手を下ろせば自分で乗る
ということだったので指示通りにしてみると、
お兄さんはぐるっと小指側に回ってももぞとよじ登ってくる。
あまり感触がないというか、ほんのりくすぐったい気もする。
「そのままゆっくり上昇、だって」
片手が塞がっているので他のやつに読んでもらう。
それにしても、ゆっくり立ち上がるの、案外難しい説。
筋力的には全然ヘーキなんだけど、勢いつけたくなるよね。
立ち上がってから手のひらを見ると、こちらに気づいたのか
お兄さんは腕を振っている。
潰さないでね。とメッセージ。
「え?どうしよっかな~」
冗談で言っただけなのに、お兄さんがめっちゃ連投してくる。
正座してめっちゃ打ち込んでる。なにこれ、かわよ。
残り二人もいつの間にか俺の手を至近距離で覗き込んでて
そんな、お兄さんが怯えてるだろう。いいぞ
「で、これ後どうすんだろ」
「あ、指示来た」
「URL開いて」
開いたところにあった地図に指定された場所が仕事場所。
別に“収穫”する物品リストが送られてきていた。
「えー、これヤバい案件なんじゃ」
「今更」
「だよなあ。もうでっかくなっちゃってるし」
「これこの車も盗品なんじゃないの」
お兄さんが乗ってきただろう車をもう一人のやつが
無造作に摘まみ上げる。
「げっ」
摘まんだ拍子にドアの部分がひしゃげてしまったらしい。
そこそこ新しいモデルだったような気がするが
かなり残念な見た目になってしまった。
お兄さんから猛抗議の連投が入っている。
<何もかも、思ったよりずっと脆いから気を付けて
<ってちょうどいま言うところだったのに!
<危ないから不用意にアクションしないで
<練習にはなったかもしれないけど
<あと、手の油がつくから手袋をして触ってね!
少し離れた草むらに、軍手のようなものがこれまた人数分
並べてあった。こんなのあったっけ。
ってか俺、お兄さん乗せてるからはめるの無理じゃん。
「はい」
ころころと転がって手のひら同士を行き交うお兄さん。いいね。
お兄さん当番は交代制になった。腕も疲れるし。
<じゃあ、そろそろ行こうか
何事もなかったかのように言うお兄さん。まあ、文字だしな。
(続)
Comments
アイデア元が世間を騒がせてる例のアレなんですよね。 あれができるならこれもできちゃうよな~~~?的な発想ですw
乙
2024-11-03 14:05:09 +0000 UTCてっきり彼らが小っちゃくなるのかと思ってたんですがまさかの大きくなるとは……!!案内のお兄さんも車ゆがめられたりヒヤヒヤですね……いや~展開読めなくて続き楽しみです!!
ichiya
2024-11-03 10:30:28 +0000 UTC今回は見た目の設定をしてないのでイモいのかチャラいのか、私服か制服かとかいろいろご想像にお任せ仕様です! 学校指定の作業服とかかもしれない←個人情報がw これくらいゆるくないとそもそも引っかからないんじゃないかな~って気がしてなりませんw 引っかかりそうな子にピンポイントで声掛けがあったのか引っかかったのがこの子達だけだったのか… 何するかわからないのでお兄さんは終始生きた心地がしないでしょうねぇ。 これはもう「実習」が必要ですよね~~奇遇にも3人とも座学は苦手みたいです←
乙
2024-11-02 23:10:40 +0000 UTCあ~、こういうバイト系のシチュ好物です~(*´Д`) それにしても、何とも怪しげなバイトにホイホイ応募する農高生達……^q^ 農高生で普段から肉体労働してるから体つきもがっしりなんでしょうね! けっこうヤバ案件っぽいのに3人の口調がなんともゆるくて、 妙なシリアス感がないのが今時っぽいDKって感じですね~。 でもほんのちょっと摘まんだだけで車がひしゃげるくらいのパワーを持っちゃってて、端から見てると危なっかしいですねw それにしても一体何を“収穫”させられるんだろう…。 お兄さんの車みたいなので済むのやら、はたまた小人なんだか…楽しみです~^q^
曹達(ソーダ)
2024-10-31 09:50:09 +0000 UTC