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肥満化催眠 美人エージェント潜入捜査物語 第二話

出撫理満久理学園 学則ノ二 「出された食事は種類・量・時間問わず完食すること。」 先輩に連れられ、校門で私たちの本人証明票になる写真を撮ってから校舎内に入る。 とはいえ、校舎は非常に広く(そもそも複数の棟にまたがる程あるのだ)実際に在学中には使うこともない場所も多いという事で、教室も場所だけ教えて貰うことになった。 「――はい、ここが秀子ちゃんたちが編入される【豚組】の教室だよ。」 「ぶ、豚組ですか。」 「なんだか幼稚園みたいな組み分け名ですね……。」 「幼稚園……うーん、まぁ似たような感じかも? リリ学だと、何年生って組み分けは無いの。ほら、みんな元アイドルだったり元アスリートさんだったり、先輩には博士号を取った人だとかも来てるから年齢と学力があっていないのよ。だから、一括で授業を進めるために『特別プログラム』で授業をするから組み分けだけされるの。」 「なるほど。 ……って博士号? そんな人もリリ学に来るんですか?」 (つまりそれは、そもそも大学院を卒業している"大人"ではないですか。) リリ学を出たところで学位は更新されることは無い。むしろ、最終学歴が「高卒」ということになってしまうだろうに、何故そんな人まで? その疑問に、立花先輩は困ったように笑う。 「うーん、まぁ世の中にはいっぱい勉強しても、"立派な大人"にはなれない人もいるから……ってことじゃないかな?ほらほら、そんな他人のことより自分のことを心配しないと。転入組は時期がずれる分ちょーっとハードになるからねー。勉強に集中できるように、今日の内にばっちり部屋の準備しておきましょ♪」 「え、あ、はいっ!」 「そうだ、今日からRIKKAさんと同じ部屋で……んふふふ~~♪」 明らかにはぐらかされてしまったが、先輩がしゃべらない以上聞いてはいけない――のだろう。ただ、あれは立花先輩はどういうことか解っているような反応だった。……その、博士号の何某への哀れみのようなものを感じる濁し方はより私の疑念を大きくさせる。その彼女には一体何が「足りなかった」のか。折を見て接触をしてみよう、と心のメモに書き留めて宿舎に向かう立花先輩を私たちは追うことにした。 ところで、昼前にフェリーに乗り船内で昼食を取り、校舎を少し見学して現在の時刻は午後3時。 そんな時間に宿舎についた私たちを出迎えたのは―― 「「「「ようこそ、転入生~!!」」」」 ぱんっ、ぽんっ。とクラッカーの割れる音。きゃあきゃあと楽し気にカラフルな紙吹雪が撒かれ、十数人に囲まれるようにして私たちは盛大に歓迎されることになったのでした。そのメンツが、また凄い。――職業柄、著名人のデータを頭に入れていたからこそわかったということでもあるのだけれど、右も左もリリ学に入籍するだけはあると言わしめる実績のある人物ばかりだ。 「いらっしゃ~い♪新入生って何か月ぶりかしら~♪おいし~いケーキを焼いたから、召し上がってくださいね~♪」 若き天才パティシエール、立場も実績も年齢すら無差別の世界大会で、他の国際大会での準優勝者や、世界的著名人らすら退けて若干19歳で優勝を勝ち取った”甘味の天使”『天海 春奈(あまみ はるな)』 「あら……もしかして美貌院家の方かしら? ふふ、ようこそリリ学へ♪ このような場所でまたお会い出来るだなんて奇遇ですわ、彼方とは前々から色々とお話もしたかったの……仲良く致しましょ♡」 国内のIT産業の総元締めたる大企業の娘であり、私と同じ17歳でそこらの上場企業に匹敵する金額を稼ぎ出した天才美少女トレーダー「神条 千才(しんじょう ちとせ)」 「わっ、みなみんじゃない!? やーん、またアイドル増えちゃう~っ! あ、でもでもあっちじゃライバルでもぉ、ここじゃ同じ寮の仲間だからぁ、い~っぱいなかよくしよーねっ?」 その背丈と童顔から中学生と見紛うルックス、けれど18歳の年季と、裏打ちされた知性から繰り出される男心擽る仕草でどれだけ女性アンチ相手に炎上しようと、絶大な人気を誇る幾つものブームを打ち立てた”完成された美少女”「狩野 雪(かりの ゆき)」 他にも何人も、此処に雑誌記者がいればインタビューに何日もかかりそうな程の早々たる面子が―― 「あ~ん、もうお腹すいたぁ! 食べてもい~い?」 雑誌のモデルにも取り上げられた天海さんが、どるんと弛んでスカートにどっしりと乗った腹肉を、はしたなくたぽんたぽんとスカートを扇ぐように振りながらグゥグゥと煩いほどに腹を鳴らし、 「あらあら、天海さんが限界を迎える前に(ぐぅぅうきゅるる……)、貴女方も席についてついて。座りましたわね?座ったのなら頂きますわっ♡ はむ、もぐぁむっ、ぁぐはぐはぐ!」 私と同じように実家からアレコレと躾を受けて躾は勿論体型ですら絞り上げられていた筈の神条さんが、私の倍もありそうなたぷたぷと揺れる二の腕を振り回して、1つに数百円もしなさそう安っぽいハンバーガーに我先に手を伸ばして口周りをべとべとによごしながら、フードファイターのように胃に押し込み、 「あは☆二人の分はちゃ~んと分けてそこに盛ってあるから、ゆ~っくり食べてねぇ♡ あっ、ちょっとそれユキのっ!! 取んないで――はぷっ! ふぉふぇへふぉれないへほぉ♡(これでとれないでしょぉ♡) んく、もっちゃ、もっちゃ、もっちゃ……。」 立てば天使、座れば王女、歩く姿は女神様。だなんて”ぶっ飛んだ”キャッチフレーズを世間に通用させた、「画面の中から飛び出した美少女」とも呼ばれる24時間365日、隙の無い美少女振りを発揮していたあのユキが鼻の下が伸びるほどにぱんっぱんに口の中へと肉の塊を詰め込んで、それからようやくうっすらと顎とつながった太い首を鳴らして呑み下している。 みんなみんな、額に輝く全盛期を張り付けてブクブクと太った身体を恥もせずにギラギラとした食欲に呑まれたように、一口でも多くと猛然と食卓に積まれたご飯の山に手を伸ばしている。 その、あまりにも醜く浅ましい姿に再び頭の中にこびりついた違和感がチリチリと警鐘を鳴らす。 誰もかれも、何故此処まで太ってしまったのか?そもそも、太るという事すら縁遠いようなアイドルであるRIKKAを始めとした人間たちがまるで人が変わったように食事に夢中になるだなんて、もしかして何か食事に盛られているのではないだろうか? きっと、美波も同じようなことを考えていたのだろう。私に比べても著名人を知らないにせよ、公式HPに載せられた40kgのプロフィールを生放送で測ってみせたあのユキが、二重顎を作り出した3倍近い肉団子に変わり果てたと知ったその時は、顎が外れそうなほどに口を開け呆然としていたのだ。 ・・・・・・・ 何かがおかしいのは間違いなく、頼りの立花先輩は既に目の前のチャーハンをがふがふと吸い込むように口に頬張るばかりで、こちらを一瞥もすることはない。 此処で、無分別に食べるのは危険だ。そう理解して適当にお茶を濁そうと考えたその時――     ・・・・・・・・・・・・・ 「「「「出撫理満久理学園 学則ノ二!」」」」 ――先輩方の視線が、私たち二人に注がれていた。食べる手をぴたりと止め、カップに入ったジュースを握って歓談で済ませようと考えていた私を、サラダのボウルだけで済ませようと考えていた美波を。 「「「「『出された食事は種類・量・時間問わず完食すること。』復唱ッ!!」」」」 「「出された食事は種類・量・時間問わず完食すること。」」                   ・・・・・・・・・ ――……そうだ、色々と懸念はあってもまずは完食してから考えるべきだ。 太るかどうかで悩む前に、出された食事を全て食べきるだなんて常識だ。こうして転入祝いとして料理をふるまって頂いているというのにごはん一粒食べ残したとあれば、私の評価は地の底に落ちるだろう。無礼の度合いでいえば須佐之男命も真っ青だ。(彼の無礼度合いを知りたい人は天岩戸伝説について調べてみてほしい)。そうすれば"潜入"捜査だなんて夢のまた夢、誰一人声をかけることすらしない究極のボッチ学園ライフが始まり、何の為に潜入したのだかわからない捜査が始まるだろう。 意を決して美波を見れば、「仮にもアイドルが食べ残しなんて出来るわけないでしょ!」と顔をぴしゃりと叩いて思考のリセットに成功したようだ。 「頂きます、はむ、もぐ、もぐ……っ!!」 「いっただきます!ちゅるっ、ずぞぞっ……んぅっ!?」 そうして目の前の食事に手を付け――私は切り分けられた分厚いステーキ、美波は豪華に具材の乗った拉麺を―― 一口食べて目を見開く。 「おいしいっ!!」 「うっまーい!!」 食べた瞬間に、口の中に広がるうまみがそのまま喉を、鼻を通して真っすぐに頭の頂点へと"ぴしゃり"と小さな雷のように強烈な刺激が走ったのだ。その"ぴしゃり"は"ぱちぱち"になって、脳のどこかにある幸福物質を生み出す「栓」を揺らされ、私の脳みそにこう語りかけるのだ。         ・ 『ほーら、もっとシないと、君の欲しいアレがでてこないよ。』と。 気持ちは一人で慰めている時の『あと一息』と自覚した、あの瞬間。そうくると私たちのやることはただ一つだ。 「はく、んっく、もぐ、ガツガツッ、はふ、ガツガツッ!!」 「じゅずりゅずぞぞぞっ!! ぷぁ、じゅるるっ、ずず、ずぞぞぞっっ!!」 「あぐ、もご、もぐもぐ、ごくんっ、はぷっ、んぐ、ごっくんっ!!」 「むしゃ、モッシャモッシャ……んく、まふ、モッシャモッシャ……」 「はむ、ぁむ、もが、ばくばくっ!はぐっ、あんっむぅ!」 ぎっとりと油の混ざったチャーハンを掻きこみ、たっぷりとチャーシューを並べたラーメンを啜り、三段積みのハンバーガーを口に押し込み、生ハムを1:1の対比にのせたサラダを頬張り、これでもかとチーズをかけたピザを食べつくす。それらはアラカルトに取り分けられているのではく、しっかりと一人前を用意されていて、ピザの最後の一欠けらを押し込んだ頃には、私のお腹は今まで見たことがないほどにはち切れそうに膨らんでいた。 「―――んッグ……っ!!」 胃の中は限界まで――もしかしたら限界を超えて――中から食べ物によって拡張されていて、恐る恐る手を当てればまるで巨大な石のようにカチカチに中身が『詰まって』いた。私はドレスだったから、腰を留めていたベルトを途中で外して事なきを得ていたけれど、男の子のようなシャツとジーンズを取りあわせをしていた美波は、前のボタンを全部外して、ズボンのファスナーも下ろして、妊婦みたいにぼってりと膨らんだ丸いお腹でシャツをまくり上げて意図せずにパンツを丸出しへそ出しの姿でぐったりと椅子にもたれかかっていた。それはもうぐったりとしているのだけれど、苦しさで青ざめているのに脂汗以外の汗をじっとりと掻いて、すっかり"とろん"とした瞳とニマニマと緩んでしまった口の端は苦しさの程が中々にわかりづらい、ひどい顔だった。 (きっと、まぁ、私も似たような表情なのだろうけど。) もう少しでも身じろぎしようとすると、腹の皮がギチギチと張るようで背もたれに体重をかけた中途半端な腹筋のような恰好からぴくりとも動けなかった。 それでもご馳走様でした、と口にしようとして―― 「――ンっぐっごぇぇえぇぇっぷ……!!」 「あらあら、い~~っぱい食べてくれたみたいで嬉しいわぁ♪」 「ゲップをするのは良く消化が出来ている証拠、恥じなくて結構ですのよ?」 「んっふっふ~♡でぇもぉ、まだまだこの程度で満足しちゃダメよぉ?」 人前でゲップをするだなんて、いつぶりだろうか。それも、牛蛙よりも低く濁ったその音は自殺級に恥ずかしく、私の圧迫感で白くなっていた顔にも上がった血液で朱に染まった事だろう。……ところで、満足してはいけないというのは―― 「そうそう、ユキちゃんもお待ちかね~♪ 天海特製、スペシャルウェルカムケーキ~♡」 部屋の奥の扉がガラリと開くと、わっと歓声が上がる。 それは私の視線の先。パンパンに膨らんだ腹の丘へとご来光の如く現れた。                               ・・・・ 5段に盛られた、ウェディングケーキと見まごう程の巨大で豪華なデザート 「――っぐぅうっ……ぷ……!」 今の私のお腹には欠片も食べ物が入る隙間もないだろう。それどころか、口を開ける度に噴き出るゲップで喋る事すらままならない状況で、 それでも、だとしても (……出された食事は種類・量・時間問わず、完食すること……!!) 深夜2時半に、私たちはさらに載せられた辞典のような大きさのケーキを食べ切って気絶するように(実際に気絶して)眠ることになった。 出撫理満久理学園 学則ノ二 「出された食事は種類・量・時間問わず完食すること。」 [メモ] ・食事の際に出る音は消化に必要な事なので尊ぶべし。 ・食事の結果として肌の露出が起きるのは健啖の証なので尊ぶべし。


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