穏やかな微笑みの中に隠し切れない寂しさが垣間見え、全身から幸薄そうな雰囲気が漂っている”戦乙女”は呟く。
『——だめ……だめ……私に優しくしないで……』
彼女は自分のことを大切なサーヴァントの一人として扱ってくれる心優しい青年のことを第一に考えるなら、彼からの優しさを拒まなければならないと頭の中では理解していた。だが、心の奥底では温かく満たされるような喜びを感じており、甘美な蜜を口にした時のような法悦に溺れている。
『想い……強くなってしまう……大きくなって、私は……それが愛だと気付いてしまう……』
同じ時間を共有していく間に彼に対する想いは少しずつ強くなっていき、駄目だと思いながらも”愛している”という感情を自覚してしまいそうになっていた。彼女は芽生えた愛情を理性という名の蓋を被せることで封じ込めてしまおうとしたが、青年の優しさに触れる度に誤魔化し切れない位に気持ちは大きくなる。
『駄目です……”マスター”……。私をこんなふうにして……私……貴方のことを……愛してしまう……』
戦乙女は遂に愛情を自覚してしまい自分の力では優しさの誘惑に抗えないことから、理性を振り絞ることで彼から距離を置いて欲しいとお願いすることしか出来なかった。
だが、しかし——
自分の召喚に応じてくれたサーヴァントのことを無下に扱ったりすることは、信念に反するためマスターは接し方を変えたりはしなかったのである。
『優しい人……優しいマスター。こんなに私を大切にしてくれて。そんなにも優しいと、私……』
優しさに溢れている彼に対する愛情は更に深まることになり、それに合わせて”とある感情”が芽生えていく。
『私好きになった人を……”きっと殺してしまうから”……誰より愛したあの人のように……』
英霊となった後も生前に愛する人を殺めてしまった逸話は語り継がれることになり、無辜の怪物のように宝具と共に想い人を殺す”呪い”へと昇華されているため、戦乙女は愛情を抱いたらそれが殺意へと自動的に変換されてしまうのである。
『優しくしないで下さい……マスター……マスター? いいえ、貴方……あぁ、もしかして……”シグルド”……? あぁ、そんな……貴方はシグルドの生まれ変わりなの? ……それなら、愛さなきゃ……殺さなきゃ……』
とっくの昔に壊れてしまっている自分に優しくしてくれるマスターのことを嘗て愛した男性と重ね合わせながら、戦乙女は愛情が深過ぎるが故に濃密な殺意に心を支配されてしまう。英霊となった後も愛してしまった彼に殺意を抱き、手に持っていた槍を握り締めながらシグルドと同じように刺し貫こうとした。
だが——
『俺は”ブリュンヒルデ”のことを信じるよ』
『————っッ。まっ、マスター……っ』
完全に彼女のことを信用し切った表情を浮かべるマスターの胸元に突き刺さる寸前、槍の穂先はピタっと止まり、それと同時にブリュンヒルデは崩れ落ちるように倒れ込んでしまった。
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——”ブリュンヒルデ”
戦乙女というワルキューレの一人であるとされ、北欧神話に於いては悲恋で知られる女性なのである。
ヴォルスング一族の起源と衰退を描いた『ヴォルスンガ・サガ』には、グニタヘイズの貪欲なる輝きの悪竜現象”ファヴニール”を単独で打倒して”戦士の王”と讃えられた大英雄シグルドとブリュンヒルデの物語も記載されていた。『シーグルドリーヴァの歌』や『ブリュンヒルドの冥府への旅』など、北欧神話を纏めた”古エッダ”でも二人は悲恋は描かれている。
生前の彼女は死した勇士達の魂をヴァルハラへと導くことを目的としたワルキューレの長姉という立場に立っており、その成り立ちからもほぼ神霊に近かった頃のブリュンヒルデは、他の姉妹達と同様に自我が極めて希薄で文字通り”人形”のような存在であった。
父たる大神”オーディン”の思惑とは全く異なる相手を勝たせたことで怒りに触れてしまい、地上に追放されながら炎の館に封じられて永い眠りに就くことになったのだが、魔剣グラムで封印を解いたシグルドとの邂逅を経たことで人間に近い性質と人格を有するようになったのである。お互いに一目惚れであった二人は自然と愛し合うようになり、彼女は自分の持てる全ての知識やルーン魔術を彼に授け、大英雄の道行く先に幸あれと祝福するのであった。
夫婦となったブリュンヒルデとシグルドは子宝にも恵まれ、悲劇さえ起こらなければ二人は幸せな日々を過ごしていただろう。
だが、悲劇は起こってしまい——
シグルドに恋したグズルーンの奸計により愛した妻の記憶だけを失ってしまい、ブリュンヒルデは裏切られて捨てられたのだと勘違いして嘆き悲しむ。悲しみと共に殺意に呑まれてしまった彼女は最愛の人を槍で刺し殺し、彼女自身も後を追うように自らを灼き尽くして命を絶ったのだ。
想い人を殺してしまったブリュンヒルデの悲恋は逸話となり、それが宝具と共に愛した人を殺してしまう宿痾を背負ってしまったのである。
本来ならば愛してしまったマスターのことも殺してしまっていたのに、呼び掛けでほんの一瞬だけマスターに対する愛が勝り、自身を更に歪めることで殺人衝動を抑え込むことに成功したのだ。
自分の在り方を歪めたことには反動が伴い、ブリュンヒルデは遂に壊れてしまったのである。
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「BB……それでブリュンヒルデの状況はどんな感じ?」
「うーん、このまま放って置けば消滅も有り得ますね。英霊としての”核”にも近い愛した人を殺すアイデンティティーを歪めてしまったんですから、流石の超高性能AIのBBちゃんでも治したり出来ません」
お手上げですと両手を上げてヒラヒラしているBBは、普段通りに冗談っぽく語っているが話している内容は真剣そのものであった。英霊にとってのアイデンティティーとはそれ程までに重要なものであり、このまま歪みに耐え切れずにブリュンヒルデが消滅してしまい、再び召喚に応じてくれたとしてもカルデアの記憶を完全に無くした状態の彼女が現れるだけなのである。
「でも、解決策はあるって感じだよね。本当にどうしようも無い状況だったら、優しいBBが冗談混じりに話したりしないから」
「————っッ、お前のことなら何でも知ってるアピールですかっ!♡♡ こんな状況でも彼氏アピールに余念が無いとかびっくりですっ♡♡♡ えぇ、女の子を堕としまくってる性獣なセンパイにピッタリな解決方法がありますよっ!!♡♡」
内面を見透かすように完全に図星を突かれてしまったBBは、頬を染めながらブリュンヒルデを助ける方法を口にしていく。
「アイデンティティーが歪んでしまったなら、完全に壊した後に治しちゃう方が綺麗な形に戻せますっ。先ずは愛してる人に向けちゃう殺意を愛情タップリのドスケベセックスで壊し尽くしちゃえば良いんですっ!♡♡」
「……壊すって本当に大丈夫なの?」
「多少の荒療治は必要ですからね! しっかりメスにした後は何日も掛けて子宮に注ぎ込んだ”魔力”でじっくり一から作り変えてっ♡♡ ただの可愛いお嫁さんにしてセンパイとの繋がりを深めていけば、カルデア専用のブリュンヒルデさんとして安定しちゃうんですっ」
BBはメロンのように豊満なおっぱいを突き出すように胸を張り、完璧な作戦ですと自信満々に鼻腔からふんすと息を吐いた。どうすれば良いかの対処法を聞き終わったマスターだが、難色を示すかのように少しだけ考え込むような素振りを見せたのである。
「センパイの癖に何を考え込んでるんですか? 早くBBちゃんお手製のラブホテル空間で好きなだけパコパコ、アンアンしてくれば良いじゃないですか」
「その……ウチにはまだ呼べてないけど、旦那さんのシグルドに悪いんじゃないかなって」
「はぁ……っ、何を今更。自分のアイデンティティーを歪めてまで愛してるセンパイのことを殺さなかったブリュンヒルデさんのためにも、腹を括って絶対に幸せにするって覚悟がないと失礼ですよっ!! このカルデアのブリュンヒルデさんはマスターのお嫁さんにするんですっ!」
「————っッ、そうだね俺が間違ってた。ありがとう、BB。このままじゃ凄い不誠実な男になる所だった」
完全にブリュンヒルデを自分の女にして幸せにする覚悟を決めたのか、凛々しい表情を浮かべる彼は胸を張って彼女が待っている電子空間へと向かうのであった。恋する乙女のような表情を浮かべながらマスターを見詰め、電子空間に姿を消した後にはぷくっと頬を膨らませる。
「むぅ……っ、覚悟を決めたセンパイは無駄にカッコ良くて腹が立ちますぅ。BBちゃんもそんな感じで一回は抱かれたいのにぃっ♡♡」
本当に危険な状態であるがイチャラブドスケベセックスが確定しているブリュンヒルデに対して、BBちゃんは羨ましいという感情を覚えながらも今回ばかりは譲って上げますと協力するのであった。
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寝台の上で未だに魘されているブリュンヒルデは、人の気配を感じて閉じていた目を開いた。
「んぅ……っ、マスターっ。駄目ですっ、また殺してしまいそうにっ」
「大丈夫だよ。俺がこれからブリュンヒルデと愛し合って、好きな人に殺意を抱けなくなるまで壊すからっ」
「〜〜〜〜〜〜っっッ゛!!???♡♡♡♡ …………そっ、それはぁっ♡♡ ……困りますぅっ♡♡♡」
「いっぱい困らせちゃうけど、俺がブリュンヒルデを幸せにしてみせるっ!」
「————っっッ♡♡♡ ぁっ、あぁ……っ♡♡」
覚悟の決まっている普段よりも男らしいマスターの表情を見た瞬間、彼女の胸はドクンドクンと大きく高鳴ってしまう。彼は仰向けの状態になっているブリュンヒルデに覆い被さりながら、責任を取って絶対に幸せにすると伝えるために告白しながら口付けをするのであった。
「愛してるよ、ブリュンヒルデ」
「ぁ——っッ゛♡♡♡ んむっ!?♡♡ ちゅぷぅっ♡♡♡」
二人だけの甘い蜜月は始まったばかりである。
幸薄なブリュンヒルデを幸せにするため、マスターは本気の孕ませ交尾に励む 前編
koinj
2024-11-16 04:44:29 +0000 UTC