「…ダメだぁ。先週の激辛焼きそばRTA、再生数100すらいってない…」
薄暗い一人暮らし用の部屋に、レイアの絶望的な声が響いた。
ノートパソコンの画面に映し出された残酷な数字を、三人は死んだ魚のような目で見つめている。
部屋には食べかけのスナック菓子の袋と、そんな三人の淀んだ空気が満ちていた。
「もうネタがないよ…」
カメラのレンズを拭いていたカイトが、諦めたように力なくため息をつく。
「心霊スポットも行ったし、24時間耐久シリーズもやった。もう、俺たちにできることはな…」
「いやまだあるわ!!!」
カイトの言葉にレイアが被せるように言い、突然ガバッと顔を上げた。
その目は焦りと、ちょっとヤケになってるような狂気的な光に満ちている。
「まだ私たちにはやれることがある。誰もやったことがない…究極のリアクション動画が」
「ん?なによそれ」
壁際で暇つぶしに足のネイルをしていたマコが、興味深そうに身を乗り出す。
レイアは勿体ぶるようにゴクリと唾を飲むと、嫌な笑みを浮かべて言った。
「人間ってさ、限界までくすぐられたらどうなると思う?」
「「…………は?」」
意味の分からない発言に、カイトは思わずあきれたような声を漏らす。
「動画のタイトルはこれ。『人間を限界までくすぐり続けたらどうなるか検証してみた!』よ!」
そんなカイトを気にした様子もなく、レイアは興奮気味に立ち上がった。
「くすぐりって刺さる人には刺さるし、ジャンルにもなってるのに規制は緩いでしょ?今の私たちに必要なのは良くも悪くも注目されることなのよ!これしかないわ!」
「えぇ…」
その狂気じみた提案は、いつものようにノリだけは良いマコと強引なレイアによって、気弱なカイトの反対を押し切って進められた。
そしてくじ引きの結果、一番乗り気ではないカイトが今回の企画の主役に選ばれてしまったのだ。
話が決まってから1時間後。
部屋の中央に敷かれた布団の上で、カイトはその辺にあったロープとタオルで大の字に拘束されていた。
Tシャツは捲り上げられ、脇腹とズボンの隙間から内腿がのぞいている。
「良いじゃん良いじゃん。カイトは見た目がちょっと女の子っぽいし、意外とそっち系需要でいけるんじゃない?」
「それ気にしてるんだから言うなよ…それに需要ならお前ら女子の方が絶対良いだろ…」
勝手に盛り上がるレイアに、カイトは半ば諦めたように言う。
「何言ってんのよー。女の子がくすぐる方だって需要あるんだよ?それにカイトがくすぐられる姿なら女子需要も狙えるしねぇ。カイトだってモテてたいでしょ?」
「こんなモテ方したくない…」
マコは自分に対象が移らないように上手くかわしながら、ニヤニヤと笑って着々とカメラの準備をしていく。
「よーしカイト、準備はいい?」
三脚に立てたスマホの画面調整しながら、レイアが悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「よくない…一生無理…」
カイトの返事には元気がなく、少し拗ねたような声だった。
「うん、大丈夫みたいね。よし、じゃあこっちの準備よ」
レイアはそう言うと、どこからか持ってきた真新しいサテン製の白手袋を二組取り出した。
それはドレスを着るときに着けるような、光沢のある肘まで覆いそうな長いものだった。
「なんだよその手袋…」
「この方がやってる感出るでしょ?視聴者にも私たちの指の動きが見えやすくなるしね」
「なんでそんなの持ってんだよ」
「いつかコスプレして動画撮ろうって思ったまましまったままになってたんだよねぇ。いやぁ無駄にならなくて良かった良かった」
そうあっけらかんと言いながら、レイアは自分の手にゆっくりとその白手袋を嵌めていく。
指を一本一本丁寧に差し込み、肘まで引っ張って指先までぴっちりさせると手を組んで手袋を手に馴染ませた。
普段はおちゃらけているレイアの、その妙に手慣れた仕草がカイトの恐怖をさらに煽っていく。
「わぁ、可愛いじゃん!アニメのキャラみたい!」
マコもレイアに倣ってその大き目の自身の手に、少し窮屈そうに白手袋を嵌めていく。
そしてパンパンに嵌められた手袋を、カイトの目の前で指をグーパーと開閉させその感触を確かめていた。
白い手袋に覆われた合計20本の指。
それがこれから自分の身体をくすぐるんだと思うと、ゾッとしてカイトの顔から血の気が引いていく。
「よーし、カメラ回すわよ!」
そんなカイトの様子など構うことなく、レイアはスマホの録画ボタンを押してしまった。
「どうも!『限界チャレンジチャンネル』のレイアです!今日は私たちのメンバーのカイトに、『人間は限界までくすぐられるとどうなっちゃうのか』を、身をもって検証してもらいまーす!」
カメラに向かってレイアが満面の笑みで企画説明をし、その隣でマコが「わぁー!」と叫びながらその白手袋に包まれた指を楽しそうにワキワキと動かしていた。
「や、やっぱやめ…」
カイトの喉から弱気なか細い声が漏れる。
「さあいくわよカイト!限界までくすぐってあげるからねぇ!」
「覚悟しなさい!」
カイトの声をかき消すようにレイアとマコの無責任な声が上がる中、カイトは布団の上で大の字に拘束され、これから始まる地獄にただただ身を縮こまらせていた。
そしてレイアがカイトの右側に、マコが左側にそれぞれ膝立ちで陣取る。
その両手に嵌められた白いサテングローブが、薄暗い部屋の中で光を放つように妙に浮き上がって見えた。
指の関節がくっきりと浮かび上がるほどぴっちりと嵌められたその手袋が、これから行われる行為を更に生々しく見せる。
「よーし、じゃあカイト」
レイアが悪戯っぽく笑いながら、カイトの顔を覗き込む。
「まずは小手調べからだね。首からくすぐってあげるねぇ」
「く、首…?」
その言葉を聞いた瞬間、カイトの全身に緊張が走った。
小手調べとレイアは言ったが、カイトにとって首は敏感な場所の一つだったから。
「ほらっ」
「ひぃいいっっ!」
レイアのその白い手袋に覆われた指先が、カイトの右側の首筋にそっと触れた。
続きは10月12日に他プランでも公開予定
現在タバコプランにて先行公開中
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