以下、シナリオの続きです。
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3年生にすごい美人がいる、という噂を、あちこちから耳にし始めた。
で、俺もちょっと興味はあったものの、はしゃぎながら彼女を見に行く同級生連中にくっついて行くことはなかった。
校舎も離れているし、この間まで中学生だった俺から見た3年生は、2年生に増して自分とは世界の違う大人で、俺は明るいお調子者でもないから。
でもそんなある日、友人たちと一緒に売店へ行こうと廊下を歩いていると、向こうに涼野先輩がいる、という声がして、あたりが色めき立った。
進来「え、どこ、どこ……」
そうなると俺も、そちらに向かう皆の後をついて、小走りになってしまう。
進来「あ、っ……」
俺はそこで初めて、彼女の姿を見た。
友達らしき女子たちと連れ立って、少し離れたところを歩いていた。
俺はその場に立ちすくみ、口を開けていたと思う。
あまりにも綺麗で、あまりにも俺好みの美少女だったので、一目ぼれ……だった。
友達1「おい、近道……何してんだよ、早く行くぞ」
友達2「あはは、バカ面で見惚れすぎ」
思わずボーッとなり、彼女たちが角を曲がって見えなくなってからも、俺はずっとそこで突っ立っていた。
友人たちにからかわれても、何か言い返すどころかまともに声を出すことすらできなかった。
そしてそれ以来、俺はいつでも彼女の姿を探し回り、遠目にでも見つければ目で追ってしまうようになっていた。
……でも、学校中で噂になるような美人と自分とじゃ、釣り合うはずがないとはわかっている。
だから最初から諦めており、ただただ憧れていただけだった。
なんというか、その姿を見ることができた日は、一日中幸せな気分で過ごせた気がする。
まあいわゆる、ファンだ。
恋愛だの交際だのを思い描くこともなく、ひたすら熱烈なファン、美しい女神像を見上げる信者、だったんだと思う。
そんなある日、移動教室で授業が始まっている中、俺は廊下を走っていた。
教室に忘れ物をしてしまったのである。
仕方ないから、教師に謝り教室へ戻り、忘れ物をつかんで廊下を駆け抜け、急いで階段を下りていると……
【真美】
「きゃっ……」
進来「あ、すみません!!」
俺が階段から階下の廊下へ飛び出してしまったせいで、誰かと……女子生徒とぶつかってしまった。
どう考えても俺が悪いし、慌てて謝り顔を上げると、そこには彼女が立っていた。
進来「あ……っ……」
思わず、固まり動けなくなってしまう。
頭の中が真っ白になって、ごめんなさい、ともう一回謝ってその場を離れることもできない。
今の時期、3年生は授業も少ないし自習とかも多くなっているから、図書室に行ったりトイレに行ったり職員室で進路相談したり、割と時間が自由なのだろう。
【真美】
「大丈夫? 気をつけてよ?」
初めて間近で見た、あの美しい上級生。
彼女が、いかにも年下の子供を諭すような優しい声で何か言ってくれているのはわかるが、なんと言っているのかが認識できないほどに興奮してしまっている。
【真美】
「……ちょっと、大丈夫? 聞こえてる……?」
進来「ふはっ……!!」
ぼんやりしている俺が心配になったか、怪訝そうに顔を近づけられのぞき込まれて、目玉と心臓が飛び出そうになった。
進来「す、すみません、ごめんなさい!! ごめんなさいっ!!」
それから、やっと少しだけ我に返って慌てて何度も謝り、俺はまた走ってその場を立ち去ろうと――
【真美】
「待って、待って、落とし物!」
進来「ああっ……!?」
あろうことか、俺は彼女とぶつかった時、教室から持ってきた忘れ物を落としていた。
忘れ物が、落とし物になるところだった。
こんなんで手ぶらで授業に戻ったら、教師から叱られるよりも『熱でもあるのか』と心配されそうか気がする。
【真美】
「はい、どうぞ。 移動教室の教材でしょ、これ。 私も、1年生の時に使ってたけど……色が違うのね、今のって」
進来「あ、は、はい、ええと……ありがとうございますっ、すみません! ほんとすみません、め、迷惑かけてばっかりで、そのっ……」
もうしどろもどろで、お礼と謝罪がごっちゃだ。
【真美】
「ふふふっ……とにかく気をつけてね、じゃあね」
俺のそんな様がおかしいのか、真美さんはくすくすと小さく笑いながら、立ち去っていった。
進来「……先輩……涼野……先輩……」
その笑顔に身も心も蕩けてしまいそうになりながら、俺はその場に立ち尽くし、彼女が消えた方向をいつまでも眺めていた。
そしてその後、大した距離もないのに遅いぞ、と教師に叱られてしまったが、俺にとってはもうどうだってよかった。
それ以来、真美さん……当時の涼野先輩への憧れはどんどん強くなって、間近で見たあの優しい微笑み、俺に向けられた笑顔が忘れられなくなった。
けれどその後はずっと、彼女と会話する機会はなかった。
俺がもう少し積極的で自信のある男なら、次に会った時に笑顔で話しかけて『この前のお詫びに』なんてジュースでもおごって……
それからも、名前を名乗って挨拶し続け、顔見知りになって仲良くなって……なんてできたかもしれないけど、俺には無理だ。
それでも、どうしても彼女のことが忘れられなくて、ちょっとだけ接触できたことで諦められなくなって、校内ではいつも彼女を探すようになって……
でも、見かけても結局話しかけることはできなかった。
彼女が一人でいてもなかなか声をかけられないだろうに、普段の彼女は大体友達とにぎやかに過ごしているから、近づくことすらできない。
だから俺は、ついに一世一代の覚悟を決めて、彼女に告白することにしたのである。
だが、ずーっと奥手で来たもんだから、告白の方法なんてのもわからずに、彼女とコンタクトを取る方法もなかったから……
とりあえず、彼女の名前が書かれた下駄箱を探して、卒業式の後に校舎裏で待ってます……という手紙を入れた。
下駄箱に手紙、校舎裏に来いなんて、ネットも携帯電話もない時代のような、ものすごく古典的なやり方だ。
でもそれしか方法がなかった。
ついでに、卒業式の日を選んだのは、どうせ振られるだろうし後々気まずくないように、なんて臆病心からだ。
そうしてやって来た、卒業式の日。
俺は校舎裏で壁にもたれかかり待ち続けたものの、待っても待っても彼女は来なかった。
進来「仕方ないか……」
そりゃ、そうだろう。
彼女からすれば、よく知りもしない相手に呼び出されて、自分たちが主役で忙しい卒業式の日に、わざわざこんなところまで来てくれるわけがない。
進来「…………」
でもやっぱり俺は諦めきれず、どうせ暇だし暗くなるまでここにいるか、なんて自分を茶化しながら地面に腰を下ろした。
それから、結構な時間が過ぎた頃……
【真美】
「……近道くん、よね?」
進来「涼野先輩……!」
彼女の声が聞こえて、俺は慌てて立ち上がり尻の汚れを払うことすら忘れて、子供みたいに駆け寄って行く。
【真美】
「ごめんね、式や行事とか色々あって、かなり遅れちゃって……まだ待っててくれたのね、ほんとにごめんね」
進来「い、いえ、すみません! そうですよね、3年は卒業式の日って、かなり忙しいですし……ありがとうございます、来ていただいて……!」
申し訳なさに頭を下げつつ、彼女が来てくれたことに心底感激するも、この様子だと彼女は俺のことを覚えているようには思えなかった。
そこに少し落胆するも、これはもうしょうがないことだ。
俺はあれから、彼女とまともに話もしていない。
名前だって名乗ってないし、ちょくちょく顔を見せて挨拶していたわけでもなく、こっそり姿を見ていただけなのだから。
だから俺は、思いきってさっさと用事を済ませてしまうことにした。
進来「忙しいところすみません! あ、あの、俺、涼野先輩が好きです! ずっと、好きでした……!!」
【真美】
「……ありがとう」
頭を下げ、まさに玉砕といった心持ちで叫んだ俺の目の前に、あの優しい笑顔があった。
【真美】
「でも、ごめんね。 私、今付き合ってる人がいるから……」
進来「あ……す、すみません……わかりました、ありがとうございました……すみません……っ……」
わかりきってはいたことだが、俺はすっかりしおれしょげて、がっくりと肩を落としてため息をついてしまう。
【真美】
「そんな肩落とさないでよ……ふふっ……」
そんな俺に苦笑いしつつ、真美さんは俺の背中にそっと手を置いてくれた。
進来「……っ……」
【真美】
「……ごめんね? でも、近道くん……だったよね? かっこいいんだから、すぐにいい子見つかるって」
進来「……あ……えっと……」
【真美】
「じゃあね、近道くん。 2年生になったら彼女できるよ、きっと」
進来「あ、涼野先輩!」
この俺をかっこいいと言うだの、彼女に無理をさせ気を遣わせて申し訳ないと思いつつも、俺は彼女を呼び止めた。
やっぱり、どうしても諦めきれない。
だから、せめて思い出が欲しいと思った。
【真美】
「ん?」
進来「す、すみません……あの、よかったら、その……記念に、写真いいですか!? こ、この携帯でっ……」
一か八かで、記念撮影をお願いしてみた。
でも、お願いしてから、我ながら気持ち悪い真似をしてしまったと後悔した。
進来「…………」
振られた男が、振った女の写真が欲しいだなんて。
嫌な顔されてるかな、と恐る恐る彼女の方を見ると、彼女はにっこり笑ってうなずいてくれていた。
【真美】
「こうやって、並んで撮ればいい?」
進来「あ、ありがとうございます……! すみません、ほんと、すみませんっ……!!」
俺は緊張と感激のあまり震えつつ、携帯を取り出しカメラ設定していく。
それから、並んで画面に納まるために彼女が近づいてきたので、軽くだけど肩が触れて、顔が熱くなって携帯を持つ手はさらに震える。
それでも何とか撮影し、俺は彼女に何度も何度も頭を下げてお礼を言って、彼女は笑顔で手を振り去って行った……のだと思う。
このあたりはもう、緊張と興奮で目が回りそうで、よく覚えていない。
彼女としては、自分を慕う後輩が卒業式に記念撮影を求めてきたから応じた、ってだけの話だろう。
優しくて面倒見のよさそうな彼女だから、きっと、俺が女子学生だったとしても同じように対応してくれただろう。
でも、こうして振られてしまった後も、こんな俺に対してずっと優しく微笑みかけてくれた彼女に対して、想いは強まるばかり。
告白してすっきり、ダメだったからすっぱり諦めて次の女を探そう! なんて気分には、まったくなれなかった。
俺の人生において、この失恋は長く引きずる切ない思い出となり、その後はどんな美女を見ても心躍ることがなくなってしまった。
その後の俺の人生に、彼女……真美さん以上の女が現れることは、なかったのである。
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