SakeTami
八尾(pachio)
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【R-18G】マケドニア白騎士団の最期 第二話

 木組みの絞首台に上がらせられるエストとミネルバ。その様子をパオラとカチュアは見上げるしかなかった。


エスト1

 台上のエストの首にロープがかけられる。二本の結び目から伸びる一本は、巻き上げ機を使い吊るし上げるためのもので、反対側に伸びたもう一本は、それを阻止するためにミネルバが引くためのものである。

 エストとミネルバの距離は直線で5メートルほど、ロープの長さはそれより少しだけ長いだけであった。よって余裕というものはほとんどない。

 おまけにミネルバは彼女の前1メートル先に引かれた白線を超えてはならないというルールまであった。超えてしまった場合、ただちにマリアの命は奪われてしまう。

 

 ミネルバはロープを掴むとその感触を確かめる。かなり目が粗く太いロープである。女性にしてはかなり鍛えて硬くしてある彼女の手でも、しばらく引けばズタズタになってしまうことだろう。


 「ミネルバさま…」


対面にいるエストは震えた声でミネルバに呼びかける。


「大丈夫だエスト。絶対にお前を死なせたりはしない」


嘘偽りない気持であった。これ以上無意味な犠牲者を出すことは許されない。たとえ不可能に近い困難であろうと無惨に殺されていった部下たちのためにもやり遂げる覚悟である。


(それでも私は地獄に落ちるだろうがな…)


自嘲気味に笑うミネルバ。このような事態を引き起こした自分を彼女は決して許すつもりはなかった。

 それにこのゲームにはミネルバの生死は明言されていない。どちらに転んでも彼女は殺すつもりなのか、それを確かめる気もなかった。万が一生き残れば自害するだけだ。



 「へへへ、お別れはすんだか?…ではそろそろ『ゲーム』を始めるぞ!」


下卑た笑みを浮かべ同じ処刑台上にいる頭目の男の宣言に台下で見学している男の部下たちから歓声があがる。


「この感じだと日没まで1時間ってところか。一人当たり20分粘ればゲームクリアだ。なんだこう聞くとすっげぇ簡単じゃねぇか!いいのか、ゲームクリアに誰も賭けねぇで!」


なぁお前ら、と部下たちに向かい大げさに手を広げる。

 彼女らの生死は賊の男たちの間で賭けの対象とされていた。誰が何分で死ぬかで盛り上がる男たちだが誰か一人でも生き残るほうに賭けている者は一人もいなかった。


 「だってよお頭、ハンドルを握るのは『ダゴン』の奴なんでしょ?いくらその女がゴリラのような奴でも本物のゴリラにゃ勝てませんぜ」


違いないと周りから笑い声が聞こえる。その声に巻き上げ機のハンドルのそばにいる大男がニヤリと笑い右腕を突き上げる。女性のウェストほどはあろうかというそのサイズに比べればミネルバの鍛えた腕ですら子供のように見える。


 「う~む、確かに大穴は難しいか。ただダゴン、手抜きしろとまでは言わねぇが

お前も少しはゲームを盛り上げるよう協力しろよ」

「げへへわかってまさぁ親分。最初は片腕だけでやってやりますよ」

「そう、そのくらいがちょうどいいハンデだな。…よしそれじゃあおっぱじめるか!」


 男の言葉にミネルバはロープを掴む手に力を籠め、エストは祈るように目をつぶる。



 「『日没まで生き残れるか』よ~い……はじめぇ!」


号令とともにミネルバとダゴンと呼ばれた男双方力を籠る。


「ぐぅ!」「ぬおぉぉぉ!」


両者の力は互角だった。ミネルバの引く力とダゴンの持ち上げる力は打ち消しあい、一見何事も起こっていないかのようだった。

 しかし、しばらく経つと徐々に二人に差が表れ始める。両腕だけでなく全体重を乗せロープを引くミネルバに片や右腕一本の力だけでその力と拮抗するダゴン。

 先に消耗していくのは当然ミネルバのほうであった。ギリギリと徐々に彼女の身体は前へと進み、その分エストの首へかかるロープが近づいていく。


 「ミネルバさま…ぐっ!」


そしてついにエストの首にロープが食い込みその身体を吊り上げようとする。


「おーっと!ここであっけなく終わってしまうのか!ちなみにエスト選手が5分以内にくたばると賭けたヤツが一番多い!これではおもしろくないぞ!」


頭目男の無責任な実況を聞いている余裕など当人たちにはない。ミネルバは奥歯を割れんばかりに食いしばり、エストはつま先立ちとなりなんとか呼吸を維持しようとする。

 しかし無情にもその身体はじわじわと地面から離れ始める。


「ぐぇ…ぇ」


首に食い込むロープは、彼女から酸素の供給を断とうとする。足をばたつかせ僅かばかりの抵抗を見せる。


「おぉ…げぇ…ヒュー、ヒュー」


 赤みを帯びていた顔が徐々にどす黒くなっていく。足は地面から完全に離れ、今彼女の脳には一切の酸素が送られていない状態となっていた。


 (まずい…なんとかしなければ…)


ミネルバはエストの状態を見てそう思うが、すでに彼女の身体も乳酸が溜まり全力を出せなくなっていた。


 (かくなる上は…すまない、エストほんの少し耐えてくれ)


何を思ったかミネルバはロープを持つ手を緩めてしまう。無論エストの身体はそのまま一番上まで引っ張り上げられる。


 「おやおやここで試合放棄かミネルバ選手!なんと情けない王女か、部下をそうそうに見捨てたぞぉ!」

「あぁミネルバ様…」「どうして…」


ブーイングをする見物人と信じられない様子で見上げるパオラとカチュア。


 「おぁ…ぉ…」


エストの呼吸もだいぶ弱まり、顔からは涙やよだれ鼻水などの体液が溢れ出ていた。


 (これ以上はまずい…)「はぁ!」


ミネルバはほんの数瞬で回復した身体を使い、ロープを引く。引き下げられたエストの足が地面につくと彼女の身体に酸素が戻る。


 「ガハッ!ゴホッ!ヒュー、ヒュー、」


貪るのように呼吸をするエスト。あと少し無呼吸状態が続けば脳に障害が出るところであった。


 「さすがゴリラ王女まだまだ楽しませてくれるようだ!ただこちらのゴリラも負けてはいないぞ!」


いまだ片腕でハンドルを握るダゴン。その表情はいまだ涼しげである。


 (しばらくすればまた先ほどのようにジリジリと持っていかれてしまうだろう。ただ同じ事を繰り返せば時間は稼げる…しかし次はエストが持たないかもしれない)


ミネルバは考える。死なない程度に吊り上げさせその間自身は休息する。そしてまたタイミングを計って下ろす。それを繰り返すことで時間をなるべく稼ぐ。

 ただしその場合、エストは肉体の死は免れるかもしれないが彼女の脳は使い物にならなくなっているだろう。どうするのが一番正しい行動なのか。


 「ビネルバざまぁ…わだし…じにたくないぃ…」


エストが溢れ出る体液で顔面をぐちゃぐちゃにしながら懇願する。一番年少の戦士は一度心が折れてしまえばいたいけな少女に過ぎなかった。


 (そうだ絶対に助けると誓ったではないか!たとえこの身が朽ち果てようと…!)


ミネルバはそう思ったのち、すべての思考を閉ざす。今までは先のことを考えてしまい無意識のうちにリミッターがかかってしまっていた。それを外す。何も考えずひたすら全力で引き続ける。


 「おおっと、どういうことかロープが下に降りてぴくりとも動かなくなったぞ!」


男の言葉通り、完全な静止状態が続く。次を考えぬミネルバの全力はダゴンの剛腕を上回っていた。


 「情けねぇぞダゴン!女に負けてるぞ!」「金返せバカ!」


見物人からのヤジが飛ぶ。


「ゲ、ヘヘ。しかたねぇなぁ。それじゃあやってやるよ『利き腕』で」


 そういうとダゴンはハンドルを保持していた右腕から左腕に持ち帰る。すると僅かずつハンドルが回り始める。


 「?!」


再びロープが引っ張られる感覚に驚愕するミネルバ。もう100パーセントの力なのだ。これでダメならもうどうしようもない。


 「やだ…やだぁ!死にたくない!ミネルバさまぁ!」


ロープ再び首に食い込んでくる感触に泣き叫ぶエスト。


「姉さんたちがまだ残ってるから手ぇ抜いてるんじゃないの?!助けろよぉミネルバぁ!!」


エストの悲痛な叫びが続く。常なら考えられぬ暴言だが、死への恐怖で失禁しながら助命を乞うその姿にミネルバや姉二人は涙を流すことしかできなかった。


 「泣いてんじゃねぇよ!助けろよぉ!お願い、お願いです…助けてくださいミネルバさ…ぐぇっ!!」


 再び持ち上げられていくエストの身体。ミネルバも全力で引いているが無駄に体力を消耗するだけであった。


 「おげ…かっ…げぇ…」


ミシミシと一番上まで持ち上がった首にさらにロープが食い込む。

 舌が限界以上に伸び、眼球までも飛びださんばかりになっていく。


 「あああっ!」「いやぁあエスト!」


確実に死へ近づく妹に姉二人は叫び声をあげる。


 「かっ…お………」


かすれ声すら聞こえなくなると、やがてその身体はビクビクと痙攣をはじめる。


 「おやぁエスト選手死んでいるのか生きているのか?生きていたら返事をおねがいしまーす!」

「……」


頭目のふざけた言に応える声は、もちろんない。


 しばらくすると痙攣もなくなり、彼女の下半身が汚物を垂れ流し始める。


「おーっとここで脱糞確認!エスト選手死亡であります!その時間12分05秒!ノルマの20分越えならず!なんて無能な部下なのでしょう!首の鍛錬が足りない!」


 死者を冒涜する言を聞いても怒り出す気力を今のミネルバや姉たちは持っていなかった。

 賭けの結果で騒ぐ賊たちの喧騒の中、三人は呆然と空中に揺れるエストの亡骸を眺めていた。

エスト2











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