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新年のご挨拶

新年あけましておめでとうございます。

本年はまずは、体験版! そして、正式リリース! と

皆様のもとへNorn's Dineの世界を少しでも早くお届けできるように引き続き努めてまいります。


ゲーム公開前ではありますが12/31はルーカスの誕生日、1/1はアサヒの誕生日ということで、イラストとSSをご用意させていただきました。

お楽しみいただければ幸いです。

また、昨年までに部数限定で配布いたしました小冊子の電子版について、こちらのページの最下部から二種類ともDLできるようになっております。

こちらでしか公開されていない情報などもございますので、よろしければ御覧ください。

どうぞ今年もNorn's Dine、そしてHIC*をよろしくお願いいたします。

                             2025年 HIC*一同


『女神の微睡み』


「噂通りの腕前だったわ。店主さんのお料理は見た目も味も本当に素晴らしくて」

「ありがとうございます。これ、少しですが料理を包んでおきましたので、急にお仕事が入られたとおっしゃってたご主人によろしければ」

「まぁ!? お代金は……よろしいんですの?」

「ええ、こちらの気持ちですのでお気遣いなく」

「うれしいわぁ。それじゃまた、主人も連れてきて売上に貢献させるわね!」

「はは、それはありがたいです。次回はどうぞお二人でのお越しをお待ちしております。それでは良い『女神の微睡み』を」

「一年の最後の日までお疲れ様。店主さんも良い『女神の微睡み』を過ごしてね」


 普段より随分と早仕舞いだというのに、すっかり外は暗くなっていた。

 自然と漏れる吐息は白く、よく見れば雪が降り始めている中、今年最後のお客様の後ろ姿を見送る。

 今日は一年の終わり。一年間人々を見守り続けた女神は、微睡み夢を見る。そして、次に目覚めたときが新たな年の始まりなんだって婆ちゃんが教えてくれたっけ。

 薄着で外にでたせいで、すっかり冷え切った体を温めようと店の扉に手をかけたその時――


「ちょっと待ったー!!!!」


 背後から明らかにこちらに向けられている大声はよく聞き慣れたもの。

 なんとなく嫌な予感がしてそちらを振り向けば、ジュリオを片手で引きずってこちらに全力疾走してくるグラントさんの姿が見えた。

 わりとよく見る光景。たいていこういうときは厄介事が持ち込まれるのだ。

 俺はそのまま店内へと入り、鍵を閉め、丁度客席の掃除をしていたリトへと声をかける。

 

「リト、俺達も片付けをすませたら――」

「アサヒー!! お前、気づいてただろ!! 開けろーー!!」

「あの、アサヒさん……。外でその……、なんかすごい顔でこっち見てきてるッス」


 リトが指差す先に俺も視線を向けてみれば、そこには案の定というか道路に面したガラスに顔を貼り付けたジュリオとグラントさんの姿があった。

 二人共整った顔をしているのに、こうなると逆に面白いなと思いつつ、仕方なく店のドアを開ける。


「お客様、本日の営業はあいにく終了しておりまして……」

「ひでー!! アサヒ、俺とお前の仲でそんな他人行儀な!!」

「いや、ジュリオ。お前はまだ、本当のアサヒを知らない……。こいつはあの婆さんの孫。そして、ルーカスの弟だ。って、そんなことはいい。悪いアサヒ、なんか温かいもの食わせてくれねぇか?」

「温かいもの……?」


 その言葉に違和感を覚えて二人をよく見れば、頭から爪先までまるで泳いできたかのようにびしょ濡れで、二人共小刻みに震えている。


「どっどうしたんですか!? とりあえず中にどうぞ。リト、何枚かタオル持ってきて!」

「了解ッス!」

「それで、これは? 二人で寒中水泳大会でもしてたとか?」

「お前は俺らのことアホかなんかだと思ってんのか?」

「ジュリオのことはちょっとだけ、グラントさんは……」

「黙るなよ。そこで黙んなよ!! ジュリオはまぁいいけどよ」

「ひでぇ!! 二人共ひでぇ! 俺がこんだけ苦労したのに……」

「おまたせッス。二人共寒そうッスよ! これであったまってくださいッス!」


 リトが持ってきて二人に渡しているのは、大きく厚手のタオルとカップに入ったホットレモネード。

 うちの従業員は本当に気が利く。

 ホットレモネードを一気に飲み干し、体を拭きながらようやくひと心地ついた二人が話してくれたことはこういうことだった。

 今年最後の魔獣討伐の帰り道、アスガルド市内にも流れ込んでいる大河ヨル川の側を通っていると、何か大きなものが流れていることに気づいたらしい。

 放っておくのも目覚めが悪いと、まずはジュリオが助けに飛び込んだものの一人ではどうにもならず、グラントさんも飛び込んでなんとか助け上げたのだとか。


「そして、助けたものがオウルベアだったと……」※なんか良い魔獣!魔獣!

「うう、聞いただけでも凍えそうッスよぉ……」

「ああ、まだ幼体といっても大型犬よりはでけぇけどな。助けちまった手前、そこで始末するのも目覚めが悪いなと思ってたところに、遠くからこっちを見てる明らかに親っぽい奴らを見つけたわけだ」

「それで、その子どものオウルベアを両親のもとへ返したと」

「魔獣を狩ったその帰り道でいろいろと矛盾はしてるとわかってるけどな。まぁ、人里からは離れてる上に、敵意もなかったからギルマス権限ってやつだ」

「でた。本当にそんなものがあるのか怪しいギルマス権限。使いすぎて、先輩達もまた言ってるって最近完全に流してるもんなぁ」

「ん? なんか言ったかジュリオ?」

「いやいやいや、聞き間違いじゃないですかねぇ。そうそう、それにほらオウルベアは食べても不味いから」


 理由はわかった。でも、ヨル川って流れも急だし、川幅は広いし、そんな簡単にできることじゃないと思うんだけどな。

 あとは、そう……確かにオウルベアの肉はどう調理しても……。


「そんな事情とは知らず、いつもの癖で閉めちゃってすみませんでした」

「まぁ、厄介事を持ち込んでる自覚はあるし、時間が時間だからな……。ここに来たのも下心があってのことだ」

 

 ああ、なるほどと腑に落ちる。


「リト、二階の風呂ってお湯ははってあったっけ?」

「そうだと思って、シドウさんに頼んであるッス!」


 うちの従業員はやはりできる子だった。


「ジュリオはともかく、グラントさん。良ければお風呂入ってきてください。その間になにか食べるもの用意しておきますから」

「悪ぃな。それを期待してた。風呂はギルドのシャワーで済ませればいいんだが、やっぱ飯はアサヒのが食いたくてよぉ」

「ねぇねぇ。俺はともかくって、俺はともかくってどういうこと?」


 悪そうな大人の笑みを浮かべるグラントさんの横でジュリオがまた面白い顔になっている。

 言い方はあれだったけど、お前はそもそもうちの住人だろうと気づいてほしい。

 まだなにか言い続けているジュリオを再びグラントさんが引きずって、内階段から風呂場のある二階へと向かっていく。

 

「あっ、グラントさん!」

「ん? どうかしたか?」

「風呂の中でジュリオとエッチなことしないでくださいね」

「「しねぇよ!!」」


 二人の声が絶妙にハモる。

 

「いくら俺が魔人でも選ぶ権利ぐらいはあるんだぜ? アサヒ……?」

「うっ反論してもしなくてなんか複雑な気分になるなこれ……」

「あっ、シドウさんともだめですよ!」

「だからやらねぇって!? 初対面でケツ触ったら頭が体からおさらばしそうになったんだぞ!!」


 あっ、やっぱりグラントさん恒例の挨拶という名のナチュラルセクハラはやってたのか。

 でも、シドウさんのその反応はちょっと意外だったかもしれない。

 シドウさんならそういう挨拶があるのだと思ってグラントさんのお尻を逆に触りそうだけど……。

 まだなにか二階から叫んでる二人の声を無視して、リトと一緒に厨房へと向かう。


「ごめんな。せっかく早くあがれるように早仕舞いしたのに」

「大丈夫ッスよ! 寒いのは……嫌ッスもんね! 温かいものいっぱい作りましょう! それに、オレはこうしてアサヒさんと料理を作って皆と一緒にいられることが一番嬉しいッス」


 うちの従業員が良い子すぎて辛い。

 自然と自分より背が高いその頭を撫でてしまいたくなる。

 明日の朝ご飯は、リトの大好物特大オムライスにしてあげよう。


「そうだ。どうせだから、シドウさんも呼んで皆で食べるのも良いかもしれないな」

「年越しパーティって奴ッスね!」

「パーティってほど大げさなものじゃないけどな。何品かリトもお願いできるかな?」

「任せて欲しいッス!」

「それじゃ、トマトとアンチョビのブルスケッタと残ってた魚でカルパッチョを頼むよ。俺はきのこのアヒージョと牛のタリアータを作るから、あとは煮込んでたビーフシチューがまだ残ってるから二人にはまずそれを食べてもらって」


 盛り付けにはこだわらず、作り置きのストックがあるもの、簡単なおつまみのようなものばかりであれば、そんなに時間はかからない。

 風呂から二人が戻って来たのは、店内のテーブルに料理を並べ終えたのと同時だった。


「うおおおおお!! すげええええ! さすがアサヒ! これ食ってもいいのか!?」

「ジュリオうるさいって、これは今年一年を頑張った皆への俺とリトからの贈り物……ってほど大したものじゃないけど、まぁ好きなだけどうぞ。飲み物は何にする?」

「俺はシュシュワってする奴がいいかなー。あっ、アルコールは抜きで」

「了解。グラントさんはどうします?」

「俺はそうだな、ホットワインを頼めるか?」

「スパイスと果物多めで?」

「わかってるじゃねぇか。わりぃな手間のかかるもん頼んじまって、それにこの料理も」


 俺がホットワインの準備をする横で、リトがジュリオのためにザクロと生姜のシロップを使った甘いソフトカクテルを作り始める。

「それほど手間ってわけでもないですから、あっシドウさん。突然呼び出してすみません。良ければちょっと皆で料理をつまみませんか?」


 すでに夕食は済ませたはずのシドウさん。二階からのっそりと姿を表すのを想定していたけれど、いつの間にか背後に立っていた。

 うん、もう慣れた。


「あるじの料理、好き。おれ、たべる」

「何か飲みますか?」

「あるじのいれてくれる、お茶がいい」

「温かいやつですね。すぐに持っていきますから、先に食べててもらっていいですか?」

 

 こくりと頷いて椅子に座ったシドウさんは、先に料理に手をつけることなく俺がお茶を持っていくのを待っているように見える。


「神出鬼没のシドウにも驚くが、それになんの反応もしないアサヒ……お前も大概あれだな……」

「グラントさん、慣れって大事だと思いません?」

「まぁ、あのご両親とルーカスに囲まれて育ったらそうもなるか……ん? ちょっと待てよ。そういえばルーカスとお前って誕生日明日じゃなかったか?」

「俺が明日でルカ兄が今日ですね。といっても、ここ数年は忙しくて自分の誕生日って感覚があんまりないんですよね。ルカ兄も忙しそうだし、贈り物だけはいつも準備してるんですけど……」


 両親やばあちゃんがいた頃は、『女神の目覚め』と俺の誕生日はいつも家族が祝ってくれた。そして、自らの出自が曖昧なルカ兄にばあちゃんは自分で決めなさいと言った。そして、自らの誕生日を女神の微睡む年の終わり、今日に決めたのはルカ兄本人だ。


「アサヒの誕生日は知ってたけど、ルーカスさんの誕生日が今日ってのはすげぇな。兄が年の終わりで弟が年の始まりかぁ。なんか面白いな」

「あっ、ほら俺とルカ兄は血がつながっているわけじゃないから――」

「まぁ、そういうこともあるのが世の中ってもんさ。そうか、ルーカスの奴が今日遠出の依頼を受けたのはわざとってわけだな」

「それは……ルカ兄は自分が祝われるのとか本当に苦手だから」


 グラントさんと俺の一家の付き合いは長い。俺とルカ兄の小さい頃も、ルカ兄の過去も知っている。だから、ジュリオの興味をそらしてくれたのだろう。

 

「だが、良くねぇなぁアサヒ。自分の誕生日をないがしろにするっていうのは、兄弟揃ってよろしくねぇぞ」

「そうっスよアサヒさん! 孤児院の子達やオレの誕生日は祝ってくれるのに、自分の誕生日は祝わせてくれないんスから!」

「いや、それはほらせっかく皆の休日に時間をとらせても悪いだろ?」

「悪くないッス」「悪くねぇよ」「悪くないと思うぞ?」「たんじょう……び?」


 リトにグラントさん、ジュリオとシドウさんの声が再び被る。


「えぇ……。そういうグラントさんは誰かに祝ってもらってるんですか? 年取ると自分の誕生日って忘れたくなったりするって聞いたりもするんですけど」

「お前、たまに俺の心をえぐってくるよな。だけどな、俺はきちんと毎年祝ってもらってるぜ!」

「どなたに? あっ、ギルドのマリッサさんとかです?」

「恐ろしいことを言うんじゃねぇよ。俺ぐらいになると、数多の良い男や良い女達が囲んで俺のことを祝ってくれるのさ」


 ああ、娼館の(良い男や良い女)の皆さんね。知ってた。


「というわけでだ、俺達のために食い物を作ってもらったがこのまま年を越してアサヒの誕生日会をすることに賛成な奴、挙手」


 なにがというわけでなのかさっぱりわからない。

 だけど、俺以外の皆の手がまっすぐ上に伸びている。

 シドウさんはちょっと不思議そうな顔をしているけれど……。


「よし、それじゃあシドウちょっと頼まれてくれるか? このメモを持ってここの……、それと……」

「わかった。あるじが、これで喜ぶのか?」

「ああ、すんげぇ喜ぶ。俺の行きつけの娼館に料理を卸してる店だからな。馴染みだし多少の無理はきく。ナンナの歌声亭。アサヒは知ってるだろ?」

 それは! 庶民向けの店でありながら、半年先まで予約が埋まっているという超人気店!

 冷めても美味しい料理が売りで、高級娼館への仕出しも行っているとか、何より食後に出てくるスイーツが絶品ともっぱらの噂……!

 料理人として一度は食べてみたいと思いながら中々機会に恵まれなかったあの店の料理が食べられる……!?


「でっでも、悪いですから、そんな急に」

「顔は食いてぇって言ってるぜ?」

「んぐ!」

「俺とジュリオからの礼と誕生祝いだ。あっ、ジュリオ。今日の依頼料から天引きしておくからな」

「んげー! ちょっ、あれで新しいえっちなおもちゃを……」


 その言葉にびくりとリトが動きを止め、何やら剣呑な視線をジュリオへと向けている。


「い、いやなんでもなかった。そうだな! アサヒ! お誕生日おめでとう!!」

「それじゃあるじ、行ってくる」


 そう言って挙動不審なジュリオの側から再びシドウさんが一瞬で姿を消してしまう。


「ああ、もう……」

「あの、アサヒさん!」

「リト? それにムルムルまで!?」

「ムルッ」


 俺の部屋から自分で降りてきたのか、それともリトが連れてきたのかいつの間にかリトの頭の上にムルムルが鎮座していた。

 

「本当は明日渡そうと思ってたんスけど、アサヒさんのお誕生日会するなら今渡してもいいッスよね! これオレとムルムルからッス」

「ムルッムルッ」

 そうして差し出されたのはムルムルより更に一回り小さいムルムル。

 これは、もしかしてムルムルの人形!?


「あ、ありがとう。とても上手にできてるな……。手触りもムルムルそっくりで」

「ムルムル毛で作ったッス! 天然物ッス!」

「ムル~ムルムルッ!」


 ムルムルの毛!? すごいけど、本当にすごいけど一体どうやって……?


 そして、俺達も着替えて料理をつまんでいるうちに、シドウさんが戻ってきた。

 それからしばらくして料理やケーキが届き、店の常連を巻き込んだ俺の誕生会という名の忘年会、そして新年会が始まった。

 気がつけばなぜかラプラスがその中に混ざっているので、シドウさんが定期的につまみ出してくれていたけど、いつの間にかまた戻ってきているので諦めた。


 ここ数年は本当に静かで穏やかな一年の終わり、そして始まりを迎えることが多かったけどこういうのも悪くない。

 いや、そう思えるようになったのもここに集まってくれている皆のおかげなのかもしれない。

 ただ、本来であれば俺と同じように誕生日を祝われるべきルカ兄がここにいないのが少し寂しい。

 たとえそれが本当のルカ兄の誕生日じゃないとしても、俺にとっては「アサヒと近い日が良い」とルカ兄が選んでくれた大切な日だ。

 グラントさんによるとルカ兄も明日の昼にはアスガルドに戻ってくるらしい。

 

 久しぶりにあのケーキを焼こうかな。

 兄さんのために。

 子どもの頃、二人で食べたのと同じのを。




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