イラストで顔を描くとき、奥にある目を小さめに描く人がちらほら見受けられます。 おそらく遠近法を意識しての事でしょう。 遠近法があるのだから、右側から顔を見た場合、手前にある右目の方が、左目より大きく見えるはずです。実際にそうでしょうか? 試しにスマホに写りこんでる友人の左右の目の大きさを比較してみてください。大きさの違いなんかほとんど分からないはずです。 アニメ絵はリアルを記号化したものです。左右の目の大きさの違いはリアルで分からないのですから、リアルを記号化したアニメ絵でも分からないように描いたほうがよさそうですね。 つまり、目の大きさは左右同じにしたほうが自然なのです。 写真を見なくても、わたてん1話を見てみたり、ていぼう日誌1話を見て、観察すれば、どのシーンにおいても、左右の目の大きさはほぼ同じなはずです。 では肩はどうでしょうか? 例えば右肩が手前にある構図のとき、遠近法によって、首から右肩までの長さは、首から左肩までの長さより、長く見えるべきなのでしょうか…… これについてはこのサイトの、「角度による肩の長さの変化」の画像がとても分かりやすいです。 http://illust.moe/2016/09/shoulder-and-neck/ どうでしょう、遠近法を人体に持ち込んでも、あまりいいことはなさそうですね。 もともと遠近法は背景(風景)を描くために発達した技術なので、人体に応用するのはなかなか大変なのではないかとも思います。 この遠近法ですが、あまりに知名度が高く、絵を始める前の人であっても知っている場合がほとんどなので、これを前提にした先入観に囚われる初心者は、けっこう多いのではないかと経験から思います。私は先人の見本を観て描くということを覚えたのもかなり最近で、この罠に2年くらいはまってました。 初心者さんはいろいろ考えて、こうなるはずだと描くのもいいですが、気が向いたときに先人の絵やリアルをよく観察して、それをそのまま模写し、なぜこう描くのかという理由を、あれこれ考えるようにすれば、あっという間に上達できるのではないかと、初心者なりに思ったりもします。 まあ、模写はつまらないので、気が向いたときに……、楽しいのが一番ですし…… 私も模写しなきゃ…… 話はこれでおしまいなのですが なぜ遠近法は人体の中に現れにくいのかの簡単な説明と 人体に遠近法が現れるのはどのような時なのかについて、備忘録も兼ねて以下にまとめておきます。 が、正直これは、何かの技法書を読んで身に着けた知識とかではなく、全部私の頭の中で考えて試してみただけのものなので、そうなんじゃないかなって私は考えてるよ程度のものであって、正しいかどうかかなり怪しいです。 ▼以下備忘録▼ ▽人体に遠近法が現れない理由 これは、数メートル先にあるカメラからすれば、人の大きさによって生じる距離の差は、無視できるくらい小さいといった、とても単純なものです。 まず、なぜ遠近感が生じるのかについてですが これは、目の物理的な性質によるものだと考えられます。 人の目をピンホールカメラに見立てて描いたものが1枚目の画像です。 図から分かるように、物(矢印)が網膜に作る像の大きさは、レンズとの距離に反比例します。(ピンホールカメラだから、レンズじゃなく穴といった方がいいかも) 例えば、カメラと被写体の距離が2倍離れると、像の大きは半分になり、 被写体をカメラとの距離の比が3:4になるように配置すれば、像の大きさの比は4:3になります。このことが、近くのものは大きく、遠いものは小さく見えるという経験につながっています。 つまり、遠近法で大切なのは "カメラ(目)との距離の比” なのです。 これを踏まえた上で、1m先に居る人の顔を斜めからカメラに映す場合、左右の目の大きさがどのくらい違うのかを計算すると以下のようになります。(2枚目の画像) 人の目はおおよそ7cmほど離れていますが、今回は斜めから見るので、カメラまでの距離の差はそれよりも小さくなります。ここではとりあえず3cmとしています。 このとき、カメラから右目までの距離が100 cmなら 左目までの距離は103 cmとなり、距離の比は100 : 103 になります。よって、 カメラにできる像の大きさの比は103 : 100 になると考えられるので、左目は右目の何倍の大きさになるかを計算してみると 100 / 103 ≒ 0.97 より、97 %程度 ということが分かります。 クリスタの変形ツールでは大きさを何%拡縮するかを指定できるので、それを利用して簡単な顔を描いてみました。この時点でもうほとんど違いがありませんね。 カメラが1m先というのは、少し近すぎる気もします。 もし人までの距離が2 mならば 200 / 203 ≒ 0.99 より、99 %の大きさで、数値的にほとんど差はありません。 このように、人が数メートル先に居るならば、左右の目の距離の差は初めから無いようなものであり、結果的に遠近法はほとんど働かないのです。 ▽人体に遠近法が現れる場合 先の話で、普通にカメラを使て人を撮る際は、カメラとの距離に対して、人の大きさによって生まれる距離の差が小さすぎるため、遠近法が働かないという話をしました。 これは逆に言うと、カメラが人体に十分に近い場合は、遠近法が働くということです。 たとえば、先の場合において、カメラが顔に対し30 cmまで近づいたならば、 左右の目の大きさの差は 30 / 33 = 90 % となり、大きさの違いをぱっと見で認識できる程度になります。 目にこだわらず、俯瞰の構図で花ちゃんの全身を描くならば、直立している場合だと、頭から足裏までは142.3 cm程度の差があることになるので、足先と頭では大きく遠近感が現れます。 ではカメラを150 cmの高さに構えたとして、花ちゃんの頭頂部での1 cmは、花ちゃんのつま先での1 cmとどのくらい差があるのでしょうか……と、計算してみてもいいのですが、これはあまり意味のある計算ではないと思います。 ここまでの話は、あくまで像の大きさの話であり、実際の見かけの大きさとはまた別なのです。 例えば、さっきまで1m先に立ってた花ちゃんが、今は10m先に移動したとして、その大きさが1/10になったと感じることがあるでしょうか? おそらくないでしょう。これは脳が、遠くに見えるものを大きく見せるように常に補正しているからです。 絵は網膜にできる像を描くのではなく、見た印象を描くものですから、数字を当てはめて計算し、その通りに描いても、その絵から受ける印象は、実際に見えているものとは大きく違ったものになってしまいます。 これは日常的経験しているものであり、たとえば、綺麗な景色を写真に収めたりすると、写真から受ける印象は、生で見たものとはずいぶんと違ったものになるなんてことは良く起こります。大きな満月も、カメラで撮ると凄く小さいといった経験です。 先ほど、カメラが30cmまで近づけば、目の大きさの差は90 %だと計算しましたが、だからといって、左目を右目の90 %のサイズ差で描いた接写の絵が、両目を同じ大きさで描いた接写の絵よりも可愛くなるかというと、必ずしもそうではないのです。 結局、最初の結論に戻ってきて、自分の感覚を信じて納得いく大きさを探したり、上手いと思う人の絵を模写するのが、一番早くて確実な上達方法なのではないかと思います。遠近法の他にも、絵を描くテクニックはたくさんあるのでしょうが、それでも、テクニックが教えてくれる線より、自分がカワイイと思う線の方が絶対にカワイイのです。 たとえば、目の大きさはどんなときでも左右同じ大きさにした方がカワイイというテクニックがあったとして、あなたが遠近感を強調した絵の方がカワイイと思うなら、やはり遠近感を強調した絵のほうがカワイイのです。