SakeTami
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スノードーム

あなたがじょうずに息ができるように。 _____________ pixivにあげた小説ですが一応こちらにもアップしてみます。受視点の溺愛巨大感情系。えち無し健全です。 冬に家で過ごしている時のあったかさなどを考えながらそーふみを書いてみました(^▽^)/ 相変わらず概念おねショタみのあるふたりです…みんなが暖かく冬を過ごせますように。 年内にこの続きのR18小説をアップしたいと思っています。がんばります~。 ____________ 12月、クリスマスの少し前。仕事終わりに二人で都会の海にあるイルミネーションを見に来た。明日は休日を合わせているから、落ち着いてゆっくりと眺められる。    25日はどうしても俺が仕事で忙しくなってしまい、会えずに申し訳ない、と宗登に伝えたら「文昭とこの時期に一緒にいられるだけですごく嬉しい」と笑っていた。 そういえば俺に恋人がいた時は年末年始彼とあまり会っていなかったな、などと当たり前のことを思い出した時、ぷつりと胸に何かが刺さったのを覚えている。  同情とも、後悔とも取れない曖昧で寂しくて鋭い何か。  そこでは海を前にしての光のショーが開かれていたけれど、あんまり人が多いものだから、ショーが終わるまで少し離れたところでふたりで立っていた。俺も宗登も人混みはそんなに得意じゃない。  でも何かクリスマスらしい所に行って、らしいものを食べて……なんてミーハーな考えもあったりして、結局今の時期に一番人が集まりそうな所へ来てしまった。  年末のこの空気に呑まれて、やっぱり俺たちも浮足立っているのだろう。    遠いところでシンプルなインストゥルメンタルに合わせて、さまざまな色のサーチライトやレーザーの群れが建物や床を駆け巡っている。  水面にいくつも光が反射して揺らめいて、この距離から見ていてもフィクションの冬の世界に入り込んだみたいな気持ちになってなんだか楽しい。写真を撮るのも忘れて見入ってしまった。  隣にいる宗登はどうしてるかな、と思い宗登の方に顔を向けると俺と同じようにただショーを眺めていて、彼の真っ黒でつやつやした瞳にいくつもの光が閃いてとても綺麗だった。  ショーが終わってしばらくすると、ようやく人が散りぢりになって落ち着いてきた。綺麗な音楽やそこらじゅうを駆けていたライトは止んで、静かに揺れる光たちだけがそこに留まっている。  二人して通常モードになった、今、今だよ!などと笑いながら、海側の柵へ早足で向かっていく。柵に手をかけて顎をあげると、夜の冷たい潮風が顔いっぱいに当たった。 「綺麗だったね」 「うん、よかったなぁ。なんか見入っちゃって、写真撮り忘れた」 「あ、俺も撮ってない……」 「うん、ふふ、撮ってないの見てた。ずっと眺めてたね」  俺のこと見てたの、と宗登が照れくさそうに笑いながら下を向く。眉頭から外に向かって真っすぐ上がっていく太い眉と鋭い目、黒く短い髪、高い背にがっしりとした体躯。誰に対してもストイックで堅い印象を与える彼が、嘘みたいに柔らかく笑うのを俺は知っている。  潮風に当たる彼の顔を時折確認しながら、二人で並んで静かに海とその向こうにある都会のビル群を眺めていた。まだ残っているイルミネーションたちは、一定の間隔で小さな青や水色の光を生んでは消して、俺たちの目を楽しませてくれる。 「文昭がいないと……空気が薄い感じがする」  宗登が海を眺めながら、瞬く光の群れを前にそうぽつりと呟いた。はぁ、と深呼吸をした彼の息は真っ白で、風に合わせて揺れていた濃い灰色のマフラーの横をその白が通り過ぎて行く。 「え?空気?」 「そう、空気」 「……」 「文昭がいるとね、ちゃんと息ができる」  唐突に海に向かって投げられた予想外の言葉に、驚いて目を丸くしてしまった。俺がいないと空気が薄いなんて、そんなのふつうに大変じゃないか。  その言葉通りに受け取るものではないと頭では理解しながら、そんな感想しか浮かんで来ない。   「ごめん、変な事言っちゃって」 「あ、いやいいよ。変じゃないし……」  変とは思わなかったけれど、彼の言葉をうまく汲み取れてはいないと感じた。続けて何を言おうか迷っていると、その思考の靄をかき消すように宗登がこちらを向いて笑う。  冷たい海風と淡いライトに晒された、宗登の端正な顔が俺の視界を支配する。   「ごめんね、忘れて。予約してたケーキ貰って帰ろう」 「あの……えっと、うん」  待って、と伝えようとしてその言葉を飲み込む。弱めの光に照らされた宗登の顔は、半分はうっすらと明るく、もう半分はとても昏い。柔らかいような、寂しいような笑顔を向けられながら、俺たちは海を後にした。    ふたりで宗登の家に向かう電車に乗り込む。彼の家の最寄り駅でケーキを受け取って、二人だけでささやかなパーティをしようと事前に話していた。    駅を通過する度に人は減っていき、ガラガラになった電車内でようやく座れた頃には、二人とも随分と疲れていた。忙しい時期だから余計に疲れは溜まってしまう。  意外と柔らかい彼の頬の肉が俺の肩に乗り、硬めの黒髪がちくちくと首にいたずらしてきた。俺のダウンジャケットと彼のコートが擦れる音がわずかにする。静かな寝息を立てながら眠りに落ちてしまった彼のぬくもりを横に感じながら、愛おしい気持ちが込み上げてくる。    少し頭を動かしてみると、黒々とした髪の奥に隠れているつむじが目に入る。中学の時、初めて彼の腕を引いた時から抜かすことのできなかった身長。話すときはいつも見上げるばかりだったが、今ではこうやってつむじを見る事も多くなった。関係性が変わると、相手のどこを見るかも変わるものなんだなと思う。 『空気が薄い感じがする』    カタンカタンと電車がレールの繋ぎ目を超える音と、すぅすぅと一定のリズムで刻まれる寝息を聞きながら、彼が放った言葉についてもう一度考えてみる。  そういえば中学生の頃、息ができてない彼を見た事があった。記憶の糸を手繰り寄せながらその時のこと改めて思い返す。   ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈    肌寒い日の午後、古い校舎、リノリウムの上で奏でられる不規則な足音、騒がしい笑い声、優しくて大きな男の子……。思い出の中で見つけた彼は今にも泣きそうな顔をして、はぁはぁと荒い呼吸をしていた。    いつものようにくだらなくて、心底嫌な奴らに絡まれていて、俺はそいつらに睨みを効かせながら「今から俺と一緒に帰るから」と言っていつものように彼の腕を引っ張って、そこからどこか、とにかく遠く、遠くへ彼を運んでいく。  そーゆーのやめろよ、と言ってもやめないからいよいよ色んな教師に触れ回ったり、もしくは俺が大声で暴れたりしておおごとにしてやろうかと思っていたが、宗登はそういう事を望まなかった。彼は喧嘩や争いを好まなかったし、余計に傷つけられるかもしれないと、怯えてもいたから。  それから彼が柔道を始めて、筋肉が付き出してガタイが良くなるにつれだんだんと嫌がらせが減ったのは良かったけれど、クソみたいだなとも思った。弱いものにしか向かえなかったあいつらを、今でも心の中で許してはいない。    二人で一緒に昇降口の近くまで来てから、彼の方に目をやると、まだはぁはぁと苦しそうにしながら制服の胸のあたりを自分の手で締め付けていた。 「白岩、大丈夫?」 「はぁ。はーっ……」 「苦しいの?」  喋ることすらできない、苦しそうな様子の宗登の背中を慌ててさすってやる。彼が倒れてすぐにでも死んでしまうんじゃないかと急に不安になって、心臓はバクバクと大きな音を立てていたし冷汗も止まらなかった。  壁を背に倒れるように座り込んだ宗登に合わせて、俺もしゃがんで彼の顔を覗き込む。いつもより小さくなってしまった、白いガラス玉の中のふたつの黒い点と目が合って、ますます怖くなった。  ごめんね白岩、助けられなくてごめん。 「はぁっ、たまるく、はっ、は。ごめ……」 「おれ先生のとこ行く!救急車呼ぼう!」 「はーっ、はーっ!」 「んぇ?しらいわ……」  ぜいぜいと苦しそうな呼吸にもならない呼吸を続けながら、青ざめた宗登が俺の右手を握ってきた。その手を振り払って教師を呼びに行こうか迷ったが、手に込められた力があまりにも強くて、直感的にこれを離してはいけないと感じた。俺の手が白くなるくらい強い力で握られて、彼の苦しさが伝わってくるようだ。  下校時間のピークは過ぎていたから、昇降口のひとけは少なかった。俺たちの間にはこんなにも緊張が走っているのに、先生も、生徒も、誰も俺たちを見ていないし気にしていなかった。冷たい廊下の上で宗登はひとりで戦っているのだと思った。  自分の心臓の音が、大人しくなって欲しいのにとにかくうるさく鳴るのが恐ろしかった。 「はぁっ、はっ、は……たまる、くん」 「ね、白岩、大丈夫?苦しい?」 「ちょっと、おさまって、きた……」 「ほんと?ほんとにへーき?」 「はぁ……う、ん……」  ようやくまともな呼吸ができるようになったようで、宗登の顔色が徐々に赤みを取り戻してくる。こんなに強く握られているのに宗登の手はとても冷たくて、俺は彼が死ぬ寸前だったのではないかと思って本当に怖かった。  生き返った宗登に安心して、嬉しくて、恐怖で動かなかった指をようやく動かして彼の手を握り返した。 「よかったぁ……なにこれ?心臓ほっさってやつ?うわ、怖かったー!」 「はぁ、もう、平気、だいじょぶだから……。田丸くん、ありがとう」 「俺なんもしてない。怖くて固まっちゃった……」 「そんなことないよ」  そう言って宗登はゆっくりと俺の手を解放する。汗ばんだ手のひらに風が当たって、冷たくなっていくのを感じた。  この頃の宗登は今より笑うことが下手だったけど、はっきりと俺にまっすぐな笑顔を向けてきた事を覚えている。  その後は二人で正門を抜けて、いつもみたいにお互いの帰路の分岐までだらだらと喋りながら歩いた。  会話の途中俺は何度か彼に病院で検査をした方がいい、と伝えていたように思う。そしてそのたびに大丈夫、と悲しそうに返された。 案外頑固なところがあるのは知っていたから、きっと病院には行ってくれないんだろうなと思った。  分かれ道でさよならをする時に、宗登がまた「田丸くんありがとう」と言ってきた。いいよーと返事をしながらその時俺は「なんか良かったな」と思った。  子供の俺は気持ちを言葉にする能力も足りていなかったけど、今ならわかる。あの時俺は、彼のことをとても大切だと思ったのだ。  今思い返せば、あれは過呼吸かそれに近いものだったのではないだろうか。  なんにもわからない子供だった俺は、あの時ただ彼を見守る事しかできなかった。   ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈  宗登の家の最寄り駅に止まるアナウンスが聞こえる。着いたよ、と彼の肩を軽く叩いて起こした。駅近くのパティスリーで予約していたケーキを受け取って彼の家へと向かう。  宗登は等間隔に並べられた街灯に一定のリズムで照らされながら、ケーキの紙袋を手にぶら下げてまだ眠たげにふわふわと歩いていた。  なんか落としそうだよ、と言って笑いながら彼から紙袋を奪う。危なっかしいから俺が運ぶことにした。   「眠い?」 「ん、平気。おきてる」 「んっふっふ、あんまり起きてないよ」  ぽやぽやとしたまま俺の言葉に応える様子がかわいくて、ますます笑いが込み上げてくる。  宗登の家に着いて、鍵を開けて玄関のライトをつける。ただいま、と言いながら見慣れた廊下を宗登よりも先に通り抜けて、リビングのライトのスイッチもすぐに押してやった。 「宗登、着替えてからちょっと休もうか。疲れてるみたいだし……」 「んー、ごめん……。今日、朝から仕事が増えちゃって」 「大丈夫だよ。お疲れ様」  今日会った時には何も言ってこなかったが、随分と仕事がハードだったようだ。彼はスポーツジムで働いているから、シンプルに肉体労働が増えてしまったのかもしれない。  ひとまず宗登のマフラーやコートを剥がしながら着替えさせて、自分も上着を脱いですぐにスーツから部屋着に変わった。  そういえばケーキを冷やしておかなくては、とキッチンに行って冷蔵庫の扉を開けると、彼が作ったであろう揚げる前の唐揚げやタッパーに入ったカラフルな前菜、シャンパンなんかが入っているのが目に入った。  宗登に料理は俺が用意しておくから、と事前に伝えられていたが、できるだけ自分が作ったものを出来立てで俺に食べさせようとしていたことがわかって、なんだか心がぎゅっと締め付けられる。   「宗登、おいで」  ケーキをしまってから、ソファに座っていた宗登の隣に腰かけて彼の肩を抱いた。セーターのふんわりとした感触を指先で愉しみながら肩をさすってやると、彼が素直に俺にもたれかかってくる。  先ほどつけていたエアコンがようやく効いてきて、暖かい空気が部屋に満ちてきた。  ふと前方に目をやると、テレビの置かれたローボードの上についこのあいだ俺がプレゼントしたスノードームが飾ってある事に気付く。 「あ、スノードーム置いてる」 「うん……文昭がくれたやつ。可愛い」 「可愛いの好きだもんね」 「うん、サンタの……目がすき」 「んふ、つぶらな目な」 「ん……」  スノードームの中には細かく装飾されたツリーと、カラフルなプレゼントたち、そして赤い服を着たつぶらな瞳のサンタクロースが佇んでいる。  クリスマスシーズンを迎えた雑貨屋で偶然それを見つけた瞬間、宗登の顔が思い浮かんだ。スノードームに住む丸くて小さな黒い目をしたサンタクロースがなんともいえずかわいらしくて、こういうものが好きな彼が気に入るだろうなと思ったから。  ボードの上には他にも一緒にクレーンゲームで取ったふわふわのつぶらな目をしたぬいぐるみがいくつか置いてある。  俺と付き合う前から彼がこういった可愛いものが好きな事はうっすらわかっていたけれど、今はもうこれっぽっちも隠さないで部屋を自分の好きなもので満たそうとしている。俺はそれが嬉しかった。    俺の肩口でうとうととしている男の頭に、自分の頬を預ける。彼の身体の熱が伝わってきて心地が良い。 「宗登、ちゃんと息できてる?」 「ん?」 「俺がいないと空気薄いんでしょ」  少しの沈黙のあと、ん、んむ……となにかもごもごと口から音を発しながらまどろむ宗登が俺の肩に頭を擦り付けてきて、大きな犬に甘えてられているみたいな気持ちになる。   「うまく説明できないんだけど……本当、本当だよ」 「うん」  帰りの電車の中で遠い記憶を呼び覚ましたおかげで、俺もわかった気がした。  あの時以来俺の前で彼が過呼吸のようになった事は無かったが、それは彼が成長するにつれて隠す事が上手になったからだと思う。好意も、悲しみも怒りも上手に隠していた。俺に嫌われてしまうのを恐れて。  うまく息ができなかった宗登は、きっとまだ宗登の中にいるのだろう。  彼が生きていく中で呼吸ができなくなりそうな時に、あの頃の俺のちっこい手を思い出して握ろうとしてくれているのかな。    分厚い筋肉を鎧のように纏った、優しくて強い、でも怖がりで心配性で、可愛いものが好きなのが宗登。変わらなくていいよ。俺は絶対に宗登を嫌いにならないし、ずっとそばにいてあげるからね。  いつか、あのかわいらしいスノードームみたいに、綺麗な幸せだけを閉じ込めたふたりだけのお城を作ってそこに一緒に住めたらいいのにな。  宗登は俺がいないと息ができなくて、死んじゃうかもしれないから。  幸せなものを分厚いガラスの壁で覆って、絶対に傷つかないようにして、そこで彼は俺とずっと一緒に幸せでいるのだ。    随分と変わったきっかけで俺たちは付き合う事になったけど、あの奇妙な出来事があって本当に良かったと思っている。  宗登は時々、付き合う前の俺にしていたことに対してとても申し訳なさそうにするし、確かにあの時の彼はおかしかったとは思うけど、一番宗登らしい狂い方だったとも思う。  俺のことがどうしようもなく好きなのに、怖くて息苦しくて、死んじゃうかどうかの瀬戸際だったのかもしれない。  だから彼は狂ってしまった。   「宗登。息できなくてしんじゃう前に俺のところに来てくれてありがとう」 「文昭……」 「もう大丈夫だよ。俺がいるからね」  俺が彼に抱く愛情は、エゴイスティックで、随分と過保護なものなのかもしれない。でもそれでいい。  結果論と言えばそれまでだが、俺は心のどこかでこういう関係を望んでいたのかもしれない。どうしようもなく濃くて、揺るぎなくて、でもどこかが歪な、苦しくなりそうな強い気持ちを彼と交わすことができるのが、このうえなく嬉しいし、なんだか気持ちが良い。  宗登が俺に甘えて、俺を恐れて、俺を求めて、俺に暴かれる。新しい彼を見つける度に今まで味わったことのない官能的な幸福に包まれた。もう離れられないと思う。 「文昭、ありがとう」  大好きだよ、と囁きながら俺を抱きしめる宗登の瞳は、少し濡れている気がした。彼の額にかかった髪を手のひらで持ち上げて、そこに口づける。   「眠いね、宗登」 「ん……」    暖かい空気に包まれながら、彼が眠りにつくまで頭を撫でてやった。    スノードームみたいなお城を作ってあげよう、あなたがじょうずに息ができるように。

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