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秀才女子と入れ替わったオレは縄で縛られていた!?『ナイショノカタチ』vol.4~もうひとつの『ないしょなんだからっ!』先行公開版

vol.4先行公開版_前書き


引き続き、『ナイショノカタチ』vol.4をFANBOXで先行公開します。

「先行公開版」は厳密にはまだ未完成状態のものですので、それでも読んでみたいという方に向けての有料公開です。


『ナイショノカタチ』は完結まで書き上がった暁には、完成版をpixiv小説で今までのように全体公開しますので、お待ちさえいただければ、いずれはvol.2の続きとして、普通に読めるようにする予定です。

(その際は、FANBOXでもあらためて完成版を全体公開する予定です。)


『ナイショノカタチ』はどんどん文章量が増えてしまい、現在vol.6で完結する予定になっています。

なのでvol.5も先行公開になる予定です。

ナイショノカタチ vol.4~もうひとつの『ないしょなんだからっ!』~


scene.15--------------


「……紅音が、居ない。」

昌利はその場に棒立ちになった。

なつきが書いた「紅音死ね」の日記帳が蛍原紅音に見られたのだ。

そして全開している窓。

ただでさえ精神が不安定な今の紅音だ。

きっとなつきの狂気的な殺意に恐怖を覚え、あわてて窓から逃げ出したのだろう。

今ここにいるなつきは、秋月なつきではなく高原昌利なのだというのに。

敵ではない、蛍原紅音の味方だというのに。

昌利は自分の不甲斐なさに奥歯をギリリと噛んだ。

「あ……紅音ちゃん、居ないの?」

杉浦杏奈が部屋に入ってきた。

「ああ、逃げちゃったみたいだ。」

どうしていいかわからず立ち尽くす昌利を尻目に、杏奈は落ちている日記帳を手に取り「なるほど……これ見たのね」と言ってページをめくってみたり、開け放された窓から顔を出しキョロキョロと見回してみたり、せわしなくなつきの部屋の中を歩き回った。

「えっと……ちょっと机、借りるね。」

一通り見回したあと、杏奈は自分の荷物からノートパソコンを取り出して、机の上に広げてモバイルルーターを繋ぐ。

「あ……紅音ちゃんの居場所、た、多分わかるよ。」

「え?」

昌利は呆気にとられる。

「あ、紅音ちゃん、ケータイ持ってるから。

GPSでどこに居るか……多分わかる。」

唖然としている昌利を尻目に、すごい速さのタイピングでキーボードを打ちながら画面から目を離さずに答える杏奈。

GPS(グローバル・ポジショニング・システム/全地球測位システム)か!

そーいえばケータイ電話にはそんな機能も付いてたっけ。

「そんなこと出来るのか?」

「なつきちゃんを探すのは……さすがに無理だけどね。だってケータイ持ってないから」

珍しく杏奈が軽口を叩く。

明らかに調子に乗っているそのさまから、パソコンとかに本当に詳しいのだろうということがうかがえる。

「こういうのはね……パ、パスワードがわかれば、結構どうにでもなるものなのよ。」

電話番号から辿ったのか、パソコンの画面は、紅音のGPSの場所を特定するウインドウをもう開いている。

あとは4ケタのパスワードを打ち込むだけだ。

しかしこのメーカーのケータイにはパスワードの打ち込みを3度ミスするとロックがかかるセーフティ機能がある。

2度打ち込んでいるが、打ち込んだ数字は2度とも弾かれた。

「ロックかかってもクラックすることはできるんだけど、それだと時間掛かっちゃうからな……どうしよう……」

実は杏奈がさらりととんでもないほどの凄いことを言っているのだが、パソコンに詳しくない昌利には、何を言っているのか全然わからない。

それよりもいつもは大人しくて口ごもりがちな杏奈の口調が、やたらとテキパキとした早口になっていることの方に驚いていた。

「!!……まさかね……」

何かを閃いたらしい杏奈が、淀みなく数字を打ち込みエンターキーを押す。

バスワードが通った。

「うそっ!? だって、これって……」

打ち込んだ数字の組み合わせに、思い当たるものがあったのか、杏奈は驚いた。

が、今はそれよりも紅音の居場所を確認する方が先だ。

杏奈はGPSの発信地点に目を移す。

「わかったわ! あ…紅音ちゃんは学園の校舎に居るよ!!」

こ、こいつ天才か!?

昌利は口をあんぐりと開け、知性的な顔つきのなつきとは思えないほどの間抜けヅラを晒していた。

自分がただ途方に暮れている間、ものの数分で杏奈は紅音の居場所を突き止めてしまったのだ。

唖然として間抜けな顔を作っている昌利に、杏奈は追い討ちをかける。

「それと、紅音ちゃんは多分なつきちゃんと一緒に居ると思う。

きっと、わたしとあなたが会ってる間になつきちゃんに拐われたのよ。

窓に男の人の……高原くんのだと思う足跡がついてたから。

外から二階に上がろうとして、多分花壇を踏み荒らした時にでも靴に泥がついたのね。

それに、玄関に紅音ちゃんの靴、残ってたでしょ。

いくら慌てているからって、一人で飛び出して行くなら、少なくても玄関から靴を履いて出て行くと思わない?」

自分の推理を一気にまくし立てると、むふーと鼻息を荒く吐き、杏奈は得意気に腕を組みながら眼鏡をキランと光らせた。

まさに名探偵さながらである。

いつもの気弱な姿が嘘みたいだ。

「……お前、凄いな」

昌利は驚きと称賛の声をあげつつ、念を押す。

「その推理、信じていいんだな?」

紅音がなつきに拐われたのが事実なら、なつきの手で校舎のどこかに監禁されている可能性が高い。

その場合、紅音を救い出すには、多分もう時間があまり無いはずだ。

真面目に問いただす昌利に、テンションが上がっている杏奈からは、斜め上を行く答えが返ってきた。

「『心配するなよ……シャーロック・ホームズは全巻読んでるんだ。』」

ネットでミーム化されている片腕にサイコガンを持つ男の言葉を少しもじって、杏奈は、むふーと得意げに真似た。

人生で、一回は言ってみたいフレーズである。

むふーむふーとさらに鼻息が荒くなった杏奈は、上がり切ったテンションのまま眼鏡の蔓に手を添え、そのレンズをさらにキラキランと光らせながら、一気にまくしたてる。

「でねでね、カプはワト×ホーこそ神。リバ有りの方が広がるからわたしは容認派。そしてレストレード警部総受けは激萌えだと思うの!」

……よくわからないが、色々と台無しである。

オタクが妄想に走り、自分の得意ジャンルに関しては別人のようになるさまをまじまじと見せつけられた昌利は、ただ圧倒されて「お、おう」とたじろぐしかなかった。

呆気に取られて困惑しているなつき姿の昌利に気づき、はたと我に返った杏奈の顔は耳まで真っ赤になった。

「わ……わたしたちも、急いで学園に行きましょう。

だ、だって……もう悪い予感しかしない……もん……」

杏奈はいつも以上に消え入りそうな声で言った。

「そ、そうだな。行こう!」

とりあえず見なかったことにして、昌利は頷いた。

……それにしても、大野薫は杏奈のこの二面性を知ってるのだろうか?

こんな杉浦杏奈と付き合うんじゃ、あいつもまぁ色々と大変だなぁ。と心から同情した。


scene.16--------------


二人は教員専用の裏口から学園の校舎に入った。

深夜の校舎はさすがにひと気もなく怖いくらいに静かである。

昼間は生徒の活気に溢れている分の落差のせいか、あたかも廃墟に居るような薄気味悪さがそこにある。

なつき姿の昌利と杉浦杏奈は学園に向かう際に制服に着替えていた。

誰かに見つかった時に生徒であると見た目でわかってもらえる方が、言い訳が立ちやすいからだ。

忘れ物を取りにきたとでも言い繕えばいいだろう。

まぁ、こんな深夜に不自然過ぎると言われればそこまでだが。

緊張しながら辺りを見回す昌利。

裏口から覗く1階の廊下に人影は見えない。

「あ……あのね、た、高原くん」

後ろから不意にセーラー服の袖を杏奈に引っ張られて、心臓が飛び出しそうになる昌利。

「な、何!? どうかした?」

驚いて不用意に声を上げてしまったかと、昌利は周囲を見回した

「す、凄くね、言いにくいんだけど……」

パソコンのキーボードを叩いていたときとは別人のように……というか、いつものテンションに戻って、おとなしくなった内気な杏奈がもじもじとしてる。

「何?」

辺りをうかがいながら、声だけで答える昌利。

「あの……ね、この制服……ね、すごくキツイいの……」

秋月なつきの家から学園に直接向かったため、杏奈にはなつきの予備の制服を貸している。

「そうか? なつきの身長とお前、そう変わらないだろ? 体型だって……」

と言いかけて、昌利はハッと気づいた。

「ち……違うの……キツイのは、胸……なの。」

振り向いてまじまじと杉浦杏奈を見る。

その大きな胸が、ボタンを弾け飛ばさんばかりにセーラー服をパッツンパッツンに押し広げ、足りなくなった布の面積は、自らの裾で杏奈のおへそを隠すことを諦めていた。

「か……貸してもらった時は、大丈夫かなって……思ってたんだだけど……」

おへそ丸出しのセーラー服姿のメガネっ娘って、まったくどこのアダルトビデオだよ。

本来、男なら喜びまくるシチュエーションであるはずなのだが……って、数時間前によぎったばかりのフレーズが昌利の頭の中をまたも通り過ぎる。

「あー、はいはい。どーせわたしの胸は小さいですよーだ。

いいのよ、別に無理に着ていただかなくたって。」

杉浦杏奈、お前もか!!

昌利の複雑な乙女心が地団駄を踏む。

「そ……そうじゃなくて、お洋服……痛めたらごめんね……って」

すまなそうに首をすくめる杏奈。

「そんなこと言ってる場合じゃないんだから、気にしなくていいわよ。もう!」

自分の正体を晒してからは、杏奈に向かっては昌利口調で喋っていたのに、こんな時だけはなぜか自然と女言葉で怒ってしまう。

秋月なつきの生き辛さを、意図せずにまたひとつ噛み締めてしまう高原昌利であった。

「とりあえずは、誰も居なさそうね。」

女言葉の抜けない昌利は、再度注意深く辺りを見回した。

これだけ間抜けな気配を振り撒いたというのに、周囲からの反応はどうやら何もないようだ。

ひと気は感じられない。

昌利と杏奈は気を取り直す。

「それじゃぁ、あとは打ち合わせ通りに。よろしくね。」

「う、うん……わ、わかった。」

昌利と杏奈は二手に別れ……ようとしたら、杏奈がまた昌利の服の袖を掴んだ。

「あ……た、高原くん……」

「どうした?」

おどおどとする杏奈を見て、昌利は自然と男言葉に戻った。

「よ、夜の学園って……薄気味悪いよ……ね……」

「怖いのか?」

「……うん。」

「仕方ねーなぁ。」

昌利は手に持っていた懐中電灯のスイッチを点け、顔の下から照らした。

昌利の……なつきの顔が光に照らされ悪魔のように見える黒い影をその顔面に作り、にたぁと笑う。

「ひぃっ○△□×○□△×……!!!!」

杏奈は声にならない悲鳴を上げた。

「おいおい、こんな古典的なおどしにそこまでビビんなよ。」

いきなり驚かされた杏奈は、涙ぐんだ泣きそうな顔で、うらめしそうに昌利を睨みつける。

「紅音はもっと怖い思いをしてるかも知れねーんだぞ。」

涙ぐみながらも、昌利の言葉に杏奈はハッとした。

「……そ、そうよね……ご、ごめんさい……」

「ま、夜の校舎が薄気味悪いのは事実だからな、仕方ねーさ。

だからさ、とっとと紅音を助け出して、帰ろうぜ。」

そう言うと、昌利はなつきの顔でにっこりと笑った。

その笑顔は、中身が昌利だったとしても、杏奈にとってはもう何年も見ることのでき無かった、久し振りに見るなつきの笑顔だった。

『そうだ、紅音ちゃんだけじゃない……なつきちゃんだって、助けないと』

杏奈の心の中で、その決心が固まった。

「うん。……みんな、助けなきゃ。」

二人はうなずくと、今度こそ二手に分かれた。


手短に決めた紅音の救出プランはこうだ。

先ず昌利は校舎の中を1階の端から紅音の居場所を探して歩くローラー作戦。その間に杏奈は配電室に移動して学園中の大元である電源ブレーカーの位置を確認し、30分しても昌利からケータイに連絡がなければブレーカーを落とし学園中を停電させるというもの。

昌利はケータイを持っていないが杏奈の番号は教えてもらったので、学園内の教員室や用務員室にでもある電話からならかけられるし、上手く行って紅音を学園外に連れ出せているならその辺りにある公衆電話からでも連絡は取れる。

それに学園中の電源ブレーカーを落とせば、なつきが紅音に何をしようとしているかはわからないが、その邪魔にもなるだろうし、上手くすれば学園が依頼している警備会社に通報が行って、警備員が駆けつけてもくれるだろう。

自分たちの手で紅音を救出できれば良し。出来なかった場合でも人の命がかかっているのだ。騒ぎは大きくしたくないが、最後の手段としては仕方ない。

30分という時間も騒ぎを大きくさせないよう二人は努力したのだ、と割り切るための目安というだけでそれ以上の意味はない。

人命が第一。

穴だらけなプランなのは百も承知しているが、とにかく時間が無い。

なつきが凶行に走る前に何とかしなければならない方が先だ。


学園の4階までを見て回った昌利は少し焦っていた。

自分が軟禁された数学準備室や社会科準備室、保健室や図書室など、秋月なつきが蛍原紅音を閉じ込めそうな場所には誰も居なかったからだ。

残りは5階と6階、それと屋上だ。

いや、もしかしたら体育館? 体育用具室なんか特に怪しい気が……

しかし、今から引き返したとしても時間がかかり過ぎる。

不安に駆られ焦りながらも、音が立たないように早足で階段を上る。

闇夜の懐中電灯は自分の位置を逆に丸見えにするため、持っては来たがなるべく点けないようにしていた。

頼りは窓から差す月明かりと非常口を示す常夜灯だけだ。

5階に登った時、上の階から何か気配がしたような気がした。

昌利は5階の教室を見て回るのを飛ばして、6階に駆け上がった。

昌利が着る、なつきの制服のスカートが翻る。

そうだ!

6階は階段を挟んで左手側には通常の教室が何室も並んでいるのだが、右手側にはその部屋だけ隔離されたように独立した部屋がひとつだけあるのだ。

それは、視聴覚教室!

簡易なスクリーンとプロジェクターも完備され、映像教材を視聴することを目的とした小さな劇場のような教室だ。もちろん防音も完璧。

小さな段差で作られるスクリーン側の舞台に相対しては、生徒用の机と椅子が観客席のように固定されて並んでいる。

天井からはブラウン管のモニターが数台吊るされるように設置されていて、舞台から離れている後の席でもモニターで視聴しやすい造りだ。

ガラス窓には暗幕がカーテンのように付けられているので、暗幕を広げれば外に光も漏れない。

ここだ! 昌利は直感した。

昌利は視聴覚室の前に立つと、重い扉を手前に引いて開けた。

視聴覚室の室中に入るには、防音のために設置されている3メートルほど先にある正面の重い扉をもう一度開けなければならない。

その短い通路の右手側には視聴覚室の機器を操作するモニタールームの扉もある。

本当はモニタールームに入って、視聴覚室全景の様子を確認できるのがベストなのだが、もしなつきがモニタールームに居た場合、今の昌利姿のなつきには力でかなうわけがない。逃げ場の無い狭いモニタールームの中では逆に抑え込まれてしまう。

少しだけ逡巡をしたのち、昌利は意を決してその華奢な腕で扉の取手をつかむと、視聴覚室に入るための重い扉を手前に引いた。


scene.17--------------


開いた扉の隙間から、煌々とした光が視聴覚室から溢れ出した。

今まで暗闇の中に居た昌利は、眩しくて目を細める。

部屋中には大音響で艶かしい女の喘ぎ声が響き渡っている。

スピーカー越しに出ている声だ。生の声でないことはわかった。

アダルトビデオでも流しているのか?

扉を開き、視聴覚室の中に入る昌利。

はたして、そこに蛍原紅音は居た。

「紅音!!」

思わず声を上げた昌利の目に飛び込んだのは、舞台の上で全裸にされ、全身を縄で縛られて、膝立ちの状態ながらも掲げた両腕を天井から吊るされてうなだれている、紅音の姿だった。

そして何よりも驚いたのは、正面のスクリーンと天井から吊るされてる数台のモニターのその全てに映されていた映像の内容だ。

フリルのたくさんついた下着を身にまとった紅音が、腹の出た中年男とセックスをしている映像が流されていたのである。

生徒の噂に出ていた、紅音の援交ビデオ。

実在……したんだ……

その映像の中では、紅音自らが中年男の男根を嬉々として咥え、自らの女陰に受け入れ、快楽の嬌声を上げている。

スピーカーから聞こえていたのは誰でもない、紅音のいやらしい喘ぎ声だった。

あまりの予想外の状況に、一瞬我を忘れかけた昌利だったが、すぐに気を取り直した。

兎にも角にも、紅音を助け出す。

全てはそれからだ。

扉の開いた気配に気付いたのか、吊るされてうなだれていた紅音が顔を上げた。

羞恥に頬を赤く染めながらも、その屈辱に大粒の涙を流す紅音がか細い声を出す。

「なつき……来る……な……

は、早く……逃げ……」

か細い紅音の声は、スピーカーから流れる自分の喘ぎ声にかき消され、なつき姿の昌利の耳には上手く聞き取れなかった。

「紅音! とにかく今、助けるから!!」

昌利は舞台に吊るされている紅音に駆け寄ろうとした時、後から声がした。

「いやぁ、びっくりしたよ。

よくもまぁ、こんな所まで探し当てて来たもんだ。」

昌利の姿をしたなつきである。

どうやらモニタールームの方に居たらしい。

「苔の一念なんとやら……か?」

なつきの姿をした昌利を見つけて、モニタールームから視聴覚室に入って来たのだ。

なつき姿の昌利は、振り向いて昌利姿のなつきを見た。

「なぁ、なつき。もうこんなこと、やめようよ。」

なつきの目を見て、昌利は言う。

「オレには何でそこまでお前が紅音のことを憎んでるのかはわからない。

でもさ、お前の姿になってわかったことがある。

お前、寂しかったんだろ。辛かったんだろ。

それだけは、すげー、わかる。

お前がこんな思いしてたなんて、お前になるまでわからなかった。

体験したオレが言うのも変だけど、ホント、身に染みてわかった。

だからさ、こんなこと、もうやめよう。」

昌利の言葉に、心底呆れたという顔をするなつき。

「おめー、莫迦だろ。あ、いや悪い、莫迦だって知ってた。

てか想像以上の莫迦だ。」

ポケットから小瓶を取り出す。

「最後の入れ替わり薬、無くなってもいいのか?」

昌利姿のなつきは小瓶を親指と人差し指の2本でつまむと、さも落とさんとばかりにゆらゆらと揺らした。

なつき姿の昌利は、即答する。

「紅音を助けてくれるなら、それでいい。」

一拍置いて、昌利は言葉を続ける。

「お前がオレの姿のままでいいなら、オレもお前の姿のままでかまわない。

それで紅音を放してやってくれるのなら、それでいい。」

昌利姿のなつきは呆気に取られた。

それは予想だにしない返事だった。

いやむしろ、昌利のことを知っていればこそ、予想通りの答えだったのかも知れない。

「あははははは。」

昌利姿のなつきは大笑いした。

あまりに笑い過ぎて涙が出る始末だ。

その笑いはしばらく止まらなかった。

「まったく、もう。莫迦にはかなわないわね。」

なつきの口調が、昌利の声のままでなつきに戻る。

「わかったわ、降参よ、降参。

もう、わたしの負けね。」

昌利姿のなつきが、片手に小瓶をつまんだまま両手を上げた。

「なつき、それじゃぁ……」

「いいわよ、元に戻ってあげるわ。

戻り方、わかっているわよね。」

なつきは小瓶を昌利に優しく手渡す。

掌に置くと小瓶を昌利の指で包むように握らせた。

「最初にひと口飲んで、ふた口目を口移しで……相手に飲ませる。」

「正解。」

なつき姿の昌利は、小瓶に入った琥珀色の液体をひと口飲んで、ふた口目を昌利姿のなつきに飲ませようと、唇を近づける。

二人の唇が重なろうとした時、昌利姿のなつきはなつき姿の昌利の口と鼻を手で塞いだ。

驚いたのと息ができないのとで、昌利はふた口目の液体も飲み込んでしまい、激しくむせて、その場にうずくまる。

呆れ顔のまま、昌利姿のなつきが見下ろしている。

「お前、本当に莫迦だな。ここに何しに来たんだよ。

紅音を助けもしないで何してんの? 雰囲気に流されてんじゃねーよ。

てか最初に言ってるだろ『下手したら一生このまま』だって。

わたしはなつきになんか戻る気はハナからねーんだよ!」

液体が気管に入り、ゲホゲホと咳き込むなつき姿の昌利。

「ちなみに今お前が飲んだの、媚薬な。それも結構強力なやつ。

まったく、薬の色の違いもわかんねーんだから話にならない莫迦だわ。」

うずくまってるなつき姿の昌利の横腹に思い切り蹴りを入れる、昌利姿のなつき。

今度は痛みに悶絶し、昌利は息が出来なくなる。

「そーだなー。

どーせ最後だし、媚薬が回る間、昔話でもしてやんよ。

何も知らないでいるのも、いいかげん可哀想だもんなぁ。」

うずくまったなつきの姿を見つめながら、吊るされたまま紅音は唖然としていた。

身動きの取れないまま、二人のやりとりを見ているしかなかった。

助けに来たなつきが昌利? 私を縛った昌利がなつき?

頭が混乱する。

昌利姿のなつきがなつき姿の昌利の髪を掴み、その顔を引き上げる。

「全部教えてやるよ!

わたしが何で、この紅音のことを死ぬほど殺したいのかをな!!」

そして紅音の方に顔を向け

「紅音の振りをしてる、偽物の紅音! お前のことをだ!!!」

そう叫んだ昌利の顔をしたなつきの目には、常軌を逸した狂気の色が宿っていた。


scene.18(recollection_01)--------------


幼少期。

とある出来事を切っ掛け出会った二人——秋月なつきと蛍原紅音はいつしか互いを深く愛していた。

6歳という年端も行かない年齢など、その〈純愛〉には意味を為さなかった。

もしかしたら、愛という言葉が正確ですらないくらいに、なつきは紅音を尊敬し、敬愛し、依存していた。

また同時に紅音からも尊敬され、敬愛され、依存されている事実に、なつきは誇りを持っていた。

そして同じように蛍原紅音もまた、秋月なつきを深く愛していた。

それは、大人のような肉体関係などという不純な行為は一切存在しない、心こそが通じ合う文字通りの〈純愛〉。

幼さからくる戯れのごっこ遊びともかけ離れ、大人の使う性的な意図すら持たない、本当の意味でお互いを必要とし合う心と心を繋ぐ愛。

二人はその年齢には見合うとは思えないほどの真実の愛で、深く、硬く、結ばれていた。

そう、二人は愛し合っていたのだ。

そんな二人の愛は、もちろん永遠に続くはずだった。

そう、「はずだった。」

小学三年の初夏に横宮純太という少年が転校してさえ来なければ、きっと二人の愛は永遠に続いていた、はずだったのである。


転校してきた純太のことを、紅音は何かと気にかけるようになった。

担任の教師にお願いされたからだということはわかる。

ただ、なつきは自分の大切な紅音を少しだけ奪われた気がした。

幼いながら、それは単なる幼稚な嫉妬心だという自覚も、なつきにはある。

紅音の心が本当に向いているのは自分の方なのだということは、当然わかっている。

この感情は無粋なものでしかないのだ。だから我慢した。

……あの時までは。

あの日——漆澤山(しちさわやま)になつきと紅音、純太と杏奈の4人で登ったあの日から、紅音の様子がおかしくなった。

突然、紅音が自分の方を向かなくなったと、なつきは感じてしまった。

何故だか理由がわからない。

わからないから問い詰める。

問い詰めたことで、紅音と喧嘩別れしてしまった。

家に帰ってから、なつきは死ぬほど後悔した。

明日、必ず謝ろうと。

大切な紅音と仲直りをするんだと。

心に決めて登校した次の日、紅音は学校に来なかった。

純太と一緒に再び漆澤山に登っていたからだ。

その日、紅音と純太は崖から転落し、純太は紅音を庇って死んだ。

崖からの転落の大事をとったこともあったのだろう、純太の葬式にも顔を出さなかった紅音が再び登校するようになったのは、ひと月後のことであった。

喧嘩別れをした手前、なつきはお見舞いにも行けずに、紅音にはずっと会えずにいた。

正確にはお見舞いの打診の電話を数回はかけたものの、紅音とは直接話すことができず、紅音の母親に「ごめんね、今は誰とも会いたくないみたいで」と、取りついではもらえなかった。

そして、久しぶりに目にした紅音は、なつきにとって、別人になっていた。

クラスメイトには以前と何も変わらぬ紅音に見えているらしく、みんな紅音の復帰を素直に喜び、今までのように明るく凛とした紅音と普通に接している。変わったところは何もなかった。

しかし何故だろう、なつきの目にその紅音は、紅音であって紅音でない、以前とは違うまったくの別人のように見えていた。

なつきにはもう、そんな紅音に謝ることはできなくなっていた。

そして、二人はいつしか疎遠になって行った。


それから年は過ぎ……今から半年前、なつきは部屋の片付けをしていると、懐かしい1枚の写真を見つけた。

小学三年の初秋、漆澤山で4人で登った時に撮った写真だ。

撮っている杉浦杏奈は写っていない、子供の頃の秋月なつきと蛍原紅音、横宮純太の3人が写っている写真。

純太のことなど見たくもないなつきは、当時杏奈から写真を受け取ったあとは適当な所に放り投げたままだったので、目を通すのもそれ以来ぶりだ。

破って捨てようかと思った時、ふと、この写真に何故か違和感を感じた。

「何かしら?」

この写真、何かがおかしい。不自然だ。

杏奈が写ってないのは、写真を撮っているのが杏奈だからだ。それは不自然ではない。

3人の並び順? いやそんなことではない。

「そういえば、横宮くんが手に持ってるこの七色の彼岸花をもう一度採りに行って、横宮くんは転落死したのよね?」

なつきがひとりごちる。

「もう一度採りに行った? ……何で?」

確か、この写真に写っている彼岸花は杏奈がもらったと言っていた気がする。

「いらないからあげた花を、もう一度採りに行った?」

不自然だ。不自然過ぎる。

「おかしいわよ、何で?

だいたい横宮くんが、何で……」

言いかけて、なつきがこの写真の不自然さの本当の意味に気づいた。

「何で、紅音みたいに頬に手を当てたポーズしてるの……?」

緊張したり考えごとをする時に、宙で頬杖をつくように頬に手を当てるのは、紅音の癖だ。

なつきは紅音にその癖があることに気づいた時、完璧に思える紅音にも、ちょっとした弱さが垣間見れるような気がして、さらに好きになった覚えがある。

だから間違いはない。

自分が知ってる紅音のことは、全て覚えている。

その時、なつきの背中に戦慄が走った。

「わたしが知っている紅音……?」

全ての不自然さが、ある一つの答えに辿りついてしまったのだ。

あまりにも莫迦莫迦しい、突拍子もない答えに。

「この写真の横宮くんって……もしかして、紅音なの?」

言ってて、自分でも莫迦じゃないかと思う。

この時、紅音と純太の心が入れ替わっていた?

そんな男女の心が入れ替わる映画を観た覚えがある。

ありえない。これは現実の話なのだ。

しかし、しかしだ。

そう考えれば全ての不自然さに辻褄が合う。

紅音が別人のようになってしまい、なつきから離れて行った理由も。

今の紅音は……自分の知らない紅音……

「今の紅音は、横宮くん?」

そして、あの日死んだのは……紅音?

そう気づいた時、なつきの頬には涙が伝っていた。

「あの時、わたしが止めなかったから、紅音は死んだの……?」

喧嘩などせずに、二度目の漆澤山登りを止めていれば紅音は死なずに済んだのだ。

あまりにも莫迦げた妄想だとは心のどこかでは理解している。

しかし、自分のせいで紅音を本当に失ってしまっているのだという悲しみが、その莫迦げた妄想こそが事実だと、なつきに確信させてしまう。

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

なつきはその場にしゃがみ込み、独り、号泣した。


scene.19(recollection_02)--------------


「杏奈、ちょっといい?」

次の日の授業の合間の休憩時間に、なつきは久しぶりに自分から杉浦杏奈に声をかけてみた。

一晩中泣きはらして、冷静になれたことでわかったことがある。

七色の彼岸花。

見たこともないこの不思議な花が、全ての原因なのではないのか?

そうでなければ二人が転落死の危険を冒してまでこだわる必要がわからない。

このままでは紅音と純太が入れ替わってるなどという自分の思いつきなど誇大妄想で済まされてしまう。

証拠を得るためにも、七色の彼岸花のことを知りたい。

なので、純太から——純太になってしまった紅音から、あの当時、七色の彼岸花をもらったと言っていた杉浦杏奈に声をかけてみることにした。

「な……何? なつきちゃん。」

あまりにも突然、なつきから声をかけられて驚く杏奈。

何が恥ずかしいのかあわてて読んでいた本を手で隠している。

手の隙間から見えた本の表紙から察するに、どうやらBL本らしい。

まったく、この子は……

見なかったことにして、なつきが言葉を切り出す。

「話があるの。いいかしら?」

気が弱く、大人しい性格の杏奈はその大きな胸を揺らしながら、掛けているメガネに手を添えて顔を上げた。

「ひ、久しぶりね……。話すのって、この学校……入ってから初めてなんじゃない……かな?」

小三の時に紅音と別れてからは、生きること自体がどうでもよくなっていたなつきは、友人関係をことごとく切り捨てていた。

杏奈の言う通りどころか、話すのは下手をしたら小三のあの時以来初めてかも知れない。

「そうかもね。ところで聞きたいのはこの写真のことなんだけど。」

世間話もせずに、単刀直入に本題に入るなつき。

こういうところが、上から目線とか、冷たい性格とか言われ、他人から敬遠される所以である。

「あ、懐かしい!……うわぁ、みんな小さくて可愛いねぇ!」

杏奈は指を広げた手のひらを胸のあたりで合わせて、微笑ましそうに写真を見る。

「そうね。それで、純太が持ってるこの花だけど、杏奈がもらったのよね?

それ、そのあとどうしたか覚えてる?」

懐かしがる杏奈の反応を無視するかのように、淡々と話を進めるなつき。

自分の質問にしか興味がないのだ。

久しぶりになつきの方から声をかけてくれたことが嬉しかった杏奈は、そんななつきの態度すらも『そうそう、なつきちゃんってこうだったよね』と懐かしく思った。

「えっとね……綺麗なお花だから……始めは押し花にしていたんだけどね。

なつきちゃん知ってる……かな? わたしの叔父さん。

研究者をやっているんだけどね……叔父さんが『珍しい花だから研究に使わせて欲しい』って言ったから……あのあとすぐに……叔父さんにあげちゃったよ。」

その話を聞いたとたん、なつきの目が光った気がした。

「その叔父さん、紹介してくれないかしら?」


その後は、嘘みたいに話がトントン拍子に進んだ。

杏奈に紹介してもらった叔父さんは、とある『組織』の元で、様々な研究内容のひとつとしてその七色の彼岸花の研究もしていた。

基礎研究までは終わっていて「入れ替わり」の話をしたら「その可能性はある」との回答だった。

なつきの全身に稲妻が走った。

なつきの妄想が真実へと変わった瞬間である。

なつきは叔父さんにその研究を手伝わせて欲しいと提案する。

叔父さんもなつきの俊才ぶりに惚れ込んだようで、すぐにでも一緒に「入れ替わり」の研究を始めたいという口ぶりだったが、別件の研究で手が離せないため、当面は定期的な結果報告を条件に、いくつか所持している内で現在使っていない研究室のひとつをなつきに自由に使わせてくれるという話で落ち着いた。

なつきは放課後、たまに顔を見せるだけでほぼ任せきりな叔父さん以外に誰も来ない研究室に独り入り浸り、研究に没頭した。

目的はもちろん、入れ替わり薬を作り、紅音に成り済まして生きている純太から、紅音を取り返すためである。

3ヶ月ほどで『入れ替わりの試薬α版』が出来た。

こんな短期間で『試薬α』が出来たのも、当然なつき自身の才覚によるものなのだが、叔父さんが進めていた基礎研究の功績があってこそのものであった。

薬を作るという目的こそあったが、『組織』とは深い関わりを持つつもりが無かったなつきは、叔父さんの連絡先も敢えて知ろうとはしなかった。

そのため、定期報告をしろという約束のわりには、叔父さんからの連絡がないと報告もできず、仕方なく杏奈に『試薬α』の制作途中でたまたま出来た『性転換薬』を叔父さんに渡しておくように頼んだこともあった。

「『性転換薬』って……なつきちゃん、叔父さんと何作ってるの!?」

杏奈に驚かれたなつきは

「莫迦ね。『性転換薬』なんて、冗談に決まってるじゃない。」

と軽くあしらった。

「あの花のこと……まだ調べてるの?」

杏奈は心配してそう聞くが、なつきにとってはもうどうでもいいことなので

「そんなところよ。」

適当に答えておいた。


scene.20(recollection_03)--------------


『入れ替わり試薬α』が出来たことで、なつきは逸る気持ちを抑えられなくなっていた。

もちろん紅音と入れ替わり、純太から紅音を取り戻すためだ。

愛する紅音を取り戻せるなら、自分の身体など純太にくれてやってもいい。

なつきはそう思っていた。

『試薬α』の欠点は時間。入れ替わりの効果は長くても20時間ほどしか保たない。

入れ替わりから戻らない時は、入れ替わった二人共に人格の喪失が起きてしまう。

だからこその治験。

『入れ替わり薬』を完成させるためには治験が必要なのだ。

とりあえずの20時間とはいえ、治験の間だけは純太から紅音を取り戻せる。

なつきの心は踊った。


日曜日、なつきは偶然を装い、紅音の住むアパートの前で紅音を待ち伏せした。

事前に紅音のことはあらかた調べておいたので、休日の決まった時間にロードワークに出ることはわかっている。

家から出てきたジャージ姿の紅音がなつきに気づいた。

「なつきか。何か用か?」

「あら、そういえばあなたのお家ってここだったわね。散歩よ散歩。

たまたま通りかかっただけよ。」

元々が同じ小学校に通っていた学区内である。方向こそ違えど、子供の足でも歩いて行ける程度には近所なのだ。

散歩で通りががっても不思議はない。

「そうか。」

それ以上の目配せも無く、紅音がなつきの前を通り過ぎた瞬間、なつきは後から不意を突くように紅音の口にハンカチを当てた。

「な……何を!?」

声を出す間もなく、紅音は意識を失った。

『組織』から入手した特製の睡眠薬だ。

即効性があり、これで紅音は8時間は目を覚さない。

「あら、紅音。大丈夫?」

さも心配そうな振りをして、紅音をアパートの1階にある紅音の部屋に運ぶ。

子供の頃に何度も来た部屋だ。あこの頃にくらべ部屋の模様替えこそされているが、勝手はわかっている。

紅音をベッドに寝かせると、なつきは小瓶を取り出し、中の薄桃色の薬を口に含んだ。

『入れ替わり試薬α』だ。

これを口移しで相手に飲ませることで、二人の意識は入れ替わる。

なつきは紅音に口づけをした。

幼い頃に紅音と一度だけしたキスの感覚が蘇り、あの頃のように、胸がドキドキと高鳴った。

紅音に口移しで『試薬α』を流し込む。

紅音が薬を飲み込んだのを確認して、なつきも口の中に残っている『試薬α』を飲み込んだ。

液体の甘酸っぱい香りが広がり、軽い浮遊感を感じながら、なつきは意識を失った。

ほんの数分経ったくらいであろうか。

なつきは目を覚ました。

隣には……なつきの身体が寝ていた。

部屋にあった姿見鏡を見る。鏡の中から自分を見返しているのは、ジャージ姿の紅音である。

成功だ。

なつきは紅音になった。


睡眠薬の効能は『組織』特製のこともあり特殊なもので、通常、睡眠薬や麻酔薬は神経に作用するが、この睡眠薬は「意識」の方に作用する。

睡眠薬の効いた動けない身体に入れ替わっても、何も出来ないからそれでは意味がない。そこでこの睡眠薬だ。

しかもこの睡眠薬を使われた前後の記憶は曖昧になるらしく、目が覚めても紅音はなつきと会ったことは覚えていないはずである。

何とも随分と都合のいい、便利なものだ。


紅音になったなつきは歓喜した。

この指も、この頬も、この瞳も、大好きだった紅音の全てが自分の物になったのだから。

そっと胸に手を置いてみた。

自分よりも大きな胸。

アスリートとしての柔軟な筋肉と、アスリートとは思えない柔らかな膨らみを持つ、この肢体。

紅音の目を使って見下ろす紅音の身体は、全てが美しく見えた。

こんなにも美しい紅音の身体を、この何年もの間、横宮純太は好きなようにしていたのだ。

なつきの中で寝入っている純太を、紅音の中のなつきは、狂おしいほどに憎々しく思った。

なつきは鏡に目を向けると、鏡の中の紅音に声をかける。

「大丈夫よ、紅音。わたしがあなたの全て取り戻してあげるからね。」


幼少期、紅音の母親は半グレでクズな紅音の父親と離婚しているため、紅音の家は母子家庭である。

そして、数年前から紅音の母親は住み込みのパートを始めたため、仕事休みになる木曜日の週に一度しかこのアパートには帰って来ない。

紅音はほぼ独り暮らしと言っていいだろう。

つまり、なつきは今日、紅音と二人きりなのである。


なつきは姿見を前に、着ていたジャージを脱ぎ捨てた。

スポーツブラに飾り気の無いあっさりとしたショーツ。

六つに割れた腹筋は、それでも女性特有の柔らかさを失わず、理想的な美を描いている。

顔を合わせれば罵っていた日々が嘘のようだ。

「綺麗……」

なつきは紅音の身体に見惚れていた。

鏡の中の紅音と目が合うと、紅音の頬が上気しているのがわかった。

ほんのりと紅く頬を染めている。

その紅音の表情に、なつきの胸はキュンとした。

乳首が立っているのがわかる。

スポーツブラ越しにゆっくりと胸を揉む。

なつきの胸とは違う、筋肉で支えられた、張りがありそれでいて柔らかな自分のものよりも大きな胸。

「素敵……」

暖かい快感が全身を包む。

ブラの中でピンと上を向き、美しく起立している乳首をつまむと、自分の時とはまったく違う快感が全身を走った。

「あっ……!」

何これ……感じ過ぎる……

乳首をつまんだだけで、なつきは軽くイッてしまった。

「紅音って、こんなに感じやすいのね……」

またひとつ紅音の秘密を知れたなつきは、なんだか嬉しくなった。

「そして、ここも……」

ショーツに目を向けると、紅音の股間からは愛液が溢れ、大きな染みを作っている。

「ふふふ、こんなに濡れちゃうんだ。」

大きな染みを作ってるショーツを脱ぐと、紅音のオマンコとショーツが離れるの拒むかのように、愛液が長く糸を引いていた。

なつきは我慢が出来ずに、紅音の股間……自分の股間に手を伸ばす。

紅音の指が、自分の股間を優しく撫でて、焦らすように愛液でくちゃくちゃと音を立てる。

鏡の前で、大きく股を広げると、濡れそぼった紅音のオマンコが丸写しになった。

「紅音のここ、いじってあげるね。」

左右の中指で大きく大陰唇を広げながら、右と左の人差し指で、交互にクリトリスをいじる。

快感で大きくなっている紅音のクリトリスを、愛液を絡めながら撫でて、倒して、こねて、押し潰して、さらに大きな快感を得られるように、なつきは紅音の指でいじり倒す。

凄い快感!

「これが紅音の感じる快感なのね。

わたしにも、紅音の感じるエッチな快感、一緒に全部感じさせてね。」

夢中になって自分のオマンコをいじる鏡の中の紅音に、なつきは語りかける。

いつの間にかブラを脱ぎ、胸を揉みしだきながら、なつきは中指と薬指の2本を、紅音の小陰唇の周りにそわせて撫で回す。

紅音の身体から感じる快楽に夢中になったなつきは、いつも自分がするオナニーの要領のままに、オマンコの中の奥深くまでその2本の指を一気に入れてしまった。

「つっ……!」

膣の入り口に痛みが走る。

なつきは自分が動かす紅音の指で、紅音の処女膜を破ってしまったのだ。

痛い。が、痛さ以上に満たされる充足感になつきは震えた。

嬉しい! 紅音の初めてを、紅音の処女を、わたしがもらえたんだ!

なつきは狂ったように2本の指を紅音のオマンコから出し入れした。

この痛いのが嬉しい! 痛いのに感じて溢れて来る愛液が嬉しい! 溢れて来る愛液が痛みを和らげてくれるのが嬉しい! 段々と痛みよりも快感の方が高まって行くのが嬉しい!

2本の指が紅音のオマンコから出し入れされる度に、紅音のオマンコから溢れた愛液がくちゃくちゃと泡を立てる。

自らが攻め立てる紅音の股間に快感が集まって来るのが、紅音の身体の全てを支配しているなつきにはわかった。

ああ、これは……

「イクっ!!」

なつきは紅音の身体で絶頂した。

頭の中が真っ白になるくらいの、今まで感じたことのない快感だった。

……これが……紅音の感じる快感……

真っ白になった頭で、鏡に映る、自分の姿に目を向けた。

ほつれた髪。

さらに上気して真っ赤に染まった頬。

潤んだ瞳。

股間からは血が混じった愛液を垂れ流し、その両手は自らの愛液が糸を引いている。

そして何より……

絶頂を迎えたばかりの誘うようなイヤらしい紅音の顔……

なつきはそんな紅音に誘われるかのように、再び自分の乳首をいじり始めた。

鏡の中の紅音の肩が、乳首から受けた快感に耐えきれずに跳ねる。

その姿を見て、なつきはニタリとイヤらしい笑みを浮かべた。

そんななつきの考えを、了承するかのように鏡の中の紅音もイヤらしい笑みを浮かべる。

なつきは自分の持ってきた鞄の中から吸引バイブを取り出すと、自らの股間に充てた。

クリトリスを吸うように刺激し、同時に膣にも振動する張型部を挿入出来る、なつき愛用の吸引式バイブレーター。

「紅音にも、この気持ち良さを知って欲しいの。

きっと気に入るから。」

スイッチを入れると吸引部が紅音のクリトリスを激しくうねるように吸い上げる。

「あっ! だめ!! これ凄い!! 凄すぎるよぉ!!」

いつもとは違う、敏感過ぎる紅音の身体で感じる快感は、なつきにとって予想外のものだった。

「イク! もうイク!!」

全身がびくんびくんと跳ねる。

気持ち良すぎて莫迦になる。

休む間もなく張型部をオマンコに入れてグラインドさせる。

気持ちいい! たまらない!

張型部のバイブレーターのスイッチを入れる。

クリトリスに当たっている吸引部のスイッチも入れる。

「イイっ……イイよぉ! もう莫迦になる! 莫迦になっちゃうぅぅ!!」

鏡の中の紅音の姿は胸声を上げ、何度も何度も飽きることなく絶頂を迎えていた。

そんな鏡の中の紅音の姿を見て、なつきは紅音である自分の身体を、道具で指で、何度も何度も犯すのだった。


なつきの紅音への純愛は、いつの間にか歪んでいた。


……どれくらい時間が経ったのだろう。

紅音になったなつきは、睡眠薬で意識の無い純太が入ったなつきの身体を寝ているまま服を脱がし全裸にして、その股間を舐め上ていた。

なつきは、意識の無いなつきの身体の指を紅音の身体のオマンコに導き、奥まで入れて、動かしもした。

裸のなつきの身体を後から抱き上げ、半身を起こして胸を揉み乳首をもてあそんだ。

キスをして、双頭ディルドを使ってなつきの身体を犯し、紅音の身体となつきの身体をひとつにつなげたりもした。

紅音になって、自分が紅音にされたかったことを、なつきの身体に全部した。

思う存分愛した。

紅音の身体も何度もイッた。

紅音の身体を使って、紅音の中のなつきも何度もイッた。

とても気持ち良かった。

とても幸せだった。

とても幸せなはずなのに……

……でも、なつきは気づいてしまった。

自分の心を占める虚しさに。

いや、本当は始めからわかっていたことだった。

なつきは自分自身を騙していたことに。

欺瞞なのだ。

紅音の真実を知った今、滅茶苦茶な理由をでっち上げてでも、愛する紅音のために、出来る何かを一心不乱にしたかっただけなのだ。

それを贖罪にしたかっただけなのだ。

「……違う……」

紅音の姿でなつきは叫んだ。

「こんなの違う! わたしが欲しかったのは紅音の身体じゃない!

紅音と会話を交わすことも出来ない、心のない入れ物だけの紅音なんか意味が無い!」

意識の無いなつきの身体を、なつきは紅音の姿で強く抱きしめる。

「わたしが紅音になってわたしを抱いても意味がない! わたしは紅音に抱きしめられたいの!

紅音に愛されたいの!

こんなの違う! こんなの違う!!」

なつきは号泣した。なつきが入っている紅音の瞳から涙がぼろぼろとこぼれ落ちる。

「こんな紅音なんかいらない……」

なつきはわかっていたのだ。

自分が紅音になったところで、死んだ紅音は取り戻せないということを。

一通り泣き腫らしたなつきはぽつりとつぶやいた。

「……紅音をこんな風にしたのは誰?」

首を向け、寝ているなつきの顔を見る。

「こいつ? こいつのせい? 横宮純太のせい?」

今、なつきの身体の中には横宮純太が入っている。

「そうよ……全部こいつのせいなんだわ……」

なつきの身体の細い首を、なつきは紅音の身体の両手で掴み、締め上げたかと思うと、突き放した。

「それなら壊してあげる。あんたの偽物の人生全て壊してあげる!

あんたの人生壊したのを見届けたら、わたしと紅音はひとつになるの。

そして、全てをお仕舞いにするわ。」

なつきの目には歪んだ狂気が宿っていた。


To be continued.


2024年05月16日04時55分 脱稿

(脱稿後、随時修正有り)



vol.4先行公開版_後書き


その昔に「TSF画像掲示板」というサイトがありまして。
以下略。

『ナイショノカタチ』はそのサイトで、当時(2006年12月23日)vol.2まで書かれた状態で放置していた、未完の作品になります。

この度「完結させよう!」という意図のもと、10数年振りに続きを書き始めています。


一応vol.1を書いた当時を舞台設定としているので、今はもうない「ブラウン管のモニター」などをあえて出してます。携帯電話はあるけどスマホはまだ無い時代観になります。


まさか杏奈がこんなキャラになるとは、自分でもびっくりです。

深い意味も無く作っていた「杏奈が文芸部」の設定に対して、またしても10数年越しの伏線回収。しかもvol.3で軽く書いたネタに深みまで出てしまいました。こういう予想外の出来事は書いてて楽しいです。

杏奈がこんな重要なキャラクターになるとは思いもよりませんでした。


scene.18(recollection_01)から回想シーンに入りますが、幼少期に何があって幼い秋月なつきと蛍原紅音の二人は愛し合うようになったかを具体的に書いていないため「?」と思った方も多いと思います。

また、小学三年の出来事もかなり端折って書いているので、未消化な部分も多々あるのも自覚しています。

実のところ「〈幼少〉編」はなつきと紅音の出会いからお互いを認め合うまでのプロットは出来ていて、「〈小学三年生〉編」は既に小説として書き上がってもいるのですが、それを本文に入れると短編1つくらいの長文になってしまい、vol.4どころかvol.5までエッチシーンがまるで無い。という構成になってしまうので、18禁を標榜してエッチ小説を目的として書いている作品としては、さすがにそれはダメだろうと思い、思い切って端折りました。

とはいえ、「〈小学三年生〉編」は書き上がっているので、もし時間が取れれば「〈幼少〉編」と合わせた形での外伝の短編として、かつエッチ要素のまったく無い全年齢対象作品として書ければと思っています。

Vol.5も書き上がっていない内に言い出すのは、ちょっと夢を見過ぎですね。

とりあえず先に『ナイショノカタチ』を完結をさせないと。


そしてscene.19(recollection_02)からの「〈半年〜3ヶ月前〉編」もこれまた長くなってしまったので、「〈3ヶ月前〉編」のラストであるscene.21(recollection_04)はvol.5に送ることにしました。

そのため、vol.5では終わらずにvol.6へ突入することがほぼ決定です。

うひー、書いても書いても終わりません。



『ナイショノカタチ』は『ないしょなんだからっ!』の多分パラレルな別の世界線のお話で、ゲームで言えばマルチシナリオの別ルートのようなお話です。(とはいえ、同一の世界線として読んでも破綻のないように書いているつもりです)


小説『ないしょなんだからっ!』はこちらです↓

合わせてお読みいただくと、また違った楽しみ方ができると思います。

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=20171067



小説『ナイショノカタチ』シリーズはこちらです↓

最初からお読みいただくなら、こちらのリンクが便利です。

https://www.pixiv.net/novel/series/12003348



それでは『ナイショノカタチ』vol.5まで、しばしの間、お待ちください。

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