SakeTami
雪中アヤメ
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【先読み】まぞっこ動物園の飼育員のお仕事

「おはようございまーす」 「あ、おはよう優來ちゃん」 「先輩、当直お疲れ様です。変わりはないですか?」 「ええ。いつも通りで大丈夫よ」  私、優來は飼育員である。この春から就職して、動物の世話をして働いている。  ……んだけど、それは普通の動物園だとかではない。私が世話をしているのも、もちろん普通の動物ではない。 「あ、来週末だけど、ポニーレースで畜舎担当の子たちが駆り出されるから代わりに行ってくれる?」 「はい。レースだから、土曜日ですね。わかりました」 「悪いわね、こっちでポニーの世話もできる子、少ないから」 「いえいえ。いろんな子をお世話できるの、私も楽しいですから」  ここはミスト・スランバーが運営するマニアックフェチレジャー施設、ヒューマンファームの一角だ。ヒトペット広場に併設されている“動物園”で、私は働いている。  私はもともとどうにもSMプレイが、それもサド側として好きで。以前はあるSMショーパブでS嬢をやっていたんだけど、大学を出るにあたってパブから紹介される形でここに来た。  できればSMにかかわる職がいいなと思っていただけで、最初はペットプレイ……あるいはより広いヒューマン・アニマル・ロールプレイにはそこまで深い興味があるわけではなかったんだけど、いざやってみると楽しいのなんの。恥ずかしい格好で尊厳を奪ってみっともないことをさせるのはそのままに、より先鋭的で徹底的だから飽きがこないのだ。しかも明確なコンセプトと元になったものが存在するから、施す側もやりやすい。 「じゃ、着替えてきますね」 「はぁい。着替えたらとりあえず、そこにいる子を置いてきて。その後は、とりあえずパンダとシカをお願い」 「わかりました」  広義では風俗施設に入るヒューマンファームだけど、S役がボンデージのような扇情的な衣装を纏うことは少ない。広場からペットホテルでペットプランを選ぶお客様に希望されたときくらいだ。  私たち飼育員の制服は、まさしくそれらしいもの……つまり作業服だ。動きやすく丈夫な長袖長ズボンの一張羅に長靴。施設全体が大きなドーム状で、動物たちのために空調がなされているから気温は一定であり、それに合わせた見た目の割に薄手なものになっている。  動物たちはもちろん、一般的感覚からすれば凄い格好をしている。それに対してごく普通の作業服で世話をすることで、より際立たせるのが役割なのだ。あくまで見世物である以上、見られる本体である家畜や動物が主役なのは当然である。  裏の更衣室に入って着替える。ただ、ここは飼育員だけしか使わない場所ではない。先客がいたけど、少し待っていてもらった。  私が作業服になってタイムカードを切ってから、戻ってきてその子のもとへ。というのも、その子が今日最初の世話の相手だから。 「じゃあ、やってくからね」 「お願いします」  落ち着いた雰囲気の同年代くらいの子だけど、敬語は一方的。あくまで雰囲気出しとして、動物は飼育員を上に見ることになっている。  私が着替えている間は服を着たままだったけど、ちょうど今脱いだところらしい。全裸で自発的に、お客様には見えない場面だけど土下座してみせた彼女の前で、用意されていたラバースーツを広げる。内側にドレッシングエイドを吹きつけて、開いて示すと入り始めた。  ヒトイヌラバースーツに畳んだ膝を差し込むのを、肩を貸しながら見届ける。片脚が入ったらお尻を持ち上げるように支えつつスーツの口を下げて、もう片脚も。自然と四つん這いになるのをよそに、下半身の部分を順に整えていく。  続けて前脚も入れさせていって、ジッパーを首裏まで引き上げた。見世物にするものだから、ジッパーはほぼ見えないほど目立たなくなるつくりだ。……首輪はつけない。この子は飼い主プラン向けの貸しペットではないから。 「力抜いて」 「はい……ン、は……」  ヒューマンファームにはたくさんの動物になった人がいるけど、それぞれが受ける扱いは立場によって違う。家畜ともペットとも違って、この動物園に所属する子たちは責め立ても甘やかしもしないことになっている。たとえば今のような“着付け”では、家畜なら尻を軽く叩いたりして促すし、ペットなら具合を聞きながら優しくする。動物園ではどちらでもなく、ただ施していく中で違和感があれば自己申告だ。  そんな空気感もあって、たとえば腸内洗浄は事前に済ませてある。尻穴を晒すようにスーツに開いた穴を通してプラグをゆっくり挿入していくのも、どこか作業的だ。 「んぁっ」 「これでよし、と。……はい、あーん」 「あー、……っぐ」 「できた」  尻尾プラグはワンタッチで内側が膨らんで抜けなくなる仕組みだけど、それを起動するときも焦らしも予告もしない。そんなだからどれが好きかはけっこう個人差があるようだけど、その一方で複数の身分をローテーションする子もけっこう多かった。この子も確か、先月はペットのほうだったし。  最後に猫耳飾りを固定して人耳をそれとなく隠し、口枷を噛ませたら完成だ。スーツもそれらしい柄の、ヤマネコちゃんのできあがり。 「はい、乗って」 「ん、っ……」 「今日もたくさん見てもらってね」 「……♡」  展示エリアが事務所から遠い子もいるし、そもそも歩くことすら想定されていない種類もあるから、更衣室にはペットを載せる台車が控えている。ヤマネコは簡単な部類のつくりだからこそ遠めのエリアで、ヒトイヌのまま自力で歩くには難しいこともあって台車の出番だ。  天井がなく四方を鉄格子に囲まれた台車の入口を開くと、自分からとてとて歩いて乗り込んできた。事故防止のためにしっかり閉じてから、期待に満ちて蕩けた様子のこれ……“ヤマネコ”を所定の檻まで送り届けるのが今日最初の仕事だった。 「申し訳ございません、少々通らせていただきます」 「あ、すみません」 「猫ちゃんだ」 「出てきたとこかぁ」 「尻尾振ってる、かわいいー」 「見に行く?」  エリアを囲うように複数のスタッフ用の建物があって、外周の檻に入る子たちはそれぞれそこに繋がっている建物で準備をする。ヤマネコは内側の檻のひとつに入れるから、こういう子はメイン事務所で準備をしてからこうしてエリア内を横切ることになっている。  これがまた人目を引くものだから、見られたらラッキーな偶発イベントのように扱われていた。お客様に通してもらって進む間もやはり動物は見世物になっていて、人目を集めたヤマネコは誘うように尻尾……というかお尻を振ってみせた。それを見て惹かれた一部のお客様も後ろからついてくる。  到着したのは中央付近の、周囲を人間の胸元ほどの高さの鉄格子柵に囲われた区画だ。それが三分割になっていて、他の二箇所には別の子が入って過ごしながら見られている。……動物園はフェンスで仕切られているところも少なくないんだけど、入る動物たちからの強い要望もあってここでは全て鉄格子だ。  入口を開いて台車ごと入り、台車の入口を開く。ヤマネコは嬉しそうに出てくると、柔らかな芝に覆われた小さな丘に背を預けてごろり。……あれはペットの猫ではないから首輪もないし、基本的にここでは思うままに過ごしていることが求められる。その代わり猫砂なんてなくて、おしっこは区画内にある側溝にすることになるけれど。  ただ、定期的に周ってくる飼育員のほかに、ひとつだけ用意された仕組みがある。それがこれ……今スイッチを入れた機械で、30分から一時間ほどのランダムな周期でネズミのおもちゃが放出されるものだ。これは放置しているとぶるぶる震えながら動き回って煩わしいから、ヤマネコは積極的に捕まえに動くことになる。 「……あ」 「んっ! ……ん、ん」  ある程度ランダムだからすぐに出るとは限らないものだけど、今回は即座に飛び出した。それを見たヤマネコも目を輝かせて起き上がると、ネズミのほうへ四足歩行で近付いていく。  ネズミはそんなヒトイヌ歩行の半分以下の速度でしか動かない上に、察知して逃げたりはしないんだけど……動きは不規則だから、不自由な拘束でどうしても鈍重になってしまうヤマネコの懐からは案外するりとすり抜ける。今も捕まえようにも振り下ろされた前足を避けて柵のほうへ。 「……っ、んぐっ!」 「おお、捕まえた!」 「……あ、ずらして挟んでる」 「……ン、ぁ……んん……」 「気持ちいいんだ……ふふ」  時にはほんとうに振り回されて四苦八苦して、徐々に動きが小さくなっていくまで捕まらないこともあるんだけど、今回は比較的早かった。檻の近くでくるくる回りながら動かないネズミを、胴体をぺたりと伏せて地面と挟む形で捕獲してみせる。  ……そのまま少しずつ前へずれるように這う、意図ありげな動作。それもそのはずで、ヤマネコはそのまま下腹部のあたり、尿道口以外をラバーで包まれて食い込んだ割れ目で押しつぶすように擦り付けた。すると動力の弱いネズミは動けないまま、その振動がそのままヤマネコのおまんこに響いて甘い鳴き声をあげ始める。そんなさまが柵から近い位置で、しかもお尻を観客に向けてとても見やすい方向で晒される。  これはヤマネコに許された唯一のオナニーの方法だ。たまに来る飼育員に必死に媚びても恵まれるかどうか運次第なこれにとって、マゾ動物として展示されて溢れる興奮と恥辱を発散するにはこれしかないのだ。  だからヤマネコは、必死になって振動が弱まる前にネズミを捕まえるようになっている。これこそがこの展示の醍醐味であり、そうした旨を記した表示が柵にも括り付けられている。  檻の外で台車を畳んでいる間にそんな一幕があったから、私も運良く見ることができた。まだまだあのままのオナニーは続くけど、私はそれを尻目にヤマネコの檻を離れて事務所へ戻る。見て楽しい……もとい、世話を待っている動物は他にもたくさんいるのだ。  ヒューマンファームは目的としては性風俗ということになるから、ここも普通の動物園とは違うところがある。真夜中にもお客様が存在しうるから、夜間にも開いているのだ。……正確には、週に二度ずつ昼休園と夜休園がある。今日はどちらでもない日だった。  だから今のヤマネコのように朝から入る子もいれば、夜通し檻の中にいる子も少なからずいる。その中には仕事としてシフトで決まっている子もいれば、動物スタッフからお客様まで希望してプレイとして楽しんでいるだけの子もいる。というか、スタッフとして入る子は全体ではさほど多くない。最大母数は収容プランのお客様で、賄いというか社員優待的な形で自ら入る子がその次だ。  次に向かうのは、そんな動物園収容プランのお客様。最初にいたメインの事務所に戻って、裏から入った檻の中にいる。 「お待たせ。体調に問題はない?」 「ん、っ! ……んぅ」 「よかった」  ちょうどヒトイヌと同じ拘束で、笹を模した巻藁のようなクッションに身を沈めて休んでいた子に声をかける。胴体は裸のままラバー素材で後ろ脚全体と、前脚から鎖骨の上と首にかけてを覆われて模様のようになっているそれは、“パンダ”だ。  耳と尻尾もしっかりついているほか、装着しているゴーグルは視界を適度に暗くしてはっきりとは見えない一方で観客の存在は認識させるものだ。ヤマネコと同じくボールギャグはしっかり噛まされているのは、観客とコミュニケーションを取れない制限でありつつ逃げ道でもある。 「こっち、ついてきて」 「ん……ふっ、ふっ……」  どうやら私が来る前から笹に埋もれたままアピールしていたようだし、常連客には私たち飼育員の動きを見て次のイベントを予測したりついてくる人もいる。どうしても飼育員がいるところに動きがあるのは間違いないし。  そうした要因から観客が集まりはじめていて、人集りがさらに人を呼ぶ状態になりつつある前で、パンダは私の後ろを四つん這いでついてきた。飼育員の靴は足音がよく立つよう靴底が硬くなっているから、よくは見えていないパンダでも、目隠しされている動物でも音を頼りにできるのだ。  本物を参考にした、アナルプラグで固定された黒く丸い尻尾が揺れている。きっと恥ずかしいだろうけど、それを楽しんでいるようだった。  この子はそこそこ高頻度で通ってきている上に、動物園に来ることも多い常連さんだ。今回も就寝休憩を挟みつつも展示されっ放しの長時間プランで、今日の昼過ぎまでここにいる予定になっている。 「ここまで……いい子。可愛いね、パンダちゃん」 「んっ……うぅ、むうっ!」 「それじゃ、“座らせて”あげるから。力抜いてね」  最終的には鉄格子へお尻を向けて、すっかり濡らしているところを突き出すよう仕向ける。一際恥じらいつつも従ってくれたパンダにはさらに視線が集まって、小さな歓声も上がったことでパンダは私の胸元へ顔を押し付けてきた。それでも向きを変えないのが愛おしい。ここに通いつめるだけのことはある、素晴らしい変態羞恥マゾっぷりだ。  だけど、パンダは比較的楽な姿勢である一方で恥ずかしさはピカイチな展示だ。今でも充分響いているだろうけど、せっかく可能な限り本物と同じ模様にした顔や体を見せずに済ませるはずもない。  私に対して横向きにさせてから、お姫様抱っこの要領で持ち上げる。お尻を下にして抱えたら、床に用意されたあるものへ割れ目を押しつけた。パンダは期待と覚悟と羞恥で三等分された顔で見上げてくる。  そこにあるのは、竹……を模したディルドだ。見た目は斜めに切られた竹のようだけど実際は鋭くはなく、単に床から張り型が立っているだけ。  パンダといえばやっぱり、座った姿勢の印象が強い。それを再現して固定しつつ、ヒューマンファームらしいSM的な要素にもなっている仕掛けだ。挿入させながらゆっくり下ろしていくと、床に座り込む形で設置した。こうなってしまうともう、ヒトイヌ拘束では自力で抜くことも難しい。 「ん、ぁ……うぅっ♡」 「よし、と。そのまま後ろ足を開いてるんだよ」 「う、ぅ……」  実は全く同じ仕掛けが檻の中に二つあって、もう片方も昨日使っていたからそれらしい水分の跡が残っている。そちらを見れば、今のパンダがどうなっているのかわかる仕組みだ。  張り型のまわりは柔らかいクッション床になっているのと、座らせてからやはり笹のような柄の背もたれも添えるから身体的負担は少ない。だけど……そんなパンダを正面からも側面も見られるよう斜め向きにして、ある仕掛けを完成させると、パンダは真っ赤な顔をさらに赤くしてみせた。  股の両斜め前にあるジョイントに、細く小さな竹を模した棒をつけたのだ。パンダの後ろ足は開いたままそれの外側に追いやられているから、これで脚を閉じることもできなくなって接合部が丸見えになる。これがパンダの定位置であり、あまり動かない動物である本物以上に動作はない展示になっている。  とはいえ、見られるものは他の展示に負けず劣らずのものがあるし、扮している本人も楽しむ手段がある。 「…………んぁぐっ!?」 「ふふ、お客様にも可愛がってもらえて嬉しいね。たくさん楽しんで、楽しませてあげてね?」 「ぁっ、んぁ、ふっ……んむぅっ、んぅ♡」  この檻は外側にボタンがあって、それを押すと両方の張り型が振動するようになっている。だから外から一方的に責め立てることができるし、しかもそれがもう片方の張り型でどんな刺激なのか丸わかりだ。  おまけに、檻の中から見えないように貼り付けられた板の向こう側にあるボタンが、横にスライドするようになっている。パンダからすれば観客の所在はなんとかわかっても、どこにボタンがあるかわからなくて身構えるべきかどうかすら判別がつかない。  ボタンは押している間しか振動しないから、押してもらわないと簡単には絶頂できない。そんな形で、ただでさえ恥ずかしすぎる姿で愛嬌のある媚びをしないと気持ちよくなれない代物だった。  展示としてはこれで完成なんだけど、今は飼育員としての世話にもうひとつ。これまた笹を模したものをパンダの前足の先にくっつけて、その先端をボールギャグの隙間から中に差し込む。 「んっ、んっ……」 「お腹空いてたんだね。たくさん食べて、元気なところを見てもらおうね」  これは“動物の餌”で、パンダの場合は流動食……早い話がゼリー飲料だ。両前足、肘のところを体の前で合わせることで注入ボタンを押せるから、そこにある二つのボタンでゼリー飲料と水を注いで食事や水分補給とする。  ゼリー飲料のほうは一定量以上は出てこないけど、水は出したいだけ出せる。とはいえ……こんな格好で固定されたまま飲みすぎたらどうなるかは、想像に難くないだろう。足元近くにはちゃんと、それを受け止め流す排水溝も小さく存在しているし。  パンダの世話も終えて、みっともない格好で動けずただ観客に愛想を振りまくことしかできなくなったそれを置いて檻後方の扉から出る。なんでも施錠されたときにびくりと跳ねる子もいるとかで、そのとき扉を隔てている私は見たことがないけど可愛らしいと評判だ。  私はそのまま次の目的地へ向かう。大まかな管理と飼育員への指示は本部で受け持たれているけど、今日はまだ追加の指示はないから事前に言われていた三ヶ所目だ。  ふと見たら、太腿あたりに飛び散った水滴が大きめについていた。もしかしたら少し匂うかもしれないけど、動物たちにしてみればそれすら「自分が管理されているたくさんの動物の中の一頭である」と認識させるアクセントだと聞いたことがあった。このくらいで作業服を交換することもできないから、そう受け取ってもらえたほうがありがたい。  隣の棟に寄って用意してあるバケツを拾い、また中央部の柵エリアへ。ヤマネコとは少し離れた位置だけど、次の子もこちら側の配置だ。  こちらのほうは外周の半屋内檻と違い、明るく照らされて開放感がある。マジックミラーのようになったドーム自体がUVカット素材でできていて日焼けはしないけど、裸体やスーツ姿のような普通屋外には出ない格好で陽を感じるのはやはり輪をかけて恥ずかしいはずだ。しかも背後の壁もないから、視線のない安心感を得られる方向もない。  そんな青空の下が優先して割り当てられるのは、比較的動きの大きい動物。ちょうど前方に見えてきたシカもその一種だった。 「お待たせ。餌の時間だよ」 「! ……ん、ぁうっ!」 「ほら、焦らない。逃げたりしないから、ゆっくり立って」  これまたあまり見ないシルエットで、格好は畜舎のほうにたくさんいる牛や馬とも違う。あちらほど拘束そのものが厳しくはないけど、みっともなさはこちらの方が上かもしれない。  後ろ足に履いている太腿付け根までの蹄ブーツはそれらとほぼ同じものなんだけど、前足が異なる。多くは後ろ手に拘束されているそれらと違って、シカの場合はこちらも蹄のついた四足歩行だ。一見すると後ろ足と同じ長さになっているそれは、半分あたりから下は補助具だ。  手首の位置が肘にあたる前脚関節に位置づけられていて、アタッチメントの先に蹄がついてそれで四足歩行。代わりに本物の肘は曲がらないように内側に添え棒が仕込まれているし、二足歩行はできてしまわないよう腰周りに伸びきらないための固定があるから、脚と比べて胴体が小さいとはいえ案外それらしい動きをする。  ただ、この格好は疲れるし、杖のようなものとはいえ腰に負担もある。だから脚を折り畳んで休んでいる時間も多いんだけど……そこはヒューマンファーム。シカ用の休憩スペースは鉄格子柵にお尻を向ける形でしか落ち着けないようになっていて、今もまさしく丸出しに短い尻尾が生えたお尻が観客へ見せつけられているところだった。  待ち構えていたのか慌てて立ち上がろうとしてバランスを崩しかけたシカを支えて、ゆっくり立たせていく。一度立ち上がってさえしまえばあっさり四足歩行をしてみせる器用なシカは、柵の目の前にある餌入れに顔を突きつけてアピールしてきた。 「むん、っ!」 「はい、たんとお食べ」 「ぷは……あー、ん、む。はぐ、むぐ……」  この子、実はこの動物園の飼育員だ。どうやら家庭の事情か何かで家に帰りたくないようで、いつもヒューマンファームのどこかしらで許可を取り寝泊まりして住み込みのような暮らしをしている。畜舎にいる家畜たちはほとんどがそうである一方、スタッフ側がそうしているのは珍しい。……正確には、遊んでいく日は泊まるリバの子は多いけど。  動物の世話も大好きでありつつ、自分が動物として扱われるのも同じくらい大好きなのだとかで、どちらが仕事でどちらが社員優待的なものなのかわからないくるい頻繁に遊んでいる。今だって休みながらに尻をじっくり鑑賞されてしとどに濡らしていた変態だ。半日後にはこの顔で飼育員として園内に出るのに。  洗って伏せてあった餌箱を表向きにして、その中に餌を注ぎ入れる。鹿用の餌は緑色のペーストと軽く味付けした葉物野菜で、見た目は本当に草食動物の飼料だけどけっこう美味しい。  あくまで動物園のシカ扱いだから、馬のようなハーネスや轡はない。ただのバイトギャグを外してやると、すぐ目の前にできた人集りから視線を浴びながら嬉々として餌へ顔を突っ込んだ。レタスが咀嚼されるぱりぱりとした音が響いて、観客の注目がさらに集まった。 「ん、ん……あぐ、ふ……んむ」 「さて、今のうちに……」  一時的に外した涎まみれのバイトギャグは隣に吊るして、次にすることの準備。このシカはもう少しで展示時間を終えるけど、本人の希望もあってその前にちょっとした余興が組まれている。  浅ましくがっついて平らげたシカはそのまま一言も喋ることなく、私が戻ってくるまで動かずに待っていた。顔の下半分にペーストがべったりついた状態で振り返ったところに、ホースの先端から弱めに流れる水をぶっかけて洗い流してやる。……普通はもう少し丁寧にやるんだけど、本人の希望だ。  そこで一度バイトギャグを噛ませ直してやって、再びホースを手に取る。柵の前で横向きになって体を晒したシカに向けて、私はそのままぬるま湯をかけて全身を濡らした。 「洗っていくからね」 「んむ…………ン、うっ、ぁ♡」  家畜の水浴びのようにシャワーですらない水流をかけられるだけで悦ぶマゾシカをひととおり濡らしたら、バケツに入れて持ってきていたブラシで背中を軽く擦っていく。手で撫でるよりわずかに強い程度の柔らかいものだから、肌が荒れるどころか少しくすぐったいかもしれない。私はリバではないから、これを当てられたことがなくてわからないけど。  ここまでは真に迫ったようなプレイだけど……パンダがあんな感じだったように、ヒューマンファームは性倒錯の見世物だ。だから、こんなこともする。 「んぅっ♡」 「こら、じっとしてて」 「むぐぅ……ぁっ♡」  手首を返して、ブラシを胸に。シカの豊満な乳房に優しく擦りつけると、興奮を晒すようにつんと立っていた恥ずかしい乳首が刺激されて悶え喘いだ。よほど興奮して溜まっていたのかシカはたたらを踏んだけど、私は背中に手を置いて押さえながら構わず続けた。お客様ならともかく、好き好んで檻の中に入っているスタッフには情けなくお客様を楽しませる筋合いがある。  檻の外へ向けて手振りをすると、察してくれたのか観客はその場で屈んで見上げる形に。目の細かいブラシがだらしない乳首を優しく撫で回すさまが、これでもかと見せつけられることになった。シカの体はやや強ばって、意地悪な洗浄を前に快楽をなんとか我慢しようとしている。 「ほら、せっかく見てもらえてるんだから、ちゃんと立って見せる」 「ふっ、ふっ……ぅ♡ ひぅっ、んぉ♡」 「おかしいな、ぬるぬるしてる……もっとちゃんと洗わないと」 「んむぅっ!?」  ブラシの毛先で丹念に乳首をこねくり回して、みっともないマゾシカをじっくり責め立て辱めていく。水浴びとこのブラシを希望したのは昨日の自分自身なのだから、晒し者にされて喘ぎ散らしているのも本望だろう。この時間帯が仲間内でサドっけが強いと言われているらしい私のシフトなのも、わかっていたはずだ。  だけど、変態マゾシカが乳首イキしそうな気配をさせてきたら、そこまでだ。浅ましくみっともない、いくら虐めても悦んでくれる可愛い動物は、もっと盛大に責め立てなければいけない。切なそうに乳首をつんと立てたままでもわかっているようで、内腿を手指で軽く叩いたら自ら股を開いた。  みっともないがに股を披露したそこへ、特に敏感なクリトリスをざっくり目掛けてブラシを当ててなぞると、ずいぶん情けない鳴き声を漏らして腰を跳ねさせた。メスであることを喧伝するように、シカの展示でありながら角はついていない頭がとろけ顔で揺れている。 「ああ、そうそう。マニュアルだと、ここを……」 「んむぅぅっ♡ ぁっ、んぅ、ぉぐっ♡」  お尻の上から流水を伝わせて地味な刺激を与えながら、大きく割れ目をなぞる動きからクリトリスを探り当てて擦りつける動作へシフトしていく。本当に情けない、間の抜けた鳴き声で悶えながら、次第により充血したクリトリスが皮を脱いで飛び出してきたからそれを優しく撫で回すように。  マニュアルというのはアドリブだ、動物の洗浄で突起をブラッシングするようなマニュアルは、今のところはない。もしかしたら人気が出たりしてやらされることにはなるかもしれないけど。  もしかしたら顔を覚えてもらえるかもしれないくらい、情けない悶え方はどうやらもう充分のようだ。気付けば少しずつ増えていた観客は入り切らないほどになっていたし、展示にスタッフマークがついていたこともあって撮影までされている。  それこそ産まれたての子鹿のような、情けなく開いたがに股で轡を噛み締め涎を垂らし続けるシカにも、これでご褒美をあげることにした。ぐり、と軽く手首を使って、毛先で裏筋を擦り上げてやると……。 「むぐぅぅぅっ♡♡」 「……よし、と。こんなところかな」  激しく腰を跳ねさせながら盛大に公開絶頂してしまうシカを、ブラシを押し上げてついていくようにしながら支える。ほどほどの余韻で股間からブラシを外してやり、水流も逸らしたことでやっと絶頂が終わった様子だった。  もちろん股間のぬるぬるはさっきよりさらに増している。そんなものはあくまで雰囲気作りであり出任せだ。それに、これだけ洗ってもらったのにメスの匂いを尻からさせ続けるほうが、より恥ずかしいし。  ……本当はもう下げていい時間なんだけど……ちょっと頑張りすぎたのか、腰がかくかくしている。一度休憩スペースに送り届けて、近くの他の動物の餌やりをする間に休みながらまた晒し者になっていてもらおうかな。  ここまでのことはいつもするわけではないけど、こうした動物の世話が飼育員の日常だ。本当に楽しくて仕方ないし、ここに来てよかったと思う。まだぼんやりしているシカをよそにバックヤードへ餌を取りに行きながら、今日はまだ始まったばかりの業務を楽しみに指折り数えてしまうくらいだった。


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