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雪中アヤメ
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ボンデージチェスの駒たちは

 広い私有地とAVという新たなパターンを得たミスト・スランバーは、これまでよりぶっ飛んだことを実現できるようになって止まらなくなりつつある。この日は運動会のときと同じ競技場を使って、似たような形で企画もの系統のAVを撮ることになっていた。一般向けには必要な部分や顔にモザイクをかけて販売しつつ、会員サイトにも普段の動画や配信のように公開する形式だ。  競技場を使うということで、今回もやはり普通のプレイではない。正直なところシェアハウスで普段からやっているプレイでも充分ニッチなものとして扱えそうなものだけど、「手を伸ばせば他のメーカーでもやりそうなものは出さない」のだそうだ。  では今回は何をするのかというと……それは競技場に既に設置された、巨大な白黒の遊戯盤が全てを示しているだろう。  今回の企画は、ボンデージチェス。一マスに一人が余裕を持って収まれるサイズのチェスボードの上で、チェスの駒に扮した参加者たちが実際に動かされて試合を行うというものだった。 「……ほんとどうやって思いついたんですか、こんなの」 「最初はポーンから入ったんだ。いわゆる無個性化をうまく使えるプレイを考えて、ただの戦闘員じゃありきたりで……人間将棋の話を聞いて」 「怒られますよ。……それで、全種類分考えて作りまでしたと」 「運動会がね、リリース前なのに口コミで評判なの。現時点でもそれなりに反響が見込めるから、流れを作ってしまおうって」  まあ、おかしな話ではない。この感想そのものがずいぶんミスト・スランバーに毒されている気はするけど。  チェスということで両軍合わせて32人、さらにプレイヤー役2人を合わせて総勢34人という大所帯だけど、なんとこれは独自の伝手による募集で集まったという。おかげで今回はなんと、あたしどころかいつもの面子が全員運営側としてプレイそのものには不参加になっている。  まあ、これは実はあたしたちが開発段階で各装備や衣装などのほうに参加していたから。つまりテスターの仕事をしっかりこなしていたからだ。集められた駒たちはみんなここで初めて身につけるどころか実物を見るのだから、ある種の初々しさや不慣れさも出てくると予想されるんだけど……そこにもう慣れてしまったあたしたちが混ざったら、そもそものコンセプトである駒の無個性さが薄れてしまうのだ。  だからカナとミカは黒子に扮して各陣営の駒たちの手助け、あたしはオリさんと一緒に全体の進行を確認する監督や演出のような立場に入っている。その他にも知り合い、つまり経験豊富な人たちはスタッフ側ばかりだ。全容を知っているから言えるけど、これは駒には慣れすぎていない志望者ばかりを起用しているからだった。テスターの役目がなくても、あたしたちはあそこには混ざれていなかったことだろう。  チェスボードの両側には少し高く作られた部屋のような場所があって、プレイヤー役はそこからチェスを打つ。全ての駒は番号で管理されていて、それぞれの形で命令を受け取るようになっている。  そして取った駒は、取ったプレイヤーの手元に送られる。それは試合終了までプレイヤーが好きに使うことができるそうだ。大抵のことなら駒に拒否権はなく、プレイヤーは取った駒のぶんだけ好き勝手遊ぶことができるのだ。  ……ただし、その代わりとばかりに負けたプレイヤーには罰ゲームが待っている。それがあるからプレイヤーも決して相手のことを考えもせずに乱暴できるわけではない。 「始まりましたね」 「うん。……私たちはよっぽどのことがない限り画角には入らないから、気を抜いても大丈夫だよ。円滑に進むように細部も詰めてきたし」 「まあ、それはあたしたちが普段着なのを見ればわかりますけど。でも、たぶん見入っちゃう」  あたしたちと、カメラのほうについて動かしているシノさんは衣装を用意されていない。これは今回不意にすら映るようになっていないということで、実際あたしたちはどの角度から撮っても入らないように別室からモニターと窓越しに控えている。  これは映る可能性があるカナとミカとは対照的で、あっちは頭だけ黒子の頭巾を被りつつ首から下は黒のラバースーツになっている。あれも表通りには出づらい格好だけど、今回の絵面はあれが一番ましなほどだ。  ある程度経験のあるあたしたちが誰も入らず、全員が素人で進行して大丈夫なのか、とはスタッフ陣も心配していたけど……これは大丈夫だと思っている。  実は今回、プレイヤー役にだけは棋譜と台本を用意してある。そしてこの二人だけ趣味の合うAV女優を起用しているのだ。だから来るだけ来て出番も満足もなく帰る子はいないし、罰ゲームを恐れるどころかお互いが負けたがることもない。  ただ、二人には駒の番号振り、つまり配置を相談の上で行う権限を与えておいた。おまけに取った駒の扱いについては完全にお任せしてある。女優でもしっかり楽しませる、というオリさんの意向だった。 「……やっぱり、面白いですね。当然ですけど、見たことない」 「あとは参加者とカメラ、何より演者次第だね。映える舞台は用意したつもりだけど、どのくらいモノになるかな」  画面ではポーンのうちひとつが動かされ、あちこちがアップにされたりしながらゲームの序盤戦が進行していた。ぎこちない動作で進む様子はオリさんの思惑通りのようだ。  あたしも惹き込まれるような魅力を感じていた。あれは確かに、今のあたしたちにはできないや。   ◆◇◆◇◆  始まってから少しの間、わたしはじっと持ち場に立っていた。もどかしくなるかとは思っていたのだが、駒とはそういうものだと思えてこれ自体も案外悪くない。  わたしはフェティッシュなイラストや動画を見て楽しんだりはしていたものの、自分自身での経験はたいしたものはなかった。そんな伝手も勇気もなかったよくいる隠れマゾで、就職も控えていたからそのまま現実にする機会もないまま生きていくものだと思っていた。  ターニングポイントはやはり、先日見に行ったSM美術展。一人でこっそり来て、ガイドも連れてひととおり楽しんで……そのガイドに見抜かれた。ようやく手に入れた機会を逃すことは怖がりなわたしにもできず、展示期間の途中からはたまに入るようになって……そろそろ終わりという頃に、主催をしていたイベント会社の連絡先とともに渡されたのがこの企画の募集要項だった。  そのイベント会社というのもそれなりの頻度で今回のようなあまり大声では言えない企画をしているもののようで、とはいえ一般に悪名(といっては失礼で語弊もあるけれど)があるような会社ではない。そちらに求人があることも当然確認したが、それよりもこのAV企画だ。ミスト・スランバーという聞き覚えのある名前が主導していて、一方でとてもそうとは思えない挑戦的な内容。はっきり言えば、名も知れていないインディーズ系がやるようなものだ。  わたしはさほど迷いもしなかった。AVに出るなんて思ってもいなかったし緊張もするけれど、何年も夢見ていたが無理だと思っていたものがすぐそこにあったから。  わたしは今、ポーンのうちひとつになっている。白の3番と番号を振られて、動くことも許されずに初期位置にじっと立っていた。  全てが一体化した真っ白なラバースーツに身を包んで、頭まで全て覆われている。ポーンの駒を思わせるようなシリコン製の飾りが首元と膝のあたりについていて、膝を開くことは一切できない。まさにポーンといった格好に貶められた上で、両腕は後ろで束ねられている。 「…………」  そんな格好で他のポーンたちと並べられて直立したまま、わたしは静かに興奮していた。  わたしはSMそのものもそうなのだが、無個性化、というものに特に興奮するのだ。全身の全てからその人らしさを奪い去って、一見誰ともわからないような格好を強いる。頭から足までのっぺりした、隣と全く同じ姿をして、いち個人としては見られることなく集団の中の一部まで貶められることを何度も妄想してきた。  たとえば戦闘員化……某特撮の雑魚敵のような。自分が自分であることから解き放たれるようで、美術展でも入口付近のショーケースを志望したりしていた。イベント会社の人がこれを回してくれたのも、今思えば熱量がありすぎたその希望を覚えていたからかもしれない。  いざなってみると、やはり気持ちいい。経験の浅いわたしにはその原因が個性からの解放にあるのか、それとも尊厳剥奪や他の何かにあるのかはわからないけれど。ただとにかく、ここで自分ではない「白の3番」にされて並べられているだけで、絵を見て自分で慰めるよりも何倍も昂ってしまっていた。 とはいえ、わたしは駒をただの置物ではないから、ずっと突っ立っているだけというわけにはいかない。 「……っ、ン……!」  ラバースーツの中に仕込まれていたリモコンローターが振動し始めたのだ。これは駒を動かすための命令装置で、ポーンの場合は乳首とクリトリスにローターが用意されている。これが全体で管理されていて、プレイヤーが持つコントローラに選択されるとボタンひとつで責め立てられるのだそう。  気付けば周囲には、うっすらとだが人の気配がする。動かされる駒となったわたしを映すため、撮影班がカメラを向けているのだろう。全身だけでなくローターの浮き出た胸と股のあたり、さらには口を開くこともできない真っ白な頭もアップにされているかもしれない。その恥ずかしさも興奮を煽った。 「…………っ、ふ……!」  このローターはわたしが動くまで止まらない。事前に聞かされたところによると、ポーンの場合はローターのオンオフが全て。クリトリスが振動している間は何も考えずに前に進んで、止まったらすぐに足を止めろ、という命令を与えられている。……確かポーンは最初だけ2マス進めるから、それだけ多めに歩かされた。  前に少ししか進めないポーンだからこれだけだけど、もっと広く動けるほかの駒ならどうなってしまうんだろう。そんなことは考えてしまうが、わたしにそれを知ることは今は許されていなかった。  太腿は束ねられたまま動かないから、膝から先だけで小刻みに前に歩く。ただでさえ興奮していたところに研ぎ澄まされた快感を受けて、なかなか平然とはしていられないけれど。不格好に、間の抜けた全身を見せるのも無能なポーンの役目だ。  ポーンの頭には鼻にある呼吸孔以外の穴がないから、目も塞がれていて何も見えない。どうせ進める方向が正面しかないから、ポーンにはそれで充分なのだと実際に動いてみてわかった。 「……っ、ぅ……」  なるべく声も抑えて、従順に前にだけ動いて……不意にローターが止まったから、その場で足を止める。それで一度目の出番は終わりのようで、周りから人の気配が離れていった。  このとき、もしマス目を少し行き過ぎてしまっていてもポーンにはわかりすらしないのだ、と気付いた。もしかしたら前や左右にズレているかもしれない、だけどそれすらどうでもいい。そのくらいどうでもいい、たくさんある駒のひとつなのだ。  わたしは再び直立しながら、それ実感して静かに興奮していた。みんな好き好んでこんなところに来た素人仲間だと聞いたけれど、ほかの駒たちも同じものを感じているのだろうか。  次に動かされるのはいつなのか、そもそも機会があるのか、取られてしまうことはあるのか。展開や台本など渡されていない駒にはわからない。……一度動かされる味を知ってからの待ち時間は、それまでよりずっと心地よかった。  それから少しして、もう一度動かされた。二度目で少し慣れたこともあってか、その様子がじっくり撮られていると今度はより深くわかった。ただのポーンが何もないマスに進むだけだから十中八九カットされるのだけど、それでも自分にとってはまたとない体験だ。  その頃にはきっと、こうなっているのは自分だけではないのだろうと思えるようになっていた。何も見えないしそれが聞こえるわけではないけれど、なんとなく他にもわたしのように興奮しっぱなしの駒がたくさんある気がするのだ。途中で真後ろにほかの駒……蹄のような音がしたからおそらくナイトが立ったけれど、息遣いはわたしより激しかった。 「んッ……」  次の変化は、自分ではなく正面。小刻みな足音をさせながら、すぐ近くに駒が立った。……斜め右前に黒のポーン、位置的に5番だ。  ポーンは一つ前にしか進めないけど、斜め前に敵の駒がある時だけはそこに動きながら取ることができる。つまり今のように斜めに向かい合ったポーンは、次にどちらかが動いたときまでには片方が取られる可能性が高い。それに気付いたのだろう、わたしと黒の5番の呼吸が同時に荒くなった。  次は白の手番。つまりわたしが動かされれば黒の5番は取られる。そうなる場所にわざわざ送られたということは、黒の6番はいわば捨て駒だ。「取られた駒は敵プレイヤーに好きに使われてしまう」というルールはプレイヤーにとっては関係ないから、捨て駒だって当たり前に発生するだろうし……それどころか、このルールとこれがAVであることを加味すれば、本来のチェスよりも積極的に駒を取り合うほうが自然ですらある。  つまりこうなった時点で、黒の5番はもう終わりだ。ポーンとはいえ、白のプレイヤーが欲しくないわけがないのだから。どうやらこのルールは、ポーンの命は特に軽い。 「んぁっ……」 「……っ」  案の定。次に動いたのはわたしのローターだった。それもほとんど悩むことなく、これだけの状況整理をわたしが終えてすぐ。……右の乳首のものが一緒に。これが一緒に動いたら、動いた方の斜め前に動けという命令だ。  わたしが小さく喘いで、黒の5番が息を呑む。だがこの時点で、もう覆ることはない。駒を取るときは取られる駒を倒すのだと聞いていたから、わたしはより小刻みに歩いてゆっくり、そこにいるであろう黒の5番に優しく体当たりした。 「ん、ふっ……!」 「ぁっ……!?」  向こうもわかってはいたのだろう。ポーンは動きが単純だから、取る側も取られる側も視界が塞がれていても気がついてしまう。ほかの駒は目隠しをされていないのは、複雑な動きで事故が起こらないようにだ。  胸を張ってそっと小突くと、すぐに向こう側へ離れていった。力など込めてもいないのに、むしろ向こうから真後ろへ尻もちをつく。すぐに黒子さんが起こしたのか、立ち上がり歩いて離れていった。きっとそのまま、プレイヤーの部屋へと連行されていったのだろう。  わたしは……自分でも不思議なほど、快感を得ていた。自分と同じ立場にあるポーンを取って、罰ゲームともいえるプレイヤー部屋送りにして、気持ちよくしまったのだ。わたしにはS性はないと思っていたのに。  だけど、その理由はすぐにわかることとなった。  簡単なことだ。このゲームでポーンの価値は低い、むしろ積極的に取り合いが起こる。それは黒の5番だけでなく、わたしにも適用されるのだということである。それに気付いた。  そう、わたしもこの後、すぐに取られてしまうのだ。わたしはもう3回も進んで、ほとんど敵陣まで割り込んでいる。そんな敵陣の中に、格好のターゲットであるポーンがひとつ。  白の3番は誘い出されたのだ。……いや、最初からこのつもりで交換された、といったほうが正しいか。 「…………ん、っ」  ほどなく、斜め左前から来た……おそらくビショップ、黒の11番がわたしにそっと触れた。それだけで伝わるだろう、という優しい触れ方で、たった今逆の立場にいたばかりだったわたしは当然それだけでわかった。  わたしはその場で尻もちをついて、数秒してから背中に触れてきた黒子さんの腕を頼りに起き上がる。そのまま不自由なままチェスボードを降りて、牢屋である黒のプレイヤー部屋へと向かった。  そしてそこでわかった。さっき黒の5番を取って気持ちよかったのは、向こうもそれを望んでいたからだ。だって、今こうして罰ゲームに向かうわたしもまた、そうとは思えないほど期待に興奮しきりなのだから。 「白の3番です」 「そこに並べておいて」  そして連れてこられたわたしは、何も見えなくて奉仕もできないポーンらしくプレイヤーの視界に入るところに戦利品として並べられた。聞こえてきた呻き声からするに、どうやらわたしは3個目の取られた白のポーンらしい。やはり普通のチェスのゲームよりもポーンの消費速度が速い。  所定の位置に立たされて、時折視線が向くのを感じられるようになった。このままゲームが終わるまでずっと並べられたまま、プレイヤー一人に鑑賞され続けるのが取られた駒の役目だ。  プレイヤーのほうからは、何か微かな水音が聞こえる。プレイヤーから時折微かな嬌声と、「14番、もっと丁寧に」と飛んだ命令からしか想像できないが、おそらく先に取られていた白のビショップがプレイヤーの股の間で奉仕させられているのだろう。  しかしそれを感じて、ただ並んで置かれていただけのわたしたちポーンも、楽にしていられるばかりではなく。 「「「んんっ……!?」」」 「油断したでしょ。取った駒は全部プレイヤーのものだから」  すっかり気を抜いて楽しんでいたところに、不意打ちでローターが起動した。それは全くの同時だったようで、ポーン3個分の嬌声が完全に重なって、わたしたちに違いは本当にないのだと実感させてくる。  つまり、取られた駒に仕込まれていたコントローラ代わりの玩具は、全て取ったプレイヤーが好きに操作できるということ。それを気付かされたたった今が、わたしたちが置物でありつつ黒のプレイヤーのための楽団になったのだと自覚した瞬間だった。   ◆◇◆◇◆  ゲームが始まってしばらくが経った。やっぱりこれは普通のチェスとはまるで違うようで、ポーンや積極的に動かされた駒から順に次々に取られていく。ゲーム自体への勝利が最優先ではない、プレイヤー様の私欲に塗れた駒取りゲームだ。  私達駒は何も知らずに動かされているけど、見ている感じではやはり台本はあるのだろう。一度も動かされずに取られる駒がひとつもないから。ということはおそらく、プレイヤー様を信じるということですらなく全ては事前に決まっている。配役が確定した時点で、どう動かされていつ取られてどれだけ敵プレイヤー様のオモチャにされるかは定まっているのだろう。……そしてプレイヤー様方の勝敗、つまりどちらが罰ゲームを受けるのかも。  ただ、私はそのあたりにはあまり関係がなかった。なにしろ私は黒の12番、キングだから。  今回は駒のデザインがそれぞれ与えられているけど、その中でもキングは装飾も辱めも少ない。陣営の色のラバースーツを着て後ろ手に拘束され、王冠と穴のないボールギャグをつけている。それから双頭バイブになっているペニスバンドを股につけて、乳首にローター、お尻にもバイブを仕込まれていた。  体のラインが出るラバースーツを着て、しかも男の人のように股間から立派なものを生やしているというだけでも恥ずかしいけど、これが揺れるだけというのは駒としてはとても緩い。なんでも胴体に他の装飾が何もないのは、裸の王様という意味なのだとか。  そういうわけで、重度のマゾなら物足りないし他の駒になりたがるものだ。だけど私は敢えてキングになった。……不人気だったというのもあるけど、私は他の参加者よりもプレイの経験も願望も浅かったから。  なんとなくマゾ願望はあったけど、それはあくまでちょっと拘束されて責められてみたいという程度。そこをよりしっかりしたマゾである友人に誘われて、気付けばここにいたのだ。……いざやってみるとすごく新鮮な感覚で、嬉々として黒の9番、ルークになった友人には感謝しているけど。 「ン……ぁ、っ」 「むぅぅっ!?」  そうしてしばらくはじっと初期位置から眺めていた私にも、ついに命令がきた。動かされては取り取られていく駒たちを見てさしもの私も疼いてきた矢先だったから、屈辱的なことをさせられるというのに少し嬉しい。  キングの命令の場合は、ペニスバンドの内側が振動したら前。乳首なら横で、お尻は後ろだ。加えて斜めなら2箇所が同時に動く。  今回の場合は左の乳首だけだから真左。ただ、9番も一緒に鳴かされていた。ということはこれはキャスリングだ。まだ動いていないキングとルークがいるとき、キングが2マス動いてルークと位置関係を入れ替えることができる、というルールである。 「ん、むぐ……っ」 「ふっ、ふっ……うぅ、」  まずは私が左に2マス動く。それから9番が私とすれ違い、2マス動いて私の右隣に止まった。その間、お互いの恥ずかしい格好と惨めな動きをじっくり見つめ合う。……ここまで見越して友人はルークになったのかもしれない。  そのルークだけど、これは駒の中でもトップクラスに凄い格好だった。逆ビキニアーマーとでもいうのだろうか。全身を軽いレプリカではあるものの黒い鎧で固めておきながら、ちょうどビキニにあたる部分だけくり抜かれていて丸出しなのだ。アニメなんかで出てくるビキニアーマーと、ちょうど真逆である。  それだけでも滑稽そのものなのに、しかもその上から樽の形をした透明なプラスチックに胴体を閉じ込められている。両手首は樽の天井に固定されていて、樽の底は前後の穴に挿入されたバイブの尻を支えていた。これ、どうやって思いついたんだろう。  駒が人格を出す必要はないということなのか、全ての駒が共通して言葉を発することができないようにされている。ルークの場合は詰め物ありの布猿轡だ。玩具は膣のものがただのバイブである以外は私と同じだけど、振動が止まるまでその向きに進み続ける命令となっている。今は右胸のローターが振動していた。  ほかの駒も凄い。処置の厳しさでいえばキングとポーンがこれでも楽だけど、ポーンは無個性になる尊厳破壊があるからやはりキングが一番楽だ。 「ぁぐっ、んぅ!?」  たとえばナイト。ほぼただのポニーガールだから見覚えはあるけど、ぎちぎちに締め上げられてバイトギャグを噛まされている上に命令が難しそうだ。乳首のローターで左右を指定して、クリが振動したら2マス前。膣なら一マス前で、乳首だけなら一マス後ろ。お尻が責められたら2マス後ろだ。 「んぉ、ぉっ……!」  次にビショップ。レオタードのようなハイレグラバー修道服を着せられて、ネックバイオリンをつけられている。準備のときに見たところ、口につけているのはそれによく合った、そしてビショップには冒涜的なペニスギャグだ。  見ていたらわかったけど、駒の動かし方は前後の穴と乳首のローター。斜めの方向に合わせてどれか二つが動く、ルークの斜め版だ。 「あぅ、ンっ……」  そしてクイーン。肋骨の端っこが見えてしまうほど凄まじいハイレグのエナメルボンデージの上で胸は丸出しで、腕はアームバインダー、口は穴あきのボールギャグで囚われている。頭にはティアラが被せられていて、命令はルークとビショップの両方を合わせたもの。  ……と、こんな感じの駒が総勢32個も並べられていたのだ。今は減ってきたけど、プレイヤー様の部屋に並べられているから総数は同じ。素人の私には想像もつかない大掛かりな企画だった。  試合はしばらくして、私達黒が劣勢になった。黒のプレイヤー様がどうやら私欲でかなり無理に駒を取って、そこから守りが崩れたのだ。私が動かされることも増えて、すっかり攻められっ放しになってしまった。  時折黒も攻めるものの、手数不足であっさり逃げられてしまう。私は何度も小刻みに動いて、すっかり気持ちよくされてしまっていた。 「む、ぁ……」  実際に立ってみてわかったのだけど、どれだけ追い詰められているかというのは自分がキングになっているとよくわかる。逃げても逃げても近くに敵の駒が襲ってくるのは、チェスごっことはいえ焦燥感が凄い。  それに何より、周りの駒がどんどん減っていくのだ。白が果敢に攻めて、肉壁として立たされた駒が取られていき、取ったほうの駒も誘い込まれた形で取り返される流れができてきている。二度目あたりでみんな察したのか、周りを認識できていないポーン以外は誰もが怯えたような様子をしながら操られていた。でも抗えない、私達は駒だから。上位者であるプレイヤー様に次の贄として指名されても、リモコンの示すままに動いてはコレクションに加わっていくしかないのだ。  もう視聴者目線では勝敗はほぼ決して追い詰められるキングを楽しむパートに入っているのか、ずっと私に向いているカメラも出てきている。案外大事な役割を任されてしまっていたようだけど、私はもはや演じるまでもなく追い詰められてきているから迫力も大丈夫そうだ。  少し攻めの手が緩むと返す刀で黒も攻めるが、これが王の守りについていたルークと相討ちに。どうにか後詰の駒を取った白のキングも、安全地帯とはいえ孤立状態の裸の王になって心許なそうだ。そのまま最終局面、数的にも不利になっている黒のキングがいよいよ集中砲火を受ける。 「んッ……ぁふ、んぐ……!」 「んぅっ……!」  クイーンがチェックをかけてきて、残っていたナイトがキングの二つ隣に盾として割り込まされる。これを取ってきたクイーンに対して……黒の9番、私の友人が扮するルークがついに生贄にされた。  だけど、9番はどこか嬉しそうだった。……十中八九これからの短いコレクション扱いを期待しているのだろうけど、それは追い詰められた私には自己犠牲の精神のように見えた。もしかしたら私自身、体験し続けることでキングに感情移入しつつあるのかもしれない。  クイーンに取られて倒された9番が連行されていって、その次は私が動かされる。隣りあった……つまりついに捨て駒にされたクイーンをキング自ら取って、SMの女王様のようでありながら最初から囚われの身だったクイーンがプレイヤー様のもとへ。  だけど、わかっている。最強の駒であるクイーンをむざむざ捨てたということは、今の一手は値千金。誘い出されてしまったキングの裏を、次に動いた攻めのルークが睨んだ。近くの斜め列はビショップが睨んでいるから、私の逃げ道はもうほとんどない。 「んんっ」  白のポーンが私の斜め前に。ポーンはチェックメイトはできないけど、チェックならできる。……けど、何もわからずに進むことしかできないポーンは今の状況も把握できていないのだろう。今でも序盤のそれと変わらず、雑兵として使われ取られるのを待っている。……少し羨ましい。  しかもこれは釣り餌だ。キングはこのポーンを取る以外に生き残る道がないし……向こうの駒がどう役割を持っているか、私は気付いていた。 「……ん」  私が取ったはじめてのポーンだ。ペニスバンドで軽くお腹のあたりを突いてやると、待ってましたとばかりにそれは倒れた。やはりルーク以外だとポーンになった子が一番進んだマゾだという話は本当なのかもしれないけど……せっかく取られた後コレクションになる暇はないとわかったら、この子は残念がるのかな。  そうして動いた先を、白のナイトが咎めた。……もうポーン以外の誰もがわかるだろう。これは、チェックメイトだ。 「…………私の負け、ね」 「ぁふっ……ングっ、んむぅぅっ!?」  黒のプレイヤー様が部屋から出て降りてきた。彼女は私の肩を掴むと、そっと倒し転がす。当然ながら拘束されている駒である私は、なすすべなく尻もちをついて倒れ込むしかない。  私は両手を挙げて悔しそうな顔をするプレイヤー様を見上げながら、チェックメイトをかけてきたナイト……ポニーガールの蹄にペニスバンドの上から下腹部を踏みつけられた。そしてその瞬間、勝利者メニューでも発動したのか、全ての黒の駒が喘ぎながらふらつく。全ての玩具が最大で震え出したのだ。  他の生き残っていた駒たちも、好きにしていい場面だと察してそれぞれ動き出した。キングを睨んでいたルークとビショップは黒のプレイヤー様を体で挟み込み、それ以外の白は悶える黒を倒しては馬乗りになっている。何もせずにいたのは白のポーンだけだった。  決着がついたから、後処理に入った。まずは敗者である黒の駒が全員玩具を止められないまま集められて、その中央にプレイヤー様が放り込まれた。全裸に剥かれて開脚ホグタイに縛られ、刃のないギロチン台に設置されている。  これで一度記念撮影。私は命令を受けて、プレイヤー様の膣をペニスバンドで貫かされた。覆いかぶさったら気持ちよさそうだったから、小刻みに腰を揺らして快感を貪ってしまう。  それから、白のプレイヤー様と駒たちが画角に入ってもう一度撮影。あちらは玩具なしで、普通に立って後ろに写る。  そして、各々が身動きのとれない黒の駒たちを襲いはじめた。私のもとには白のキングが来て、ラバースーツの股間ジッパーでお尻の穴あたりだけを開かれた。そのままアナルバイブを引き抜かれて……代わりにペニスバンドで犯されてしまう。白のプレイヤー様は黒のプレイヤー様の固定された頭のほうへ回って、舌を摘んで遊んでいた。  白のポーンたちもそれぞれ黒の駒がいるところへ誘導されて、徹底的に黒の完全敗北が強調される形で最後の写真撮影。しかしもう誰一人として写真を意識しておらず、戦勝の宴が負け犬たちの喘ぎ声で染まる様子でシーンが締められた。 「お疲れ様でした、これで全ての撮影が終了となります。……白の駒の皆様は、ご希望なら拘束の解除ができますが、どうなさいますか?」  スタッフさんがそんなことを告げてきたけど、そもそも駒は32駒全てマゾだ。こんな場でまだもう少しだけ駒でいられるのだから、誰一人希望することはなかった。  ……そして、負けた黒の駒は撮影が終わっても白みんなに許されるまで自由の身に戻れないようだった。そんなことを言われてしまったら、ただでさえ終わらない宴がさらに伸びるだけなのに。  薄々察しはついていたけど、後日この後夜祭をオマケパートとして収録する許可を求めるメールが届いた。拒否権は全員にあったようだけど、さらに後になって届いた献品にはしっかり収録されていた。


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