SakeTami
mitsumichi
mitsumichi

fanbox


愛のうらがわ壁の向こう②

「お出かけしましょうか」  投げかけられた言葉に、彰吾は伏せていた顔を上げた。  罠だと気づかず網にかかり、希望を突き崩されながら辱められてからしばらくが経った。  あの日刻まれた記憶は彰吾の思考を縛り、抵抗や逃亡の気というものを芽生える前に枯らしていった。従順にしていれば傷つかずにすむ。希望を抱かなければ絶望せずに済む。からだはどんどんおかしくなっていく。こころもヂリヂリと擦り減っていく。それを自覚しながらも見ないフリをして……ずっと、我慢していたのに。 「イヤだ! もうさわるな、おれに触るな……っ!」  昨日は、一度なかに出されても抜かれずに、その恰好のままペニスをいじられた。理由なんてなく気まぐれに扱かれて、彰吾は体内を満たす肉棒を締めつけながら吐精した。高瀬の指が白濁を掬い亀頭に塗りつける。熱い手のひらで、ぬるぬるとひどく敏感な場所をそうとわかって撫でまわす。暴れたり、喚いたりすると余計に長く遊ばれることを知っていたから、彰吾は歯を食いしばり、勝手に逃げようとする体を懸命にシーツに縫いつけて鋭い刺激に耐えていたが、その内にせり上がってくるものに気づいた。  ぶるりと尿管を震わせる。潮とは違う。もっと重たいものが昇ってくる感覚に、彰吾は恥をかき捨て訴えた。しかし高瀬の手は止まらない。いつものように、いつもの彰吾が我慢できなくなるやり方で赤く熟れた亀頭を扱き、ぬちぬちと粘着質な音を立てながら追い詰めていく。さらに裏側から高瀬の熱で膀胱を押しあげられて、とうとう決壊する。広がるしみと、濃い匂い。もうずいぶんと前に手離したとおもっていたプライドのかけらが胸の奥でぱりんと割れて、そこから灰のように溜まっていたものが溢れだす。  彰吾は癇癪を起こしたように泣きじゃくった。 「もうやだっ、いやだっ……!! これ以上おれに触るなっ、おれをおかしくするな!」  はあ、はあ、と熱く息をみだし、 「おっ、おれの人生……こんなところで、こんなふうに浪費するためにあるんじゃない」  溢れるまま、感情を、涙を頬に垂れ流す。 「おまえに囲われる為に、今まで生きて、がんばってきたんじゃない……っ」  かえりたい、帰りたい、ここから出たい。彰吾は泣き震えてままならない声で訴えた。外に出たい。以前のように生きたい。社会に必要とされる、当たり前の生き方をしたい。ふつうでありたい。こんなことを口走ればきっと機嫌を損ねる。またぐちゃぐちゃにされる。だめだとわかっているのに、堰を切った感情は止められず、昨晩はそのまま泣きつかれて眠ってしまった。 「でかける、って」 「久々に買いものでも行きましょうよ」  高瀬はクローゼットを開き、 「……いいのか」  背を向けたまま、今日は天気がいいですよ、とだけ答えた。  まず、ただただ外に出られる喜びが胸にあふれる。その次に理性が逃げ道を考えはじめる。ここからでて……外に、でて、できるだけ人の多い場所で、走って逃げたら、逃げられたなら……。こいつはなにも考えてないのだろうか。まさか。高瀬が振り返る。目があうと、唇に穏やかな笑みを浮かべた。  ──本当に、 「午後からは冷え込むそうですから、風邪ひかないように着こんでいきましょうね」  差し込むような太陽の光。踏みしめるコンクリートの感触。数カ月ぶりの外気が喉に触れる。冬の色を灯すそれとは裏腹に、彰吾の唇が返す吐息は熱く、湿っていた。 「せーんぱい。もうちょっと早く歩かないと、日が暮れちゃいますよ」  揶揄するように遅い歩みを指摘されても、これ以上早くは歩けなかった。  家から出る前に、なかに異物を埋められた。  歪な形のそれには覚えがあって、ここにきた頃にアナル開発に使われたものだった。根は細いが、丸みを帯びた頭の部分は的確に敏感な場所を捉え、胎内の蠕動に合わせてマッサージするかのようにそこを揉みこみ勃起を促す。電池の入った機械でもないから、律動は止まることなく淡々として性感を掘り起こし、尻穴で射精できるほどにその肉を性器に仕立てあげた。彷彿する記憶に咄嗟に首を振りかけたが、いま機嫌を損ねたら、この機会をも損ねてしまうかもしれない。彰吾は抗わずに淫具を受け入れた。抜け落ちないよう、その上からきついラバーパンツをはかせながら、高瀬はこれで多少漏らしても大丈夫ですよと笑った。ズボンを履いて厚いコートを着させられても、まるで裸のような不安感が付きまとう。玄関から一歩踏みでたところで、後穴を満たす甘い刺激に膝が折れかけた。壁によりかかって震える彰吾に、高瀬はまるで他人事のように「今日はやめておきますか」と問いかける。彰吾は必死に首を振った。 「は、……っ……」  人通りの多い道に踏みでる。  青空を狭める、背の高いビルに囲われた歩道に忙しなく人が行き交う。よろめけば肩がぶつかるような密度で、圧迫感すらおぼえるその光景に、焦がれるような懐かしさを覚えた。漏れ聞こえるくだらない会話に気が緩みそうになるのを、腹を犯す異物が許さない。 「……んく、……ぅ゛」  玩具の先端が、繰り返し柔い圧迫で前立腺を揉む。歩行による振動がそのうごきを助長し、ひくん、ひくん、と厚いコートのなかで腰が揺れていた。裏側から刺激されて、彰吾の熱はラバーパンツのなかで固く勃起し、そのなかを先走りで蒸らしていた。 「ふ、っ……」  顔を伏せ、ぎこちなく歩く男を通りすぎさまに視線を送る人も少なくなったが、地を見て歩く彰吾は気づかない。 「っ、……ぁ、ッは」  ともすれば歪みそうになる視界を必死にこらしながら、足を前に繰りだす。太ももが交差するたびに、異物はぐにりといやな角度で食い込んで、耐えがたい感覚がビンと背筋をかけのぼる。快感を前に素直であるべきと教育され、それが染みついたからだは一度紐解かれば立ち直すことができず、一歩、また一歩とすすむほどに積まれていく恍惚を前に無力に感じ入ることしかできない。呼吸が上擦り、肌が過敏になる。腸壁がうねり、淫具を敏感な肉へとひきずりこむ。 「ふく……っ、ぅぅ゛」  耐えない快感のさざなみに襲われて、彰吾の膝が止まりかけたとき、汗ばむその手を高瀬が取った。顔をあげて目があうと、ふわりと表情をほころばせた。 「こんなふうにして先輩と手を繋いで歩くの、夢でした」  人混みのなか。だれとだれが手を繋いでいようが、だれも気に留めない。 「あっ……ま、って、ッ!」  手を引かれて歩きだす。歩幅が大きくなって、おもわず出かけた声を唇を噛みしめてこらえる。握りかえす気なんてさらさらなかったが、早まる歩みに合わせて玩具がぐりぐりと中を刺激して、無意識に手に力がこもる。 「先輩がすきだった店、一本向こうの道に移転してましたよ」 「っ、っ、っ──……ッ゛」  「このあいだ立ち寄ったら二階建てになってて、だいぶ広くなったみたいで」  顔が熱い。あたまが掻き回される。声がだせなくて苦しい。手のひらから伝わる熱を強く意識する。しかしそれは決して、かたく繋ぎとめられているわけではなかった。  まるで恋人のような優しい触れ方で、だから、 「時間はありますから。ゆっくり買いものしてから、ご飯食べて帰りましょうね」  ……この手を振り払って逃げることは、できる。  ドクンと心拍があがり、唾を飲む。快楽で濁りはじめていた思考が一滴の希望で理性を取り戻す。  振りはらって、逃げる。いますぐに。  でも、逃げだしたところでこんな状態で走れるのか。ほんとうに逃げ切れるのか。もし捕まればぜんぶ台無しだ。きっともう二度と外には出してもらえない。だからといってまた今のようなチャンスがあるとも限らない。どちらにしろ今ここで逃げなければ、またあの場所に閉じこめられるだけだ。それなら、わずかでも目の前の可能性に縋るしか、 「っふ、ぅ゛……っ」  くしゃりと表情がゆがむ。腹の奥に溜まった熱が、自分では制御できないラインに達そうとしている。にげろ。逃げるんだ。逃げて、あの角を曲がった道の先。駅前の警察署にまで駆け込むことができたら……そうしたら、これ、見られるのか。こんなことされてんの、バレて、いままでされたこともぜんぶ、なにがあったとか、なにをされたとか、話さないといけないのか。  ……ちがう。  ちがうちがうちがう。そんなの一時の恥だろ。それぐらい、今後のことをおもえば、これからの毎日のことをおもえば──、 「っ、は、は……」  ……いやだ。  見せる必要なんてない。その前にどこか、トイレにでも逃げこんで、ぜんぶ外してぜんぶ捨ててしまおう。これまでのことをつぶさに語る必要だってない。ただただ監禁されていたと訴えれば、それだけで十分なはずだ。だけどそんなことをしているあいだに追いつかれたりしたら、また、前みたいにされるんだろうか。全身をかたく拘束されて、無防備な弱いところをいじめられて、泣いて喚いても止めてもらえず、ずっと、高瀬の手で……。  胸に巣食うトラウマめいた恐怖とは裏腹に、脳を満たす興奮にどくどくと鼓動が高鳴りだす。咄嗟に首を振って払おうとも、じっくりと時間をかけて肉体の奥深くに染みついた、あの日の拷問めいた快感が全身を甘く締めつける。 「っ……!」  腸壁が収縮する。玩具の先端が淫靡に疼くしこりを押しあげて、腹筋がびくびくと震える。腹の奥から重い熱がこみあげる。否応なしにせり上がってくる予感に彰吾が顔をあげて、 「た、高瀬っ、まて、待って……っ!」  その手を引いた瞬間だった。 「奥田?」  雑踏のなか。自分の名前を呼ぶ声がたしかに鼓膜を響かせた。 「やっぱり。奥田じゃん」  人混みを分けて駆け寄ってくる。懐かしい顔に足を止める。 「お前、ひっさしぶりだなあ」  屈託なく笑う。男はかつての同僚だった。 「出向先行ってからぜんぜん連絡つかなくなってさ、聞いたらメンタル壊して休んでるって聞いて、そんなタイプにみえなかったから、まじで心配してたぜ」  うそだ。ぜんぶうそだ。そう叫びたかったが、ぴたりと彰吾の背に立つ男の視線に喉はひきつるばかりだった。 「……っ」 「元気してたか? あ、ちがうか、元気じゃねえんだよな」  高瀬の手が、衣服越しにぐにぐにと尻を揉む。彰吾が息を呑むも同僚は気づかないまま、その背へと視線を向ける。高瀬は口元に笑みを浮かべた。 「はじめまして。彰吾さんの後輩の、高瀬といいます」 「後輩?」 「今は一緒に住んでいて……」  同僚は遮るように、ああ!と声をあげた。 「大学の後輩に面倒みてもらってるって牧瀬が言ってたの、そうか、君のことか」  面倒?……だれが?だれを?  咄嗟に口を開きかけたが、それよりも先に高瀬の手が玩具の底に触れた。ぐっ、ぐっ、と底部を押しこみ揺さぶりをかける。腸壁の蠕動だけで高みに昇りつめかけたそこが、意図的な圧によって蹂躙される。 「っ、っ………!!」  ここがベッドの上だったなら、きっと悲鳴のような声をあげて、みっともなく開いた太腿を震わせながら達していた。逃げたい。その手を振り払いたい。でも今一歩でもうごいたら、ピンと張りつめた糸が切れてしまいそうでうごけない。 「にしても、大学時代の後輩か。こういうのって縁だよなぁ」  よかったな、なんて言って笑う同僚の声に彰吾は唇を震わせた。ちがう。全部ちがう。言え。たすけてって言え、たすけてって。こいつに監禁されてるって、いえ、いってしまえ、今、 「……っは、ちが」  一瞬、高瀬の手が引く。不意の解放に肩を緩めた瞬間、底部を押し込む角度を変えて一際つよく押し上げられた。 「────っ、ッッ!!」  絶頂の痺れが全身を駆け抜ける。喉を窄めて悲鳴を押し殺しても、溜まりに溜まった末に弾けた性感は内側に留め置けないほどの衝撃となって、彰吾のからだをガクガクと引き攣らせた。くずおれかけた足で背後を振り向き、後ろの男に縋るようにしがみつく。高瀬の首元に顔を埋めながら、深く、重いオーガズムに打ち震える。 「えっ、だ、大丈夫か?」  同僚の声が、人混みの中心の異様に引き止められた人たちの視線が、白ばむ彰吾の脳に焼きつく。 「……ああ。外はまだ早かったみたいです」  そと、なのに。  ひとがたくさんいるのに。止まらない。ぜんぜんイき終わってくれない。高瀬の手はもう離れたのに、尻穴はきゅうきゅうと玩具を絞るように咥えこむ。イったまま、疼きっぱなしの前立腺を執拗に玩具に練られて、いく、また、またイく。 「───ふっ、ッ……ぅ゛っ、ッッ〜〜〜〜!!」  高瀬の襟元をくしゃりと握りしめながら、連続絶頂に堕ちる。たったひとり、快楽のなかに閉じこめられて哀れなほどに震えるからだに、なにも知らない通りすがりの視線が刺さる。異物を見るような視線に晒されて、ほんとうに自分がおかしくなってしまったかのように思えた。そんなことない。おれはおかしくなんてない。そのはずなのに、でもいま、こんなひとごみのなかで快感を貪っている。人目に晒されながら、下着のなかにびゅくびゅくと射精している。尻穴を犯されて、ふつうは感じもしない場所で、ひとつも我慢できずに達している。普通のひとはこんなふうになったりしない。こんなにたくさんの人の前で、そとで、きちよくなったりなんかしない。 「ふ……っ、ぅ゛、や」  自分は今、明らかにこの日常の風景のなかの異物だった。  そうとわかっても止められない。腰が、内腿がひどく震えてこれ以上立っていられない。でも倒れたりなんてしたら、きっともっとみられてしまう。普通のひとたちの視線が普通じゃない自分に集まって、もっともっと、変な目で見られてしまう。いやだ。いやだいやだいやだ。これ以上見られたくない。こんな姿、こんな、恥ずかしいからだ。だれにもバレたくない。知られたくない。ふっふっと呼吸が荒ぶるのに、うまく息を吸えない。極度の緊張と不安で身体がこわばり、彰吾の顔が真っ赤に染まる。溢れかえった激情が肉体の制御を手放し、ぐらりと目の前が昏くなった瞬間、 「せんぱい、落ちついて」  高瀬の手が背に触れた。 「力抜いて、ゆっくり、呼吸して」  上から下へ、ゆるやかに背を撫でる。そのうごきに合わせて息を吸いこむと、見知った匂いが鼻腔いっぱいに広がった。じいんと脳の奥が痺れる。  まぶたの裏に、いつもの、あの部屋が浮かぶ。 「そっか、そんなにわるいのか……」  同僚の声に同情の色が入り混じる。 「なあ奥田。無理すんなよ」  こっちは大丈夫だから、と聞いたことのない、いたわるような口調でつづける。 「お前の担当してたプロジェクトもさ、飯山が引き継いでなんだかんだ……ようやく軌道に乗ってきて、まあとにかくうまいこといってるから。だから、お前の心配するようなことはなにもないからさ、仕事のことは気負わずにゆっくり休めよ」  呼吸が落ちつくにつれ、脳を焼くような快感も徐々におさまっていく。同僚はそのまま高瀬と二、三言ほど言葉を交わして去っていったが、彰吾の耳に二人の会話は届かず、ただ目の前の体温にしがみついて時間が過ぎるのを待っていた。 「先輩。落ちつきましたか?」  周りの視線も、もうどうでもよかった。 「……かえりたい」 「え?」 「もう、帰りたい」  甘えるように高瀬の肩口に額を擦りつけながら、彰吾はこの場で昨日のように泣きだしたい気持ちをこらえていた。 「───ァ、あッ……」  玄関の扉が閉まったと同時、彰吾はその場にくずれ落ちた。 「先輩。そんなところに座りこんだらダメですよ」 「うぅ゛うっ、むり、もうむりっ、おねがい抜いてっ、これ取って、高瀬、たかせぇ……っ」  廊下に上がった高瀬の足に縋りつく。高瀬はなりふり構わずにねだる男を静かに見下ろした。 「何回イきました?」 「よっ、よんかい……っ」 「ほんとうに?」 「ほんとうっ、ほんとうだからっ、あ゛っ、だめっ、またくる……っ♡」  乗り込んだタクシーのなかでもたっぷりと虐められて、彰吾は背を丸めて口元を押さえながら甘い悲鳴を懸命に飲みくだしつづけた。 「せんぱい。服。もう汚れちゃったから、その場でぜんぶ脱いでください」  命じられるまま服に手をかける。一瞬、理性がなにか訴えかけたような気がしたが、それよりも下半身が熱くて、体液でぐちゃぐちゃのラバーのなかがきもちわるくて、玄関に衣服を脱ぎ捨てていく。ラバーパンツに指をかけたところで高瀬がまた言い落とした。 「そのまま這って寝室まで行ってください」  冷たい廊下に膝を突く。しかしうまく歩けない。尻が振れるたび、玩具が肉壁をぐりぐりと擦りあげる。 「ふっ、……ぐ、ぅぅ゛」 「ほら。はやく」 「あぁ゛っ、あぁあっ! やめ……って、いぐっ、ちゃんとあるくからぁ゛っ!」  歩みが遅くなるたびに後ろから玩具の底を踏まれて揺さぶられる。ひいひいと惨めに啼きながらなんとかベッドにたどりつく。ベッドの上でも膝を突いたまま、尻を高くあげさせられた。背後に高瀬が腰をおろす。太腿の付け根に食いこむラバーパンツに指をかけたかとおもえば、ぱちんと離して手遊んだ。 「……たっ、高瀬、おねがい、もう」  振り向いて懇願しかけたとき、コツンと玩具の底になにかがあてがわれた。 「え……」  指とはちがう、硬質な感触にみじろいだ瞬間、低く、重い振動音が耳を突き、からだを内側から震わせた。 「────ッッ、ひっ……っぎ、ァ゛ッッ……!!?」 「あー、こら先輩。腰逃がしちゃだめですよ」 「ア゛ッッ……♡♡!! ッッ、ごめっ、な゛、さ、っあ、あ、あ゛ァ゛アア゛ああああ゛!!!」  高瀬は逃げる腰をおさえつけて、手に掴んだ電マをラバー越しに玩具に当てつづける。長時間の愛撫によってやわらかく蕩けた肉が強烈な重振動に晒される。一瞬で絶頂に落とされてもなお押し当てられたまま、脈動する前立腺を深く圧迫した状態で激しく揺さぶられる刺激に、彰吾は頭を振り乱して暴れた。けれど肝心な部分は高瀬の手により押さえつけられたまま、神経をこそぐ様な快楽を流しこまれる。 「や゛っ、ぁ゛あああッ……!! ──イ゛ッッ、いぐっ、いぐぅ゛ッッ♡♡ い゛くぅうううぅ゛ッ♡♡♡」  足先をきゅうと丸めてシーツを掻きむしっても、あたえられる快感を逃す隙がない。圧倒的な快感に全身が潰される。 「ッッ゛……っぅ゛……! っひ、ィ゛……、あ゛……♡♡」  ピン、とからだが突っ張った。突っ張ったままガクガクと痙攣する腰を抱えなおし、高瀬はずりずりと電マをすりこぐようにうごかした。 「い゛やッ……あ゛ぁあああっっ♡♡ い、いぐっ♡♡ またイ゛くっ♡ い゛……ッッく、ぅ……♡♡ ───っ゛~~~~~~♡♡♡ もう゛やだっ、やだぁあっ!! くるしいっ、やめてっ、やめ゛てっ、なんでこんな……っ」 「だって先輩。すぐに帰ってきちゃうから」 「ひぎッッ、ィ゛いッ……♡!? あ、あ゛っ、だって、ぇッ♡」 「ほんとはもっと先輩と行きたいところがあったのに」 「う゛ぅっ、っ、くぅうう……、っごっ、ごめんなさいっ、ごめんなさいぃ゛っ、いっ、イ゛ッッく、ぅ゛……!!」  ビクンッと強く腰を震わせた瞬間、振動を強められた。 「ッッ、っ、ッッ゛〜〜〜〜〜♡♡♡」  一番敏感な瞬間に惨いほどの快感を与えられる。絶頂から降りてこられない。くるしい。こわい。指先の一本すら自分のおもうようにうごかせない。すべてが快感に、高瀬のあたえるものに支配される。異様な痙攣をみせる肢体にもかまわず、快楽に負けて、もうとっくの昔に根をあげた肉穴を延々と嬲られる。押しつけたままじっと振動させたり、ぐちぐちと玩具を根から揺さぶったりして、彰吾が何もいえず喉を引き攣らせるばかりになれば、ラバーのなかで惨めな射精を繰り返す勃起に電マを押し当てて、新鮮な悲鳴をあげさせられた。そのあとまた尻穴に振動を戻しても、ラバー越しに亀頭を爪で掻いたり、ごしごしと裏筋を擦りあげたりして敏感なそこを弄んだ。彰吾の唇はひたすらにごめんなさい、許してください、と泣きぬれた懇願を繰り返す。もはや出すものもなくした頃に、ペニスの先端を電マでなぞられ、咄嗟に逃げかけた腰を諌めて言われた。  三分間、腰を落としたままでいられたら終わりにしましょう。  耳に吹き込まれた言葉に彰吾は茹でた頭で従った。腰を落とし、敏感な先端に自ら振動を押しつける。刺激に跳ねあがりそうになる身体を必死にとどめて、イッても我慢して、上下にすりすりと動いたり、彰吾の敏感な場所で押しとどまる玩具にも耐えて体勢を保つ。直後責めのきつい快感に熱い汗を垂らしながら、筋の強張りにより肉穴の玩具を締めつけその刺激で達しながら亀頭責めで絶頂し、堪えきれずに潮を吹く。地獄のような時間がつづき、ラバーにおさまりきらなかった体液がシーツを汚したとき、カチリと音がして振動が止まった。 「よくがんばりました」  ラバーパンツを剥ぎ取られ、ぐぽりとエネマグラが抜かれる。 「はは。すごい、ぐっちょりだ」  身体を返される。刺激をうしなってもなお、びくびくと痙攣する彰吾の目の前に、体液でぐちゃぐちゃのラバーパンツが掲げられた。自分の放った淫猥な水が滴る様が見てられず、顔を逸らすと顎を掴まれた。咎められるかとおもって肩を竦めたが、振ってきたのはべつの言葉だった。 「外、また出たいですか?」  霞がかった頭が一瞬晴れる。出たいに決まってる。だけどそう言ったら、また、いやきっと、次はもっとひどい状態で……。 「……い、いやだ」  自分を見る、人の目。囲う雑踏。なにも知らない声が、目が、怖い。 「でたくない……」  本心じゃない。だけど本心だった。  言葉にして認めた瞬間、理由の知らない涙がボロボロと溢れた。仕事はすきだった。金を稼ぐのも、頑張ればがんばるほど、うまい立ち回り方を覚えるほど、評価を得られるのは心地よかった。社会での生き方は性に合っていた。でも多少優秀であれど、所詮はひとつの駒でしかない。代わりはいくらでもあった。 「先輩」  自分が、帰りたかった場所って。自分の居場所って、なんだったんだろうか。 「せんぱい、大丈夫。ここにはおれしかいないから」  今更行く宛なんてない。でもここにいれば、ここにさえいてくれれば。いつか高瀬の言った言葉が脳裏をかすめる。 「おれにとっても……先輩。おれにはずっと、あなただけです」  高瀬が見つめる。その目は愛おしげに潤んでいる。あの場所で異質な存在だった自分を抱きしめて、宝物のように撫でてくれる。理性が警報を鳴らす。今までとは異なる種類の警報を鳴らしている。しかし今だけは、今日だけは愛情に包まれて眠っていたくて、彰吾はその声を無視して高瀬の胸に頬を摺り寄せた。  彼がまだ、理知的な部分を残していたら。 『おれの人生……こんなところで、こんなふうに浪費するためにあるんじゃない』  その思考をもってして、あの場で、手を振り払って逃げていたら。 『おまえに囲われる為に、今まで生きて、がんばってきたんじゃない……っ』  追いかけなかったかもな。  憔悴の滲む寝顔を見下ろしながら、高瀬は生ぬるい安堵に満たされていた。 「せっかくのチャンスだったのに」  かわいそうな人。唇に触れる。指先を掠める、ほのかな吐息さえ愛おしかった。  欲しいのは、ほんの一部だった。だれかに向けるその目を自分に向けてくれたら、それでよかった。 「それなのに、ぜんぶ奪わないと気づいてくれさえしない、あなたがわるい」  自分で言って笑ってしまうほどの傲慢さを自覚しながらも、そこには後悔も躊躇もなかった。もう手放す気はない。試すような真似もしない。もはや一ミリの隙も許さない。この厚い枷のなか、独占欲の壁で囲い、愛のなかで飼い殺す。


More Creators