前回の続きです。
※外伝は正史として捉えても良いですし、ifとして読んでいただいても構いません。
↓↓大丈夫な方のみ読み進めてください。↓↓
[3日目:深夜 六天エリア]
六天の狭い路地を走る2つの影。
女神と少年は息を切らしながら路地の奥へと進んでいく。
女神はふらつく少年の手を引き、少年もそれに応えるようにその手を強く握る。
行く宛がある訳ではない。この空間の出口もない。
ただ、ひたすら誰の目にも触れない場所を探して逃げていた。
その時ピタリと女神の足が止まる。
次いで、一瞬のうちに槍で少年の首に迫る斬撃を弾き返す。
女神が睨みつけた先には一人の男が立っていた。
目深にフードを被り、その顔は全く伺い知れない。
「女神様…あれは…」
「…あれが例の実験体か。やはり、この街に居たようだな」
満身創痍の少年を庇う様に、女神は一歩前へ出る。
「そこの男!私達はもうこの空間に用は無い!」
「……」
「組織も裏切った。お前達を追う理由もない!お前達と同様、組織から逃げて暮らす」
「……」
「見ての通り満身創痍だ。もう戦えない」
「……」
「…頼む。見逃してほしい」
女神は武器を下ろし、頭を下げて懇願する。しかし。
「理由にならんな」
興味がないと言わんばかりに、男はその首目掛けて刀を振り下ろす。
女神はそれを槍で弾けば、諦めたようにもう一度武器を構えた。
「…やはり、私は邪神が嫌いだ。話が通じん」
「……それは同感」
・・・・・・
・・・・・・
「ねえ、その子まだ生きてるけど」
「…もうじき死ぬ」
折り重なるように倒れた二人を見下ろしながら、ピンク髪の青年-毘多尼はフードの男に話し掛ける。フードの男-多多羅の腕には金髪の少女が抱えられていた。
「楽にしてあげたらいいのに」
「…お互い楽に死ぬ権利はない」
「厳しい」
ボソリ、と少年の口から微かに声が漏れる。
虫の息だが、何かを呟いているようだ。
「なんだ」
「…バカ あほ わからず屋 …」
「大いに結構」
恨み言だろうか。子供の低レベルな暴言がいくつか吐き捨てられる。
そのまま少年はちらりと少女に視線をやった。
「……ブス」
その瞬間、少年の側頭部には強い蹴りが入る。
少年はそのまま動かなくなってしまうだろう。
「大人げなさ過ぎて流石に引いた」
「楽にしてやっただけだ」
明らかに機嫌を損ねたのだろう、多多羅は踵を返すとさっさと自身の根城へと帰っていく。毘多尼は肩を竦めるとそれに付いて行くだろう。
「そういえばお前、あの黒いガキをもうラボに近づけるな」
「今回魔誘を寄越したのは俺じゃないよ。でもなんで?」
「PCが一台イカれた」
「あは。1台で済んで良かったねえ」
ケラケラと笑う毘多尼に多多羅は舌打ちを返す。
路傍に打ち捨てた女子供には目もくれず、3人はこの場を後にするのだった。
・・・・・・
・・・・・・
白い空間に少年は立っている。
ああ、死んだのか。
少年は達観した様子で己の状況をそう分析するだろう。
そんな少年の目の前に、光に包まれた誰かが現れる。
「女神様」
眩しくてその姿は見えないが、そこに居るのは間違いなく女神であると少年は確信した。
「すみません女神様。死んでしまいました」
——ああ。
「お守りすることも、守られることも叶いませんでした」
——気にするな。
「でも、女神様と一緒に逝けて本望です」
——……。
「死んじゃったものは仕方ないですし、天国でも地獄でもお供します!」
——…それは出来ない。
その否定の言葉に少年は思わず目を見開く。
「何故ですか?」
——私達にとってこれは「死」ではない。容れ物が破壊され、解放されたに過ぎない。
「…行き先が違うのですか」
——在るべき場所に還るだけの事。再び呼び起こされる迄の間、少し眠りにつくだけだ。
「では、ここで別れるのですか…」
そう言って俯く少年の後ろを女神が指さす。
少し遠いが、そこには一人の女性が立っているだろう。
「……シスター…」
——お前を待っていた者だ。ついて行け。あれと一緒ならお前も寂しくあるまい。
「でも、」
——イヴよ。
女神の手が少年の頭に乗せられる。
「神官の務め、ご苦労だった」
その言葉を最後に、目の前の女神は光の粒子となり、消える。
少年は暫く放心したが、ふと我に返ったかのように後ろを振り返り、駆け出す。
ずっと自分を待っていたその人に抱き着き、会いたかったと名前を呼び、大粒の涙を流して泣きじゃくる。
年相応の子供の姿がそこにはあった。
シビュラ外伝「Day 3:late at night」 完
外伝⑥「Day 5:dusk」に続く。