SakeTami
miruno
miruno

fanbox


【3-6】 本当ね、この二人とは初日に出会いたかったよ。

1. 「詰んだ~、確実に詰んだ」 学園内から逃げ出し、走り疲れたオレ(白井弟)は、ゾンビのような足取りでフラフラと街中を彷徨っていた。 休日の早朝ということもあってか人は少ない。 たまにすれ違う通行人がオレを見て「ギョッ」とし、距離を取ることから、よほどひどい顔をしているのだろう。 陽桜莉さんと羽成さんの裸を見てしまい、山ニーナさんのトイレタイムに突撃し、モンモさんと美弦さんの蜜月の邪魔をしたとなると……うん、どう考えても数え役満でアウト決定。 おそらくこの後、水崎によって放たれた追手に捕まり―― 「フラグメント抜かれることは確実だろうな……」 もう写真で代用するという救済措置は望めまい。 オレのフラグメントを使うことにより、コモンの扉を開く方が手っ取り早いのだから、水崎はためらわないだろう。 「せめて、姉ちゃんの足を治す事だけは、ちゃんと約束させよう。」 そうあきらめムードで、呟いた瞬間。 <グウゥゥゥゥ> オレの腹の虫が悲鳴を上げる。 ハハハ……もうすぐ命がなくなるかもしれないってのに、腹が減るってのもおかしなもんだ。 そう苦笑しながらも、オレは辺りを見回すと、すぐ隣に有名なチェーン店の『カフェ』があることに気づく。 「最後の晩餐っていうには、ちょっと華やかさが足りないが……」 まあいいか。ここで目に入ったのも何かの縁だ。ちゃんと繋がってやろう。そう軽く決意すると、オレは店の自動ドアをくぐった。 「いらっしゃい…ませぇ……」 予想通り、店員の挨拶の歯切れが悪い。オレ、歓迎したくないほどひどい顔してるのかな……と思ったが、原因は他の要因、目の前の光景にあった。 「ええと、何にしようかな~? 甘いのが飲みたいな。でもこっちの新商品もおいしそうだし~」 どうやらレジの前で、一人の女性が注文を決めかねているらしい。 栗色のおさげ髪を左右に揺らし、「う~ん」と悩み声を上げている。 幸い、並んでる他の客は一人もいないので、オレの注文が遅れるだけ……という事になるが。 <ペコペコ> レジの女性店員さんがオレに向けて、困り顔で頭を下げてくる。 オレは「いえいえ、大丈夫です」と手のジェスチャーで返し、少し様子を見ることにした。 「あっ、あれにしよ!」 どうやら注文が決まったらしい。 「えっと、確か…カフェモカに~ 白いふわふわがいっぱいのってて~」 商品名を告げるのかと思いきや、見た目の感想を口にしだす光景に戦慄走る! 店員さんも困惑してるのか、目が泳いでいる状態だ。よく見たらこの店員さん、初心者マークつけてるじゃねーか!……仕方ない。 「(こうなりゃ、オレが)」 オレは、スマホを取り出し、ネット検索ページを開くと、女性の口にするワードを次々と打ち込んでいく。 「(カフェモカ、ふわふわ…クリームかな、? チョコのつ…チョコチップ、大豆……)」 そうしておさげの女性が「すっごくおいしいの!」と言葉を占めたタイミングで―― 「はいっ!」 オレは『バッ!』と女性の前にスマホを突き出し、商品画像が映ったその画面を表示した。 「あっ、これだ! え~と、『とーる…そいかふぇもか、あどちょこれーとちっぷ、えくすとらほいっぷ』くださーい!」 瞬間、オレと店員さん同時にガッツポーズ!! 「かしこまりました。トールソイカフェモカ アドチョコレートチップ エクストラホイップが一点!」 店員さんは元気よく呪文のような商品名を復唱するとお会計をすまし、奥の作業場へと姿を消す。 栗色おさげさんはと言うと、くるりとオレに向き直り。 「やった~、ちゃんと頼めたよ~!君のおかげ……って、だれ?」 と、マイペースに話しかけてきた。 名乗るほどの関係性を持つこともないのだが、一応聞かれたからには答えておくか。 「オレは……」 「アミル!!」 『!!?』 突如、オレの自己紹介を遮る形で、よく通る中性的な声が、店内に響く。声の方角へ顔を向けると、そこには、一人の見知らぬ人物が立っていた。 身長は170前後だろうか。肩より下を少し超える長さの黒髪で、中性的な顔立ち。 なんというか、そこにいるだけでバックにバラが見えてきそうな輝きを放っている。 そう、一言で言うなら―― 「(すっげー、イケメンさんだ!!)」 この栗色おさげの女性の彼氏だろうか? イケメンさんは、即座に彼女さんのそばに近寄ると、その肩を抱き、心配そうな顔で話しかける。 「駄目じゃないか、亜未琉。私が来るまでちゃんと待っててくれないと」 「ごめんね、涼楓。今日はなんだか体の調子がいいから、つい動いちゃったの! 今日の私はハイスピードだよ!」 「フフッ、いけない娘だ。そんなこと言って、まだ注文は済ませてないんだろう? いつも私が、亜未琉の分も頼んでるわけだし」 「へへーん! 今日はちゃんと頼んじゃったもーん!……って、そこの子に助けてもらっちゃったんだけどね」 そう言って、『アミル』と呼ばれる彼女さんはヒョコっとオレに顔を向ける。 それに釣られるように、『リョーカ』という名のイケメンさんもこちらを見て、フッとほほ笑んだ。 「そうか、君が……助かったよ、え~と」 「白井です。オレ、白井弟って言います」 「ありがとう、白井くん。私は、涼楓。『橘 涼楓』だ」 「あっ、ご、ご丁寧にどうも」 心までイケメンかよ!と思わせる爽やか自己紹介を果たすリョーカさんに若干気圧されてしまう。 が、リョーカさんのイケメンフィーバーは、まだ止まらない。 「ここで出会ったのも何かの縁だ。亜未琉も助けてもらった事だし、何かお礼をしたいな」 「いやいや、いいですって、そんな大したことしてないし……二人の邪魔になるのも悪いのでオレのことは気にせず」 <グウゥゥウウ> 何とも悪いタイミングで主張するオレのお腹様。これじゃあ山ニーナさんの事は笑えないなと恥ずかしく思い、赤面でうつむくしかない。 そんなオレを『クスッ』と笑い、リョーカさんはレジへと足を向けると、ちょうどよく戻ってきた店員さんに爽やかな顔で注文を始めた。 「店員さん、すまないが追加でオリジナルブレンドのショート1つ、それと…」 チラッとオレの方へ目線だけ向け―― 「スペシャルモーニングセットを一つ」 と、華麗な声で注文し、ウインクするのだった。 姉ちゃん、不覚にもオレ、胸がキュンとなってしまいました。 この街に来て、こんなに優しくされたの初めてだからでしょうか? 2. 注文の品を受け取り、外のテラス席へと移ったオレたちは、談笑しながら食事を終えた。 時間にして15分くらいのものなのだが、自然な流れでスマホの連絡先の交換を行い、壁のない感覚で話ができる仲になっていたのだから不思議なものである。 どのような感じなのかというと―― 「へえ、じゃあこの街には、展覧会用の写真を撮りにきたのかい、白井君」 「はい、そうなんですよリョーカさん。都会の一コマってスタイリッシュでカッコイイの撮れそうだ…くらいの浅い考えなんですけどね」 「そんなことはないさ、初めの動機は大事だよ。「○○しなきゃ」に捕らわれて「○○したい」が見えない事もあるからね。 自分の気持ちを乗せるのは大切な事さ」 「リョーカ師匠!!」 「ねえねえ、とーちゃん!」 「アミルさん、その『とーちゃん』って呼び方は、誤解と混乱を招きそうなので、別のにしてもらえませんかね~?」 「う~ん、じゃあ弟……だから、とーと……ダイちゃん!!」 「勇者っぽくてカッコいいので採用!!」 「やった~、でねダイちゃん。せっかく会えたんだし、私たちの写真も撮ってほしいな! 私、ペカペカ輝くよ!!」 「クスッ、ピカピカかな」 「いいですね、お二人なら画になるし……って、はーいアミルさん。そういう美人同士がピッタリくっつくのはNGで! ウチの写真部のヤローどもが、嫉妬の悲鳴を上げながら奈落の底に溶けちゃうので、もっと自然体でお願いしまーす」 「え~、ダイちゃん、難しいよ~」 「自然体……こうかな?」 微笑んだリョーカさんが、アミルさんのアゴの下をなで始める。 「うゆ~、ゴロゴロゴロ……気持ちいい~、でもこれは絶対違うよ~リョーカ~」 「採用!!」 <パシャ> 「ええ~、ちょっとダイちゃんなんでー?」 「アミルさん、可愛いは自然体より上なんです!絶対正義の頂点なんです!だから撮らない事はむしろ罪…ですよね、リョーカさん!」 「そうだね。どうせなら展覧会で金賞をとって、全国にネコ顔の亜未琉をはばたかせよう!」 「絶対行けますよ! この顔なら、ウチの写真部のヤロー共も、心にゃんにゃんしながら幸せの絶頂に溶けるのは確実です!」 「ちょっと~、結局溶けちゃうのはダメだよ~、もーう!!」 という具合だ。本当ね、この二人とは初日に出会いたかったよ。 そうすれば、『月ノ宮は魔境です』なんて連呼せずに済んだだろうに。オレが、そんな後悔に苛まれていると、突然、リョーカさんが話題を変える。 「ところで、白井君。君のそのカメラ、不思議な形をしているね。シャッターボタンも宝石みたいだし。市販のものではないのかい?」 「ああ、これは、じいちゃんの形見なんですよ。遺品整理の時にみつけて埃かぶらせとくのもアレなんで、オレが使ってるんです」 正確には、じいちゃんが知人にもらったものらしいのだが、オレはその人に会ったことがないので、よく分からない。 なんでも、何かの研究者だったらしいのだが……もしかしたらその人がリフレクターやフラグメントに関わりがあったのかもしれないな。カメラの裏に『SHIJO』と彫ってあるがまあ、それはどうでもいいだろう。 「へえ、おじいさんの……ちょっと見せてもらっていいかな?」 「ええ、どうぞ」 そう言って、リョーカさんがカメラに手を触れた、その時―― <ピカッ> 『!!?』 突如として、シャッターボタンが青く輝き、オレたちを連続した波紋の光が包む。 その光は徐々に弱まると、細かい粒子に分解され消えていった。 「うわっ! な、なんだ、今の? すいませんリョーカさん。やっぱ骨董品だから不備が……って、リョーカさん? アミルさん?」 なぜか目を見開いた驚きの表情で放心している二人。 だがすぐにハッと我に返る反応を見せると―― お互いを見つめ、やわらかい表情を作り、オレに視線を戻した。 「そうか……これも運命って事かな」 「だから私の調子も良くなったんだね!ちゃんと戻ったんだよ」 オレを見つめながら何かを悟る二人。 「いやいやいや、何の話ですか? いきなりオレ、置いてけぼりなんですけど」 リョーカさんがフッと笑みを浮かべ、答える。 「君は、今日出会う前から、私達の恩人になってたってことさ、感謝するよ、白井くん」 「は、はあ……」 全く持ってわけがわからないが、聞いても理解できそうな気がしない。う~ん、掘り下げるべきか……? そんな事を考えていると、リョーカさんが先に切り出してくる。 「いずれ分かるよ。それよりも恩人君に対して、朝食だけでは物足りないな。私達にできることなら何でも協力しよう。そうだな……例えば」 「この町の写真スポットとか、おススメの店とか何でも答えるよ!なんならお悩み相談!とかでもいいんじゃないかな?」 リョーカさんの提案に乗っかる形で、アミルさんがポンと出してきたその申し出。 オレの心は、それにピクリと反応を見せた。 「悩み……」 そうだ。どうせオレ一人では詰んでた状態だ。なら……。 「じ、じゃあ……リョーカさん、アミルさん。お二人に聞いていただきたいお話があります」 オレは、超大真面目な顔で、今の八方ふさがりの壁ができるまでの身の上話を始めるのだった。 3. とは言っても、突然、リフレクターやらコモンやらの超常存在を話しても頭おかしいヤツとしか思われないだろう。なので、オレは、それらを隠し身振り手振りを交えながら何とか形にして言葉を放つ。 一通り話し終えるとリョーカさんが、口に手を当て、考える仕草でまとめる。 「……つまり君は、自分で何かしでかしたけど全く記憶がなくて……それの対処をしてくれた人にどう謝るべきか悩んでいると 」 「ほえ~、ビックリだよ。恩人君じゃなくて酔っ払い君だよ! あのねダイちゃん。みせーねんの飲酒はダメなんだよ」 「酒飲んで暴れたわけじゃないですから!……いや、暴れたってのはあながち間違いじゃないみたいだから反論しづらいんですけど、とにかく、謝ろうとしても必要ないって言われるし」 「……一つ聞きたいんだけど、どうして君はそんな謝ることにこだわるんだい? 君にとっては故意ではなく事故みたいなものだし、他の人達も特に気にしてないんだろう? なら話は解決してるんじゃないのかな?」 「う~ん……」 オレはバツ悪そうに頭をかきながら答える。 「そうなんですけど……オレ分かるんですよ」 「分かる?」 「はい、言葉では説明できないんですけど、感覚的にはすごく大事な事だって。あの人達は、オレの心に寄り添う形でちゃんと傷口埋めてくれて……だから中途半端に、宙ぶらりんにしときたくないというか あああああ、言ってて訳わからんし恥ずかしい!!」 オレは自分が放った脳内ポエムのようなセリフに赤面し、もだえる。 そんなオレを笑うでもなく、からかうでもなく、二人は優しい顔を向けて言う。 「うん、ダイちゃん。それはやっぱり」 「謝る必要はないかな」 「ち、ちょっと、二人とも!オレの話聞いてました? それだとモヤモヤしたままだし、ギクシャク……」 「違うよ。そもそも『謝る』を前提に考えているから悩むのさ」 「???」 混乱するオレの瞳を見据えてリョーカさんが続ける。 「君が、大切な人に何かをしてあげた時、言われて嬉しい言葉はなんだい?」 「!!」 瞬間、心のモヤが全て晴れて、世界が開けた。 なんで気づけなかったんだろう? バカか、オレは! そうだ、難しく考える必要なかったんだ。 オレが姉ちゃんの為に頑張った時、姉ちゃんから言われて嬉しかったのは―― 「リョーカさん、あ……」 それ以上、オレの口を開かせないようにリョーカさんが人指し指を突き出す。 「その言葉を一番初めに耳にするのは、君を助けてくれた人達がふさわしい。 私達は『次』でいいよ」 「そうだよダイちゃん!『フリスぺ』でいつでも連絡もできるし、また会えるよ!」 二人の優しさに目頭が熱くなる。オレは、思ったままの感情をそのまま口にした。 「はい!! オレ、今日、お二人に会えて本当に、本当に、ほんっとーーに良かったです!」 「私達もさ。またこうして話をしよう」 「またね、ダイちゃん!」 笑顔でヒラヒラと手を振ってくれる二人。 こんな良い人達が月ノ宮にいるなんて…….この人達には、こうして幸せでいてほしい! そんな思いが心の底からあふれ出し、オレは強い意志を持って言葉を続けた。 「リョーカさん、この町、男には厳しいみたいですけど、共に頑張りましょう!!」 「ん?……おと……?」 「アミルさんも『彼女』として、しっかりリョーカさんを支えてあげてくださいよ」 「ええ!? か、かの……」 「では、オレ急ぎますんで、今日はこれで!失礼します!!」 そう言い残し、オレは手を振りながら店の外へと駆け出した。 今日初めて見上げた青空には。 オレの答えが「正解だよ!」と示すように。 太陽が、大きな丸を描いて輝いていた。 ===================================================== リョーカさんとアミルの登場回です。弟くん、カフェの縁にTIE(繋が)って良かったですね~。 この二人は白井弟にとって、心地よい関係性になってくれました。 ゲームで言うと、フリスぺ開いて、次行く場所のヒントくれる頼れるお姉さん達です。もっとも、リョーカさんに関しては『男』だと勘違いしてるわけですが(笑) 補足説明:リョーカさんがカメラに触れ、光の波紋が起こった後は 二人共、二周目の記憶戻ってます。これは水崎が、カメラに触れていた事で起こった共鳴……というには少し弱いですが、その刺激でフラグメント内の記憶が表面に浮上してきたという設定です。2.5周目の二人には指輪がないので、フラグメントに直接響いたという事になってます。 それと、アミルのフラグメントは、白井弟が写真によって解放した内の一つです。 だから『体の調子がいい』『ちゃんと戻った』『恩人』という表現を使っています。 次回は、第三章の完結編。 まあ、弟くんの答えはバレバレなのですが、そこが最重要というわけではなく、それによってどう変わるのか、何を伝えたいのかはお楽しみいただけると思います。

【3-6】 本当ね、この二人とは初日に出会いたかったよ。 【3-6】 本当ね、この二人とは初日に出会いたかったよ。

More Creators