SakeTami
Adam
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トイレの個室で【リメイク版】

【あらすじ】

独身無職のその男は、人生に先を見出だせず、他人の人生を羨むようになっていた。そんな中、彼はある事をきっかけに“人生交換の薬”を手に入れる。交換相手を探していると、ジャージ姿の現役大学生・金子兼(21)と出会い──。


***


「はー、やっと辞められたわ、あんなクソ会社」


 その男は、電車の窓の外を見つめ、深い溜息をついた。仕事で失敗を重ね、いよいよ会社をクビになったのだ。毎晩毎晩、サービス残業。こんなブラック企業、とっとと辞めてやると思っていたが、ようやく彼は退職することになった──彼の意志に反して。


 47歳独身、相方なし。もう誰も、彼に結婚はしないのか、恋人はいないのか、尋ねることすらなくなっていた。窓に映る自分を見ると、前髪がだいぶ後退している。白髪も増えてきたようだ。こんな自分と付き合おうだなんて、誰も思わないだろう。男はそう思い、これまでの人生を、自分の容姿を、心の底から呪った。


「あー、こんな人生、もうウンザリだ……ん?」


 スマホに視線を落としたその時、ピコンッと着信音とともに一通のメッセージを受信した。


“件名:【売切れ間近!】人生を入れ替えるなら今がお得!!”


 どうせ迷惑メールだろう、そう思って削除しかけたが、やはり気になってメールを開封してみた。キャッチセールスが相当響いたのだろう。彼はメールに書いてある不審な海外ECサイトにアクセスし、商品ページをじっくり読み込んでいた。


*


 男は電車に乗り、辺りを見渡していた。乗車している一人ひとりの顔や体を見定め、何かを検証しているよう。なかには不審がり、彼の元から離れていく乗客もいたが、男は気にすることなくキョロキョロとしていた。


「おい、あんま大声で言うなって!!」


「はは、わり。でも良かったじゃねえか、彼女できたって」


 乗車してきたのはジャージ姿の男子大学生たち。白いジャージに、背中には『関東南大学』とロゴが刺繍されている。全員体格がよく、肌は色白のため、室内スポーツの部員なのだろうと、男は思った。


「まあな。でもケンも、本当女には困らないよな。オレも、お前みてぇな顔だったら、今頃は……」


「なんだよそれ。でも大会前だし、正直、今は練習に集中してぇんだよなー」


「はー? だったら2人くらいよこせよッ!」


 男子大学生たちは笑いあい、首を腕で締めて相手をからかったりして、仲良さそうに話していた。そんな彼らの容姿を見定めながら、男は一人の大学生に目をつけていた。黒髪短髪のツーブロック、やや太めの眉に、くっきりとした目鼻立ちの精悍な顔つき。吊り革を握る手は大きく、腕はかなり筋肉質で太い。声は低くて男臭く、いわゆる“イケボ”に部類される声だった。ジャージの下にはスウェットを着ているが、スウェット越しからもよくわかるほど、もっこりとさせている。


 ジャージには“KANEKO”という名前の刺繍もあり、部員には「ケン」と呼ばれていた。ということは……と、男はスマホを手に取り、


「関東南大学……金子兼……。へえ、なるほどね」


 Google検索すると、すぐに彼のプロフィールがわかった。ハンドボール部キャプテン、大学3年生。毎年インターハイに出場している強豪校で、昨年では決勝まで進んでいる。そのチームを率いるキャプテンなのだから、将来はプロの選手を目指しているのだろう。


「じゃあ、明日の練習でなー!」


「うぃ〜」


 電車が次の駅に到着すると、何人かが降りていった。そしてその次の駅で、金子は電車を降りる。迷わず男も電車を飛び降りた。金子はホームをさっと抜け、改札前のトイレに入る。男も早歩きをして、彼の後を追いかける。トイレには誰もいないようだった。


「おい、オッサン。さっきから何ジロジロ見てんだよ?」


 金子は後ろを振り返り、男を睨みつけた。男を蔑むような、鋭い眼差し。若々しく男臭い、威勢のいい声。電車の中で仲間と和気あいあいと話していた、爽やかな雰囲気とはまるで違う。そんな怒りを表した彼の表情を見ていると、男はさらに興奮が高まり、


「あぁ、なんてすばらしいんだッ.....! 決めたよ。やはり私は、君になりたいぃ!」


 そう、ねっとりとした声を漏らした。その声はあまりに薄気味悪く、金子はそこで「何をしても無駄だ。これ以上関わらないほうがいい」と悟ったのか、舌打ちをして男を無視し、小便を始めた。


 それでも男は、小便をする金子の広い背中を見つめているだけで、我慢汁が出るほど興奮していた。ポケットに手を突っ込み、実験で使うような小さなスポイトを取り出す。スポイトには透明の液体が入っている。男は金子の足に向けてスポイトのゴムをギュッと押すと、スポイトから液体が飛び出し、金子の背中や足を濡らした。


「んあ!? 何すんだジジイ? ……ん、なん……だ……?」


 金子はその場に崩れ落ちるように倒れ込み、そのまま意識を失ってしまった。


「さぁて、始めますかー」


 男は金子のデカい体をなんとか担ぎ、トイレの個室に押し込むと鍵をガシャッと締める。そして便座に座らせると、眠る彼の顔を見つめ、不気味な笑みを浮かべた。


「うんうん、やっぱりカワイイなぁ」


 男は改めて金子の姿を間近で見つめた。筋肉質でガタイの良い体格、男からもモテるほどの精悍な顔立ち。脇に鼻を押し当てると、ムワッと汗の臭いが広がってきた。やはり今日も練習を終えて帰り道だったのだろう。


「そうだなー、どうやって入れ替わりを始めよう? 一気に入れ替わるのも芸がないし、まずは“声”から頂きますかー!」


 男は金子の上体を起こして口を開かせると、空になったスポイトを取り出し、金子の喉奥に突っ込んだ。しっかりと“声”を抽出するにはできるだけ声帯に近い、喉奥まで挿すことが大事なのだと、取説には書いてあったはずだ。


「んはッ......!」


 “声”を取り出した瞬間、彼は少し咽せていた。採取された声はスポイトを満たし、薄い青色に発光している。声のエキスが採取できたというサインだった。男はそれをくるくるとかき回すと、今度は自分の喉奥にスポイトを入れて、金子の“声”をゆっくりと抽出した。喉は少しずつ熱を帯び、乾いていた喉が潤っていくのを感じる。そしてキュッと喉が引き締まるのを感じると、熱は引き、スポイトからは青色の光が消えていた。


「......あー、あー。おー、これが金子兼クンの声……!」


 男は声を確かめ、口元を緩めた。タバコでしゃがれていた40代後半の男の声は、21歳のスポーティで爽やかな、若々しい現役大学生の声に。トイレの個室から飛び出し、鏡の前に立つ。そこにはやはり前髪が後退した白髪交じりの疲れた男がいるのだが、


「声だけなら、誰も私とは気づかないな……あ、そうだ」


 男は金子のポケットからスマホを取り出し、LINEを開いて彼女と思わしきアカウントを見つける。そして通話ボタンをタッチすると、彼女はすぐに電話に出た。


「もしもし」


『もしもし、兼ちゃん? どーしたの? 今日うち来るって言ってるから、待ってるんだけど』


「あー、わりい。ちょっと急用思い出して」


『なにそれー、ちょっと、急用って何??』


「ごめん、今度埋め合わせすっから。それじゃ、切るわ」


『え、ちょっと!』


 ──そう言って、男は電話を切った。“金子兼”として振る舞い、“金子兼”として彼女に見なされ、“金子兼”として会話をした……という事実に、心から感動し、身悶える。他人の人生に介入し、好き勝手に環境を変えていくことの背徳的な悦び。そして、確実に金子としての人生に向かって変化を始めているという実感が湧いてきて、男はどうしようもなく堪らない気持ちになる。股間のすでにパンパンに膨れ上がっていた。


「ああ、すっげぇ……。オッサンの包茎チンポなのに、金子兼の声で、金子兼の喋り方で、悶てるぅ……!」


 それはまるで、金子が40代後半のオッサンのチンポを扱き、イカせてるような状況。男がオナニーを始めると、膨れ上がったチンポはすぐに精液を激しく噴射した。


「はぁ、はぁ……あー……。よし、仕上げに入りますか」


 男はその精液をスポイトで抽出した。そしてもう一つの空のスポイトを取り出すと、便器に座る金子兼の服を脱がせる。スウェットを脱がせ、ボロリと黒い巨根が飛び出ると、男は口を大きく開けてそれを咥え、上下に首を激しく振った。


「……んん? あ、え、何!?」


 突然やってきた官能的な快感に、金子は目を覚ます──。目の前で、オッサンにチンポをフェラされているという状況を理解するのに少し時間がかかったが、


「……お、おい、オッサン、何し……んん」


「なかなか気持ちいだろう? もっと感じたいだろ?」


「え、オッサン……俺の声?? ん、あッ! イク……ッ!」


 性欲の強い金子が射精をするまで、そう長くはかからなかった。射精する瞬間、男はフェラをやめる。金子の巨根から、どぷどぷと精液が飛び出るのを見届けると、男は空のスポイトで精液を採取する。スポイトは再び青く発光を始めた。


「はぁ……オッサン、何し……?」


「まぁまぁ、そこで黙って見とけって」


 発光するスポイトを自分の口の中に入れ、ゴムをギュッと強く押した。なかに入っていた発光する精液が、男の体内へと流れ込んでいく。


「おー、やっぱ取説に書いてあった通り、ムズムズしてきたな」


 男は着ていた服を脱ぎ捨て、全裸になった。体は一瞬、青色に光を帯び、体の変化はすぐに現れた。薄い胸板は分厚い胸板へと膨らみ、逞しい筋肉が刻み込まれる。折れそうなほど細い腕は、誰が見ても惚れ惚れするような、太くたくましい上腕二頭筋に。ぽっこりしていた腹はキュッと凹み、筋肉質な腹筋が刻まれた。両脚がググッと伸びると、男の視界は高くなり、ケツはプリッと大きくなる。そして後退していた白髪交じりの頭は、真っ黒な短髪になり、目はキリッと、鼻は高くなると──その姿は、目の前で便器に座っている、金子兼とまったく同じものだった。


「お、オレが……いる?!」


「あぁ、スゲェな......。あんン、乳首さわるとすんごい感じるぅぅ」


 男は、自身の新しい肉体をベタベタと触って確認し、デレッと恍惚とした表情を浮かべた。いつもの爽やかな金子の表情とはまったく違う。そしてポケットからもう一つの、紫色に発光するスポイトを取り出すと、便器に座る金子兼の口にねじり込んだ。


「んん……ッ!?」


「金子兼は……2人いらねェんだよッと」


 紫色の液体が金子の体内へと流れていき、やはり体の変化はすぐに訪れた。ガタイの良いスポーツマンの肉体は跡形もなく、弱々しい肉体に。頭は後退し、40代後半の冴えない男の姿がそこにあった。


「なんだ……これ?」


「オッサン、早く帰ってくれねえか?」


「え? オレは......私......え? なんで?」


 頭が後退した男は慌てて床のうえの服を着てトイレから出て行った。間もなく、ハンドボール部キャプテンとしての人格や記憶は完全になくなり、違和感なく今の人生を歩んでいくだろう。


 逆三角形の美しい肉体をもつ、仁王立ちの『金子兼』は、脱ぎ捨てられたジャージやスウェットを拾い上げた。鼻を押し当てると、やはり若いスポーツ男子特有の爽やかな、酸っぱいフェロモン臭がスンと鼻の奥を刺激した。ジャージに袖を通して、


「ふふ、サイズもぴったりだ。今日から私が金子兼として生きていく」


 男は、颯爽とその場を後にした。これから金子兼として過ごす人生、出会いの数々が楽しみで仕方がない。


 トイレの個室には、空になったスポイトが2つ分、転がり落ちていた。



(終)



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今回は新たな試みとして、数年前にPixivで投稿していた過去作のリメイク版でした。ご覧いただきありがとうございました。

トイレの個室で【リメイク版】

Comments

本当に楽しみです!!

keeely

皮モノですね!直近の作品が皮モノだったので今回は別のお話でした。また次の機会にリメイク版を投稿してみますね^^

Adam

皮モノ...adamさん、すみません、翻訳するときに注意してなくて、間違って訳してしまいました。

keeely

keeenlyさん、いつもありがとうございます! テンポは何かと気をつけているところです。ピモイの話とは、どの話のことでしょう?

Adam

wow、adamさん相変わらずの話のテンポの良さに和みますねー。 adamさんが以前投稿されたピモイのお話はリメイクされるのでしょうか?

keeely


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