【あらすじ】
アメフト選手である主将・飯塚倫也(34)は、後輩である吉原充(24)に声をかけた。倫也は、充のことを「擬態」によって生成された身体だと確信していたからだ。ところが、倫也自身にも不可解な点があり──……。
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自主練を終え、更衣室でシャワーを浴びている男。吉原充(ミツル)、アメフトプロリーグの第一線で活躍する選手だ。日焼けした褐色の肌に、ムッチリ分厚い胸板、盛り上がった肩周り。ケツはプリッと締め上がり、両脚には太い筋が刻み込まれている。
『そうだ、コイツに“擬態”しよう』
シャワーを済ませてカーテンを開けた途端、充は驚きの余り、その場で数秒立ち尽くした。
「なッ……お前は……誰だ?」
充の目の前には、まるで鏡を見ているかのように、自分と全く同じ顔、身体をした男が立っていたのだ。
「……あひッ。あー、あー。我ながらうまく擬態できたぜえ……うひッ。フェロモンすげえなあ……」
「ど、どういうことだ? どうして俺が、目の前に?……あ゛……」
動揺する充の腰に、同じ顔をした男が手を回した。その途端、充は空気が抜けるように全身の力が抜けて、シャワー室の前で倒れ込んでしまった。
同じ顔をした男は、充の姿をしばらくの間見下ろしていた。
*
青々とした人工芝が広がるスタジアム。ヘルメットやプロテクターを装着したアメフト選手たちが、筋骨隆々とした肉体と肉体をぶつけ合い激しい試合が繰り広げられている。
ハーフタイム、主将である飯塚倫也(トモヤ)は滴る汗をスポーツタオルで拭いながら、ベンチ場で水を飲んでいた吉原充の背中を力強く叩いてこう言った。
「よう。お前さあ、充じゃねえな?」
充は太い前腕で額の汗を拭って、倫也の顔を一瞬鋭く睨みつけた。そして充はひと息つくと、口元を緩ませた。
「なんだ、バレちゃいました? うひッ……あー、結構うまく“擬態”できていたと思ったんですが......」
充がそう言うと、突然彼の顔のパーツは──キリッとした眉に、鋭い一重瞼、高い鼻や顎髭は──は、まるでアイスが溶けるようにドロリと崩れ落ちた。充の顔からはパーツが無くなり、今や残っているのは角張った厳つい輪郭だけだ。そして、その顔は充ではない他人の顔へとモーフィングしていく。
「色々試してみて、やっと見つけたお気に入りの“器”だったんすけど……」
そう言いながら充の顔は、芋臭い少年、若い女性、頭の禿げた老人……とさまざまな顔に変化していた。彼の体型はそのままガタイの良いアメフト選手ではあるが、顔だけが他人の顔へとモーフィングしていくのだ。
やがて、彼の顔は再び「吉原充」の顔に戻っていた。
「......てことは、倫也さんも、本物の倫也さんじゃないってことっすね?」
倫也は不敵な笑みを浮かべた。
「……ああ、その通りだ。この雄臭い髭面にガチムチ体型のフォルム、よく化けられてるだろう?……あひッ。俺だけじゃない、他のメンバーも少しずつ“擬態”に置き換わっているようだ。全員が置き換わるのも、時間の問題かもな」
倫也はユニフォームの袖をめくり、上腕筋にギュッと力こぶを作り己の肉体美を見せつけた。
「……それにしてもこの身体、なかなかスケベだろ? 偶然グラウンドでこいつを見つけて、帰り際に寄生したんだが、なかなか性欲も強くて気に入っちまってな。それから『飯塚倫也』の正体情報を読み取って、そのまま擬態生活してるんだ」
倫也は、自身の逞しい筋肉や体毛の濃い肌をベタベタと確かめ、うっとりと満足げな表情でそう言った。すると倫也の肉体は、膨らんだり萎んだり……と、肉体は液状化し、体型が定まることなく変化していく。やがて彼の身体は元の「飯塚倫也」の逞しいピチピチのユニフォーム姿に戻っていた。
「そういうことなんすね。俺も、この吉原充に寄生して、それからずっと愛用していて。そのまま吉原充を装って、吉原充として生活してます。あ、邪魔な嫁とは別れちまいました。そのほうが色々都合いいっすからね」
凛々しく男臭い充の横顔を見て、倫也は深く頷いた。
「そうか。ちゃんと‘後処理’もしただろうな?」
充は、目尻に皺をくしゃっと寄せてガッツポーズを見せた。
「もちろん、本物の吉原充には別の正体情報を注入しておきました。今頃は別人として楽しく暮らしてるんじゃないすかね? ああ、それにしてもこのムッチリ雄っぱい見てください、色気半端なくないっすか?」
充は、ぐっしょりと汗で濡れたユニフォーム越しから、分厚い胸板を見せつけるようにギュッと鷲掴んで言った。それを見て、倫也は鼻息を荒く立てて、ピチピチに締め上げられた自身の股間にゆっくり手を伸ばす。
「あぁ、お前の肉体もすげぇエロくて最高だな......頼む、『吉原充』の生体情報を俺にも分けてくれねえか? 代わりに俺もこの『飯塚倫也』をやるから」
充はニヤリを笑った。口元からは涎が垂れている。
「それ、堪んねえっすね。俺も、倫也先輩のそのヤラしい身体、擬態したいなって思ってたんすよ。そうだ、よかったら今夜ウチ来ませんか? お互い身体を入れ替える前に、今の身体の快感、堪能しておかないっすか?」
「さすが充、名案だな。そしたらだな......」
*
「やめなさい! 大人しくするんだ!」
「倫也」と「充」が談笑をしていると、試合が行われるフィールドから何やら人々のどよめきの声が聞こえてきた。二人が目を向けると、フィールド上で男が捕まり、警備員らに取り押さえられているようだった。
「おい、離せよ!」
「君、観客席から降りてきて、どういうつもりなんだ!?」
大暴れしているその男は、スキンヘッドで耳や鼻にピアスを開けた40代程のチンピラだった。ダボッとした柄シャツを着て、額には深い傷がついている。男は、ベンチ場にいる倫也と充を指差して、大声で叫んだ。
「アイツだ! 俺から“吉原充”を奪ったのは! 俺が、本物の吉原充だ!!」
チンピラはひどく取り乱して叫んでいた。彼があまりに喚き散らし暴れるせいで警備員は頭を抱えている。すると、充はチンピラの元へと歩いて、「お兄さん、ダメじゃないっすか。どうしたんすか?」と加わった。
「どうしたじゃねえ! お前、俺に化けやがって何が目的だ! 俺がここまでどんな思いでアメフトに人生捧げてきたか……ッ!」
男は警備員を振り払い、充を殴りかかろうとする。しかし、充のほうが身体が一回り以上大きいのだ。当然、男の拳は呆気なく充に抑えられてしまう。
充は困り顔で眉をしかめた。
「お兄さん、さっきから何を言ってるのかわからないっすよ……」そう言って、充が男の拳をギュッと握りしめた。その途端、男は脳天に強い衝撃を覚え、一瞬動きが静止する。男の動きはすぐに再開したが、彼は目を丸くして辺りを見渡し始めた。
「……ん、あれ? 俺、どうしてこんなところに??」
「大丈夫っすか? 警備員さん、後はよろしくお願いしますね」
「えっ、あ、大変失礼しました、吉原選手! 後はお任せください!」
警備員が男を連れ出すところを見届けると、充はベンチへと戻っていった。倫也は待ちわびていたように深いため息をつく。
「おい、後処理、出来てねえじゃねえか」
充は頭をボリボリと掻いた。
「はは、ちょっと詰めが甘かったっすね。でももう大丈夫っす、アイツに触れたとき、ちゃんと“吉原充”としての記憶も破壊しておいたんで。あ、そろそろ試合再開っすね。今夜を楽しみに、残りの時間も俺、頑張ります!」
「ああ、そうだな。俺もとっととお前に擬態してえ。さ、とっとと試合、片付けちまうかッ!」
ヘルメットを被り直すと、二人は再びフィールドへと戻っていった。
(続)
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「擬態」前篇はここまでです。次回、倫也と充が擬態されるまでのストーリーをお届けします。どうぞお楽しみに。
Adam
2021-10-31 02:34:38 +0000 UTC黒竜Leo
2021-10-30 13:37:42 +0000 UTCAdam
2021-10-30 03:00:43 +0000 UTCささもと
2021-10-29 15:14:12 +0000 UTC