完全コピー試合(1)
Added 2020-06-05 10:45:32 +0000 UTC【あらすじ】
クラスの地味キャラ・伊藤翔太は、野球部員の須田忠彦に強い憧れを抱いていた。彼の肉体を手に入れるべく、野球部に入部した翔太はあるアイテムを使って忠彦のカラダを少しずつコピーしていく。翔太は、完全試合ならぬ“完全コピー試合"を達成することはできるのか――。
*****
僕の名前は伊藤翔太(しょうた)。高校2年の野球部員で、毎日トレーニングに明け暮れている。最近は自粛期間であまり練習量がこなせないけれど、それでもなんとか勝ち取ったレギュラーの座。譲るわけにはいかないから、自宅でもトレーニングは欠かさない!
……なんてのは、まるっきり嘘。トレーニングなんてしなくても大丈夫。僕の親友、須田忠彦のガタイの良いカラダを“コピー”すれば良いだけだからさ。
「よっ!お疲れー」
「みんな、久しぶりだな」
部活が再開し、更衣室に白いユニフォーム姿の高校球児たちが流れ込んできた。その中のひとり、高校2年にしてはカラダががっちりと仕上がっているイケメン男児。彼の名前は、須田忠彦(ただひこ)。小学生の頃から野球を始めて、甲子園に出場するために野球の強豪校であるうちの高校に入学した正真正銘の高校球児だ。
「お前ら、ちゃんと練習してたかー?」
「彼女とばっか遊んでたんじゃねえの?」
「んなわけねぇだろ!ちゃんと家で練習してたっての」
久しぶりの再会に戯れる球児たちを、僕はただエロい目で見つめた。僕はもともと運動神経のかけらもない、クラスでいわゆる“地味キャラ”扱いされるような存在だった。そんな僕が野球部に入部した理由――それはほかでもない、忠彦に近づくためだった。地味キャラの僕とは正反対で、明るく爽やか。面倒見がよく、誰からも慕われるクラスのリーダー的存在。顔はとにかく男前で、やや四角めのフェイスラインに坊主頭と一重のキリっとした目。鼻筋は高く、イケメンなのだけれど、根っからの誠実さがうかがえる凛々しい顔つき。高校1年のころからカラダが大きく、学ランは広い肩幅に収まらずピッチリとしていて、長年鍛えられたプリケツがズボンに窮屈そうに閉じ込められていた。そんな彼に強い憧れを抱いていた僕は、次第に「彼のカラダが欲しい」「彼のような人生を体験してみたい」と考えるようになっていた。
「お前たち、ホントによく似てるよな」
部員のひとりが僕と忠彦を見てそうつぶやいた。
「あぁ、ほんと兄弟みたいだよな」
他の部員たちもそれに同調した。忠彦は「そうか?」と軽くあしらって、僕をちらりと見た。僕も「そうかな」とわざと首をかしげてみた。
「いや、マジマジ。なんつうか、ガタイの感じとか、脚の筋肉とか、毛の生え方だってぜんぶ同じだし」
「翔太も入部した時はひょろひょろだったのになー、いつの間にかゴツくなったよな」
そう言ってみんなは僕のプリケツを引っ叩いた。「おい、やめろよー!」と僕は抵抗するフリをして見せた。ほんとうは、見せつけたくて仕方ない。それを見ていた須田は、ニコニコしながら僕の首に腕を回した。
「まー確かに、コイツ見てると、俺のこと見てるみたいなんだよな」
そう言って忠彦は僕の髪をぐしゃぐしゃに掻き回した。今や忠彦は僕と同じくらいの背丈だけれど、がっしりとした大きな手で頭を触られると、彼に身を預けたいような気持ちになってくる。
「んだよ、おめぇらホモかよ!」
「気持ちわりぃ〜」
部員たちが笑いながらはやし立てた。
「うっせぇな。んじゃ、お疲れさんー」
僕はイヤがる素振り見せ、脱ぎ終えたユニフォームをエナメルバッグに放り込むと、忠彦と一緒に更衣室を抜け出した。残っていた部員たちは、まだ僕たちのことを噂していた。
「……ていうか、似すぎだよな」
「最近、翔太から忠彦みてぇな臭いしねぇ??」
「あ、わかる!前からアイツ、あんな臭いだったっけ?」
帰宅中、自転車を漕ぎながら、僕たちはこれからの野球人生や進路について語っていた。忠彦は目を輝かせて真剣に話していたけれど、僕の耳には何も入ってこなかった。だって、もうすぐその人生を僕が好き放題にしようと思っているのだから。
「そういえば忠彦、今夜時間ある?」
「ん、どした?」
僕は忠彦の話をさえぎった。
「実は……あの例の動画、アップされたよ」
「ん?もしかして、エロ動画??」
「当たり!今夜、おかん出かけてるから、一緒に見ない?」
「お、面白そう!それじゃ、一回帰って準備してくから、また後でな」
道を曲がろうとする忠彦を、僕は呼び止めた。
「あ、ついでにフォーム見てもらいたいから、ユニフォームで来てくんね?」
「お、いいね。でもユニフォーム?部活で汗臭ぇし、汚ぇからなぁ」
「気にしないよ、男しかいないんだし!」
「それじゃ、荷物だけ片付けて、後ですぐ行くわ」
「おうー」
忠彦は気持ちを弾ませながら、立ち漕ぎをして颯爽と帰っていった。その大きな背中を見つめながら僕はニヤつきが止まらなくなった。"完全コピー試合”への道は、もうすぐそこまで来ていた。
<続く>