いずれどこかで公開しようと思っているお話からパシンとマデンスが出会った時のシーンを抜粋しました。
メモをコピペしただけなので誤字とか色々変なところがあったら教えてね!
【ありし日】
パムに戻ったパシンは、結局眠ることができなかった。
アグリンブスは寝ているし、やることもなかったので、絵を描いていた。
思えば自分の人生はずっと絵を描いてばかりだった。
物心がついた頃にはすでに画材を握っていた。
幼稚園の頃は、先生に禁止されていながらも、画用紙に色鉛筆やクレヨンを使わず、マーカーペンで絵を描いていた。
学生時代も学校に行けていた時期はほとんど授業を聞かずにらくがきをしていたし、小中高でそれぞれ不登校になっていた時期もずっと家にこもって絵を描いていた。
人付き合いが下手で、友達ができなかった自分にとって、空想の世界こそが友であり居場所だった。
いつしか私は、外を出歩く時はお面を被るようになった。
当然、奇異の目に晒された。
でも世の中には自分のような人に理解されない好みを抱えて生きている人がきっといるはず。
そういう人の心の支えになりたい。
その一心で、たとえ世の人々から悪趣味だと言われ続けようとも、どれだけみじめになろうとも、絵を描き続けられればそれで十分だと思うことにした。
世界に穴が空き、宇宙や深海よりも異世界の方が近くなった世の中はどんどんきな臭くなり、遠い国で映画の中から出てきたような怪人とヒーローが戦い出し、いよいよ世も末かと思ったら、あっさり悪の組織は崩壊し、今度はそこの科学者が自分にコンタクトをとってきた。しかも少年。しかも女装している。
それがヴィクター・フランソワとの出会いだった。
客の少ない小さなレストランで私を待っていた彼は、見るからに奇抜で孤独な存在感を放っていた。同時に、ほんの少しの衝撃で砕け散ってしまうような儚さもあった。外見ではなく、振る舞いから滲み出る心の脆さだ。
ヴィクターは自分に人を殺す怪人のデザインを依頼したが、自分は悪趣味でグロテスクな絵を描いても、人を殺す手助けはできないと断った。
思えばそれはヴィクター自身が自覚しないまま救いを求めて手を伸ばしているようなものだったのかもしれない。
「他にいいデザイナーが見つからなければ、もういいかな」と諦めの言葉を口にしていた彼の後ろ姿は、あと数日もしないうちに死んでしまいそうな気配すらあった。
もし自分の選択で人が死ぬようなことがあればたまったもんじゃないと思い、「気が変わるかも」と嘘をついて、連絡先を手に入れた。
次の日、一日中頭を捻って自分にできることを考えた。
怪人を作れるようなやつの頭に自分なんかが敵わないのはわかっていた。だからもっと創造力のある発想にシフトを変えた。
"みんなの世界をぶっ壊すくらいなら、いっそ自分たちだけの新しい世界を作ってしまおう"
難しいことはわからないが、少なくとも自分よりは頭のいい彼ならなんとかできちゃうかもしれない。
2日目にネットで自分が調べられる範囲で「次元に穴を開ける方法」や「世界の作り方」「文化に関する論文」などをひたすら調べて印刷した。
昔から文字を読むのは苦手だったから、役に立たない資料や間違ったデタラメ論文も大量に混じっているかもしれない。
だがこれだけの量の紙クズを見せることで少なくともそれだけ時間を費やすほど彼のことを考えていたということだけは伝わるかもしれない。
「時間を費やして自分の興味や関心を人に伝える」という点で言えば、これは自分の手で絵を描くことと同じだった。
私はキャリーケースに資料を詰め込んでヴィクターに会いに行った。
3日ぶりにヴィクターと会ったのは、ここで殺されても誰にも見つからないような気さえする人気のない倉庫だった。
彼は私の荷物を非常に警戒していた。
後から聞いた話によると、爆弾だと思っていたらしい。私を警戒して銃も持っていたという。あの時誤解されて殺されなくて本当によかった。
私が苦労して持ってきた重たい資料の数々をヴィクターは眺め、呆れたようにため息を出したのを今でも覚えている。
それでも私は諦めずに説得を続けた。
すると何かが彼の琴線に触れたのか、彼はシャーレの中に閉じ込めた白いアメーバを見せてきた。
次の怪人を作るための材料だったそうだが、それを移植して新人類になってしまうこともできると彼は言った。
2人だけで新しい世界を作る知識や技術をこの世界で手に入れることはできないが、異世界に渡ってその手段を探すことはできるとも言った。
彼の興味を引くことに成功したのだ。
私は嬉しくなって彼の手を握ったら、あっという間に振り解いてビンタを返してきた。あれは結構痛かった。
そこからは大変な旅だった。
慣れない乗り物に乗ったり、乗せてもらえない時はヴィクターがヒーローから剥ぎ取った装備で乗り物に張り付いたりして転々といろんな世界を旅した。
環境や文化がまるで違う世界で生きるのは大変だったが、その中で発見を探すのは楽しかった。
次元を切り開いてビッグバンを起こすことはできないが、この世のどこでもない空間に小さな街ほどの世界を作る方法は得ることができた。
新たな人類のインスピレーションを与えてくれるバイオロイドのいる世界にも行くことができた。
でもやっぱり人生うまくいかないこともある。
とある世界で生活費を稼ぐために絵を売っていたら、警察に捕まってしまった。
あの時描いた絵は、その世界では絶対にやってはいけない表現だったらしく、もし売れていたら死刑になっていたらしい。
ただ罰は私にとって十分に重く、手術で右手の神経を切断されるはめになってしまった。
麻酔から目覚めた私をヴィクターは罪悪感たっぷりの顔で出迎えてくれた。
気にしていないよと言ってやったが、ぼくの場所選びが悪かったとか、ぼくがもっと禁忌表現を調べておくべきだったとか色々言ってきたので慰めてあげようと右手を伸ばした。
そういえば手術をしたのに全然動くじゃないかと思ったら、手首から先が全く動かない。
力の入る感覚がまるでない。
だんだんとその恐ろしさがわかってきた。
見た目じゃ変化がわからないから、当たり前のように生活していく中で、たびたび「手が動かない」という事実を思い知らされることになってしまうし、見た目じゃわからないから、嘘をついているように見える、配慮も手助けもされにくい障がい者となってしまったのだ。
ヴィクターの前じゃなんとか取り乱さないようにしていたが、生きがいであった絵が描けなくなったという事実はかなりこたえて、私は塞ぎ込んでしまった。
このままでは死んでしまうと思ったヴィクターは、私を新しい体に生まれ変わらせ、もう世界を作り始めてしまおうと言った。
まだまだ準備不足だらけの段階だったけど、二人とも半ばやけになっていたのもあり、実行に移した。
ヴィクターは私の細胞からカルシウムの壺を作り、以前私に見せたアメーバをその壺に染み込ませた。
壺の中で増殖したアメーバの中に、私の脳をはじめ全ての体を切り刻んで入れて喰わせると、私の記憶と特徴を模した人間になるという、いわゆるスワンプマンだ。
つまり出来上がるのは本当の私ではないと言えるが、人間の体組織は脳細胞を除いて数年で入れ替わるというし、記憶や性格が人間の本質なら、物質を入れ替えたものだって本人だろうということで、私は承諾してヴィクターに体を預けた。
転生の体感はあっという間だった。
腕が動かなくなる手術をされた時みたいだった。
ぼんやりと意識が戻った時は、まだ何も見えなかった。
うっすらと聞こえるヴィクターの「外見!外見を意識して!」という指示のもと、頭の中でイメージを固めると、少しずつ全身の感覚がハッキリしてきた。
目の前にはヴィクターがいた。
「ぼくのことがわかるか?」と聞いてきたので、「ヴィクター」と答えると、彼は「生きてる!生きてる!」と何度も叫んで喜んでいた。
動かなかった右手もちゃんと動いてくれていたが、ワタシは自分の手を取り戻したことよりも、ずっと友達の出来なかったワタシに、ワタシがいることを喜んてくれる存在ができたということの方がずっと嬉しかった。
新しく生まれ変わったワタシは、真っ白な肌に狐の面のような外見をしていることを、鏡を見てからようやく知った。
お面をつけて外を出歩いていた時の記憶の方が印象深かったからかもしれないとヴィクターは言った。
ワタシの実験が成功したのを見届けると、ヴィクターも自分の体を捨てて新しい体へと生まれ変わろうとした。
たった一回の実験で自分の体にも試そうとするのはかなりイカれてると思ったし、彼がプログラミングしたロボットアームの手を借りたとはいえ、知人の体を切り刻むのは本当にキツかった。
運がいいことに、2回目の実験もしっかりうまくいってくれた。
ただワタシと違って、生まれ変わったヴィクターの顔は、なんとなくカエルっぽい雰囲気だった。
彼の考察では、絵描きとして想像力が鍛えられていたワタシの方が外見を整える力に優れていたのではないかとのこと。
私は頭の中のイメージをハッキリさせれば、外見が整うのではないかと思い、早速取り戻した右手の力でヴィクターの似顔絵を描いて彼に見せた。
結果は気持ちマシになった程度であんまり変わらなかった。
試行錯誤の末、ヴィクターがたどり着いた手法は、「ワタシの体組織で作った紙に絵を描いて、それを取り込ませる」というものだった。
同じアメーバを使っているというだけで上手くいくのか半信半疑だったが、そもそもあのアメーバはヴィクターのアレから作ったものらしい。
だから拒絶反応のリスクでいうとワタシの転生実験の方が危険度が高かったらしい。よくもやってくれたな。
でもそれだけ実験を渋っていた理由でもあるわけだ。許しちゃおう。
ワタシは腕によりをかけてヴィクターの新しい外見を考えた。
せっかくならお揃いがいい。同じようなカラーリングで狐の耳っぽいのもつけちゃおう。ヴィクターはフリフリの服が好きだからそれを着せてあげて、科学者っぽく白衣も着せてあげよう。
描きあげた絵は自画自賛したくなるほどの傑作だった。
正直これを食わせて消滅させてしまうのが惜しいぐらいだったが、ヴィクターが待ちきれなさそうにしていたので取り込ませてあげた。
するとヴィクターの体はみるみるうちに変化し、ワタシが描いた絵の通りの美少年が目の前に立っていた。
まるで魔法のような体験だった。
鏡を見た彼も満足そうだった。
ワタシは彼の隣に立ち、二人で鏡を覗き込んだ。
面影は残っているのだろうか。
残っていない方がいいのだろうか。
ワタシは無意識のうちにそう呟いていた。
ヴィクター
「美奴(びやっこ)、」
ヴィクターがワタシを絵描きとしての名前で呼んだ。
ヴィクター
「君に新しい名前をやる。趣味の悪いイカれた絵を描く発想力をたたえ、君のペンネームと"サイコパス"を掛け合わせた…"ビャッコパス"だ」
褒めてるのか貶してるのか微妙にわかりづらかったけど、彼の性格からしてたぶん褒めているんだろうと思うことにした。
ビャッコパス
「じゃあお礼にワタシからも新しい名前をプレゼントするよ。マッドサイエンティストである君と、その最新作ビャッコパスを掛け合わせ…君に"マデンス"という名を与えよう」
それからの日々はどんどん奇妙なものになっていった。
空間を切り開き、小さな世界に広げるのは実はそんなに難しいことではなかった。
マデンスに主導権を握らせていたのでさくさくと進んでいたからワタシがそう思っていただけかもしれないが。
空と大地を創り、光を創り、水を創り、生き物を作った。
とくに、生き物を作るのにワタシは大いに役立った。
ワタシの体の中で血の代わりに流れている体液をインクに使って絵を描くと、描いたものが動きだした。
特に依り代なんかがあるとよりしっかりと具現化させることができることがわかり、マデンスは自分の体組織を混ぜ込んだキャンバスを作ってくれた。何が混ざっているかはあんまり言いたくない。
創作活動は大好きだ。
キャンバスから美しいものも気持ち悪いものもどんどん生み出せる。
世界を作る日々は楽しくて仕方がなかった。
でもマデンスは色々生み出せるワタシに対し、次第に劣等感を抱いていくように見えた。
ある日マデンスはワタシに「この世界の創造主として神の座につけ」と言ってきた。
困惑するワタシにマデンスは、特別何かする必要はなく、ただ形式的なものだと言った。
そして続けて「ぼくはこの世界の王になる」と言った。
「そして──」そう言うとマデンスは自分のベルトと同じデザインの首輪をワタシに取り付けた。
マデンス
「王より偉い神を使役する王。これでぼくらの関係は対等だ」
ビャッコパス
「でもワタシ神様なんて嫌だよ。そんな柄じゃないし」
マデンス
「あくまで形式的なものだって言ったろう。このことはぼくたち二人だけの秘密にしてしまえばいい。せっかくだからビャッコパスというのは種族の名前にしよう。今から君はビャッコパスの神、"パシン"だ」
マデンスは常にワタシと対等であろうとしていた。
ワタシから見れば彼の方が優れた人間だと思っていたけど、マデンスはずっとワタシに劣等感を感じ続けていたのだろうか。
ワタシはマデンスから色々な物や思い出をもらったから、そのお返しとして、ワタシも彼との思い出や、彼の役に立ちそうな人生の考え方、心豊かに生きる術なんかを教えたつもりだけど、あれは果たして対等だったのだろうか。
ワタシとマデンスが対等であれば、あんな別れ方をしなくて済んだかもしれない。
そう思ったら、少し後悔の念が込み上げてきた。
気がついたら朝になっていた。
マデンスのことばかり考えていたら、夜通しでマデンスの肖像画を描いていた。
我ながらよく描けている。最期ぐらい自画自賛してしまおう。
アグリンブスがいつもより早く起きてきた。
マデンスの絵に興味を持っている。
ワタシはアグリンブスを抱き抱え、絵をよく見せた。
パシン
「ワタシがアグちゃんと出会うきっかけをくれた人だよ。彼のおかげでワタシは寂しくない最期を迎えられそうだ」