パシンが作品制作に使う部屋。
マデンスの企業「Madience LAB」が発明し、ビャッコパシティの主要企業
「益安堂」が製造している「ギョラン」というキャンバスに、
パシンは自身の体に繋げたペンで作品を描く。
びゃッこパスの体を構成する「セン状液」という白い体液には
個人の記憶や人格などの情報が含まれいて、本人の自認するイメージや
「こうありたい」という姿が見た目に反映される。
このギョランキャンバスはそんな「セン状液」に反応しやすいように作られており、
セン状液が染み込むと、描き手がイメージした形となって浮かび上がる。
パシンはこのキャンバスから生まれた作品たちを「チギョ」と読んでいる。
「アグリンブス」というチギョはそんなパシンの作品のひとつ。
「四肢を集約する」という意味を持つ名前をつけられたこの猟奇性を孕んだ作品には、
「一見不幸のように見える人間だからといって、見た目通り不幸であると決めつけてはいけない」
というメッセージを込めたとパシンは語る。
アグリンブスには四肢の代わりにツインテールで移動する能力があり、
手足のない自分をかわいいと思っている。
パシンが猟奇的な題材の作品ばかり作るのは
「自分が本当に見たい作品を創る者がいないから」
という思いが原動力であり、決して大衆受けするような作品を嫌っているわけではない。
世にありふれる表現物は他人が勝手に作ってくれるから、
わざわざ自分が作るまでもないと考えているのだ。
誰も作ろうとしないものを見たくなったとき、それを作ってくれるのは自分しかいない。
だからパシンは多様性の穴を補完するように、常軌を逸した題材の作品ばかり作っているのだ。
そんなことを知らない人間に、パシンは
単に猟奇的な表現物ばかり好む異常者だと思われてしまい、
やがて当時の人間たちの間で差別用語とされていた「狂人」と呼ばれるようになった。
【解説】
動画シリーズ「びゃッこパスの狂人画廊」の背景に使うために制作したイラストで、パシンやアグリンブスなどはレイヤー分けされているので、何もない部屋の差分もあります。
動画背景の使用が目的なのであまり配置されたものが少ないですが、あるだけ解説いたします。
部屋の雰囲気は雨の日の夕方。
雰囲気が非常に作者をリラックスさせ、創作意欲を手助けさせるのです。
作者は感傷に浸って描いたものがもっとも自分らしい絵だと思っており、そのためにセンチメンタルを刺激する空間を作っています。
右側にいるデカいのはアグリンブスという、人形のようなナニカ。
パシン(左側の白い人)が肩から伸びたペンで描いたものが実体化したものです。
アグリンブスのキャラクターデザインはゆめにっきというゲームのモノ子と呼ばれるキャラクターがモチーフです。
もっというと、牛蒡という方の製作したファンムービーのモノ子がモデルです。
パシンが座っている椅子は「狂人画廊」のオープニングに登場したものと同じです。
動画の椅子は、「3回見たら死ぬ絵」と言われてしまっている、ベクシンスキーの絵のパロディ。
壁掛け時計はキキララの壁掛け時計がモデル。
幼い頃、他人の家でああいったファンシーなキャラクターの時計が妙に記憶に残っていて、ああいったものが欲しいと思ったことはないものの、ぼんやりと記憶に残っているものは今の自分を構成するものであると考えました。
そのまま版権キャラクターを描くわけにはいかないので、もうひとつ今の自分を作った要素である、「Hey Diddle Diddle」という童謡を時計のデザインに取り入れました。
今この曲をYouTubeかなんかで検索すると、4拍子の明るいポップなMVしか出てこないのですが、作者が幼い頃聴いていた童謡のCDにもいくつかこの曲が収録されており、曲はどれも3拍子の暗い雰囲気のものでした。
とくに初めてこの曲を知ったのは「英語であそぼ」で登場した3拍子のMVで、これが非常にホラーな絵面で、幼き日の作者のトラウマになりました。
しかしなが、トラウマというものは依存性があるようで、あのMVに出てきた人形の鳥肌が立つようなおぞましい顔を何度も見たくなり、ビデオテープを引っ張り出してテレビに映った当時の録画映像を写真に収め、大人になるまであの頃聴いていた「Hey Diddle Diddle」という曲を聴き続けていました。
作者にとってトラウマとは、それを飼い慣らした途端、唯一無二の魅力を放つものへと変貌するのです。
薄暗い部屋も、病的なデザインのキャラクターも、窓から見た雨の景色も、作者自身が忘れているだけで、何かしらのトラウマに起因するものだったりするのかもしれません。
そう考えると、たとえ深く傷つくような嫌なことがあっても、やがて自分を構成する要素になるのであれば、歩みが止まりにくくなるんじゃないかな、と思うのです。