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『食欲を操作する謎の装置』のせいで太る女子高生の話 全文(全体公開4733文字+限定公開10351文字、ピークは姉102kg、妹69kg)


「お姉ちゃん、見て見て!」

「何それ……?」


今日から7月が始まった。何だかんだで梅雨が続いていてジメジメしている。

中々祝日も無くて代り映えのない毎日を送っている訳だけど……

今日は妹の瑠実(るみ)が何か変なものを買ってきたらしい。


「よく分かんないけど、道端に屋台みたいなのがあったんだよ。

そこで『ジョークグッズ、各種変なもの売ってます』って書いてて。

何だか面白そうと思って買ったんだよ」

「訳分かんない……」

「これは『食欲コントローラー』って言うんだって。

色んな人の食欲を自在に操れる凄い装置らしいけど、本当かな?」

「そんな訳無いでしょ」


まったく……この子は何を考えてるんだか。

普通に考えて人の食欲をコントロールできる機械なんてある訳が無い。

仮にあったとしても道端で売ってるなんて意味不明だ。

「そーだよね。でもちょっと使ってみよっと」

「えっ、使うの?」

「買った以上は使わないとね!

早速ボタンを押してみよう!」


瑠実はそう言って装置のボタンを押した。

この機械はリモコンみたいな形状をしていて、『食欲アップ!』と『食欲ダウン!』というボタンだけが搭載されている。

本当にそれだけ。

『食欲を変更する人に向けてもう一度ボタンを押してください』

「喋った!?」

不意に音声が流れて妹がびっくりしている。

私も内心驚いた。というか人に向けてるか分かるんだ……意外と凝った作りだと感心した。


「じゃあ……自分に向けてもう一回押そうっと」

『人物が検知されました。食欲を20%増加させます』

「わぁ!何か上手く行ったみたい!」

「……はいはい、良かったね」

まあ、単純に音声を流してるだけで効力なんてある訳無いんだけど。


『この人物の食欲をもう一度20%増加させます』

「凄い!台詞が変わった!」

そう思ってたらまた瑠実がボタンを押している。

しかも同じ人に向けたら台詞が変わるみたい。

確かにある程度はちゃんと作られた装置らしい……けど意味は無いだろう。


そんな感じで食欲アップボタンを押した後、今度は私に向けて来た。

「お姉ちゃんも食欲増やしてみる?」

「別にいいよ。そんなの効かないから」

「じゃあ連打しちゃえ!」

『食欲が20、40、60、80、100%増加しました。

連打の場合効果は徐々に現れます』

「……中々しっかりできてるね」

台詞のパターンも案外多く、変化が付いている。

友達同士で使い合って遊ぶ分にはちょっと面白いかもしれない。

だけど1回使ったらもう十分だと思うけど。


「ふふふ……これでお姉ちゃんも食欲倍増、私よりぽっちゃりさんになるんだよ……」

「ならないから。第一あなたは食欲ダウンさせた方がいいんじゃない?」

「そうだった!じゃあもう一回自分に向けてー」

『食欲アップさせた人物の場合、1週間食欲ダウンボタンが無効になります』

「うわぁ、とんでもないことしちゃった!」

「大丈夫だよ、そんなの嘘だから」

「だったらいいけど……」

「いちいち真に受けないの!それより運動の一つでもして身体を絞ったら?」


瑠実はどうもお菓子とか甘いものが好きらしく、ついつい食べ過ぎてしまう傾向がある。

おかげで私と同じ157cmなのに体重が55kgに増えていた。こっちは46kgなんだけど……

私と妹は年子で同じ高校に通ってるから制服も同じのを着ていて、ちょっとややこしい。

だけどサイズは瑠実の方が1周りは大きいんだよね。

しかも今年入学してから高校近くのケーキ屋巡りにハマったとか言ってるし……

普段も何かとお菓子を買ってきては食べている印象がある。

量自体は普通だけど、頻繁に買ってるからなぁ。


だからか、お腹はぷにぷにとしたお肉が付いて弛み気味だし、スカート下の太ももは割とムッチリしている。

顔も私より明らかに丸みを帯びてるし……

食事制限とまでは行かなくても、ちゃんとエクササイズでもした方が良いんじゃないかって思う。

でもこの子は運動嫌いだからなぁ。

私は運動部じゃないけど動くのはそれなりに好きだし、走るのも遅くは無いんだけど……

姉妹で結構違いが出るんだなぁと思う。


「はいはい、分かったよー。スレンダー美人のお姉ちゃん」

「そんな事言わなくていい!」

「じゃあちょっと近所をジョギングしてくるね。暑いけど」

「水分補給はしっかりしなさいよ」

「りょーかい」


そう言って妹は部屋から出て行った。

(……別に細い体型になりたいと思った訳じゃないんだけど)


一人になった部屋で私は鏡を眺めている。

服を捲ってウエストの様子も見てみたけど、しっかりと明確に括れた姿が確認できた。

細いジーンズに包まれた脚も比較的引き締まってるし、ヒップも小尻と言っていいと思う。

胸は普通か、ちょっと控えめな感じで服の上からだと一応は分かるという程度。

顔はあの子よりも大分ほっそりしてて、顎にお肉が付いていることも無い。


今まで私はそんなに食欲を抱いた事がなく、妹みたいに『お菓子いっぱい食べたい!』という衝動に駆られることもほとんど無い。

三食以外に何かを食べることもないし、おやつに飴やチョコを食べることすら全くないと思う。

飲むものと言えばお茶か水で、ジュースはほとんど飲まないしサイダーなんてもってのほか。

だから太ることとは無縁で、普通に過ごしているだけでこんな体型になった。

平均よりは上なボディラインだとは思うけど、自分は特に何も思わないかな。


(……食欲が増えるなんて、あるわけない)

瑠実の買ったリモコン状の機械を手に取った私は、また自分に向けて食欲アップのボタンを押してみた。

『食欲が更に20%増加します』

(変なもの作る人がいるんだなぁ)

一体誰に向けて作ったジョークグッズだろうと思いつつ、私は机の上にその装置を置いた。



---



「結局あのリモコンって意味あるのかな?」

「そんなのある訳無いでしょ」

「……そうだよね」


翌日、私は妹と一緒にネット配信が始まったばかりの映画をテレビで見ていた。

ちなみに瑠実は大きなポテチの袋を持って次々と口に入れている。



「……ちょっと私もお菓子取って来る」

始まって20分ぐらいが経った時、私はソファーから立ってポテチを取りに行った。

妹のポテチをおすそ分けしてもらおうかと思ったけど、既に袋が空になってたから……


『(バリッ……ボリッ……)』

ソファーに戻って来た私は、袋を開けてポテチを食べ始めた。

映画を見ながらこうやってスナック菓子を食べてると心がリラックスする。

お菓子を食べるのは私の生活の一部だなぁと感じてしまうけど、まあいいや。



……


映画を見終わった後、手を洗った私は例のリモコンをまた手に取っていた。

瑠実の方は今朝に自分で買ってきたシュークリームをバクバク食べている。

「やっぱり何の意味もない装置だったね」

「確かにお姉ちゃんの食欲も変わってないし、私も変わってないかも」

「単なるジョークグッズだったんだよ」


実際私の食欲は変わっていないように思う。

三度の食事を普通に食べて、小腹が空いた時はおやつを頬張る。

今までずっとそうだったような記憶があるし、妹だって変わらない。

普段通り、お菓子を妙に大量に買っては食べまくっている。

「そりゃそうだよね……」

「あんまり無駄な買い物したら駄目だよ?」

「分かったよ」



---



2週間が経った頃だった。

「あれ……キツいなぁ……」

何日か穿いてなかったジーンズを脚に通したんだけど……

思いのほか大分キツい。

生地が脚をかなり締め付ける感じがするし、お尻も窮屈で中々の圧迫感……

ファスナーを締めようとしたら……中々上手く閉じない。


「えいっ……ふんっ……!」

何回か力を入れて引っ張り、何とか上まで引っ張り上げた。

だけど……今度はボタンが閉まらない。


「はぁ……!入って……!」

お腹を引っ込めて、グイっと生地を引っ張ってボタンを無理やりに留めようとする。

しかし何回か試したけどあと2センチぐらいが届かない。


「……もしかして太った?」

気になった私はピチピチのジーンズを一旦脱ぎ、トップスも脱いで下着だけになった。

その姿はかなりふっくらしていて、2週間前の妹よりも太っているかもしれない。


顔は顎に余分なお肉が付き、頬も丸みが付いてしまっている。

二の腕もプニっとした脂肪で柔らかくなり、ふくらはぎも膨れていた。

胸はBカップのブラが明らかに窮屈に見える程に育っていて、そろそろ買い替えが必要だと思う。

そしてウエストを見ると……この間まできゅっと括れていたのが嘘みたいに肉が付き、括れが消滅しかかっていた。

代わりにおへそ周りにはぼよっとした脂肪が付いてちょっとせり出してしまっている。

ヒップは小尻とは呼べない程に育ってしまい、むしろムッチリと大きい感じになってしまった。

太ももはジーンズがキツいのも納得する程に太くなり、正直大分ムチムチしている。


依然として肥満だとかデブだとか、そんな水準ではない。

だけど異様に太ってしまっているのはどう見ても明らかだった。

(でも……あの子だって太ってるはず……)

私は一旦サイズが大きめのスカートとトップスを着て、リビングまで向かった。



「美味しいー!」

リビングにはケーキを大量に食べている瑠実の姿があった。

「ねぇ、瑠実太ったんじゃない?」

「お姉ちゃんだってぽっちゃりしてきてるよ……」

「だけどあなたの方がマズい事になってると思うけど」


実際よく見るとスカートのホックが留まっていない。安全ピンで誤魔化してる状態だ……

顔を眺めれば二重顎が徐々に形成されつつあり、頬も丸みを増した感じがする。

お腹もそろそろシャツ越しでもポッコリ出てるのが分かるレベルで、触ったら柔らかそう。

キツそうなスカートに包まれたお尻も横に広がって来たし、座ってるからか太ももが相当に太く見える。

ただし胸はお腹の印象さえ薄める程に目立っているけど。

私以上に太った姿は、いよいよ肥満体型に分類されそうなレベルに達していた。


「なんで私たち太ったんだろう?」

「そうだよね……お姉ちゃん今まで太ったこと無かったのに」

お互い何故か急に太ってしまった。だけど特に変わったことは無い。

私だって今まで通り毎回の食事をしっかり摂って、それから勉強中には板チョコを食べたりポテチを色々食べている。

夕食後には瑠実が買ってきたホールケーキを一緒に食べることも習慣になってるけど、どれもこれも今に始まった事ではない。

むしろ私はたくさんご飯もお菓子も食べてるけど太らない、そんな体質だったはず。

自分の記憶が確かなら、の話だけど。まさか自分自身の事を間違う訳が無い。

だから、だから今まで太ってなかったのに……


(これ……もしや……)

机の端に置いてある例のリモコンに再び目線を移す。

全然効果は無いと思うんだけど……実際食欲が増えてる覚えはないし……

でも……時期が被る気がする……


(まあ……偶然だよね……?)

……考えすぎかな。これはジョークグッズだから。

それよりも……


「ねえ瑠実、私にもケーキ分けて?」

「いいよー!」

私は目の前にあるケーキが食べたくてしょうがない。

普段よりもずっと美味しそうに見える。



「甘くて美味しい……!」

「でしょ?」

ケーキを口にした瞬間、もう何だか今考えてたことも些細な事に思えてきた。

ちょっと太ることだってよくあることだし、いいか……



---



7月18日の今日、私は普段通り学校に登校しようと支度していたのだが……

「うっ、キツくなってきた……」

制服のスカートのホックが閉めにくくなってしまった。

アジャスターを一番緩く調節したら何とか留まったけど、思っているよりも増量しているのかもしれない。



「瑠実ー、まだー?」

「ちょ、ちょっと待って!」

妹の方も私と同様、スカートと格闘する羽目になったらしい。

いつもよりも着替えるのに時間が大分掛かっている。

私よりも悪戦苦闘してるのか、遅い……



「ごめん!」

「はいはい、急ぐよ」

やっと出て来た妹と一緒に、私は家の玄関を開けた。

横を見る限りではどうやらホックは辛うじて留まったらしい。



……


教室に着いた私は、早速持って来たサイダーを開けてゴクゴクと飲み始めた。

この学校、敷地内にある自販機で色々買えるんだよね。


「そんなに飲んでどうしたの?」

「いや、暑いから冷たいものが飲みたくて」

「おかしいなぁ?今まで全然飲んで無かったよね?」

「えっ?そんなこと無いけど……?」

「最近変な感じだよ……?

まあいいや」


クラスメートとの会話がいまいち嚙み合わない。

元々私は夏にサイダーとか結構飲んでた記憶があるんだけど……

それはそうと、持って来たポテチもちょっと食べよう……


「ええっ!?ポテチとか食べるの!?」

「そりゃ好きだし、食べるけど?」

「別人みたいになってる……ストレスでも溜め込んでるの?」

「全然?」


私は普段と同じことをしてるつもりなんだけどなぁ。

全く訳が分からない。



……


(……ちょっとこれは恥ずかしい)

今から水泳の授業だから水着に着替えたんだけど……この姿だと中々体型がくっきりと現れてしまう。

お腹の柔らかい贅肉が少し張り出してるところや、お尻や胸が膨らんでしまったところ、そして肉が増えてしまった太もも……

制服姿だとそこまで分からないかなと思ってたけど、やっぱり水着では誤魔化せない。


プールサイドに座っていても、近くの女子たちが何かと私の身体に目線を向けている。

何とも居心地の悪い感じだ。

さっさとプールに入って泳ぎたい気分になる。

陸上だと脂肪がちょっと多くて運動しにくいけど、水中なら自在に動き回れるから。



……


体育が終わり、着替えた私は教室に戻ってきていた。

(はぁ……何か体力も落ちてる気がする……)

さっきプールで泳いで気付いたけど、思ってたよりも身体を動かすのにエネルギーが要る。

水中だから太ったのは関係ないと思ったんだけどなぁ。


(運動したし、エネルギー補給しなきゃ……)

そう思った私はまたお菓子を取り出して食べ始めた。

確か体育の後はこうやって甘いものを食べるのが習慣だった……よね?


「また食べてる!太りたいの?」

「いや、別に?」

普段通りなのに……やけに変な感じがする。



---



更に2週間位が経った頃。

今日は7月最終日で明日から8月になる。

それはどうでもいいんだけど……


「うぐぐ……これもキツいなぁ……」

最近、服がどれもこれもキツくてしょうがない。

クローゼットにある服を色々取り出しては着てみるけど、窮屈で着心地がどれも良くない感じ。

……本当はそんなレベルじゃないけど。

そもそも着心地以前に太り過ぎて入らない服ばかりになってしまった。

何なら服だけでなく、下着も全然サイズが合わなくて大変だ。


一旦服を着るのを諦め、私は姿見をちゃんと直視することにした。

そこには以前の妹……というより今の妹と同じぐらいに太った姿が映っている。


顔はお肉が更に付いて頬が本格的に丸くなり、顎もついに二重になってしまった。

二の腕はたぷたぷという感じでかなり柔らかい。

そして胸はこの間買ったばかりのDカップのブラがピチピチでホックが今にも壊れそうに……

ブラのカップから胸のお肉が出てるし、随分と大きくなっている。


だけどお腹も同じく随分と張り出してしまい、段々腹という情けない形態に変化していた。

括れが消え去ったウエストを触ると、モチモチとしてて文字通り餅でも掴んでるような感触……

たっぷり付いた柔らかい脂肪が手のひらに収まっている。

両手でしっかり贅肉が掴めてしまう程で、普段はショーツの上にぼよんと乗ってしまう。

ヒップは大きなサイズに買い替えたはずのショーツが既に食い込んでて少し痛い……

明らかにデカくなったお尻は存在感たっぷりで、水着だと相当に視線を集めるだろう。

太ももはお尻と同様しっかりムチムチで歩くと贅肉がプルプル震える……


体重もいよいよ70kgの大台に乗ってしまい、流石に焦らざるを得ない。

このままじゃ……というより既にデブになってしまっている。

だけど、いまいち太った原因が分からない。


何せ私が朝から沢山食べて、学校でも家でもお菓子をたっぷり食べるのは昔から変わらないから。

お昼や晩もしっかり食べなきゃと思ってるし、何なら夜食にカップラーメンを食べることも多い。

勉強中にはついつい小腹が空いてチョコとか口にするし。当然ポテチも食べている。


でも、私の記憶だと前々からこんな感じだったはず。

大食いだけど何故か全然太らない……はずだった。

なのに今になって急激に太るのが分からない。

今までのツケが回って来たんだろうか?


……とにかく、そろそろ服が無くてピンチだ。

私は結局諦めて一番大きなサイズのスカートとTシャツを着ることにした。

だけど、スカートはホックが全然閉まらずファスナーすら開いたまま。

しかも変に丈が短いせいで弛んだ太ももがほぼ見えてる……

Tシャツはパツンパツンで胸やお腹のラインが丸わかり……



取りあえずリビングに行ってみると、何やらストレッチをしている妹の姿があった。

「何してるの?」

「いや、最近太り過ぎてマズいからちょっとは動こうと思ってるんだよ。

あとお姉ちゃん、そろそろダイエットしたら?」

「る、瑠実!?」


まさかこの子に痩せることを勧められるとは思いもしなかった。

でも瑠実だって相当に太ってるのに……

……って思ったけど、本当に今の自分と大差ない。

顔や腕、上半身に下半身、どれを見てもあまり変わらないし……

むしろ何だか双子に見える程に似通っている。


「瑠実って今何kgあるの?」

「えっ、69kgだけど。お姉ちゃんの方がまだ軽いかな?」

「そう……だと思う……ははは……」

まだ……70kgに到達してないんだ……

ということは既に私の方が……ちょっとだけでもデブということ……


どうしよう……一体どうしたらいいか分からない。

今までと変わらないはずの食生活なのに……何で……?



『食欲が20%減少しました』……『食欲が更に20%減少しました』……

『食欲が更に20%減少しました』……

「何してるの?」

私が悩んでる最中、妹はあのリモコンで遊んでいた。

瑠実自身に向けて食欲ダウンボタンを押している。


「いや、何の意味も無いリモコンだと思うけどさ。

こうしたら何だか痩せれそうな気になるじゃん」

「気分だけ、ね……」

「お姉ちゃんもやってみる?」

「要らない。だって意味なんて無いから」

「分かったよ」


まだこの子はこんなリモコンに効力があると思ってるの?

こんな装置に何の意味も無い。

だって私も妹も、食欲はずっと何一つ変わってないんだから。

流石にそんな事実を間違える訳が無い。



---



今日からとうとう8月になった。

私は家でゴロゴロしながらジュースを飲んでお菓子を食べて過ごしている。


一方で瑠実はというと……今日はランニングに行くらしい。

『お姉ちゃんみたいにダラダラしてたら太りそうだし』とか言っていた。

確かに私みたいな食生活だと太りそうな感じはする。

今まで太ったことの無い私ですらついにブクブク太り出してデブったし。


そういやあの子は私と一緒で太ってるけど、何故かはよく分からない。

元々瑠実はあまり食べない方で、私よりも遥かに食欲は少ないはず。

だけど前からぽっちゃり気味で最近大分太ってしまった。

全然食べてないのにどうして急に太ったんだろうか?

私の見ていないところでバクバク食べてるとか……まああり得なくもないけど。


最近こんな感じで、変な事が続いている。

一体何なのか……という感じだけど……



(リモコン……なの……?)

また私はジョークグッズのリモコンを手にしていた。

妹が何回も使ってるけど、何も効果は無い。

今まで通り妹は小食気味で、私は大食家だ。

その事実はずっと変わっていない。私の記憶では。



---



今日は8月14日。

夏休み明けも徐々に近づいてきている……気がする。


「お姉ちゃん、ちょっとは運動しないと……

これ以上太ったら100kg越えのとんでもないデブになるよ?」

そして、朝から瑠実に怒られてしまっている。


妹は夏休みに運動を続け、そして食事の量もいつもと比べて更に少なくしている。

その結果、64kgにまで減ったらしい。

確かに顔も前よりもお肉が減った気がするし、お腹もポッコリ具合がマシになったような……

他はあまり分からないけど、それでも肥満という感じではなくなってきた。


食べ過ぎに注意して、よく運動している結果だと思う。

しっかりしてて偉いなぁ。


それに比べて私は……

家で馬鹿みたいにお菓子を食べまくり、ご飯も妹の倍以上は楽勝で平らげる。

それでいて運動はほとんどしない。

こんな生活を続けてたらブクブク太るのは当たり前。


だけど……今までだってこんな食生活だったはず。

太らなかった方がおかしいぐらいなのに。

……でも何だか、よくわからないけど変な気もする。


「ねぇ、瑠実?

私って元々凄く食べる方だよね?」

「確かそうだったと思うよ?

だけど……」


瑠実が何か言いたげな感じ……

どうしたんだろう?

「だけど……ってどうしたの?」

「いや、元々お姉ちゃんってこんなに大食いだったかなぁって」

「どういうこと?」


妹の言っていることがピンとこない。

私の記憶ではずっと前からこの調子だったと思うけど……


「何だか変なんだよね。

私、そこまで食べてないはずなのに急に激太りしてるし……

お姉ちゃんだって今までと違ってどんどん体重が増えてるでしょ?」

「それはそうだけど……」

いまいち言っている意味がよく分からない。


「もし、このリモコンが何かを本当に操作してるとしたら……」

瑠実は例のリモコンを手に取りながら、そんな事を言っている。


「そうだよね、瑠実が買ってきてからだよね……」

時期的には丁度一致するし、分からないだけで何か影響を与えている可能性はありそう。


私はリモコンを改めてまじまじと見つめてみた。

(……言われてみたら、食欲アップボタンとか押してからだよね……)

自分の記憶では今までだって大食いのはず。

でもこのボタンを押してから太ってる訳だから……


(えっ、まさか……)

恐ろしい一つの可能性が私の脳裏に思い浮かんだ。


「瑠実、もしかして……このリモコンって、食欲アップとか押したら……」

「押したら?」

「『最初からその食欲だった』って感じで色々書き換えられるのかも……」

「……まさか、そんなこと……ある訳無いよ……

でも……確かに変な気はしてたんだよね……お姉ちゃんの言う通りだったりして……」


……私の推測が本当だったら、これはジョークグッズなんかじゃない。

逆に強力過ぎる、恐ろしい代物だったということ……


「じゃあ、私が食べまくるのも……このリモコンのせいってこと?」

「……多分、きっと……」

「……一応、食欲ダウンボタンを押してみよう」


私はリモコンを自分自身に向けて、そして食欲ダウンボタンを押してみた。


『すみません、食欲ダウンの利用回数が上限に達しています。

再び使用するには、あと2カ月お待ちください』

「……はぁ!?」

「そんな事あるの!?」

私たちはリモコンから流れる音声に呆気にとられた。

そんなの聞いてないよ!?


「じゃあ食欲アップだったら……」

『食欲が20%アップしました』

「そっちは使えるんだ……」

「……ってお姉ちゃん!もっと太るよ!」

「あっ!そうだった!」


何で食欲アップのボタンは無制限なの!?

しかもこれでまた余計に太っちゃうし!

「……お姉ちゃん、ただでさえ結構デブなのに……

これ以上食欲が増えたら本当にマズいんじゃない?」

「うぅ……それはその通りだよ……」


「……お姉ちゃん、私今からランニングに行ってくるね」

「頑張って……」

瑠実が部屋を出た後、私は姿見の前まで移動した。


(これが今の私かぁ……)

リモコンには何の意味もないと軽率な行動を取った結果が、この身体なんだよね……


まずお腹はかなり出っ張ってしまい、着ているTシャツも捲れ上がっておへそがしっかり見えてしまっている。

そして穿いているスカートもピッチピチで、ファスナーは全く閉まらないし今にも生地がはち切れそう……

デカくなったお尻のせいで丈はかなりのミニになってしまい、油断するとすぐにショーツが見えてしまう程に……


服を着てても凄く太ってるのが一目瞭然だけど、脱いでみるともっと分かりやすくなってしまう。

Tシャツの中から現れた胸は、Fカップのブラさえ全くサイズが合わない位に巨大化している。

下着が合ってないせいか、歩くだけでもゆさゆさと上下に揺れてしまう……

そしてお腹は胸と張り合うように前にせり出し、しっかりと(?)太鼓腹に成長している。

もっとも、男性のパンパンに張ったお腹と違ってむにょむにょした柔らかい皮下脂肪なんだけどね。

ショーツの上に贅肉がどっさりと乗っかってる訳だけど、最近は多すぎるからか垂れてきてる気がする……


そして普段スカートに包まれているお尻は、下着だけになると凄くデカく感じてしまう。

穿いているショーツは決して小さくないのに、もうミッチリとキツく食い込んでていつ破けてもおかしくない。

太ももは普段からほとんど見えてるけど、改めて見ると隙間が全然無くて両脚が密着している。

そして顔は頬が更にぷっくり膨れて、完全に丸顔になってしまった。


確かにこれだけ食べてたら、こんなだらしない贅肉だらけの身体になるのもしょうがない。

でも今までもずっとそうだった……いやそうだったと思い込んでいた。

あのリモコンのせいで。



……これを売った人が、そして作った所が分かればいいんだけど。

でも瑠実は道端で買ったって言ってたし……どうしたらいいんだろう。

ただでさえかなりのデブなのに、これ以上太ったら大変な事になるよ……


(『食欲を変えるリモコン 製造元』)

とにかく何か手がかりが欲しいと思い、ダメ元で検索してみた。


(あれ、もしかしてこれかな?)

するとあっけなく見慣れたリモコンと同じ画像がヒットした。

その画像が貼ってあるサイトを開いてみると、作った会社の名前や使い方が色々書いてある。


(ふむふむ……このリモコンはネット通販でも買えるんだね……)

幸い、食欲を変えるこの変な装置は今でも簡単に買えるらしい。

今家にある物は上限まで食欲ダウン機能を使ってしまったけど、もう一回買ったらいいだけだよね。


(早速カートに入れて……って届くまで2週間から1カ月?遅くない?)

もっと早く来てくれたらいいのに……一刻も早く体重を減らしたいんだよ?

だけど、これを買ったら異常な食欲も収まってそのうち痩せる。


(……これで購入完了っと。早く痩せたいなぁ……)

とりあえず替えのリモコンを購入できて、ちょっとホッとした。

……さてと、もうお腹が空いちゃったなぁ。

ちょっと前にポテチを食べたばっかりなのに。

でもリモコンのせいだから食べ過ぎるのはしょうがないよね。



(『バクバク……モグモグ……』)

私は部屋にあるいろんなお菓子を食べている。

だって、リモコンが届くまで食欲が多すぎるのはしょうがない。

どうせ食欲ダウンボタンが使えたら痩せるし、別にいいよね……

早くて2週間後にはダイエットを始めるつもりだから……

それまではしっかり美味しいものを食べておかなきゃ。



---



今日は夏休み最後の日。

明日から学校に再び登校しなきゃいけない。

何だかんだであっという間だったような気がする……


そんな感じでちょっと憂鬱だけど……

でも楽しみにしていることが一つある。


(やっと今日届くんだね……)

リモコンが届くというメールが一昨日に来て、今日配送予定になっている。

とうとう私の食欲が普通になると思うと嬉しい。


(……待ってる間お菓子でも食べよう)

でも今はまだお菓子が食べたい。それもリモコンのせいだからしょうがないよね。


あぁ、チョコチップクッキーが美味しいなぁ。

サイダーも一緒にゴクゴク飲んで、良い気分。



『(ピンポーン)』

遂にやって来た。

「はーい!」

私は立ち上がって、そして外に出ようとしたんだけど……


「ちょっと!お姉ちゃん!そんな恰好で出れないでしょ!?」

「えっ!?」

「私出るから待ってて!」

妹に制止されてしまった。



(……そりゃそうだよね)

良く考えなくても当たり前の話だった。

何せ私は今……上はキャミソール、下はショーツだけという酷い有様だから。

穿いていたスカートは……3日前にビリっとお尻の部分が勢いよく裂けてしまった。

どうしようもないデブなんだよね……

しかも上は上でブラもホックが壊れて使い物にならない状態だから、中々とんでもない状況になっている。


『(ぷるんっ、ぷるんっ……)』

ちょっと歩くだけでも巨大すぎる胸が激しく揺さぶられ、思いっきりキャミソールの生地が動いてしまう。

そしてその下は、これでもかとせり出した真ん丸なお腹が丸見え……

こんな姿でダラダラしている私は、もう女子高生として色々終わってると思う。

服を買いに行くことさえ面倒になってしまってるし、自堕落にも程がある。


しかし、食欲が異常なほど湧いてしまうのが悪い。

昔からこんなに食べてたような気がするけど、リモコンがそう思い込ませているんだと思う。

今の状態でも多分100kgはあるんじゃないかな……このままだと150kgとか200kgになるかも……

本当に100kg越えしてるかは知らないけど、怖くて体重計に乗る勇気がない。



「お姉ちゃん、届いたよ。

リモコンを使って頑張って痩せなきゃね」

「出てくれてありがとう……」

ちなみに目の前にいる瑠実は現在60kgになったらしい。


お腹を見れば辛うじて括れているように見えなくもないし、顔はそろそろ二重顎が解消されつつある。

依然としてぽっこりとおへそ周りが出っ張っているとはいえ、割と悪くない体型だと思う。

お尻や太もものムッチリ度合いも程よい感じになってきてて、順調にダイエットが進んでいるのがよく分かる。


「私もこれでやっと痩せれる……」

箱から例の機械を取り出した私は、すぐさま自分自身に向けた。

そして食欲ダウンボタンを間隔を空けて押していく……


『食欲が20%減少しました』……『食欲が更に20%減少しました』……


……

『これ以上食欲を下げるのは危険です。処理を中止しました』


何回もボタンを押し、やっとのことで食欲を元に戻すことができた。


「良かったね!お姉ちゃん!」

「私も瑠実みたいに痩せるんだから」



---



謎のリモコン騒動も終わり、私と妹の食欲も普通のレベルまで抑え込むことができた。

……もう1カ月が経ったんだなぁ。

正確に言えば、食欲が増えてバクバク食べまくっていた『はず』という感じだけど。


だって、夏休み中私が馬鹿みたいに食べまくっていたという覚えがないから。

普通に規則正しい食生活を送っていたという風にしか感じられない。

だけど、証拠のために残しておいたレシートや写真はそのまま残っている。

妹に撮ってもらった大量のお菓子を抱えている写真もちゃんと残してるし。


実感はあまり湧かないけど、動かぬ証拠を見る限りでは異常な食生活だったのはすぐ分かる。

同時に、自分の意識を変えてしまうリモコンの強力さにも恐怖を感じるよ……

ちなみに瑠実の方も私が過食状態だったことを覚えてない。

私も妹が急に激太りする程食べていたような気がしないんだよね。

どうも使った人と近くにいる人、両方の認識を変えてしまうみたい。

というかネットにあった説明書にそう書いてあった。


しかし……今の食欲は普通でも、異様に食べまくっていた影響は今でも色濃く残ってて……


(はぁ……いつになったら元の体型に戻れるんだろう……)

鏡に映る私は、先月とほとんど変わらないように見える。

数字上は5kg減ってる……らしいけど巨デブには変わりない。

体重も100kgは下回ったらしい……でもどうでもいいよね……


顔は首が顎肉で隠れる程で、大きい方だった眼は頬肉でちょっとだけ小さくなってしまった。

二の腕は周りの子の太ももより太い感じで、手を動かすたびにお肉がぼよぼよ震えている。

そして胸はHカップのブラが必要なほど膨れていて、制服姿でもどデカいバストが突き出してるのが分かりやすい。

下着のサイズ感もそろそろ凄い感じで、こんな大きなブラを着けてるんだ……って謎の感慨を覚える。


まあ、ショーツも馬鹿デカいんだけどね……

胸はまだいいとして、お尻がここまで大きくても困るだけ。

太ももだって歩くだけでもブルンブルン贅肉が左右に震えるし、極太の脚を見せるのが恥ずかしくてしょうがない。

制服も私服も下着も……何もかもデカくて何だか憂鬱になる。

でも、それ以上に私の身体がデカい。

今着てる制服は特注を除けば一番大きなサイズだけど、それでもキツい位だし。


だって胸のボタンは既に2回弾け飛んでるし、スカートのホックは1回飛んでしまっている。

今はプールで泳がないけど、サイズが小さくて色々食い込んでしまう水着で泳ぐのは罰ゲームだった。

というかミニスカの制服で登校すること自体、十分罰ゲームかな……

ここの制服、どうして大きなサイズでも丈が短めなの?

周りだってみんな太ももをしっかり見せてるし、私だけ長くしても変だなと思うけど……



「お姉ちゃん、ダイエットは順調かな?」

「数字上は、ね……」

体重はおかげで少しずつ減ってはいる。

だけど97kgを40kg台まで落とすのは凄く大変だと思う。

高校生の間はデブキャラで通すしかないのかも……


それに比べて瑠実はかなり痩せてきている。

「今何kg?」

「56kgだよ」

「すごいね……もう標準体型じゃん」

「まだ太目だけど……まあいいかな」


確かにもっと痩せてる子はたくさんいるし、ちょっとぽっちゃりしてる気もする。

だけど未だに100kg近い立派なデブである私に比べたら全然大したことは無い。


「むしろ今ぐらいの方がムチムチしてて良いんじゃないの?」

「そ、そう……?喜んでいいのかな……?」


照れ気味にそう返事する瑠実。

実際今の姿はバランスがいい気がする。


お腹はちょっとぷにぷにしてるけど、それもまた愛嬌がある。

割とムッチリした太ももはそれはそれで魅力的。

丸みのある顔もかわいいし、全体的に見たら良い感じだと思う。

一度太ったせいか胸だって太る前よりも更に大きくなってるし。

正直バストが大きいから全然太ってるように見えない。


……って、よく考えたら、瑠実って確か元々55kgだったよね。

ほぼ元の体型に戻せたって事……?

でも前見た時よりもずっとスタイルが良く感じる……


……なるほど、以前は私の方がずっと痩せてたからだらしない弛んだ身体に見えてたけど……

今は私の方が遥かにデブだから、痩せて見えるってことなんだね……



「瑠実さぁ、ほとんど太る前の体型に戻せたんだからそれでいいんじゃない?」

「お姉ちゃん、せっかくだから50kg切ろうかなって思ってるんだよ」

「別にそこまで絞らなくたっていいんじゃない?」

「でもこのペースだったら達成できそうだしー。

46kgになったらやめてもいいかな」


46kg……それはリモコンが来る前の私の体重だったはず。

でもあと10kg痩せたらそのレベルに到達できるんだよね……

元々瑠実はお菓子大好きで太り気味な子だったのになぁ……


一方で、私は50kg減らさないといけない……

幸い食欲は普通だから、特に意識せずともすんなり痩せていくはずだと思う。

だけど……果てしないのは確かだった。


しかも、学校ではすっかりデブキャラが定着しているのも問題なんだよね……

『デブなのに全然食べない』って感じで不審に思われるし。

『無理して痩せなくてもいっぱい食べたらいいじゃん』とか言われることもある……

そのせいでお菓子とかを押し付けられることも多々あるし。

だけど食欲が普通だから貰ってもどんどん溜まってしまう……



「ねぇ、瑠実」

「何?」

「あのリモコン、買って良かった?」

「お、お姉ちゃんにとっては最悪だったね……」

「……そうだね、最悪だった。

私も悪いんだけどね」


思えば最初から自分の食べてる様子を写真に記録したり、レシートとか残しておけばよかった。

そうすれば比較的早くからおかしいことに気づけたはずなのに。

変わってしまうのは使う人と周りの人の意識だけで、それ以外に影響はないから……


「まあ、でも瑠実が元の体型に戻れてよかった。

私もあなたも巨デブだったらこの部屋はどれだけ暑苦しかったことか」

「あはは……確かに……」



「お姉ちゃん、運動したらもっと早くダイエットできるんじゃない?」

「運動、かぁ……」

「だってできるだけ早く痩せた方がいいじゃん。

あと、ダイエット手伝うよ?元はと言えば私のせいなんだから」

「……悪いのはこんなリモコンを売った人と、作った会社だよ……

気にしないで。でも、ダイエットに協力してくれるなら嬉しい」

「じゃあ今日から一緒に走ろう?」


……何だか瑠実も頼もしくなったなぁ。

もともとこんな子だったっけ?

それともリモコンの影響だったりして……なんてね。


「分かった」

「そうこなくっちゃ!まずは5km走ろうよ」


……5km!?

いやいや、そんなに走ったら倒れてしまう。


「無理だよ、急に……!」

「いやいや、ここで自分を甘やかしたらずっとデブだよ?

頑張ろう!」

「は、はい……!」


瑠実に引っ張られ、私はやむなく走ることになった。

……まったく、どっちが姉なんだか……



(END)


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