SakeTami
niku-18
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外道の享楽

「ところで、いつまであのネズミを生かしておくつもりだ」 この都市一番の高級ホテル最上階。 かつて3つの極道組織が鎬を削り、争っていたのはもう過去の話。 新たに加わった第四の組織を交え発足した一大極道組織連盟 『四狂』の月に一度の定例会の場で 橙龍会の現会長・橙龍の柳堂茜は対面に座る鮫の男に問うた。 「え、ネズミって…  あ~!あれな!ワンコロのこと嗅ぎまわってた熊公な。  調教したら結構いい感じに仕上がったけぇ  一緒に飼ってもええかなー思てたんやけど…  やっぱバラさなあきまへんか?」 発足から半年 この連盟は、その中のいち組織『山上組』の元組長であった 山上玄造という犬人の人身御供による 極めて微妙なバランスの下で成立していた。 連盟発足に反対するであろう山上玄造を排斥し 巨大な組織を結成する。 その策の一手を担ったのが、この中で最も新参の組織 『青』の組長であり玄造の事を『ワンコロ』と呼ぶこの男 氷賀篝である。 この鮫人の巧妙な罠により、山上玄造は性奴隷として 調教されながら各組織の持ち回りで監禁・管理されていた。 「玄造の事を嗅ぎまわっていたネズミとあっちゃぁ  ちと面倒だからな…  それと、そいつの件で葵の旦那から  俺らに頼みたい事があるそうだ」 そう言ってちら、と自分の隣に座る灰色狼の男に視線を送り 顎をしゃくって話を促す龍。 それを受け、座ったまま軽く会釈をしたその狼… 山上組の現組長、山上 葵は静かに話し始めた。 「まずは、うちの組の者が面倒をおかけした事をお詫び申し上げる  …そして此度の件の落とし前も兼ねて  皆々様にご依頼したい事がある」   「…ほぉ~ん」 隣に座る鮫の目がすっと細くゆがむ。 「件の熊人の名は車豪太。  あの日、義父を氷賀さんの元へ送った取り巻きの一人だ。  人一倍義父を慕っていて…あの日から義父が帰らない事を  ずっと気に病んでいたんだが…」   「とうとう葵サンの監視をかいくぐって先走った挙句  ウチのシマで捕まった…ってとこかな?」 軽い口調で口を挟んできたのは葵の対面に座る白虎の男 爪牙党の若頭・咲崎 公一郎。 はだけたワイシャツからのぞく逞しいネコ科の体躯には 若さが溢れている。 実際、この4人の中では一番の若輩者だが その頭のキレと組織をまとめあげる手腕は ここにいる全員が一目置いていた。 「…面目次第もない」 「あはは全っ然問題ないよ。  むしろうちらが楽しませてもらっちゃってるしぃ?  ぶっちゃけ山上組のヒトたちってみーんな  丈夫で健康だからとってもイジりがいあるんだよね~  …ってこれは組長さんの前で言っちゃダメか!」 おどけた様子で口を押さえる公一郎。 しかしその目は楽しそうに細められていた。 「いいえ。おっしゃる通り義父に付いていた者たちは  力はあれど学はなく義理人情、メンツと意地に固執した  時代遅れのヤクザの典型のような奴らばかり…事実ですゆえ」 「そ…そこまで言ってないけど…」 公一郎の失礼な軽口をさらに上塗りするかのような葵の発言に 本人も少々面食らってしまった。 玄造が組に口出しをしなくなり、代も葵に移ってはや数年。 新しい山上組はそれなりに平穏な状況を維持できていた。 しかしこの組は、元をたどればとある古武術の道場に集った 非道を嫌う任侠集団であり、今でこそ数は多くないものの 今世まで脈々と受け継がれてきた武術を研鑽し続ける者たちが集う 超がつく程の武闘派集団である。 その中でも歴代屈指と称され、現役時代は『狂犬』の渾名で 名を馳せた山上玄造という男の存在は極めて大きなものであった。 玄造を師と仰ぎ、親父として慕い、現組長である葵に対し いまだに猜疑の目を向けている一部の面子… 『旧山上組派』の存在は、組の安定と刷新を図りたい葵にとって 目の上の大きなコブとなっていた。 「んで葵はん、その依頼ってのはなんなん?  落とし前も兼ねて~いう話やけど…」 篝が横から口をはさむ。 「失礼、話が逸れました。ご依頼というのは、  その熊人を人質にして義父・山上玄造から  家に代々伝わるとされている武術の『奥義書』…  その所在を聞き出してほしいのです」 「………あ?」 「えぇ~!?」 「ほぉ~ん?」 極道家業を長年続けてきた彼らをしても あまりに耳慣れない単語だった。 借金のかたに、あるいは上納品として 仏像やら巻物やらの骨董品を差し押さえたり 贈られたりする事はたまにある。 しかし『武術の奥義書』などという フィクションじみた物品の在処を落ちぶれたとはいえ 極道の元組長から聞き出すために真顔で協力を持ち掛けてきた 目の前の灰色狼に三人は目を丸くした。 「…漫画かよ…葵さん、そいつぁ真面目な話なんだろうな?」 「なにそれ、かっけぇ~!」 「めっちゃおもろそうやん…そーいうお宝話、わい大好きやで」 子供のように目を輝かせる公一郎と篝。 特に篝は、玄造がいまだ後生大事に抱えているモノに対し 興味津々といった感じだった。 それをあきれた目で見る最年長の茜。 まぁ予想通りの反応だなと、葵もふと目を閉じる。 「あ…ちょい待ち!  あんさんは、ソレの在りかをワンコロから  引き継がれてなかったんか?組を継いだのに…」 篝がもっともな疑問を投げかけるが それに答えたのは意外にも茜であった。 「なるほどな…お前さんは確か婿養子だったっけな。  あの犬公…めんどくせぇもん残しやがって」 玄造とは年齢もタメの茜もまた、いうなれば「古い」極道だ。 長年、しのぎを削ってきた間柄ではあるし ある理由から山上組の内情にも詳しい茜だが 流石に奥義書の存在までは知らなかった。 だが、そういった物品の厄介さは彼らの中で一番に理解していた。 「はい…そしてどうやらその書は代々組長…先代に認められて  初めて受け継ぐことができるもののようなのです」 「なるほどねぇ…  いまだにあのおじいちゃんがそれの持ち主である以上  旧派のメンツとしては葵サンを組長として  認めることはできない…と。  う~わ、マジ漫画じゃん!おもしろいなぁ」 「そしてそれが、武術家としてのワンコロの生命線…  受継いだ者として、命かけてでも守らなあかんモン  …ちゅうわけやな」 あれだけの簡単な話からすぐに葵の意図を理解する公一郎と篝。 茜にいたってはもう既に、この話は若い連中に任せよう。 といった雰囲気だ。 「…ご協力いただけますか」 「まかしとき、お安い御用や」 葵の言をつなぐ篝の口の端は これ以上ないほど凶悪に持ち上がっていた。 ****************************** 氷賀邸・地下棟 深夜2時56分43秒 「うがああああああおやじィィィ!!  だめだっ!…いうなぁあああああ!!」 それは、まさしく『地獄絵図』だった。 170cmに僅かに届かない、熊人としては小柄な しかしその全身は鍛えに鍛え上げたぶ厚い筋肉と脂肪に覆われ、 まさしく『筋肉だるま』と称するにふさわしい体躯の熊の男が 鈍く銀色に光る金属製の台の上で野太い叫び声をあげていた。 はみ出した両手足は台に接続された手足置きに大の字のまま 固定され、もがく度に台が軋む。 青の組長、氷賀篝の邸宅地下。 そこは、彼が最も信頼を寄せ、組織の医療を担う闇医師 榊司門の研究施設になっている。 設備は下手な大病院よりも充実しており その役割は単なる医療行為だけにとどまらない。 非合法の新薬の開発はもちろん 篝の『玩具』の製作・修繕・処分などといった あらゆる非人道的な享楽の場にもなっていた。 《ちくしょおおおおお!!  このっくされ外道がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!》 スピーカーごしにもう一つ、男の叫び声が響き渡る。 声の主は山上組の元組長、しかし今は組織の奴隷となり果てた男。 山上玄造その人のものであった。 玄造は今、橙龍会の会長・茜の自室で専用の フットレスト(足置き椅子)にされていた。 全裸で四つん這いのままその背に茜の脚を乗せ 「止め」の声があるまでじっと耐える。 当然、声一つ漏らしてはならない『決まり』だったが かつての出来の悪い弟子であり 息子でもあった熊人への凄惨な拷問を 大音量・大画面のスクリーンで見せられたとあっては もはや堪える事などできなかった。 《ほれほれワンコロ~余計なこと叫んどる場合ちゃうぞ~  …さーん、にーぃ、いーち…》 茜の部屋のスピーカーから響くのは、あのにっくき鮫の耳障りな声。 玄造は画面を凝視したまま何かを言いかけるも ギリギリと歯を食いしばり耐える。 だが… 《ほい時間切れ~そんじゃあ…あ、よいしょぉ!》 《イギッっ!!っがああああああああああああ!!!!!!!!》 「…ちきちょう…ちきしょう…!!」 豪太を拷問にかけ、その様子を玄造に見せる。 篝のやり方はいたってシンプルなものだった。 要件は二つ ひとつ、奥義書の在処を言う。 ふたつ、奥義書を葵に譲渡する旨の書面を作成する。 しかしその拷問は、まさしく常軌を逸していた。 首を縦に振らなければ、この熊の腹を10数える毎に裂いていく。 いかに鍛え上げた雄であったとしても 麻酔なしで腹を裂かれる苦痛になど、耐えられるものではない。 さらにその様子は、自身の真上に設置された鏡で否応なしに 見せられているのだ。 豪太の身体と精神は、いつその活動を止めてしまっても おかしくない状態だった。 《見えとるやろワンコロ~?豪太ちゃんかわいそうに…  ちょっと中身が出てもうたでぇ~  いくら頑丈言うても、このままやとすぐ逝ってまうでぇ~  …ろーく、ごー…》 《おやじ…すまねぇ…ドジっちまった…  俺が…ぜんぶ俺が悪ィんだ…てめぇの尻ぬぐい…  ちゃんとやるから…だから…こいつらのいう事なんか  きグッッ!!っっ~~~~~~~!!》 「豪!!」 豪太の腹に突き立った短ドスが篝の手で一気に下腹まで 引き下ろされる。 必死に悲鳴を上げるのを拒んだ豪太だったが それは下っ腹に力を込めることになり 《っ…ごぶっ!!》 《おっほ~!ワンコロ見とるか?どえらい事になってもうたでぇ  こりゃ~すぐ手当てせんとやっばいなぁ~!  いちおうここ無菌室やけど、わいも豪ちゃんも  滅菌処置しとらんけなぁ~》 「う…あ…あ…」 《お…やじ…いうな…いうな…!》 《知っとると思うけどウチのドクターは超・有能やけ  ちゃーんと元通りにしてくれるでぇ?》 云うや否や篝は豪太の腹から短ドスを引き抜き くるりと逆手に持ち直すと、今度は豪太の腹の上に溢れ出た臓物に 切っ先を向ける。 画面越しに見える篝の顔は心底楽しそうだった。 「………………わかった………言う………場所を教える!  書面も書く!!だから…やめろ…」 茜の脚を乗せたまま玄造は床に頭をこすりつけ 絞り出すように懇願した。 しかし、それを聞いた茜が追い打ちをかける。 「おい犬公、俺達に対する言葉遣いを忘れたか?  『お願いします』だろ…もっとはっきりと、でけぇ声で言え!」 茜が片方の脚を勢いよく振り下ろした。 長年鍛え上げ、還暦間近とは思えない程ぶ厚く広い、 そして鮮やかな彫物に彩られた玄造の背中に踵が落ち 鈍い音が響く。 「ぐ!…お…奥義書の在処をおしえます!  書面も…言われたとおりに書ぎまず!!  何でもおっしゃる通りにいだじまず!!  …だから…だからどうかっ……おやめ…くだざい!!」 それは、まさしく慟哭だった。 「う…う…」 玄造の目から、涙がこぼれる。 淫獄に身を堕とす羽目にあってさえも流れなかった涙が ボタボタと床を濡らした。 しかし、家畜にも劣る存在となったこの男を憐れむ者など この場には存在しない。 「書け」 茜が、足下の玄造に紙とペンを投げ落とす。 玄造は奥義書の在処と、その場所の簡単な地図を書き添えて 再び茜に手渡した。 茜は面倒くさそうに立ち上がると、受け取った紙をスキャナに通す。 程なくして画面向こうの篝がタブレットを確認し、満足げに頷いた。 『ほなブツを回収してきますよって  そっちは引き続き残りの書面作成をたのんますわ。  ワンコロ、茜はんのいう事ちゃんと聞いてしっかり  オシゴトするんやで!ほなまた~』 笑顔でひらひらと手を振る篝が映ったのを最後に、映像が途切れた。 訪れる静寂。 「酒」 少しの沈黙の後、これ以上興味はないといった風の茜から 再び短い命令が下される。 玄造は虚ろな目のままフラフラと立ち上がると 部屋に設置されたバーカウンターに赴き1本の瓶を手に取った。 そして慎重に、その中身をグラスに注ぎ入れる。 こういう時の茜は、クセの少ないシングルモルトを好むのだ。 大きめに砕いた氷を一つ後入れし、マドラーで3回ステア。 茜の座る椅子の前に戻り、トレーに乗せたグラスを置くと 再び床に四つん這いになる。 もはや玄造には、怒り悲しむ気力も、何も残っていなかった。 ****************************** 氷賀邸・地下棟 深夜3時29分18秒 「いや~豪ちゃんお疲れ!ご苦労さんやったねェ」 「…ちく…しょ…う…」 「あんさんほんと、ワンコロに好かれとんのやねぇ~  あれが世にいう鬼の目にも涙ってやつか?  ほんに羨ましいやっちゃ」 「くそったれ…用が…済んだなら…はやく…俺の腹ぁ…  もどせ…よ…!」 「あ?なんでや。あんさんはもう用済みなんやから  ンなことしてやる理由ないやろ」 「!!て……てめぇ……!!!」 「しっかしワンコロ共々、あんさんらはホント  人の話を聞かへんよねぇ~  元に戻せるとは言うたけど、戻してやるなんて  一言も言うてへんで」 「く…そ……クソォ………っ!」 「それにあんさん、自分のケツは自分で拭く言うとったやろ?  そこはワイらも手伝ってやるけぇ…最期までしっかりやりぃや」 ****************************** 「お~う、篝のおやっさん!遅れてすまねぇ」 「すんません氷賀さん、丞ジイさんが待ち合わせ遅刻して…」 「ぅおい!赤鬼てめぇ!」 「あ~いきなり喧嘩やめぇや~こっちもちょうどええトコやってん」 突然、騒々しく入室してきた2人の男を見て 豪太は思わず目を見開く。 その顔は、はっきりと憶えていた。 橙龍会の掃除屋・鰐人の鍔田丞治と、 爪牙党の赤鬼・虎人の藤木烈 捕まった豪太を、これまでさんざん嬲り者にしてきた男どもだ。 その2人が目の前に現れた事で、豪太はさらなる絶望にかられる。 そして… 「お、そうなんか?…ってなんじゃいまだ生きてんじゃねぇか。  俺ァてっきり…」 「俺ら『後片付け』の手伝いで呼ばれたと思っとりましたわ」 「いや~せっかくやから一緒に楽しも思てな  …好きやろ?こういうの」 これから自分は何をされどうなるのかなど もはや火を見るよりも明らかだった。 「こないまでされて生きとるような奴  フツーにバラすのはつまらんき  それに、『こうなったのは自分が嗅ぎ回ったせいや!  落とし前はちゃーんとつけるー!』言うとったしな」 ついっ と、脂汗に濡れる豪太の胸板を鮫の太い指がなぞる。 「たっぷり、楽しませてもらいまひょ」 篝の台詞を合図に、3人は一斉に着ているものを脱ぎ払う。 鰐に大蛇 虎に鬼面 そして、鮫に大蛸 三者三様の彫物に彩られた肉体を露に 2メートルを超すけだもの達が、横たわる豪太を取り囲んだ。 「………くそ………やろう………!」 「ええで…最期まで、その調子でたのむわ」 消毒すらしていない鮫の腕が 溢れ出た臓物を押しのけながら熊の中に挿しこまれていった。 了

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