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“東凶魔京”「魔海航路」①



「し、紫守さん…こんな服、わたしに似合うわけないって!」

「あら…よくお似合いですわ…ふふっ」

剛胆が服を着たような七瀬圭が、服に着られて羞恥していた。

鏡に映った彼女の姿は、肩口を大きく露出した真紅のドレスを纏い、社交界の令嬢然としていた。

対する朱宮紫守も、彼女は彼女で、紫のドレスに薄いベールを羽織った装いは完全に貴婦人だった。

圭は半目で紫守の、とりわけ胸の辺りを観察する。

並外れた彼女の双丘に内より押し広げられて、ドレスの生地はミチミチと悲鳴をあげていた。

「…ポロリといくんじゃないかと心ぱ…痛たたた!」紫守は圭の頬を無言でつねった。


妖魔と戦う退魔師の彼女たちが、なぜそんな恰好をしてるのか。もちろん、任務のためである。

東京湾より浮かぶ豪華客船。そこでは今夜、パーティが開催されていた。

この時世にのんきなものだが、ただのパーティではなかった。

主催は“鬼門会”。

人の身でありながら妖魔と結託した者たちの秘密結社。

構成員は政財界や宗教界、フィクサーが名を連ね、その力・影響力はある意味、妖魔よりも危険視されている。

その彼らにとってここは、互いの癒着を強めるための親睦の場なのだ。


「あ~あ、“潜入”なんてわたしの柄じゃないよ。麗華の方が適役だよ、絶対。大体…」「し!静かに…」

彼女たちが変装するために潜んでいる倉庫の前を、カツンカツンと靴音が過ぎていった。

密航者である圭たちは、当然乗客名簿に名前がないので、怪しまれた段階でアウト。

ごく自然にパーティに溶け込まなくてはならない。

「…行ったわ。いい、圭ちゃん。ここは敵陣の真っ只中。くれぐれも言動に気をつけてね。あ、そうそう。

わたしたちは社長令嬢の姉妹という設定でいきましょう」

「え?歳の差考えたら母娘…」紫守が無言で睨んできたので、圭はその先を噤んだ。

気持ちを切り替え、いざというときの“通し”を確認し合うと、二人は静かに廊下に出て、パーティ会場へ向かった。


ボロを出しそうな圭はほとんど喋らせず、紫守はほとんど一人で、話しかけてくる他の出席者の対応をした。

「これは麗しいご婦人。…はて、どこかであったかな?」

「貴方の夢の中ではございませんこと?わたくし、よく殿方の夢枕に立ってしまうのですわ」

「!…プッ…ハハハハッ!それはさぞかし、お忙しいことでしょうな!!」「ええ…ほほほほ!」

「???」紫守の応答がよほどツボにハマったのか、男は腹を抱えて笑った。圭には理解不要だった。

どうやらこの男は一般的な構成員に過ぎないので、紫守は適当にあしらって別れた。

その後もスキなく会場を観察していたが、“大物”と呼べる者は見当たらない。

圭は居心地悪そうにモジモジするばかりだった。


「あのさ紫…姉さん。わたし…」「!!…来て!」

何かにきづいた紫守が圭の手を引いて会場を出る。

「ちょちょちょ…どーしたのさ!」「あの人…!」

手を離して紫守は誰かを追い、圭もそれに準じた。

その人物は待っていたかのようにテラスの手すりにもたれ掛り、こちらを向いていた。

紫守はあきれて呟く。「変装はもっとキチンとするものです」

その言葉に、金髪のカウガールはクスリと笑い、サングラスを外した。

「あ!」その顔には圭も見覚えがあった。バウンティハンターとして、アメリカで広く名の通った“同業者”。

ジェニー=コールマンだった。


「ノープロブレムです!ワタシは余興のパフォーマーとして、正式に乗船手続きをパスしたので。偽名使ったけどネ!」


「あぁあ~ッッ!本物だ、本物のジェニーだ!」興奮して、指をさして圭が叫ぶ。よく実った胸がポヨンと踊る。

「オー、センキュー!でも、人前では“キャシー”と呼んでネ。バレてしまいマス」

口元を綻ばせ、腰に手をやり、ジェニーは身を翻してステップを踏んだ。慣性に引かれ、圭より巨きな胸がブルンッと揺れる。

「そろそろ本題に入らせてもらってもよろしいかしら?」

二人の会話に身体ごと割って入ろうと、紫守が歩み出た。ジェニーをも凌ぐ重量感溢れた胸が、ゆっさりと存在を主張する。

「…オォウ!やりますネ」

「…何のお話でしょう。それよりジェニーさん。“ここ”がいかなる場所かご存じで乗船してますの?」


そう、この船は妖魔と蜜月の関係を望む鬼門会の所有物。

目的がどうあれ、彼らの不倶戴天の仇の退魔師であるジェニーは、圭たち同様、敵陣の只中にいることは変わらないのだ。

「オフコース!ここはジャパニーズデビルと仲良くしてる秘密結社“キモンカイ”の集まりネッ!

全て調査した上で潜り込んでますから、知っていて当然デス。ユーたちと一緒ですよ。“朱雀の巫女”アーンド“ライトニング・ケイ”ッ!」

「!…すべてお見通しということですね」「うぉーッわたしも知られてるんだ!ちょっと嬉しいんだけど!」

「ハイ。我が国の諜報機関はとても優秀ですので」

「それで……」一旦言葉を止めて、紫守は周囲を伺う。

「わざわざこうして、わたしたちを誘い出したということは、何かしら提案があるのですね」

「話が早くて助かりマス。…場所を変えましょうカ」


ジェニーに招かれたのは、彼女がパフォーマー“キャシー”として間借りした控室だ。

「じゃーん!どうッスか、紫守さん!」

圭は装いを変え、レオタードとなっていた。

令嬢姿を不服に思っていた圭は、ジェニーの持ち込んだステージ衣装を借りたのだった。

「よく似合ってますわ。本当に」「でしょッ!動きやすいし、わたしこれでいくよ」

明らかに先のドレスより露出の度合いが上がっているのだが、圭に恥じらいはないようだ。彼女の基準が、紫守にはわからなかった。

「オーゥ、相棒は出払ってますが、ワタシたちだけで始めましょうカ」

「その方も退魔師ですの?」

「ノン!CIAのエージェントですネ」

CIAとは随分な伝手のあることで、ジェニーが一介の退魔師とは一線を画すことを示すには充分な材料だった。

支援組織の名をあっさり明かした意図を汲みとり、紫守は情報の出し惜しみをしないことにした。

「ジェニーさん。わたしたちの掴んでいるのは、この客船で今夜、およそ看過できない所業が行われるということ、その一点です」


紫守がその情報を得たのは数日前、占い師の黄鈴蘭が、珍しく自分から情報の買取りを強く勧めてきた。

彼女は情報屋という裏の顔を持っており、その信憑性の高さは折り紙つき。

紫守にとって、物資の面で懇意にしているデネブ=ゴドフリード同様、彼女は欠かせない存在だ。

情報ソースに黒い噂がつきまとうのが、少し気になるが…。

ともあれ、鈴蘭は云った。


「鬼門会が“パーティ”を開くわ。人間を妖魔へと変容させる恐るべき儀式よ。場所は…」

紫守はすぐさま行動に移り、圭を伴って密航して、現在に至る。

出港時には暮れに染まっていた窓の外の湾が暗闇に落ち、天球には月が中心に座す。

それは毒々しい赤色を帯びており、紫守に言い得ぬ不安をもたらす。

僅かに霧も立ち込め、外界との隔絶した感覚がより深まった気分だ。


「妙なのよね」「ホワイ?」「何が?」

「圭ちゃん、パーティ会場で気づかなかった?幹部クラスが一人もいない。鬼門会において一般構成員とされる面子だけだったわ」

「下っ端だけってこと?」

「…I see. ワタシたちが掴んでいた情報も明かしましょう。

鬼門会の息がかかったある研究機関の通信を傍受したところ、この船で大規模な“実験”を仄めかしてました。

具体的な内容まではわかりませんでしたが、今の話を聞いて、少し見えてきましたヨ」

「そっか!わかった!」

二人の話に聞き入っていた圭が、議論に加わる。

「つまり、その…鬼門会の奴らは、今夜ここで、攫ってきた人たちを妖魔にする実験をするってことでしょ!」

得意顔で自説を叫んだ圭に、しかし二人の反応は薄かった。

「あれ…?」

「会場の様子を見てなければ、その説で納得できたかもしれませんわ。でも…」

「…雰囲気が変なのデス。まるで、何も知らないかのような…」


鬼門会の構成員、葛原にとって、この“パーティ”は出席するだけで意義のあるものだった。

吹けば飛ぶような小さな芸能プロダクションの社長だった彼女が、業界で指折りの実力者へと上り詰めたのは、鬼門会の後ろ盾があってこそだ。

スカウトの名目で連れてきた若い女を、妖魔への貢ぎ物にしてきた。その見返りに今の地位がある。

「ふふ…」闇を背に窓に映る黒いドレスの葛原は、ワインを片手に笑う。

彼女は知っていた。鬼門会の中で交流のある幹部が、その座につくために“パーティ”に足しげく出席していたことを。

同時に、彼女は知らなかった。“パーティ”の裏の目的を。


「そろそろ会場に戻ろうかしら」

個室を出て、廊下を歩く葛原の前に、半開きの部屋があった。

「………」何故か無性に気にかかり、そのドアに手を伸ばし…かけて、彼女はすき間からそっと室内をのぞいた。


「……!?ッッ~~!!」


葛原は見てしまった。薄暗い部屋の床で、“何か”が人間を咀嚼するグロテスクな光景を。

叫びたい衝動を抑え、彼女は震える足で一歩一歩と後ずさりをする。

ドアから充分な距離をとったところで走りだした。

「ハァ…ッ…ハァ…ッ…!!」

何!?あれは何ッ!?妖魔…!?でも、わたしたち鬼門会の人間は襲わないんじゃなかったの!?


逃げた葛原と入れ違いに、二人組の警備員が通りかかった。

「やれやれ、金持ち連中はいい気なもんだ」

「まったくッスね。ん?主任、あそこ半開きッスよ」

「ん~?」

そして、開けてはならない扉を開く。

「おい、そこで何をしてる!?」

警備主任がライトを向ける。直後、絶叫が船内に響き渡った。



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また投稿に間を開けてしまいすいません(;´Д`)

スマッシュ代作さんとの合作「東凶魔京」シリーズ、新エピソード始まりました!

いつも本当に素敵な表紙です(´;ω;`)ウレシイ…

洋上の密室、豪華客船を舞台にした麗しき退魔師と妖魔の戦いの幕開けです!

今エピソードの主役はエロカッコいいパッキンカウガールのジェニーさんです(*'ω'*)

ええ、それはもうこち亀のジョディーや爆乳大佐なんかを当時から邪な目で見てましたから(真顔)

紫守さんと一緒に乗り込む圭さんは今回、表の職業であるプロレスラーとしての姿での参戦です(´∀`)

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