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“東凶魔京”「魔群胎動」②


夜も更けて、二人が防衛拠点に選んだ広場には、パチパチとたき火が灯っていた。

妖魔に狙われるリスクもあるが、元より奴らは夜目が利くので、こちらが光を得られることの方が大きい。

それに討伐隊への狼煙代わりにもなるだろう。

効果があるかは怪しいが、鳴子などの接敵を感知するトラップも配置済みだ。

「スー……スー……」「………」

システィナの横で、遼子が寝息を立てていた。

かなり気を張っていたのか、さすがの彼女も疲労が溜まっていたようだ。

昼間の光景が頭をよぎる。今は少しだけ冷静になれたとはいえ、それでも震えが走る。

あんなことが、この世界ではごく当たり前に起きているということが、わかってしまった。

知識としてではなく、現実に、体感として。その認識が、彼女を苛む。

システィナは、体育座りの姿勢で、己の膝に顔を埋めて静かに泣いた。

自分の弱さと向き合いながら、システィナは遼子が気になった。

遼子は、どうしてそこまで強いのだろうか。何が彼女を支えているのか、と。



白いモヤに包まれた部屋のソファーに遼子は座っていた。夢だと、彼女はすぐに認識する。

隣に誰かが座ってきた。その手には湯気の立つコーヒーカップがある。

「…藤崎」「隊長…どうぞ、飲んでください」

遼子が無言で首を横に振ると、藤崎は自分で飲み干して、カップを放り投げた。

そのカップはふわふわと宙を漂い、粒子となって消える。


「隊長、今日は随分と疲れてますね」

「…嫌なものを見た。あの夜を思い出させられてな…」

「…もう、休んでもいいんですよ?隊長は、充分戦いました」

「ダメだ。わたしはまだ、剣を置けない。全ての妖魔を駆逐するまで、わたしは君たちに顔向けができないんだよ、藤崎!」

もちろん、この藤崎は本人ではなく、遼子の願望が生んだ幻影。それはわかっている。

しかし“彼女”は、日に日に色濃くはっきりと現れるようになってきた。

それは遼子の精神の不安定さを示す。


トントン…と、藤崎が自分の膝を示す。

「夢の中でくらい、休んでもいいじゃないですか。どうぞ、お貸ししますよ」

「…ありがとう」

遼子は藤崎の膝に頭を乗せ、力を抜いた。

白いモヤが濃くなってきた。夢の終わりが近いようだ。

藤崎の姿も焦点がブレて、ぼやけてきた。

しかし、頭を乗せている膝の感触だけは、むしろ現実感が増して…。



「起きましたか、遼子」

少し前の藤崎と同じ位置に、システィナの顔があった。空は相変わらず夜のままだ。

「なんのつもりだ」

ガバッと起き上がる遼子に、システィナは柔和な笑顔を向ける。

「貴方が…眠りながら泣いていたので、放ってはおけませんでしたわ」「ちッ……」

「…遼子も、人の子だったのですね」

「フンッ…鉄でできてるとでも思ったか?まぁいいよ。交代だ、寝なよ」

「お言葉に甘えますわ」

「あ、待って。寝る前に聞きたいことが」「?」

「討伐隊を派遣したって言ってたけど、それはいつのことよ」

「わたくしがここへ出向く直前ですが?」

「……遅すぎないか?」



それは不運なボタンの掛け違いという他なかった。

要請を受けた〝剣の姉妹”の討伐隊が出動したのは、システィナに遅れること30分後のことだった。

近隣に身を置く者で、別任務遂行中の者を除いたメンバーが招集され、その構成は20名。

システィナに比肩せずとも、いずれも精鋭ぞろいであり、〝百鬼衆”でも出張って来ない限り、たとえ群れを成した妖魔といえど、易々と不覚をとることはない。

…そう信じていた。彼女たちを派遣した教会も、彼女たち自身も。しかし…。


「きゃああああァァッ!!」

夜の帳を切り裂く悲鳴。甲高いその調べは、本当的に原初の恐怖を呼び覚ます。

皮肉にも一帯がゴーストタウンと化したことで、守るべき人々へ与える影響を鑑みなくていいのだが、そんなことは何の救いにもならなかった。

巨大なワームに下半身を呑み込まれたシスターが、恐慌状態に陥りながらも、縁に手をかけ脱出を図っている。

その前では、栗毛の若いシスターが尻をついて震えていた。

彼女の心を追い立てるように、悲鳴と苦悶の喘ぎはそこかしこから木霊する。

「…どうして!ッッ~どうしてこんなことに!?」

取りとめなき自問。しかし彼女自身、その答えは持っていた。

戦線を崩壊させたのは間違いなくあの〝未知の妖魔”だ!

今は姿を眩ませているが、あれは…。


「ふぐ…ぅッ!?」

もがいていた眼前の仲間の腹部が、内から大きく盛り上がった。

呑み込まれた下半身、視認できない結合部へとワームの舌でも突き込まれているのだろう。

膣内を好き放題捏ね回し、シスターの腹部がモコモコと隆起する。

「ほぐェエエエッ!!」「ひぃぃぃッ!」

ズリズリと地面を後退り、背中が何かにぶつかった。

「ッッ…!」振り返れば醜悪なオークの肥えた脚があった。

当然オークも彼女の存在に気づくが、襲ってくることはないだろう。〝お楽しみ中”だからだ。

「だ…団…ちょ……ッ」「…ぶ……ッ…ぐ……ッ」「ブキーッブキーッ」

オークが歓喜の雄叫びと共に腰を打ちつける先では、討伐隊の長を務める妙齢のシスターが、二匹のオークに立ったまま揺さぶられていた。

マンコと口から挿入される、俗にいう串挿しファックだ。

部下を庇い、真っ先の妖魔の手に落ちた彼女は、誰よりも長く陵辱され続けている。

噛みつく気力すらすでになく、口元はだらしなく緩んで精液をこぼしている。

オークたちは下卑た笑いを浮かべ、団長の痴態を這いずる彼女に見せつけるのである。

耐え難く、団長を救うべく戦おうにも、五体満足でありながら、彼女の手にすでに武器はなかった。


彼女は奔った。目的地である村へと奔った。

辿りつければ、そこには〝剣の姉妹”が誇る最高戦力、システィナ・マーレィがいる!

そう、彼女さえいれば、〝あの事態”は防げたかもしれなかった。

だが運命は彼女たちに味方をしなかった。

討伐隊はシスティナに追いつかず、妖魔の群れはシスティナと遼子の到着前に村を離れ、討伐隊と妖魔の群れは出くわした。


ザザザザ… 「!?…あ…ッ…ッ」

無明の林道の中で、シスターは四方より音を聞いた。〝アレ”が来た…。

「神よ…お救いください…」



白み始めた空を、システィナと遼子は険しい表情で見上げている。

「…システィナ」「わかってますよ、遼子。あなたと同じ危惧を、わたくしも抱いてますわ」

いよいよ朝を迎えようというのに、〝剣の姉妹”の同胞は姿を見せない。想像に難くない。

この村を喰い散らかした群れに遭遇し、そのまま戦闘に入ったのではないか…?

時間的に考えれば相当に手こずっているか、あるいは…。


「いえ、…わたくしが召されたものと判断して、撤退したの…でしょう…」

その声量は徐々に落ちていく。

「自分でも信じてないことを口にするな」

「……ッ」辛そうに目を瞑るシスティナ。その手は震えている。

「…まだ間に合いますでしょうか」

「どうだろうな。希望観測は嫌いなんだ」「………」

「もっと嫌いなのは、最初から何もかも諦めることだけどね。行こうか」

「!…えぇ!」心は決まった。

救いを求められた村人は誰一人生き残っておらず、すでに目的は変わったのだ。

今は一人でも多くの仲間と共に生還し、近い未来に妖魔どもに報いを受けさせる!


ズルリ… ズルリ…


二人はまだ気づかない。村へと近づく気配に。

村の入り口へ急ぐ遼子とシスティナだったが、早々に出鼻を挫かれることになる。

舗装された道を外れた草むらを、何かが這ってくる音がする。

「何か来ます!」「声を出すな」


だがそのシスティナの声に対して、気配の主は喜び震えた。

「ぁ…あぁ…システィ…ナ…さ…」

草むらから緩慢な動作で身を起こしたのは、ボロボロの修道服を引きずらせた栗毛の若いシスターだった。

「!……あなたは!…何てこと…ッ…」

知ってる顔だ。幾度か任務を共にした子。

純真で敬虔なる信徒で、筋もよく、剣の手ほどきもしたこともある。

その姿は無残に変わり果て、剥き出しの秘所と膨れた腹部が、彼女の身が汚された現実を否応なく突きつける。


「…ちぃ!」初対面である遼子も苦々しげに眉を寄せる。

胸を鈍い痛みが襲う。どことなく似てるのだ、そのシスターの幼げな顔立ちが。

遼子を慕い、〝今も”幻影として夢の中で寄り添ってくるかつての部下に。


「しっかりしなさい!今、治療を…」「待て!」

駆け寄ろうとしたシスティナを、遼子が制止する。

「どうして止めるのです!?」

「…見ろ、あいつの腹を。あれはただ犯られて膨れただけじゃない!動いてる!」


生気に乏しい笑顔を浮かべ、よたよたとシスティナに歩み寄ろうとしていたシスターの足が止まる。

膝に地をつけ、苦悶に満ちた表情に一変させ、脂汗を流して腹を押さえる。

「ぅ…ォオ…コッ…!?…アァアァッ!!」

シスターの腹部が…いや、腹部のみならず、胃のあたりも、小振りな胸もが一斉にモコモコと蠢き始めた。

「な……ッ!?遼子、これは一体…あの子に何が!?」

「武器を構えろ、システィナ!昨日の子供と一緒だ!植えつけられたんだよ、腹の中に!」


「うぐぅ…だず…だずけ…ッ…シス…ティ…ぐぶッ!?」

シスターの目が見開かれた次の瞬間、膣口、肛門、口、両の乳首から〝それ”は一斉に外界へ解き放たれた。

ブボボボボボッ 「ッッッ…~ッ…!!」

膝立ちの姿勢のまま、白目を剥いて全身をガクガクと躍らせながら、

彼女は五つの孔より白濁の不定形の妖魔を吐き出し尽くし、地面に崩れ落ちた。

ビクンビクンと病的に痙攣している。


「…なんて酷い!」「こいつは!」

シスターが排出した〝白いスライム”の群体は互いに融合し、ひとつの個体となった。

その質量は1立方メートルといったところで、恐らくはこれでもまだ幼体なのだろう。

遼子にはそう目星がつく。なぜなら…。


「初めて目にするタイプですわ。こんな妖魔が存在するなんて」

「お前は知らないか。だが、わたしは昔、これと戦っている。…気をつけろ、システィナ。こいつは…」

遼子の言葉を遮るように、スライムは面積を広げ、システィナへと躍りかかる。

剣を構え、迎撃の姿勢をとる彼女に、遼子がラグビーのタックルのように胴を抱えてともに転がりながら妖魔の攻撃を回避した。

「何をしますの!?」

「ダメなんだ、直接的な攻撃は。こいつの身体は武器を〝溶かす”。…ちょうどこんな風にね」

「!」掠ったのか、遼子の刀の切っ先がドロリと欠けてしまっていた。

「わたくしが迂闊でしたわ。ごめんなさい」

「まだ使える、心配ない。それより武器破壊以上にアレの欠片にも注意しろ。バラバラでも動けるから、マンコでもケツでも少しでも入り込まれたら中から犯されて戦うどころじゃなくなる」

「…わかりましたわ」


あのワーム同様、身体に恵まれただけの経験を伴わない幼体らしく、単調な攻撃を仕掛けてくるだけ。

二人は易々と躱す。同時に思考を働かせ、認識を再考するシスティナ。

なるほど、ただ斬ることが難儀するなら戦術を変えなくては。

システィナが祈りを捧げると、銀の剣を神々しい輝きが包む。

試し斬りとばかりに、飛び散っていた分体へ振るうと、刀身に触れるや否やスライムは消失した。


「これでいかがかしら?加護を纏いし我が聖剣。溶液など通しはしませんわ」

「やるな。昔わたしがアレと戦ったときは、剣撃の風圧で強引に斬ったが、スマートなものだ。つまり〝付加効果”を持った戦術で対応すればいいわけだ。これでどうかな」

刀身の減った刀に、遼子は村のどこからか調達した油を振りかけ、自前のライターで着火させた。

システィナに倣い、分体を適当に斬り、焼失させて通用することを確かめた。


本体がたじろぐように後ずさる。言葉も顔すらも持たぬ妖魔なれど、動揺は見てとれた。

しかし、戦況に変化が訪れた。

「あ…あぁ…ア…ッッ」「うぅ…ぐ……ッ……」「ぐる…じ……い…」

「!!…あ、あなたたちは!」

倒れ伏して未だ痙攣しているあの栗毛のシスターと同様。

次々とシスターたちが、やはりボロボロの修道服と重い脚を引きずり、茂みから現れた。

予想通り、その腹は膨れている。増援だ!こちらのではなく、妖魔側の!


「くッ!おい、マズいぞ!…今にも産み出しそうだ。撤退も視野に入れろ!」

「…いえ、まだ諦めません!わたくしに考えがあります。遼子、あの不定形の妖魔をお願いできますか?」

「あぁ、わかった!」

燃える刀を携えた遼子にスライムを任せ、システィナはまず手前にいた、一際大きな腹を抱えて呻く妙齢のシスターに駆け寄った。

その腹に手を当て、浄化の術を施すと、シスターは苦しみだして、天を仰いで倒れ込み、身悶える。

「!…はぅ…くぅアアッ!!」

「耐えてくださいませ!その汚らわしき者を出してしまいなさい!」

程なく、彼女の膣口をこじ開けて、システィナの術により無理矢理追い立てられた、ドロドロと半壊した醜い姿のオークが這いだした。

その幼体が彼女から離れるや、システィナは即座に斬り捨てた。


「ハァ…ッ…ハァ…ッ…はぐ…ぅ…」

荒いながらも息をつく〝宿主”の身を確認するや、すぐに残り二人の救出に向かう。しかし…

「ぐぅエッ!!……ッ」「あギィ…ッッ!!」

一足遅く、母体の中でよく育ったワームとトロルが誕生してしまった。

力なく地面に転がった二人は微動だにしない。

システィナの横に遼子が並んだ。

「こっちは片付いたぞ。…まずはあれらを処分しようか。…えぇ」


妖魔どもの残骸の中に佇む遼子は、システィナの懸命な治療を黙って見守っていた。

傷ついた身で村に辿りついた四名の討伐隊。再び口を利けたのは、内二人だけだった。

白い布を被せられた仲間の横で、二人のシスターが力なく座っている。


「…うぅ…ッ」

泣きじゃくる栗毛のシスターに抱きつかれる妙齢のシスターが、重々しく口火を切った。

「システィナ、まずは救出の御礼と、この度の失態の謝罪を」

「…貴女が不覚を取るなんて、信じられませんわ」

「システィナ、この人は何だ?」

「この方はクレオ。〝剣の姉妹”東京支部修道騎士団の団長ですわ。こちらの子は、アン。まだ入団より日は浅いながらも、その素質と実績は折り紙付きです」



「……」団長と期待の新人、か。

遼子は思うところあってか、彼女たちを見つめる瞳が細まった。


「…わたくしの報告が元で、団長たちを辛い目に遭わせてしましました。謝るべきはわたくしの方です」

「いえ、妖魔の危機が人々に迫っているとあらば、我々が剣を取るのが宿命。あなたが責任を感じる必要はありません。…ところで、大変お尋ねしにくいのですが。村人の姿が見えませんが…」

システィナが力なく首を振る。「何という…」

「あ、あの!」アンが沈黙を破った。

「アレは何なのですか?!オークでもゴブリンでもトロルでもない。我々の剣と貞操帯を溶かして戦線を崩壊させ、私を散々犯したあのスライムは!あれも妖魔だっていうんですか!?」

「…わたくしも初めて見ました。その問いには、はっきりとした答えを持ち合わせてはいませんわ」


「そうだよ。妖魔さ。ついでに、でかいワームもね。…あまり前線に出てこない奴らなのかもな」

頃合いと見てとり、遼子が会話に参加しにきた。アンが眉を寄せる。

「!…あなたは確か、不動遼子。ここは我々〝剣の姉妹”の戦場。関係のないものは即刻去りなさい!」

「よしなさい!所属は違えど、共に妖魔と戦う者には敬意を払うべきです。それに遼子はわたくしの友。彼女を貶める物言いは、許しませんわ」

「ッッ…!失礼いたしました!」

「……ふ。まぁ組織の体裁上、あまり他の退魔師と馴れあうわけにはいかないでしょう。気にする必要ないわ」

「あら、随分お優しいわね、遼子」「別に」

「?」「?」自分たちを妙に温かい眼差しで眺めてくる遼子に、クレオとアンは戸惑った。

しばし流れる和やかな空気だったが、一変させたのは続くアンの一言だった。


「……あのぉ…クレオ団長。あれも報告しますか?黒いゴブリンとか、トロルより大きな妖魔とか」

「アン。さすがにそれは、ショックで幻でも見…た……ッ…」「ッッ~~」

クレオは言葉を継げなかった。居合わせた者を凍りつかせる、底知れない殺意と憎悪を感じた。

その発生源は、低級妖魔なら視線だけで殺せそうな、凄絶な表情を浮かばせた遼子だった。

「ひ…ッ!」

「白いスライムを見たときから予感していたよ…。奴らが揃って来てるんだね…。ありがたい、ありがたいわ。奴らをこの手で始末できる日が、まさか今日だなんて…」


「!!」まずい…!遼子は今、憎悪に囚われて冷静さを失っている。

刀を握りしめて立ち上がる遼子。

走り出そうとした彼女を、システィナが背後からしがみついて止めた。

「放せシスティナッ!」

「放しませんわ!怒りに任せて飛び出して、何ができますの!?」

「できるさ!刺し違えてでも奴らを殺す!」

「ならば、わたくしごと引き摺っていきなさい!この手は放しません!」


「………くッ!」遼子の剣幕にも怯まないシスティナの強情に、ようやく気勢を落とした。

「落ち着きましたか?」

「…落ち着いてなんかいないわ。わたしの心はグツグツと憎しみで煮え滾っているよ。〝あの日”からずっとね」

「……」システィナも、遼子の過去は記録の上では知っていた。

かつて彼女が率いた小隊が、遼子一人を残して全滅した凄惨な事件。

たった一人の生還者である彼女が負った傷が、これ程までに、これ程までに深いとは…。

その心は、一日たりとも解放されない、煉獄の中に生きているのだろう。


「…ねぇ。どうして、アンタが泣いてるの?」「……え?」

システィナは我知らず泣いていた。

「…ごめ…なさい。これは…その…」

「ハァ…泣くほどわたしが滑稽だったの?」

「ち、違いますわ!」

「…わかったわよ」観念したように、遼子は石段の上に腰を下ろした。


完全に状況に置いて行かれていたクレオとアンはただ見守っていたが、ようやく口を挟む。

「あの…両名にお尋ねしますが、この件をどう見てますか?」

「ん…?」「…」「クレオ団長、質問の意味がわかりません」

「アン。私には彼らの目的がよく見えませんわ」

「妖魔の目的なんて、女性を犯る以外に何かあるんですか?」

アンの率直な物言いに、クレオは苦笑いを浮かべる。

「突き詰めればそうかもしれませんが、今回の漁村への襲撃には何やら意図を感じます。その、不動さんの言う、あまり前線に出てこない者たちが揃って現れるような」

「同感だ。あの村で起こったことは襲撃ですらない。ただの繁殖だ」

「は、繁殖!?」

「我々をおびき寄せる罠だった可能性は?」

「その線は薄いですわね。この村の事態が伝わってきたこと自体がほとんど偶然。団長たちに追手もかかってなかったようですし…」

「本来の目的の〝ついで”に、我々は…」「……」


「あ、あの…!じゃあ、あいつらはどこへ行くのですか?」

「どこってそれは……あ!」「ッ遼子!」二人は同時に気づいた。

計画めいた、あえて人間側の主だった勢力の監視の届かない地域での大規模な繁殖行為。

もしそれがこの漁村以外でも行われていたとしたら…?

本能に従ったただの生殖行為ではない。

これは…兵力の徴用だ!


「システィナ!これは看過できないぞ!」

「えぇ…わたくしたちの予想が正しければ、群れの行き先は…」

「〝百鬼殿”ですね!」クレオも理解し、結論を継いだ。

「すぐに始める気なのか、下地の段階かはわからないけど。あいつら、戦争の準備をしてやがる。人間との!」



もし、この一帯を空から俯瞰している者がいたら、戦慄していたことだろう。

各地の漁村、山村から発った〝何か”の集団が、ゆっくりとゆっくりと行軍し、合流し、巨大なひとつのうねりとなり、

群体生物のように膨れ上がっていく様を目の当たりにするのだから…。



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寒さのせいか、それとも体にガタが来始めているのか、足腰が痛いです(;´Д`)

それはさておき、前回の冒頭章から気づけばちょうど一週間経ってましたか。

うーん、ここのところ曜日感覚が怪しいもので…。


さて、「魔群胎動」編は山場に向かっております。

妖魔たちの影を掴んだ遼子さんたちを尻目に、猥雑な残酷劇の幕が上がろうとしています。

サブタイでお察しかと思いますが、今エピソードまだまだ続きます。

システィナさんの同組織のクレオ団長(&アン)も登場(*´ω`*)

経験豊富(意味深)なエロい熟女シスターさんです(邪笑)

妙齢…果たして何歳なのでしょうね(*'ω'*)



…遼子さんではないですが、時折辛どくても、何度も立ち上がりましょう。

わたしはまだ、筆を置けない。



“東凶魔京”「魔群胎動」② “東凶魔京”「魔群胎動」② “東凶魔京”「魔群胎動」②

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