今や無人の廃墟と化したかつての行楽地を、穴とヒビまみれのアスファルトを踏み越えて、鷹山、藤崎、那須は征く。
「……那須、こっちでいいのか?」
「えぇ。元々の街の地図通りなら…あった!」
彼女たちが通ってきた地下道へと降りる通路が口を開けていた。
「鷹山先輩、那須先輩、あの…」「!止まれッ!何かいるッ!」「妖鬼…!でも、アレは…」
低級妖魔の中で最も下等とされる妖鬼が一匹、入り口の前に陣取っていた。
赤く光る鋭い眼光に、通常と異なる黒光りした体皮。
藤崎にはわからなかったが、経験豊かな二人は、その異様な気配を感じ取っていた。強い。
「…那須、藤崎を頼んだ!オレはこいつをぶっ殺してから行く」
「鷹山先ぱ…」「わかったわ。…後で、追いついてね」
藤崎を制して、那須は即座に鷹山の提案を受け入れた。
強引に藤崎の手を引いて走りだした那須。
彼女たちから妖鬼の意識をそらせるため、銃を乱射しながら鷹山は突撃していく。
刹那、妖鬼の姿を見失った。「な…ッ!?」
ボグゥ…!
小柄な妖気の体は鷹山の懐へと潜り込み、その拳を彼女の腹部へと食い込ませた。
「ゲホ…ォッッ!!」
身体をくの字に折り曲げ、鷹山は一撃で昏倒した。
「鷹山先輩ッ!!」「く……ッ!!」
そのまま残る二人へと追撃しようとした妖鬼の足を、鷹山の手が引いて止める。
「…待ち…やがれ…ッッ」
妖気は一瞬不快そうに顔を歪め、彼女の顎を蹴り上げた。
ゴロゴロと転がり、天を仰ぐ鷹山に、妖鬼は馬乗りになった。
犯される!そう思った彼女を思わぬ衝撃が襲う。
ドムッ!「あ…は……ッッ…!?」
胸…ウソだろ…!?
男らしい人柄の彼女に似つかわしくない豊満な乳房に、鉄拳が振り降ろされて、柔肉がぐにゃりと潰れた。
激痛と共に、呼吸も一時止まる。
暴行はただの一度で終わるはずもなく、左右にドムドムと繰り返された。
「が…!ぐッ……げほォッ!!」
時折、腹にも拳は埋められ、鷹山は苦悶にのたうつ。
「ッッぐ…そ…ッ」
鷹山もされるままではなく、何度も体勢を引っくり返そうと試みているが、自分よりも小柄なこの妖鬼のマウントが全く崩せない。
洗練された動きは格闘技者を彷彿とさせた。
フィニッシュブローなのか、強力なパウンドを鷹山の顔面に振り降ろそうとして、突如妖鬼は鷹山の腹上から飛び退いた。
一瞬前まで奴の頭があった位置を、ライフルの弾道が奔る。
「!?…まさか、あいつッ!」
その機を活かして立ち上がった鷹山は、予想通りの存在を見ゆる。
「…バッカ野郎ッ!なんで戻ってきたんだよ、那須!藤崎頼むって言ったよな、オレ!」
「一人残ったあなたがやられて背後を狙われるより、二人で倒してから藤崎さんに合流する方が、三人とも生還する可能性が高い。
そういう計算よ」
「ハッ!計算か。そういうことにしといてやる」
二人は並び立ち、妖鬼に向き合う。
「新人の頃を思い出すな」
「入隊後、二人で初めて仕留めたのが妖鬼だったわね。何の因果かしらね」
距離をとっていた妖鬼が悠然と歩いてくる。鷹山は再び銃を構えた。
相棒も当然戦闘態勢をとっているだろうと思い、横目で見遣り、異変に気づいた。
那須が顔を紅潮させ、諤々と膝を揺らしている。
「!?…おい、那須ッどうした!!」
「そん…な…ッいつ…?!」
何かに耐えるように腿を内へ寄せ、辛うじてライフルを持ってはいるが、とても正確な狙撃など望めない。
「はッ!?」
鷹山が視線を外してしまった一瞬で、妖鬼は距離を詰め、彼女の股間を蹴り上げた。
ズン…ッ「ッッ…が…ッ!!」
両足が地を離れる程の衝撃を、文字通り急所ですべて受け止めてしまった鷹山は、アスファルトの上に崩れ落ち、泡を吹いて失神した。
「タカ…ッ!ぐぅ…ッ!?」ガシャ…ン!
那須はついにライフルを取り落とす。
戦場で武器を手放すという愚行を犯させるほどに彼女を苛んだものとは…?
徐々に腰が降りてきた那須。
股間の戦闘服をずらして、先刻より激感を伝え続ける秘所へと手を突っ込み、元凶の一部を引き摺り出した。
それは不定形のぐにぐにとした物体、所謂スライム。
スタジアム前の包囲を突破する際、遼子が吹き飛ばしたやつの分体がずっと那須に張りついたまま、潜り込む機を伺っていたのだ。
「くぅ…あぁあッ!!」
ついには那須も地に転がる。鶏の卵程度の質量。本来ならば脅威ではないが、体内に侵入されれば話は別だ。
Gスポットを的確に責められ、強制的な絶頂を繰り返させられ、彼女の意識はチカチカと点滅している。
もはや戦闘はおろか、冷静な思考さえも困難だった。
その痴態を、黒い妖鬼は興味なさそうにただ眺めていた。
「ハァ…ハァ…ハァ…ッ」
人も妖魔もいない地下通路を、藤崎は走る。
道は覚えている、当然だ。数時間前に通ったばかりなのだから。
あのときは、二十四人もいた。今は…たった一人。止めどなくなく流れる涙。
活を入れてくれる人も、慰めてくれる人も、もういない。
どうして自分だけが残ったのか。そんなことばかりを考えて、彼女は走り続けている。
不動隊長の最後の命令“生還しろ”。鷹山と那須と、そして彼女の“三人”に与えられたものだ。
それなのに、二人の先輩は敵を押し留めようと残ってしまった。
ひどい…わたしだけにするなんて、皆ひどい…。
「………」違う。ひどいだなんて…筋違いだ。
もし先輩たちが戻らなければ、第一小隊はわたしだけになる。
そのわたしが生きることを放棄すれば、全滅。それは絶対にダメ!
わたしには責任があるんだ。義務があるんだ。皆の無念を、ただの悲劇で終わらせない。
未来へと意志をつなぐ。今日を生き延びて、わたしは戦い続ける!
「……」もう涙は止まっていた。
若輩者という立ち位置に甘んじ、ただ翻弄されるばかりだった藤崎は、もうそこにいない。
この一日で、彼女は強くなった。
光が見えた。地下道の出口だ。「……!」
人影。藤崎は足を止め、距離を保ったまま銃を向ける。人型の妖魔の可能性もある。
しかし、そいつは確かに人間だった。スーツを着た、眼鏡の男。
「あぁ、そんな物騒なものを向けないでくれたまえ。私は人間だ。それも政府のな」
「政府の…?」
藤崎は銃口を降ろした。
「見ての通り、丸腰だ。ところで、君は第一小隊の隊員か。一人で帰還してくるとは、何かトラブルでもあったのかね?」
「救援を要請します!今ならまだ、助けられる人がいるんです!!」
「オイオイ…私は一介の役人に過ぎんよ。…わかった。至急、第二小隊の派遣を要請しよう」
「あ、ありがとうございます!!」
男は電話でどこかへ連絡をとる。その様子を見ながら、藤崎はこれからの行動を考える。
生還を優先して、このまま帰投するか。第二小隊とともに戦うか。
「ん?君、それは何だ?何か背中についているぞ」「え?」
「妖魔の一部という可能性もある。どれ、見せてみなさい」
男が藤崎に近づいてくる。と、次の瞬間。プスッ…と、何かが藤崎の肌に射し込まれた。
途方もない睡魔が彼女を襲い、視界が暗転した。
意識を失った藤崎を冷たく見下ろす男の手には、注射器が握られていた。男は眼鏡をつい…とあげる。
「やれやれ。まさか、たった一人でも逃げ延びてくるとは、少々君たちを過小評価していたよ」
男は敵だった。遼子たちを奸計にかけた“鬼門会”の手の者だ。希望は潰えた。
凌辱劇の舞台は再びスタジアムへと帰る。
一時の人外の力を頼みに、孤軍奮闘した遼子だったが、薬が切れると同時に指一本動かせなくなった。
無力と化した彼女を、妖魔たちは丁重に招待した。
「く……ッ」これまでか…。もうわたしには何の力も残されていない。あとは慰み物になるだけだ。
鷹山、那須、藤崎、彼女たちが生きて帰れたのなら、無駄死ににはなるまい。後は頼んだぞ。
「ふ……」
遼子がいっそ清々しささえ漂わせた諦観の笑みを浮かべていると、歓声があがった。
いよいよ処刑人のご登場かと思った遼子の前に、信じ難い、信じたくないものが現れた。
彼女が命を賭して未来へ送り出したはずの、三人の部下たちが引き摺られてきた。
驚愕に見開かれた目が、那須と合った。
「申し訳…ありません…ッ」「そん…な…」
「ちきしょお…ちきしょお…ッ!!」「………」
あの鷹山の泣き顔など初めて見た。藤崎はまだ目を覚まさない。
不動遼子の真の絶望の始まりだ。
四人はお互いの顔が見えるような、十文字に向き合わされた。
豚鬼に両腕を拘束される彼女たちの前に、四体の弩鬼が現れた。
ドシン…ドシン…と、それぞれが彼女たちの背後へと回り込む。
不幸なことに、藤崎はこの最悪のタイミングで目を覚ました。
「あれ…?…え……?」
二度と会えないと思っていた隊長が目の前に、更に両側には二人の先輩がいる。状況が理解できない。
「隊…長…?」「…許してくれ」
「?!……!!」何を…?何を許してくれと言うのですか?
よく見れば隊長の後ろには弩鬼が、巨根を反り立たせ、今にも彼女の身体へとその肉の凶器を突き立てようとしていた。
同様に、鷹山と那須の背後にも。すなわち、自分の後ろにも…?
恐る恐る振り返ると、やはりいた。
「ひ……ッ!?」
ガシィ…と、屈強な手が彼女の、彼女たちの腰を鷲掴みにして、ガッチリと固定された秘部へ、四本の肉棒は布地ごと捻じ込まれた。
ズンッ!ズムッ!ヌブゥッ!ブチィッ!!
「うぐぅ……ッ!!」「が…ぁああッ!!」「うッ……ッ!!」「ぎ…ぎゃあアあアアアッッ!!」
苦悶の四重奏。一際大きな絶叫は、藤崎のものだった。
彼女は処女だった。退魔の世界に身を置く者としては稀有なことに、今日まで貞操を守り続けていたのだ。
いつか出逢うと信じていた愛する者の為に。その儚い想いは、純潔の証とともに破られた。
「あぁ……あァーッ」
脚の間を滴る鮮血。汚されてしまった。しかし、妖魔にとっては処女かどうかなどは、どうでもいいことだった。
「うぐぅああッ!!」
藤崎の正面で犯される遼子の下腹部が、大きく盛り上がった。
弩鬼の肉棒が根元まで膣内に埋没し、彼女の腹を内部から押し上げているのだ。
「ぐぁあああッッ!!」「ッッッふ…ぐぅッ!!」
続いて鷹山と那須が、遼子同様に規格外の性器に奥まで責め立てられ、苦悶に喘いだ。
「い…いや…」恐怖がこみ上げる。次は自分の番なのだ。
その認識に至った直後、身体の中心を肉の圧迫が突き抜け、藤崎は自らの腹部の変形を目の当たりにする。
処女膜に続き、子宮口さえもこじ開けられてしまった。
「ひぎゃあああああッッ!!」
明るく朗らかな彼女から発せられたとは信じ難い、耳障りな悲鳴。
その声は、自分も味わっている身体的苦痛以上に、遼子を苛んだ。
快楽を貪ろうと、四体の弩鬼がリズミカルに腰を注送し、四人の肢体は前後に踊る。
肉棒が性器を抉るたびに、彼女たちの尊厳が削り取られていくかのようだ。
絶頂に達した四体は、射精直前に肉棒を引き抜き、遼子たちに白濁のシャワーをたっぷりと浴びせた。
「ふぁ…あぁあー…ッ」
まだ我が身に起こったことを受け止められず、呆然とする藤崎。
歯ぎしりと共に憎悪の視線を妖魔たちに投げつける鷹山。
自らの髪を滴る精液に嫌悪の表情を浮かべる那須。
そして、そんな彼女たちに、ひたすら心の中で懺悔を繰り返す遼子。
その心境は様々なれど、四人はまだ…“人”だった。
彼女たちが“姓処理用具”へと堕ちていくのは、これからなのだ。
「!…ひ…やだぁッ!!」「てめぇら…ッ!」「くッ……!」「………ッ」
次の妖魔がリングへと上がってくる。妖鬼が十二体。
三体ずつが、遼子たちの肉体へと群がり、性器と肛門、口へと肉棒を挿入し、輪姦に興じる。
「むぐーッ!!」「キキーッ!」
くぐもった藤崎の呻き声と、妖鬼の悦楽の奇声が呼応する。
妖鬼どもも弩鬼同様、絶頂の折には彼女たちの身体へとぶっかけ、戦闘服は無残に汚されていく。
一回で満足した妖魔もいれば、連戦する者もいる。不規則に代わる代わる姦される遼子たち。
赤い月が沈み、霧たち込める薄暗い朝を迎え、また赤い月を煌々と湛えた夜が再び訪れる。
時を経ること三日三晩。遼子たちは“死なない程度”に無数の妖魔たちに犯され続けた。
そのさじ加減の意味を彼女たちが知るのは、このスタジアムで四日目の夜を迎えたときだった。
「う………」「ハァ…ハァ…」「…ぐ……ぅ…」「……」
もはや言葉を発するどころか、思考も覚束無いほどに憔悴した遼子、藤崎、鷹山、那須。
肉体も精神も限界にさしかかっていた。
リング上への低級妖魔の乱入はいつしか途絶え、彼女たちはすでに服とさえも呼べないボロ布を纏っただけの姿で横たわっていた。
三日間。彼女たちの凌辱劇をただ静観していた上級妖魔たち。その内の一体がついに動いた。
宴もたけなわ。頃合いと見てとったのだ。そう…本来の目的、公開処刑の。スタジアムが歓声に包まれる。
歩み寄ってきたのは、あの桁外れの戦力を持つ黒い妖鬼だった。
その姿を見た瞬間から、鷹山は不明瞭な思考の中で、しかしはっきりと予感した。
こいつこそが、自分の破滅であると。
やはり、鷹山の腕を掴み、引き摺っていく。
遼子たち三人に名を呼ばれた鷹山の目は、見たことのない恐怖の色が浮かんでいた。
処刑台として設置された二本の柱の間に、肉のロープで大の字で宙吊りにされる鷹山。
その前に立つ黒い妖鬼は、精神統一でもするかのように大きく息を吸い込み、拳を握りこんで構えた。
「…よ、よせよ。そんなモンぶち込まれたら…ッ!!」
ブォン…ッ
風切り音とともに、珠玉の一撃が鷹山の性器を下から抉り抜いた。
ゴキベキゴキッ…グボォッ!!
「がはぁ…ッッ……ッ!?」
恥骨を粉砕する音と共に、妖鬼の腕は埋没した。
鷹山の胸のすぐ下に、拳の形状が浮かんだ。
子宮を始め、内臓のいくつかは間違いなく潰されただろう。
白目を剥いて、泡を吹く鷹山。
腕を引き抜いた妖鬼は、すでに致命傷を負っているであろう彼女に、更なる暴虐を加えるべく背後に回り込む。
中段に構えて、再度放たれた拳は、ほとんどストレートブローに近い軌道で鷹山の肛門を貫き、彼女の下腹部を大きく前方に迫り出させた。
ダメ押しの無情の一撃に、鷹山の意識と生命は同時に潰えた。
部下の、先輩の、親友の、非業の死に直面して、残された三人は声すら出せなかった。
泣き叫ぶことすらできない恐怖。彼女たちはこの三日間で弱くなってしまった。
鷹山の亡骸をそのままに、最後まで生殖器を使うことのなかった妖鬼がリングを降りていく。
次に姿を見せたのは、白濁の不定形の妖魔だった。
自分が標的だとすぐに理解して、這って少しでも遠くへ逃げようとした那須を、白いスライムはあっさりと捕縛した。
大股開きの扇情的な姿勢で、妖魔の半透明な体内に身体を半分埋め込まれた那須。
「…た…助けて…助け…もごぉッ!?」
その言葉は遼子へのものか、妖魔への懇願なのか、あるいはもっと巨きな、運命をも繰るような…例えば“神”とも呼べる存在へのものなのか。
その真意はわからない。彼女はもう二度と、言葉を発する機会を持てなかった。
「もごッ!?おごぉッッ!!ゴボボッ!!…ッッ…!!」
性器と肛門と口から、スライムは怒涛の如く那須の体内へ殺到する。
注入の一辺倒のまま、排出されない汚濁に、彼女の腹は妊婦のように膨張していく。
「ッッ…ッ………ッッ!!」
途方もない圧痛が那須を襲う。処刑は淀みなく執行されていく。
彼女の腹はとうとう妊婦どころか、風船のような無残な体型へと成り果てた。
ゴボリ…と、わずかに妖魔の一部を口から吐き出したのを最後に、那須は動かなくなった。
「あ…わぁあああああッッ!!」「ひぃいいいッ!!」
あまりに遅れてやってきた現実への認識が、遼子と藤崎に絶叫を生む。
秘薬の反動と、三日に及ぶ凌辱で、もはやまともに動かない身体で、遼子は藤崎の元へ這い寄り、抱きしめた。
渡さない!この子だけは渡すものか、と。それは抵抗とすら呼べない行為だった。
その滑稽さを嘲笑うかのように、魔人と称される人型の巨妖が緩慢に近づいてきた。それも二体。
「来るなぁッ!!お前ら、来るなァァッッ!!」「隊長ぉ……ッ!!」
残された全ての力を振り絞って抱き合う二人を、巨妖は易々と引き剥がし、遼子はリングの隅に投げ棄てられた。
それでも尚、這って再び寄っていく遼子の眼前で、最後の部下は高く持ち上げられていく。
「藤崎ィィィッッ…!!」「隊長ぉぉッッ!!」
お互いにのばした手は、あまりにも遠く…。それが今生の別れとなる。
藤崎の華奢な肉体は、前後に向き合った二体の巨妖の間へと振り降ろされ、彼女の身の丈ほどもある巨根が、
性器と肛門の二穴へと同時に突き刺さった。
その苦痛が藤崎に絶叫をもたらすよりも早く、三日間の禁欲から解放された巨妖たちの生殖器が爆ぜた。
莫大な量の精液を注ぎ込まれた藤崎の身体は、爆発的に腹を膨張させる。
口から臍から耳から涙腺から、二穴の結合の隙間から、全身から精液を噴出させた藤崎は、ビクンビクンと跳ねて声なき断末魔を遼子の網膜に焼きつける。
その動きが完全に止まった時、遼子の中で何かが壊れた。
「……ハ…ハハハッ……ハーハーハーハーハーッ!!」
突如笑い出した遼子に、さしもの妖魔たちも戸惑った。
「ハー………殺せ…わたしも早く殺せッ!!貫け!砕け!引き裂け!終わらせろ!!早くわたしを終わらせろぉぉッ!!」
遼子は全てを放棄して、リングの床に蹲ってしまう。妖魔たちは互いに顔を見合わせ、嗤った。
その日、警視庁に激震が奔った。
報告を受けた特務捜査官、立花莉子はすぐに現場へと急行した。
あろうことか、それは本部のすぐ入口前だった。
「そん…な…」言葉を失う莉子。
彼女たちが誇る”HEAT”第一小隊の変わり果てた姿があった。
箱詰めにされた隊員たちの遺体。
孔という孔を拡張された藤崎隊員らの酷い有り様に、行われた悪魔の所業が垣間見えた。
彼女たち三人と異なり、一日目に亡くなった隊員たちは損傷と腐敗がひどく無残の一言に尽き、正確な死亡人数さえ特定できなかった。
その中で五体満足の遺体がある。否、遺体ではなかった!
「遼子ッッ!?」
莉子は遺体を掻き分け、彼女を抱き起した。微弱ながらも心拍音。生きている!
「すぐに緊急搬送の手配を!!急いで!!」
現場がにわかに騒がしくなった。
妖魔たちは死を望む遼子に、生きたまま帰すという最も残酷な仕打ちを行ったのだ。
世間を震撼させたこの事件。
たった一人の生還者である遼子は英雄どころか戦犯のように報じられたが、幸か不幸か当人はそんな風評を知るどころではなかった。
廃人同然の状態だった遼子は、長期入院を余儀なくされた。
身体機能こそ失われてはいなかったが、精神に負った傷が深刻だ。
それから四日経った。相変わらず、遼子は虚ろな瞳でベッドに座っているだけ。
「…遼子」「………」
莉子は横に座り、彼女に呼び掛けるが、やはり反応はない。
藤崎ら二十三人の隊員の葬儀もすでに終わった。
遼子は当然、参列などできなかった。
莉子は時間を見つけては病棟を訪れ、様々な言葉を投げかけるが、結果はいずれも芳しくない。
消化機能にももう問題はないという診断を聞いていたので、遼子の好きなコーヒーを注いできた。
ベッドの横のデスクに置くと、彼女は恐らくは本能的に飲料物を摂取しようとしたのだろう。
手に取り、口に含んだ。
ガチャン…ッ「!!…え!?」
カップを床に落とした遼子の目が見開かれ、汗が噴き出してた。
“あの日”口にした以来のコーヒーの味覚が、彼女に鮮明な記憶を呼び覚ましていた。
『隊長、お目覚めでございますか』
藤崎の声が聞こえた。
いないはずの彼女の姿が浮かび、その笑顔は突如苦痛に歪み、全身から精液を噴出させて霧散した。
「あ…あぁ……ッ」
「遼子!どうしたの!?」
莉子が訝しむ。当然だ。その光景は遼子の記憶から投影されたもの。
莉子に見えるはずもない。
更には、鷹山が、那須が、副長が、アンソニーが、川地が、ボブが、次々と現れ、遼子に笑いかけて、そして…。
「わぁああああアああアアッッ!!」
「遼子ッ!?誰か!!誰か医者を呼んで!!鎮静剤を!!早く!!」
暴れる遼子を押さえつけながら、莉子は叫ぶ。唇を軽く噛む。
コーヒーがトリガーとなったのは迂闊だった。悪夢の記憶をフラッシュバックさせてしまったようだ。
しかし、どの道このままでは遼子は緩やかに死んでいただろう。
長く苦しい戦いになるが、彼女には自分を取り戻してほしい。
莉子は可能な限り遼子を支えていこうと、このとき誓った。
事件の顛末は、“鬼門会”の息のかかった者による謀略と判明し、藤崎の前に現れた眼鏡の男が主犯として逮捕された。
その後、獄中で彼は何者かに殺害されたが、スケープゴートなのは誰の目にも明らかだった。
事件の真相は闇へと葬られた。
「…以上。これが“HEAT”第一小隊の辿った結末だ。そして諸君が迎え得る未来でもある」
時は現在に戻り、壇上の男…特務部隊の教官は語り終えた。講堂に集った数十名の新米隊員たちは、一様に押し黙ってしまう。
「もし、この中に明日辞表を持参した者がいても、私は咎めやせんよ。さて、何か質問はあるかね?」
数秒の間を置き、一人が恐る恐る挙手した。
「…あ、あの…不動隊長は、その後どうしたのでしょうか?」
教官の眉がピクリと動く。
「す、すいません!やっぱり…」
「奴は…あいつは、二年に及ぶリハビリを経て、現場復帰できる身となった後、警察を辞めた。今は…今も、退魔師として戦い続けている」
「………」
「他にもあるか?」
また、別の隊員の手が上がる。
「…畏れながら、教官殿の口振りは、伝聞と捉えるにはあまりにも臨場感がありました。まるで、その場に居合わせたかのように」
「……」
「確か、観客席に飛ばされた生死不明の隊員が四名いたと記憶しております。そして、正確な死亡人数はわからなかったということも!」
講堂がどよめく。
「これは私の勝手な推測ですが…もしや貴方は、生き残りなのではないでしょうか?」
「……ふ。それは、諸君の想像に任せよう」
不敵に笑い、教官は騒然とした講堂を退出した。共に出ていった立花莉子を気に留めた者は、ほとんどいなかった。
「ウェエエッ!!」
吐瀉物がぶちまけられる横には、シリコン製の強面の顔が脱ぎ捨てられていた。
荒い息とともに上げられた“素顔”は、艶やかな黒髪の女性。変装だったのだ。
それを知るのは、傍らに立つ莉子ただ一人。
「ハァ…ッ…ハァ…ッ…」
「…なぜ、こんなことを続けるの?…遼子!」
今でも毎夜うなされる悪夢。語ることにどれほどの精神をすり減らしているのか。
「…彼らに、現実を知っておいてほしくてな」「………」
そこはこの施設の中庭であり、訪れる者はほとんどいない。
最大の理由は、遼子たちの前に佇む石群。妖魔と戦い、殉職した者たちを弔う慰霊碑、それを直視したくないからだろう。
二年前に建てられた石碑に、藤崎たち二十三人の名が刻まれていた。
遼子はすがりついて嗚咽をあげる。
「うぅ…ッ…藤崎……皆……ッッ!」「遼子…」
「……してやる!一匹残らず、この世から!!妖魔どもを駆逐してやるッ!!」
不動遼子の慟哭は悲しく響き、秋の空へと吸い込まれていった…。
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一気に駆け抜けました後編でした。いやぁ、エロ処刑って最高ですね(*´Д`)
前半で語られていた通り、遼子さんだけを残しての無残な全滅エンドでした。
メタ的に言うと、今エピソードにおいては遼子さんはあくまでも語り部で、藤鷹那須トリオこそが真の主役です。
…正直なところ、この回想録だけで退場にしてしまうのは惜しいんですよね。この三人。ふーむ。
ちなみに意味ありげに登場した鬼門会の眼鏡は、本当にただの下っ端で、アレっきりの完全退場です。
…遼子さんの最後の絶叫は、若気の至りで魔が刺しましたねー(^-^;)エレン…
ですが、あえて、あえてそのままにしましょう。
今さら別の言葉に置き換えて、遼子さんの心境を上書きしたくありません。
…彼女は喪失と後悔に打ちひしがれは立ち上がって、幾度も繰り返したことでしょう。
私も…がんばりますよ。