「わぁああぁあッ!!」
呪符も式神も使わず、麗華は身一つで、静を苦しめる触手へと突進した。妹を救うために。
バキャ… どこか近くで奇妙な音を聞いた直後、地面が起き上がり、麗華の上半身へと叩きつけられた。
「?!……何がッ!?」
身を起こした彼女は、異変の答えを知る。右脚が、関節のない場所で曲がっていた。
麗華の脚に巻きついた触手が、一瞬でへし折ってしまったのだ。
感覚で気づかないのも無理はない。彼女は今、秘部に張りつけた呪符の効力で痛覚を遮断しているのだから。
「あ…あし…わたしの脚ィィッッ!!」
痛みはなくとも、身体の自由は奪われた。
「くッ……!!」
唇を噛みしめ、それでも這って静の元に寄っていく麗華を嘲笑うように、静の身体は立てない麗華がギリギリの高さまで降ろされる。
体位をブリッジから引き起こされ、しばらくぶりに見る静の顔は、すでに憔悴し切っていた。
痛ましいその姿に、麗華の瞳からはボロボロと涙がこぼれてくる。
守れなかった。こんな日がいつか来るんじゃないかと、ずっと怖れていた。
思い出も未来も崩れていく。静の笑顔が失われていく。
「もう…やめて…お願い……します」
あろうことか麗華は、敵である玄妖斎に懇願した。
「…異なことだねぇ。実に不思議だ。痛覚を閉ざし、ましてや身体を抉られているのは妹の方、自分ではない。それにもかかわらず、君から同等の“痛み”を感じる。愛というものかい、面白いねぇ…きひひ」
玄妖斎の表情に、またあの酷薄な笑みが戻った。
ズルリ…と、静の秘所から触手が引き抜かれる。
破れたブルマの間から見える女性として大切な場所は、痛ましく腫れて拡がってしまっている。
凌辱は終わった?願いは届いた?しかし、その希望は幻想である。
引き抜かれた触手の先端が形状を変える。見覚えがあって当然のはずのソレを、麗華はすぐに認識できなかった。
理解できなかったからだ、ソレを生殖器の代わりに用いるなどということが。
人間の手だった。
「それで…何をしようっていうの…!?」
「何だろうねぇ…きひひ!それは君次第だよ」
「わた…し…?」
「君はさっきこう言ったねぇ…おっと、失礼。言おうとして、ワシが先に言ってしまったのだったな。“わたしはどうなっても…”だろう?今度は聞いてやらなくもないから、言ってみるといいよぉ」
「!!ッ………わたしは……どうなってもいいから、妹を助けてほしい」
その言葉を聞き届け、口の端が耳まで裂けんばかりに玄妖斎は笑う。
「いいだろう。優しいワシは、更にひとつ、君の願いを叶えよう」「は……?」
ノシ…ノシ…と、重い足音が麗華の背後に近づいてきた。
「“こんな爺さんが相手なんて、つまらないわぁ。もっと若くて逞しいモノを持ってるのがよかったわぁ”…だったな、確か。なかなかの記憶力だろう」
「!!ッッ……~!!」
振り返った麗華の前にいたのは、静に上半身を吹き飛ばされたはずの、人型の影の妖魔だった。
玄妖斎の力で再生したらしい。しかも、より強靭になって。
麗華の数倍はある黒い巨躯は筋骨隆々としており、下半身にははち切れんばかりに怒張した性器が反り立っていた。
「延々と嬲るような、そんな惨いことはしない。その股に張った呪符が“破れた”ときに、君が声を発しなければ、二人とも家に帰してあげよう」
「なに…それ……ッ」不可解な条件。困惑する麗華を影の妖魔は軽々と抱えあげた。
「!!」来る……!!
麗華は、数秒後に自分の秘穴に巨根が突き立てられ、その瞬間に訪れるであろう激痛に耐える覚悟をした。
叫び声を押し殺すために、あらかじめ唇を強く噛みしめておく。
………しかし、その瞬間は訪れない。
「…?」何を…?
ボキィッ
麗華の思考に疑問符が浮かぶと同時に、奇妙な、それでいて聞き覚えのある不快な音が響いた。
視線を送ると、予想通りの光景。腕が、折れていた。
「あ…あぁ……」
痛みはない。しかし、それはこの瞬間だけであって、呪符が破れたときに莫大な負債となって襲い掛かってくる。
ベキィッボキィッ さらには、残る四肢も、妖魔の巨大な手が無慈悲に砕いた。
「……無理ィ…ムリよぉ…!!」
「…ね…姉さ…ん…!?」「!!ッ…静ッ!!」
静が意識を取り戻していた。自らの現状認識より先に、姉の惨状に目を奪われている。
二人は、お互いに何かを言おうとしたが、それより早く、麗華の身体は妖魔の巨根の上に振り下ろされる。
それはさながら、姉妹にとっての断頭台だった。
ベリィッ グボォッ
黒い剛直は、呪符を破ったその勢いのまま、麗華の中心を深く貫き、亀頭を彼女の腹部に浮かばせた。
両腕両脚の骨折と、内臓への子宮越しの圧迫、拡張された性器。それらすべてが発する途方もない激痛。
愛であろうと、覚悟であろうと、一瞬たりとも耐えることは、麗華にはできなかった。
「ィ……ぎゃあぁぁァアアああぁアァッッ!!」
「姉さんッ!!姉さ……ふぐッッ!?」
生涯初めて耳にする姉の絶叫の中、静は後背に衝撃を感じた。
然る後に、昇りくる身を捩るほどの圧痛。
それは先端の形状を拳に変えた触手が、静の肛門へと侵入し、消化器官を遡上していくことによるものだった。
「か……あが………ッッ…」
直腸から結腸、さらに小腸を抜けて胃へと到達する。
ジャージの上からでも、静の腹が激しく歪に隆起していくさまが見てとれた。
許容を遥かに越えた苦痛に、静は呻き声すらあげずに、ガクガクと痙攣する。
静の喉を押し上げ、頬が膨れた次の瞬間、彼女の口から黒い人間の手が突き抜けた。
わずか十秒ほどの出来事だった。
静を貫いた“手”が、そのまま麗華の顔にちかづく。
口から潜り込んだ触手は、消化器官を今度は本来の流れで埋め尽くしていく。
静のときとは異なり、ボディコンの布地の間から直接肌を晒している分、より鮮明にその様は浮き彫りとなった。
麗華の身体を蹂躙せしめた手が肛門へと突き抜けたとき、姉妹の身体を一本の触手が串刺しにする図となった。
内外の激しい損傷に、麗華の肉体はいよいよ限界を迎えようとしていた。
…だが、本来そこで潰えるはずの麗華の命は、わずかに繋ぎとめられる。
影の人型妖魔の巨根と触手が引き抜かれ、姉妹は並んで地面に転がされる。
あと数分責め続けていれば、絶命に至っていたかもしれないが、麗華も静も荒いながらも息がある。
ズリズリと這う麗華の腕が、悶える静へとのばされ、優しく抱き寄せた。
そのまま失神した姉妹を苦々しく見下ろす玄妖斎。
「…このまま殺すのは造作もないが、ワシは見たいのじゃよ。その固い絆が壊れる瞬間をのぉ」
ニタリと悪意に満ちた笑みを浮かべ、玄妖斎は配下に命じ、二人の身体を担がせて死闘の地を去った。
無明の中でもがいていた。
重い水に全身が絡みつかれるような感覚の中、麗華は手をのばす。最愛の妹へと。
声にならない声で、叫ぶ。
静!静!
「…ずかぁッ!!」
視界が開けた先、朧気ながらも麗華の世界に光が戻る。
手にぬくもりを感じる。
繋がる先には手と、気を失った静の姿。
五体満足で、息もある。
とりあえず安堵の息を吐く麗華だったが…
「…ッッ痛ゥ!!」
思い出した。感覚こそ残っているものの、自分の四肢は破壊されていたのだ。
無慈悲な玄妖斎の手によって。
前後の状況に思考を巡らせれば、少しも希望などありはしない。
ここはどこだ…!?
「お目覚めかのう…?」
頭上より声が降りてきた。その距離はずっと近い。
暗闇に目が順応するにつれ、酷薄に笑う老人の姿が浮き上がってくる。
静の向こう側、その立ち位置に激しい不安を覚える。
「玄妖斎ッ!…ッッここはどこ!?わたしたちをどうするつもりよ!?」
妖魔相手に問いかけたところでまともな答えが返るとも思えない。我ながら滑稽な。
いや、ここは形だけでも会話を引きのばして状況を探らなければ!
わたしたちの現在位置、圭やほかの皆の戦況…
「暗がりに鬼を繋ぐとは今宵なるべし、おそろし。…状況が見えず、さぞかしやきもきしておるじゃろうおぬしのため、わしが月夜の灯りとなってやろう」
「!?」
迂遠に語る玄妖斎の傍らに、弩鬼が二匹現れ、まだ意識の戻っていない静を抱え上げようとする。
「!!ッ渡…さない!!く…あぁッ!!」
四肢を破壊された麗華に成す術もなく、二人は引き剥がされてしまう。
「ここは…“百鬼殿”の最奥じゃよ」
「なん…ですって…!?」
その言葉を信じるならば、敵の総本山ではないか!
しかし、告げられた内容を麗華の心中から消し飛ばす音が響いたのは、直後だった。
バキャ…
「!?…ひぎゃあァアアッッ!!」
玄妖斎に従う妖魔が、静の左腕を無情にもへし折ったのだ。
突如与えられた苦痛に、静は絶叫と共に覚醒する。
「痛…ッ姉さ…何…?!」
「な…何を…何をしてるのよォォォッ!!」
悲哀、憤怒、驚愕、焦燥、困惑…折々の交えて麗華は叫んだ。
玄妖斎は笑みを崩すことなく、委細隠さず答えていく。
「真実の対価じゃよ。おぬしの知りたいであろうことを、何もかも教えて進ぜよう」
「いたいよ…姉ざ…ぎぃぃ!」
「静ぁ!…玄妖斎ィ!!圭たちがここに辿り着いたらこの報いは必ず受けさせるわ!!」
「キヒヒヒ」
「何が可笑しいの!?」
「七瀬圭、不動遼子、朱宮紫守、システィナ=マーレィ、ジェニー=コールマン…主だった退魔師たちは我らの手に堕ちた。人間の敗北じゃよ」
ベキャ 「あぎぃィぃィぃッ!!」
「やめてェェェッッ!!」
先刻同様、告げられた重大な情報とともに静の右腕がへし折られる。
いや、折るというよりは“畳む”に近い作業だ。
「もう!…ッ…もう何も要らない!!情勢なんて知らなくていいからッ!!」
「まぁそう言うでない。これより我らが悲願、“地獄門”解放の儀が執り行われるのじゃよ。朱宮紫守の肉体を依代にしてのう」
「いやぁああッ!!」
ベキバキバキ…
「か…ッッ…ふぉごぉ…ェ……!?」
今度は左脚を折りたたまれ、人の形を失っていく静。
「ぬしらをどうするつもりか。それはな…貢ぎ物にするのじゃよ。我らが偉大なる主、幽良蛇真様へのな」
ゴキブキブキ…
「ッッ……ッ……ッ…」
哀れな静の姿は、ほかに喩えようもなく…「箱」であった。
わずかに呼吸に伴う動きがあるが、生きているのが不思議な状態である。
「他に知りたいことはあるかのう?…む、どうした?」
麗華の様子がおかしい。何も声を発しない。
怪訝に思う玄妖斎の前で、なんと彼女は笑いだした。
「ひ…ふふ…ふふふ…静…わたしの静…あははは!そんな姿じゃ、学校行くの大変そう…毎日車で送ってあげなきゃ…あハハはは!!」
愛する妹の無残な末路に、麗華の心が砕け散った。
玄妖斎は満足げに嗤う。
「そうじゃ!その顔を見たかったのじゃ!キシシシ!…安心せい。おぬしも…」
足元からのびた影の触手が麗華の身を覆っていく…。
祭壇の間。“百鬼殿”にあって最重要地である。
“地獄門”を封じる楔があり、現在解放の儀の準備のためと、位の高い妖魔たちが忙しなく出入りしていた。
彼らを俯瞰する小高い位置に荘厳な造形の椅子と天幕が拵えられている。
まだ席は空いており、主の座する時を待っていた。
その前に侍っていた玄妖斎が手を高々と掲げると、その意味を知る妖魔たちは動きを止め、膝をついた。
彼らが頂く蛇真の降臨である。
王者の風格をまとい、優美な足取りで席へと歩み、座す。
「…玄妖斎よ。解放の儀はいかに?」
「万事順調にござります。間もなく始められましょう」
「よきかなよきかな。…して、そこな木箱は、さしずめ供え物といったところかえ」
蛇真の扇が示す先に、奇妙な文様が刺繍された、50センチ立方程の木箱が二つ、並び置かれていた。
玄妖斎は口端を割いて笑う。
「左様でございます、蛇真様。ささやかながら、このめでたき日へ祝いの品を献上させていただきました」
「ほぅ」
「“コトリバコ”という…人間どもが呪術の儀に作成する代物があるそうですが、わしなりにアレンジを加えてみたものでございます」
「ふむ。他ならぬなれが用意した品、つまらぬものではなかろう」
「ありがたきお言葉。これは“中身”こそが肝でございますゆえ」
玄妖斎が命じ、二匹の大柄の低級妖魔が箱から“それら”を取り出し、主に向けて恭しく掲げた。
「はっはっはっ!これは愉快、実に愉快であるぞ!」
蛇真を破顔させたモノ。
四肢を丁寧に折りたたまれ、箱状にされた二人の人間。
かつて妖魔たちを震え上がらせた西条姉妹のなれの果てであった。
哀れな麗華、哀れな静。
命だけはあるが、慈悲などではなく、むしろ底なしの悪意。
蛇真の肘置き、あるいは足掛けとして、光彩のない濁った瞳で、彼女たちは特等席からこれから起こる儀を見届けることになる。
玄妖斎が麗華に語ったのは真実であり、圭たち他の退魔師も無残な敗北を喫し、ある者は犯し殺され、またある者は連れ去られ、妖魔を産み出す母体として、あるいは性欲を満たす肉奴隷として生き地獄へと堕ちた。
かくして、電撃作戦は失敗を遂げ、なし崩しに人間の勢力は次々と駆逐され、灰燼に帰した。
地獄門の解放された東京に、人間の住める場所はなくなった。
人間と妖魔の戦いは、やがて国内全土を巡るものへと拡大していくのだが、それはまた別の物語である…
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中編…と見せかけて後編。ストンっと結末でした。
BAD ENDですね、タイトルからプレイし直しです。
ハイペースでアップしていく宣言して早々、リアルの都合で投稿遅くなってしまいすいませんm(_ _"m)
麗しき西条姉妹、哀れにも箱にされてしまいました。妖魔の社会では、家に退魔師の箱をインテリアとして飾ることがステータスであるとかないとか(笑)
美しい体躯を壊され取り返しのつかない状態にされてしまう姿は、嗜虐性と背徳感をそそりますね(邪笑)
リョナ属性も少しある私ですが、苦手なジャンルもございます。
…が、何が嫌いかで自分を語るのもアレなので、何が好きかだけに留めます(^-^;
ちなみに、前編で玄妖斎が語っていた先に倒された退魔師の二人は、ウチのオリキャラのウリスとネーブルでした。しれっと薄く共演。
げんすい
2022-11-29 14:44:44 +0000 UTC