ライフルから連続で吐き出されるゴム弾を捌き、あるいはかわして距離を詰める。
すると、何かに足を取られて踏み込んだ左足が動かなくなる。
見ればガムのような物体が左足を包んでおり、引っ張っても中々剥がれない。
銃撃。
「ちっ!」
やむなく腕で防ぎ、もう片方の手で左足に触れる。
レッドの手のひらから高熱が発生し、ガム状の物体は溶けて地面に広がった。
「(必殺技の応用…。あんなこともできるんだ)」
ピンクはそれを冷静に観察し、ゴム弾をリロードしてからスタングレネードのピンを抜く。
罠を抜けて突進してきたレッドは閃光を回避したが、ピンクは後方に退避しまたも銃撃を加えてきた。
ゴム弾とはいえかなりの衝撃を与えるものであり、実際鍛えた人間でも腹などに食らえば悶絶必至の威力だったが、レッドは屈強な体でそれに耐えていた。「体の出来が違う」と言う発言は事実だった。
再び距離を詰めようとする。今度は高速移動だ。視認すら難しい速度で、あっという間にピンクの背後に立つ。
その瞬間、四方からワイヤーが飛んできた。
想像してはいたがワイヤーが速い。すんでのところでかわすも、素早く振り返ったピンクの銃撃がまともに鳩尾に突き刺さった。
「ぐぅっ…!!ふっ!!」
しかし動きは止めずに素早く次を回避する。ピンクはそれを追わず、ライフルをしまって(空間に消えたようにしか見えない。あれも開発部が作った装備なのか)拳銃のようなものを取り出した。
「(高速移動への対策もしてあるとはな)」
レッドの接近手段は少ない。普段から怪人相手に近づくのは一工夫いることが多かった。
しかし、レッドはピンクの動きを見切り始めていた。
「(いくら罠の設置が上手いとはいえ、動き自体は怪人より遥かに遅い。読みや対策での対応も限界がある)」
ピンクの弱点は戦闘経験の少なさと、遠距離戦に特化していることだ。近づかれた時の対処は罠頼りになり、なによりレッドほどのトレーニングを積んでいないことによるフィジカルの差は大きい。
またも銃撃。口径の大きさと着弾音から判断するにマグナムのようなものだろう。両手で構えているところを見ると、衝撃は相当なものだ。
「迂闊だな…!」
隙の大きい武器を選択したのはまさに経験不足からくるものだ。反動を殺せないような威力の武器など持っていれば、相手を一撃で仕留められなかった時に致命的な隙になる。
レッドは続く2発目を両腕でガードした。予想以上の衝撃と痛みが防いだ腕に走り、一瞬怯むような素振りを見せた。
ピンクはそれを見て拳銃をしまった。勝負を決めにかかるつもりなのか、次なる武器を出そうと何も無い空間に手をかざす。
つまり丸腰だ。
「(かかった!!)」
それを見たレッドは怯んだフリを辞め、10mほどの距離を赤い閃光となって一瞬で詰める。
ピンクは目の前に現れたレッドに対し、咄嗟に右腕をかざすことしかできない。
レッドは躊躇なくピンクの顔面に拳を打ち込もうとした。訓練場内で致命的な一撃を出すとスーツに耐衝撃バリアが発生する。そのためピンクが死ぬことは無い。だが、完全な無傷とはいかないだろう。
「(悪いな……だが、これで終わりだ)」
刹那、ピンクの顔のすぐ横に薄い桃色の障壁が発生した。
ガイィンッ、という音と共にレッドの拳が大きく弾かれ、体勢を崩す。
「なっ……!!?」
今のは……おそらく新開発のシールドだ。
だが、直前まで何も無い空間に突然現れた。任意で展開と格納を選べるエネルギーシールドということか。
「くっ……!」
体勢を崩したが、ピンクも武器は持っていないようだ。このまま近距離に張り付いてもう一度パンチをーーー。
そう思ったレッドの目に、ピンクが拳を振りかぶる姿が映った。
「!?」
「ふっ!!」
がこぉんっ!!
ヘルメットを殴る鈍い音が響く。
レッドはヘルメット越しに流れ込んでくる振動(人体由来のものではない明確な振動を感じた。おそらくこれも新兵器だ)に脳を揺さぶられ平衡感覚を失う。
「い、今のは……ーーーッ!がぁッ!!?」
怯んだレッドの股間に深々と突き刺さるピンクの右脚。正確に急所を捉えた金的蹴りでレッドは苦悶の声を上げた。
「ぐぐっ……うぅっ…!!」
耐え切れない鈍痛の最中に何とか、なんとか後方に飛びすさって続く攻撃を逃れるレッド。
間髪入れずに作動するトラップ。
カシンッ!と言う音と共にレッドの足元からトラバサミの如く展開した罠が彼の左脚を捉える。
ピンクが何かを投げた。狙い通りレッドの肩に吸着したそれが小さなアンテナを立てた瞬間、電撃が走る。
「うぐぅっ……!?くっ…くそっ…!!」
動きを封じられ、矢継ぎ早のトラップ連携。レッドはアンテナに手をかけ、力任せに折った。
電撃は止まり、息も絶え絶えに左脚に食いついたトラップを外す。何とか立ち上がるも先ほどまでの動きは見る影もなく、肩で息をしている有様だった。
ピンクは接近戦が弱点。
紛れもない事実だ。
しかし巧みな罠と遠距離武器の使い分け、そして意表をつく防御で大きな隙を晒し、その上での拳と蹴りのコンビネーション。
接近戦に対しての警戒を限界まで薄めたからこそ活きる、「最低限の近距離戦をこなせる」という事実。
戦闘経験の少ない相手にまんまと乗せられ、急所への蹴りで呼吸を荒げるほどのダメージを負ってしまったのだった。
彼より弱いはずの、ピンクの手によって。
「はぁっ……はぁっ……こいつっ…!!」
「まだやりますか?もうだいぶ私の方が有利ですよ」
「図に乗るな!!お前が俺に勝てるわけないだろがっ!!武器なんぞに頼らなきゃ戦えない奴が、この俺にっ!!」
「そうですよ。私はこれがなきゃ怪人と戦えません。でも、それでいいんです。それで街の平和が守れるなら」
ピンクは毅然とした態度で言い放った。
「私はこの手で市民の皆さんを守りたいんです。そのためならなんだって使いますよ。武器を使うかどうかを気にして戦ってるのもいいですけど、そんなの問題じゃないです。目的は怪人を倒して平和を勝ち取るためなんだから」
「そんなことはーーー」
「分かってるって言うんですか?嘘ですよ。さっきレッドさん『ちんけなおもちゃ』って言ってたじゃないですか。これは平和を守るための武器なのに。レッドさんも市民の皆さんを守りたいんじゃなかったんですか?どうして平和を勝ち取る方法を選んでるんですか?あなたは、グリーンさんの死を無駄にしかけてる。命令も聞かずに、作戦を無視して無茶な戦い方をして。そうして怪人を多く倒してるつもりなんでしょ?でも実際はあなたが受け持つべきエリアの市民が数多く命を落としてるんですよ。あなたのせいで人が余計に死んでるんです。あなたの独りよがりな思い込みで!ディフェンダーレッドは街を守るヒーローなんかじゃない。怪人を倒す目的を『どっちが多く怪人を倒せるかの競い合い』に貶めてるだけの、ただの自己中な厄介者なんですよ!!」
立て続けのピンクの言葉に、レッドの中で何かがぷつん、と切れた。
「黙れぇえええ!!!」
怒りのエネルギーが体を駆け巡り、レッドはピンクに向かって突進した。床を踏み抜く勢いで疾走する。
右拳に宿る白熱の輝き。
爆散レッドナックル。
数多の怪人を葬ってきた必殺の一撃を、彼は自身のプライドを守るためだけにピンクに振るおうとしていた。
完全に訓練の枠を超えた殺人技。しかしーーー。
「!?」
ピンクが構える。
近距離の肉弾戦は得手ではないピンクが、いくら遠距離攻撃で消耗しているとはいえ格闘戦のエキスパートであるレッド相手に格闘戦の構えを見せる意味は一つしかなかった。
バカにしてるのか。
素人の女が舐めやがって。
「上等だっ!!!」
怒りのままに叫びながら、レッドは躊躇なく拳を繰り出した。同時にピンクが左脚を鞭の如く振り上げる。
そして……決着が付いた。
javada
2025-03-03 23:22:02 +0000 UTChagitotti
2025-03-03 14:35:23 +0000 UTC