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パルスィSS

ささいなことから始まる行き違いのことを人間は「ボタンのかけちがい」なんて言うらしい。目の前で山のように並べられた料理を眺めながら星熊勇儀はふと、そんなことを思い出した。ボタンのある服だったら掛け違えたボタンもはじけ飛びそうだなぁなんて。

料理の影に隠れてしまいテーブルの向かいの相手は頭の先くらいしか見えない。後ろに結わえた髪が揺れる様を見ると食事にがっついているようだが。

「ねぇパルスィ、わかったからさぁー。意地になんないでよー」

揺れたポニーテールがピクリと止まり声を返す。

「意地になんてなってないわよ!」

ああ、これは意地になっているときの声だ、と嘆息する。

キッカケは本当に些細なことだ。最近ダイエットと称して飲みに出なくなった相棒に

「太っていても気にしないから」と言ったのがマズかったらしい。勇儀からすれば嘘偽りない本音ではある。だが、そもそも彼女の増量の原因は勇儀が頻繁に飲みに誘うからであり、さらに言えばつまみを頼むだけ頼んで自分は酒を飲んでばかりというスタイルに原因がある。勇儀からすれば周囲から恐れられる鬼の自分に臆することなく付き合ってくれる彼女へのもてなしであり、心待ちにしていた逢瀬の一時を引き伸ばす手段の一つでもある。一方、パルスィからすれば勇儀と釣り合うように身だしなみも体型も気を付けているのに、当の勇儀がそれを崩すような真似を続けた挙句に「体型なんて気にしない」などと言われてしまえば自分の努力の立つ瀬がない。はじめは抑え目に伝えたものの、(鬼とは往々にしてそうではあるが)まるで通じない勇儀の態度についには堪忍袋とダイエットで飢えた胃袋の緒が切れたというわけだ。

手当たりしだいに料理を掻っ込むパルスィを見ながら、手酌で杯に注いだ酒を呷る。時折こうした喧嘩はあるものの、勇儀からすれば慣れたものである。むしろ、パルスィのそうした意地の張りようがかえって愛らしく、自分への期待の裏返しであることと思えば嬉しささえ感じられる。とはいえ、そろそろ彼女の胃袋も限界が近い。普段はくびれたウエストもぽっこりと膨れて妊婦のようにせり出している。料理を押し込むスピードも落ち着いてきたようだ。

「なぁパルスィ、気が済んだ?」

「むぅぅ、ううう!」

料理を頬張ったままのパルスィが答えるも言葉にならないようだ。

「今日はいい宿とってあるんだ。だから機嫌なおしてくれよ、頼むからさ」

ひょいと腕をつかむと腰に手を回して抱き上げる。ふだんよりも幾分重くなった彼女を抱えたままとっておきの宿までのエスコート。腕の中の彼女の目はいつもより鋭い視線を投げてきてはいるが閨に入ってしまえば水に流して愛し合える、勇儀はそう考えていた。

結局、その夜は抱き合うどころか手をつなぐこともままならなかった。明らかに食いすぎたパルスィがうんうんと唸り、せり出したお腹をやさしく撫でることしかできなかった。無理にでも抱きしめてやろうかと思ったが、下手に彼女を動かすとリバースの原因にもなりかねない。さすがに愛しの彼女とはいえ吐いたものまで愛せないし、なにより恥をかかせるだけだ。星熊勇儀、女心は介さないが紳士淑女のたしなみくらいは心得ているのだ。

料亭の座敷で勇儀は一足先に酒を呷っていた。ここは彼女のお気に入りの一つで、表向きは小料理屋ではあるが2階に上がれば寝室があり、食事を終えた客が休憩に使えるようになっている。いわゆる”そういう店”なので誰も彼もを呼び立てて使う店ではない。パルスィと出会ってからは専ら彼女と逢瀬を重ねるためだけに使われている。

「いやしかし、本当に久しぶりじゃないか。楽しみだねぇ」

彼女と顔を合わせるのはあの日以来だ。すでに数か月は経っているが臍を曲げた橋姫の機嫌はそうそうすぐには直らないのは勇儀は承知済み。そこにパルスィからのお誘いである。楽しみのあまり少し早めに店についてしまったというわけだ。

「ふむ」

廊下の遠くからキイキイと軋む音が聞こえてくる。

(そういや、ここって鶯張りだっけか?)

軋み音はやがてドスドスという足音に代わり部屋の前で音が止む。

(女中か?ここは躾がしっかりしてると思ったんだがなぁ)

おとないもなくガラリと引かれた襖に思わず非難めいた視線を投げると、そこには待ち人が立っていた。

「ふぅ、勇儀、お待た、せ」

その姿に思わず目を丸くなる。着ているものこそいつものパルスィのものであるが、一目で丈が足りていないのがわかる。いや丈が足りていないのではなく、でっぷりと太った体を隠すのに以前の服ではまるで布が足りていないのだ。

「どう、勇儀?ふぅ、太っても気にしないって言ってたから、ふぅ、思いっきり太ってきてやったわ」

彼女の言葉に偽りなく、以前のパルスィと比較すれば”思いっきり”太っていた。ほっそりとしたフェイスラインに少し大き目な緑の目が印象的だったその顔はたっぷりと付いた肉のおかげで丸々としている。折れそうに細かった腕はまるまると膨らみ、以前はゆったりとしていた袖口にぴっちりと詰まっている。サイズが合わないせいで開いたままの胸元から黒いインナーで包まれた巨大な乳房がまろび出て粗い呼吸に合わせて上下し、そのまま視線を下に向けると収めることもままならない巨大な腹が鎮座している。たっぷりとせり出した腹の下でスカートがパツパツに引き伸ばされ、そこから延びる足は以前のウエストほどもあるだろう。歩みを進めるたびにぶるりぶるりと踊っているのがよくわかる。こんな巨体であれば歩くだけでも息が上がるというのも無理はない。

「どうかしら?これでも私を愛してくれる?」

どっかりと腰を下ろすとせり出した腹がどぷんと揺れてその上に乗った胸を押し上げる。以前と変わらない緑の瞳が挑戦的に勇儀に微笑んでいた。

「ちょっと驚いたけど、パルスィはパルスィだよ。じっくり抱いてあげるから楽しみにしてて」

「本当かしら。口だけならなんとでもいえるわ」

せり出した腹をつかんで持ち上げ、スカートをずり下ろす。押し込まれた下腹が解放されて幾分姿勢が楽になったようだ。

「ま、その前に腹ごしらえね」

ここへ来る前に頼んでおいたのか次から次へと料理が運ばれてくる。それを飲み込むかのように次々と口に運ぶ姿は以前の彼女からは想像もつかない。ふと、パルスィの視線が勇儀の杯に向けられると、おもむろに立ち上がる。さっきよりもさらにせり出した腹をなでつつ、勇儀のすぐ隣に腰を下ろす。

「あら、勇儀、今日は酒が進まないのかしら?」

その目は挑戦的な光をたたえたままだ。のそりとその巨体を勇儀に預けのしかかるようにして酒を注ぐ。普段のパルスィでは絶対にやらない真似だ。

「重たいでしょ。嫌だったら嫌って言っていいわよ」

「嫌じゃないさ。パルスィが酒を注いでくれるなんて嬉しいよ」

「ふん、強がっちゃってさ」

パルスィがさらに体重をかけてのしかかる。

「こんなぶよぶよの体を押し付けられて嬉しいわけないじゃない!」

「鬼は嘘つかない。ただ強いて言うなら」

のしかかるパルスィの体を起こして正面から向き合う。

「そろそろ我慢の限界だわ」

二階の部屋に入るとすでに布団がしかれ、小さな行灯の光がうっすらと部屋を照らしていた。

「ねぇ、ほ、ほんとに良いわけ!?」

寝室に来てからはパルスィはドギマギしたままだ。まるで初めてするときのように赤くなったり青くなったりしている。

「おお、そのつもりで来たし、準備万端だから!」

一方の勇儀はあっけらかんとしている。早々に衣類を脱いで裸一貫、いつでも来いといった感じ。

「そ、その、こんな体じゃ恥ずかしいし…」

今更何をと言った感じではあるが、パルスィとしては今日はそこまでのつもりで来たわけではない。「太っても気にしない」などと嘯いた勇儀にこの太った姿を見せつけてやろう、鬼は嘘をつかないと普段から言っているその鼻っ柱をへし折ってやろうと思ってきたのに。勇儀ときたらまるで動じないどころか、こんな体の私を抱こうなんて考えてもいなかった。

「んー、もうパルスィはお預けが好きだなぁ」

腰帯に手をまわすと手際よくほどいていく。締め付けられた腹が解放感とともにせり出すのがわかる。

「ちょ、ちょっと、自分で!脱ぐから!」

慌てて身を捻って勇儀の手を振り払う。

「お、いーよ。私見てるからさ」

勇儀は邪気のない目でパルスィを見つめる。

「そ、そんなに見られた恥ずかしいし、その、嫌じゃないの?こんなデブでも…?」

「好きだよ、パルスィ」

全身の血が顔に集まってくるのがわかる。好いた相手にこんな体を見られるなんて、なによりそれを受け入れられるなんて。頭の中が羞恥でいっぱいになるなか、胸元のインナーに手をかける。ゆっくりと首元までひきあげると持ち上げられた乳房がぶるんと投げ出される。急な成長で引き伸ばされた乳輪のなかにぷっくりとした乳首。腰をかがめてスパッツをゆっくりと押し下げると、緊張から放たれた尻がどっしりと広がるのがわかる。スパッツから足を抜くたびに身をよじると支えを失った乳房や腹が干渉しあいむにむにと形を変えていくのを感じる。

「じゃ、じゃあ勇儀、おねが…きゃっ」

顔をあげ勇儀に声をかけるよりも早くパルスィは布団の上に押し倒された。

「そ、そんな急にこられたら、その、ちょっと」

「いいや、もう待てないね!」

勇儀の手がパルスィの秘所を求めて腹部をまさぐる。

「じゃなくて、ちょっと、ねぇ!」

分厚い肉をかき分けそこへ手を伸ばそうと

「ダメ!ちょと!げっ、げぇぇぇぇぇっぷ」

思わず口に手を当てるがすでに遅い。勇儀も特大のゲップに手が止まっている。

「だから、ダメって言ったのに…バカ」

もう恥ずかしすぎて頭がおかしくなりそうだ。

「ちょっと先走りすぎたよ、パルスィごめんな」

勇儀が優しく腹をなでる。その腹は以前ちがいもっちりと柔らかい。

「…バカ。そういうとき撫でるのは頭よ…」

料亭の夜からしばらくして2人はより頻繁に逢うようになった。勇儀の言葉に嘘偽りないというのは身に染みてわかったし、そのためにパルスィが身を太らせる必要はもうない。が、だからといってすぐに痩せられるかどうかはまた別問題だ。

「ふぅ、ねぇ、今度はあの店に行きましょうよ」

パルスィが勇儀の袖を引く。その手はクリームパンのようにもちもちと膨らみ、逆の手には団子が2串。あの夜のあと、衣類をすべて大きなサイズに買い替えたはずが、上着もスカートも実に窮屈そう。

「えぇ!?まだ食べるの?」

困惑する勇儀に笑顔で答える。

「なんか、胃が大きくなったみたいですぐお腹すいちゃうのよね。それに」

「それに?」

「勇儀ってモテるでしょ?」

「はぁ?」

「あなたの隣を歩いているだけでビシビシ嫉妬を感じられるわ!あの勇儀さんの隣に何でデブ女が!キィー!って感じかしら」

パルスィの緑の瞳が喜悦に輝く。

「これこそが橋姫の本懐!嫉妬パワーがどんどん集まるわ!」

「なんか私、いいように使われてない?」

「まぁまぁ、いいじゃない。こういう私も貴方は好いてくれたんだから。それとも以前の私が好き?」

パルスィの体がブレてもう一人の彼女が現れる。以前のスリムだったころの姿で。

「ねぇ、どっちが好きかしら?」


おしまい

パルスィSS パルスィSS

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