SakeTami
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似たもの同志

昔大流行した宗教が決めたっていう7つの大罪。

嫉妬と強欲と傲慢と…ぜんぶは思い出せないけど、その中に暴食ってのがあったはずだ。

合成完全食が普及し、生存のための栄養の摂取のための懊悩から人類は解放された。

…されたはずだった。

「ふぉいでね、れんふぉ」

口いっぱいに料理をほうばったメリーが話を続ける。

「けっひょく…ひんるいは、ひょうりとふうぶんふぁをへぇ」

「ちょっとメリー、飲み込んでからしゃべって頂戴」

「ふむ…うん、うん」

まるでリスのように頬を膨らませ、料理を咀嚼し、喉へ押し込んでいく。

「でね、蓮子。結局のところ人類は料理という文化を捨てられなかったのよ。

 生きていくだけなら合成食だけでもうよくなった。それでも料理、いや食というものに

 人間は群がらずにいられないってことね」

あたりを見回せば、さっきのメリーみたいに大口で料理を頬張る人で座席は溢れ、

山のように料理を盛りつけた皿を前に目を輝かせている。

蓮子とメリーが訪れたのは旧式レストラン。旧世代の…つまり合成食が普及する前の食事を提供する食堂で、さらに料理は取り放題のバイキングというタイプになる。合成食登場以降、一時はかなり数を減らした旧式レストランだが、ここ数年で勢いを取り戻しつつある。

「あれだけ、環境負荷だの健康問題だの叩かれてたのに、人って勝手なもんね」

蓮子が目の前のパスタをかき混ぜながら呟く。

「繰り返すようだけど、食はたんなる栄養摂取の手段ではなく文化だからよ。

 法や合理性で精神を切り捨てられるほど人は強くないの。それに…」

「旧式食の方が美味とくればね」

巻き取ったパスタを口に運ぶ。トマトソースの濃厚な味わいが口内に広がる。

合成食はバランスとしては完全ではあるが、一点、味という部分では旧型食には及ばない。バランスを守っているがゆえに、再現の及ばぬ部分がどうしてもでてしまうのだ。

「ジレンマね。今の技術なら味の再現ならできるはずよ。でも、それをしたらもう完全なバランスではない。

旧型食に並ぶにはバランスを捨てざるをえないのに、それをしたら存在理由を失ってしまう」

「ジレンマ…ねぇ」

蓮子は目の前の相棒へ目を向ける。

ゆるくカールした金髪が料理を頬張るたびに軽くなびく。まるく膨らんだ頬はその実、料理のためだけではない。先月くらいから足繁くこの店に通い、バランスを欠いた食を続けていれば自然、影響が出てくるものだ。食器を持つ腕はふっくらと柔らかく、ここ最近の成長をうかがわせる。もとはゆったりとしていたワンピースはここ数日はいかにも窮屈そうで、彼女のふっくらとした体型を隠そうともしていない。

「メリーもジレンマよねぇ」

「え?何」

「ううん、なんでも」

テーブル奥の調味料に手を伸ばす。手がパルメザンチーズに届くと同時にお腹のあたりが急に楽なる。、乾いた音を立ててボタンが床に転がった。

「ああ、蓮子。ジレンマってそういう…」

「メリー、みなまで言わないで」

そう、いつだって女性は「食べたい」と「痩せたい」のジレンマと戦っているのだ。

季節は冬から春に移り変わり、地中で身を潜めてきた生き物たちが目を覚ます季節。

人も同じように心や装いを新たにする季節だ。

「まさか全滅とはね…」

蓮子は床一面に散らばった春物の衣服を見下ろしながらため息をついた。旧型食のバイキングに3日と空けずに通った結果がこれである。クローゼットの中の春物は軒並み「小さく」なっていた。

「これ、気に入ってたんだけどなぁ」

あきらめきれないのかフリルのついたシャツに袖を通す。

肩口までシャツを引き上げると太くなった腕が袖口に詰まってきつい。それでも無理に前へ寄せてボタンを留めようとしてもすっかり太くなった胴体が激しく抵抗する。なんとか首元を留め、胸元を留め、鳩尾あたりまで進むもどうにも留められない。

「ふんっ…うんっ…入っ…て!」

ビリリリリ!

蓮子の懇願にこたえるように急にボタンとボタンホールの距離が縮まっていく。シャツの背中が裂けたのだ。

「うそ…」

思わず呆然とするもシャツの犠牲のおかげかボタン自体は留めることができた。

「まぁ、上着羽織れば見えないから」

ヤケクソぎみだが下のボタンに手を伸ばす。1留めるたびにシャツが引き裂かれていくがもう気にしない。

「さて、次は…」

スカートを一つまみして足を通す。体をかがめるとさらに背中側のシャツから悲鳴があがるが今更なんだというのだ。案の定スカートも入らないが、予想はついていた。安全ピンを腰に回してファスナーの彼方と此方を手繰り寄せる。二の腕あたりからもビリビリと裂ける音がするも聞こえなかったことにしよう。

「んっ…きつ…」

太くなった腕に邪魔されて視界が通らない。そのうえ前へ横へとせり出す腹肉が邪魔をする。

「そうだ」

蓮子はひらめきを形にすべく洗面台へ向かう。でっぷりとせり出した腹を洗面台に乗せそこから少し腰を落として腹肉をひっかける。こうすれば肉に邪魔されずに安全ピンが留められるのではと思ったのだ。

「ふんっ…よし!」

思惑通り安全ピンが止まった。

「まぁ、ちょっと太ったかもだけど、まだ着られるじゃない」

思わず笑みがこぼれるも鏡に映った自分の姿を見てそれが固まっていく。洗面台には丸々とした腹が洗面台の上に乗り、シャツのいたるところから贅肉がはみだした蓮子の姿が映っていた。

結局、以前の春物はあきらめて、メリーと新しい服を買いに行くことにした。どうやらメリーも同じ事態に陥っていたらしい。同病相憐れむとはこのことか。蓮子は冬の間に”ちょっとだけ”大きくしたシャツとスカートの上にケープを羽織っている。メリーも同様にサイズアップしたワンピースを着て街路を歩く。2人とも体が重いのか、顔は赤面がちだし息も少し切れてきた。

「ねぇ…ちょっと休もう蓮子」

手近なベンチを指をさす。

「賛成、今日はなんだか暑いわね」

3人分はあるはずのベンチなのに、メリーと蓮子が座るとなんだかちょうどいいサイズ。

どっかと腰を下ろし相棒に目を向ける。腰を曲げるとメリーのたっぷりとしたお腹がふとももに押し出されぴっちりとしたワンピースの中から形を主張する。

(太ったなぁ…)

思わず考えてしまう。かつてはスリムな体つきにそれにそぐわぬ大き目な胸と、女性の蓮子からしてもうらやましいプロポーション”だった”。今は全身たっぷりと肉がつき、かつての面影は失われている。ただ、大き目だった胸はさらに大きく成長をとげでっぷりとせり出した腹の上に覆いかぶさっている。そのおかげか遠目には蓮子ほど肥満した感じはしない。どちらかというと行き過ぎたグラマーな感じだ。

(まぁ、私も似たようなもんね…)

腰を下ろしたことでせり出した腹がシャツを圧迫し、右と左に引っ張られたボタンとボタンのあいだからは肌色が覗く。なでるように手を置くとぷよぷよとした感触が伝わってきた。

「そうそう、これ美味しいのよ」

メリーがポーチに手をかける。それだけのことなのに二の腕がぷよぷよと揺れている。メリーが取り出しのは旧型食のまるいお菓子「おまんじゅう」だ。薄皮の中にたっぷりと餡子がつまったニクイ奴。受け取った端から口に放り込むと暴力的な甘さが口内いっぱいにひろがっていく。

「旧型食の罪な味よねぇ」

「ほんとほんと」

どうしながらメリーが私のお腹をなでる。

「立派にそだったもんね、蓮子」

「ちょっ!」

スキンシップにしてはちょっと過激すぎやしないか。まして年頃の乙女に。

「いや、でもメリーよりたぶん痩せてるし!」

思わず本音がこぼれてしまう。

メリーの笑みが意地悪げに歪んでいく。

「じゃあ、お互い体重申告しましょっか。蓮子のこのお腹なら80はいってそうだけど」

「そ、そんなにいってないわよ!」

嘘だ。今朝測ったときは86kgぴったりだ。

「ふーん、じゃぁ私から。今朝で82kgちょっと」

なんだメリーだって80超えてるじゃん…って私より5kgも痩せてるなんて。

いやまて。メリーだってサバを読んでいるはず。

なら私は…

「は、はちじゅういちきろよ…」

メリーの目が笑みで細くなる。どうやらさっきのやり取りで見透かされてしまったようだ。

「へぇ~。まぁ、他でもない蓮子が言うのだから信じましょう」

「う…」

「じゃあ、スリムな蓮子さんにはおまんじゅうをもう一個プレゼント」

受け取ったまんじゅうを口に放り込む。

口に何か入っている間はしゃべらなくてもいいからだ。

「そんじゃ、そろそろ行こうか、蓮子」

まんじゅうを頬張ったままの蓮子を置いてメリーは歩きだす。

その姿は重量感が溢れているものの、どこか余裕がありそうで

(メリーめ、私より痩せてるって確信してるわね)

そう思わずにはいられなかった。まぁ、その余裕もブティックで自分の服のサイズにLが並ぶのを知って消し飛んだみたいだけど。

それからしばらくして、蓮子の服のサイズにLがたくさん並ぶようになったころ。

「うぇぇ~蓮子~~」

蓮子のアパートにメリーが文字通り転がり込んできた。

最近は胸の成長より腹の成長が上回り、メリーのシルエットはグラマーから球形に近づいて行った。

そのメリーが大質量を伴って玄関先に転がっている。

「ちょっとメリー邪魔よ、せめて部屋に入って…って酒臭っ!」

メリーからは普段しないような酒の匂いが漂ってくる。

「えへへぇ~、やけ酒しちゃった~」

メリーを引っ張りながら居間へ運ぶ。重い。

「ついにね、体重が三桁とっぱしちゃった~」

大の字に寝っ転がりながらメリーが言う。

なるほどそれでか、と私は合点がいった。たしかに先週くらいからやたら体型を気にしたり

間食をひかえる~なんて言ってたわけだ。まあ、控えた分、主食を食っていたから無駄だと思ってたけど。

にしても、メリーは本当に大きくなった。

寝ているせいもあるのだろうが、手足胴体、まんべんなく脂肪がついてでっぷりと膨らんでいる。

山のように膨らんだお腹は寝ている状態でもその威容を保ち、大きなはずの胸の印象をかき消すほど。

手足は生まれたての赤子のようにぷっくりと膨らみ、指先まで太くなったように見える。

(まぁ、でも私のほうがもっと太いんだけどね)

すでに3桁などとっくに突破した私は、もうメリーより軽いなんて嘘がつけないほど成長してしまった。

横に並べばこのメリーよりも明らかに太いのが隠せない。

転がったままのメリーを放置して洗面所へ向かう。狭いアパートの狭い洗面所、そこに大きい私が立つものだから少し窮屈だ。鏡に向かうと丸々と太った姿が映り、最近では横幅が足りずはみ出し気味だ。

お腹に手をのせてぐにぐにと肉をつかむ。もはや掴みきれないほどの厚みと量をもった贅肉が形をゆがめる。

(はぁ…)

思わずため息を吐いて部屋に戻ろうとすると

「蓮~子!」

いつのまにか起きてきたメリーがその行く手を阻む。

私より多少細いとはいえ立派な肥満体のメリーが立つととてもすれ違うことができない。

「メリー、居間に戻りたいんだけど」

「蓮子、今体重何kg?」

唐突な問いに思わずたじろぐ。

「だって、私だけ3桁行ったって教えたのに蓮子は教えてくれないんだもん!」

くそ、厄介な酔っ払いめ。勝手に告白したくせに。

「い、いやメリーと同じくらいよ、たぶん」

ごまかそうとするもメリーは譲らない。それどころか大きな体をこちらに押し付けその手をこちらに回してくる。

「嘘~。蓮子ずっと私よりデブだったし~」

「ちょ、メリー何やって」

メリーが私にだきつく格好でお腹に手を回そうとする。が、太い私に太いメリーである。互いの肉のせいで半分もまわらない。

それでも、

「このお腹で私と同じってないわよ~」

この忌々しい酔っ払いめ!確かにメリーよりはちょっとぽっちゃりだけど、世間から身えば大差ないデブだろうに。私の内心を知ってか知らずがメリーはぐにぐにと私の腹肉をつかんでは離してもてあそぶ。

「ちょっとメリー!やめてってば!って、うわぁ!」

無理にメリーを引きはがそうとしてバランスを崩す。

メリーが後ろに転がり、私がその上に倒れこむ。足を出して踏ん張ろうにもメリーの巨体のせいで足を前に出すスペースもない。なすすべもなくメリーを下敷きに、その勢いでぐるりと転がって居間へまろび出した。

「ちょ、メリー大丈夫!?」

あまり言いたくはないが今の私の重量だ。何より親友を押しつぶした女なんて不名誉な実績は解除したくはない。

「蓮子、重い~。デブすぎ~」

どうやら文句を言える程度には元気らしい。とはいえ、やはりこう思うのだ。

(いい加減痩せよう…)

あれから数か月。

今日もメリーと一緒に旧型食のバイキングに来ている。

あれから私たちは決死のダイエットを…3日ほどしてあきらめ、元の生活をエンジョイしている。

本来4人用のテーブル席なのだが今の私たちにはちょうどいいサイズ。しいて言えばせり出したお腹がテーブルに挟まって窮屈なことだがこれ以上の贅沢は言えまい。

今や3桁などとっくに超えたメリーが眼前で料理を頬張る。一度に大量の料理を放り込みそれを砂糖と炭酸と香料で整えた旧型のドリンクで流し込む。それを何度も繰り返したあとメリーが問いかける。

「ねぇ、メリーと私、どっちが太ってると思う?」

テーブルはお互いの腹で押し付け合っているはずなにメリーの方に寄っている。

「さぁ、メリーと同じくらいじゃない?」

嘘だとわかっているだろう。でもいいじゃないか。私の方が太っていればたぶん、メリーだって太ってくれるのだろう。そうすればずっと私たちは「仲間」でいられるんだもの。   

END


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