⇐「けんぺいさんのおしごと その20」https://nuka.fanbox.cc/posts/3070816
出港から二日後。
私達を乗せた提督の旗艦は、マリアナ諸島に近づきつつあった。
幸いなことに、ここまで敵艦隊との会敵は無い。
我ら艦娘の、敵海域への出撃もいよいよ間近だ。旗艦の甲板上では、艦娘達が艤装の準備を整えていた。
普段なら、これから臨む戦に向けて、意識を集中させつつ艤装の点検を行うのだが、どうも落ち着かない。
その原因は、調査のために加入した艦娘の地下組織「コミュニティ」だ。
先日のコミュニティの会議では、議長から「出撃する艦娘には、後日個別に任務を与える」と言っていた。
だが、出撃までそう時間も無いというのに、議長からは何も指示は無い。
無いなら無いで、いつも通り戦に集中すればいいだけなのだが、どうも何かがひっかかる。
「磯風。今日は珍しく、落ち着きが無いですね。」
浜風。姉妹艦であり、幾度となく共に死線を潜り抜けてきた戦友でもある彼女が、主砲の角度を調整しながら、さり気なく図星を突いてきた。
確かに気がかりな事があるとはいえ、なるべく表に出さないよう努めてきたはずだが、浜風は見抜いてきた。流石だ。
「いや、特に普通だが。何故そう思う?」
変わらず平静を装いつつ、浜風に問いを返す。
「だって・・・貴女がさっきからずっと磨いてるそれ・・・魚雷じゃなくて、大根」
「ん?」
手元を見てみると、右手にはワックスを付けた布、左手には大根。
大根だ。
「・・・いや、これはだな。今日の昼食には、この磯風特製・大根オムライスを皆に振る舞ってやろうと思ってな・・・」
「色んな意味で食べたくないですね、それ。ワックスでピカピカになってるし・・・」
それから数時間後。
旗艦はいよいよ敵海域付近に達し、所定の場所にて錨を降ろした。
本来青い海原は、南を望むと次第に血のような赤色になっていく。彼奴ら──深海棲艦の縄張りである証だ。
人が船で近づくことができるのは、ここまで。
これより先は、艦娘の出番。いよいよ出撃だ。
先程は、落ち着きがない事を浜風に見抜かれそうになったが、何とか誤魔化すことに成功した。危ないところだった。
しかし、このままでは戦いに影響が出かねん。
「コミュニティ」のことは、今回は忘れよう。
──そう思った矢先の事だった。
無線チャンネル56から、突如この磯風を呼び出す音が聞こえた。
「──駆逐艦・磯風。君に、任務を付与する。」
先日の会議の際に聞いた、変声機越しの低い声──議長の声だ。
出撃直前だというのに、何が任務か。
頭を切り替えようと思ったタイミングでの連絡に、私は少々怒りを覚えた。
とりあえず、応答して議長の続きを待つ。
どんな任務だか知らんが、適当に従ったフリをしてやる。
さあ、その御大層な任務とやらは、何だ?
「君は、この戦いで轟沈せよ。──仲間を、提督を助けたければな。」
つづく('ω')
~登場人物~
・('ω')
艦娘を率いる提督。海軍中将。第3艦隊司令官 兼 呉鎮守府司令官。
今回の「マリアナ諸島奪還作戦」では、連合艦隊の司令を務める。
・憲兵
提督を調査するよう命ぜられた憲兵。独自で軍内部の闇を追う。
・磯風
艦隊の最古参にして歴戦の戦士。
憲兵と結託して、提督を葬ろうとする軍内部の闇を追う。