SakeTami
ぬか@nukka('ω')
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「けんぺいさんのおしごと その14」

「由良はスパイだ」

さて、磯風は私の言葉をどう捉えるだろうか。

冗談だと思って笑うか。

真面目に受け取って驚くか。

──それとも、「同志」の正体が暴かれて、動揺するか。

彼女の反応は、その何れとも違った。


「何だ、そんなことか。」

私は呆気にとられた。

「そんなこと、とは・・・知っていたのか?」

「いや、知らん。第一、前線の一艦娘である私が、知る由もない。」

磯風は、相変わらず涼しそうな顔のまま答える。

「誰がどのような思想を持っているだとか、誰の密命を帯びているだとか、”そんなこと”は、艦を並べて戦う艦娘同士では、大した問題ではない。」

彼女は、私に向かって正対する。

「──憲兵殿は、我々艦娘が、どうやって”造られている”か、ご存じか?」

・・・何だ?急に。


艦娘の建造方法は、特級の国家秘密だ。

海軍の最高幹部クラスですら、知っているものは少ない。

一応、世間では、艦娘は造船所で”建造”される人造人間、謂わば”生体兵器”である、というのが一般的な見解だ。

ただ、一見して、彼女ら”艦娘”は、機械らしい部分は一切無い。

年頃の女子と同じように喜び、怒り、嘆き、笑う。

食事をし、風呂に入り、夜には睡眠を取る。

どこからどう見ても、我々と同じ”ヒト”なのだ。

だから私は、艦娘とは「身体を構成する物質は人間と同じ、人造された有機生物、バイオロイドのような存在である」と認識している。

私は私なりの見解を、磯風に向けてみた。


それを聞いた磯風は、ふっ、と鼻を鳴らしたが、その目はどこか愁いを帯びているようだった。私の勘違いかもしれないが。

「そうなのかもしれない。だが実際のところ、私達自身もわからないのだ。」

「ある時ベッドで目覚め『君は”艦娘”という兵器であり、人類のために深海棲艦と戦うことが使命だ』ということを教え込まされる。」

「間もなく訓練の日々だ。そしてある時、何の前触れも無く艦隊への異動がかかり、心の準備も出来ぬままに実戦へ投入される。」

「生き残れば良し。戦って、生きて、帰って。また戦って、生きて、帰って。敵の直撃を受けて、沈むその日まで、延々と海へ繰り出していく。」

「不運にも敵に沈められ、海の藻屑となっていった仲間達はどうなったのか。そして、このまま戦い続け、幸いにも沈まずに終戦を迎えることができたら、私達はどうなるのか。──そんな事を考えずにはいられない。」


私はふと、彼女らの気持ちになって考えさせられた。

”兵器”は、戦争があるから必要とされる。

戦争が終われば、”兵器”は不要となるどころか、かつての戦禍の象徴として、民からは”忌むべきもの”として蔑まされることとなる。

それは、今までの歴史が証明している。

ともすれば、兵器として生まれた彼女らを待ち受けているのは、きっと──


「憲兵殿。私が”こんなこと”を考えることができるのは、おかしいと思わないか?」

磯風の言葉で、私は思考の世界から現世へと帰ってきた。

いかん、あまり情の入れすぎは、仕事に障る。

「・・・こんなこと、というと?」

「”戦い続けること”について疑問を持つことだ。私が艦娘を造った科学者なら、”兵器”にはそんな自我を与えない。ただ命令に忠実な、戦闘マシーンを造るだろう。」

確かにそうだ。

人が持つ自我(エゴ)は、兵器にはそぐわない。

命令を守って戦う上では、そのような”エゴ”はデメリットでしかないからだ。

更に言えば、同じように”戦い続けること”に疑問を覚えた艦娘同士が密かにコミュニティを形成し、クーデターを起こす可能性だってある。

可能なら、艦娘を製造する段階で、自我を殆ど取り払ってしまうのが定石だろう。

艦娘の自我を排除しなかったのは、それが「できなかった」からか、意図して「しなかった」からなのか・・・


艦娘の中でも「武人」として称される磯風ですら、「将来の不安」と「戦う意義」について考えているなら、おそらく殆どの艦娘が同じような不安を持っているのではないか。

ならば、このまま軍の命令のままに戦うことを良しとしない艦娘らの間で「地下組織」が形成されることは、何ら不自然ではない。

というより、当然の流れであると言える。


私が思っているより、この根は深いかもしれない。


                  つづく ('ω')

「けんぺいさんのおしごと その14」

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