その日は霧雨の振る、じっとりとした朝だった。
私はポンチョを被り、憲兵隊舎から呉鎮守府へと向かう。
少し歩くと、雨はすぐに上がった。
蒸し暑ささえ感じるようになり、これならポンチョを置いてくるべきだった、と少し後悔する。
呉鎮守府に着く頃には、天気は一転し、快晴になっていた。
私は完全に無用の物となったポンチョを脱ぎ、雑に畳んで片手に抱えながら、提督執務室へと向かった。
執務室前の廊下に差し掛かったところ、艦娘のハキハキとした声が聞こえてくる。
「──ご挨拶致します。軽巡・由良以下8隻の艦娘は、本日付けで、呉鎮守府第3艦隊勤務を拝命致しました。微力を尽くし、人類の勝利に貢献致す所存であります。どうぞ、宜しくお願いいたします。」
おっと、既にスパイ容疑者の「由良」は着任していたのか。
予定よりも、ずいぶん早いじゃないか。
8隻の艦娘が一列に並び、着任の挨拶をしているところだった。
私はとりあえず、執務室には入らずに、少し離れた廊下で、着任挨拶の成り行きを見守った。
「どうぞよろしく。では、一人ずつ、簡単に自己紹介してくれるかな?」
('ω')提督は、赤いクロスが敷かれた司令長官デスクの上に腰掛けていた。
腰掛けていたのは、椅子の上ではない。机の上に、だ。相変わらず、行儀が悪い。
赴任してきた8人のうち、一番先任の由良から、自己紹介が始まった。
その内容は全員月並みといった内容で、殆どが過去の経歴を述べるだけの、退屈な自己紹介だった。
駆逐艦・初月だけは、自己紹介の殆どが好きな食べ物の紹介で、唯一印象に残った。
どれだけ肉が好きなんだ、と初月の自己紹介を聞いていたところ、背後から何者かが近寄る気配を察知し、振り返った。
「おや、憲兵殿。しばらくぶりだな。」
黒髪で赤い切れ目の少女、駆逐艦・磯風だ。
磯風は、私の抱えていたポンチョを引き取り、畳み直してくれた。
私は何もお願いはしていないが、預かってくれるらしい。気の利く娘だ。
「ところで、こんな廊下で突っ立っていて、何をしているのだ?」
言われて私は、しばし考えた。
適当に取り繕っても良かったが、この磯風になら、本当の事を言ってもいいかもしれない。
私は彼女に、由良がスパイの可能性がある旨を告げた。
つづく('ω')
tsd
2021-08-01 13:25:18 +0000 UTC