彼女は、数年前も描いたキャラクターで、いつかまた描きたいと思っていました。
肌は綺麗ですが、各部が茂っている系のおばちゃんです。

【最新更新:性格のカルマ値を追加】 <概要> MOBに関する情報は、こちらから確認をお願いします。 今いる20人分のMOBキャラクターを、支援者さんが選びやすいようにまとめたページです。ワンドロリクエストの際は、ここから気になるMOBを選んでいただけると助かります。 ※内容は随時更新・整理していきます(今後M...
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閉店後のスーパー「しばとら」は、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っていた。蛍光灯は間引かれ、レジ周りと事務室だけが白く照らされている。床のワックスは光を弾き、遠くの冷蔵ケースが低い唸りを立てていた。
六田ちなつは、レジ締めの伝票とにらめっこしながら椅子に深く腰を落とした。赤いエプロンの肩紐を指で引っかけ、首を鳴らす。年齢の数字だけなら“おばちゃん”と呼ばれても仕方ないはずなのに、その横顔はどう見ても二十代後半の艶を保っている。本人はそれを自慢にもせず、ただいつものように豪快に笑った。
「はぁ〜、今日もよぉ回ったわね。……それじゃ、今日も飲みいこうか!」
返事はない。もちろんだ。
閉店後の店内で相槌を打つのは、紙と電卓と、冷蔵ケースのモーター音だけである。ちなつは自分で言っておいて「たはー、誰に言ってんだか」と喉の奥で笑い、朱肉を押す手を進めた。
そのとき、足元と「とぷ」と、濡れたものが落ちる音がした。
一瞬、洗い場から誰かがバケツでもこぼしたのかと思った。だが、床は乾いている。伝票から目を離し、視線を落とした瞬間――事務室の扉の隙間から、黒光りする粘液が、まるで生き物のように這い出してくるのが見えた。
「……は?」
ちなつが立ち上がるより早く、それは床を滑って足首に巻き付いた。冷たい。ぬるり、と皮膚の上を這う感触がぞわりと背筋を走らせる。思わず蹴り飛ばそうとしたが、ピンク色の粘液はゴムのように伸び、離れない。
「ちょ、なにこれ……!」
モップを掴んで叩きつける。だが、叩いた先から「ぷにゅ」と凹み、すぐに戻る。粘液はむしろ喜ぶように波打ち、足首から脛、膝へと登ってきた。ワークパンツの裾がじわりと濡れ、布の下から冷たさがじかに伝わる。
「くっ……離れな!」
足を引く。椅子が倒れる。伝票が散る。なのに、粘液は糸を引いてついてくる。次の瞬間、膝上から太腿へと一気に広がり、布の繊維に染み込むように“内側”へ入り込んだ。
それはただ貼り付くだけではない。溶け込むように、皮膚の感覚を探り当ててくる。
「ッ……!」
痛みが来ると思った。だが、来たのは妙な痺れだった。冷たさが、いつの間にか熱に変わり、肌の上で甘く弾ける。ぞくぞくとした、笑いそうになるほど不条理な快感の予兆。ちなつは眉を吊り上げ、歯を食いしばった。
「だめだって……! こんなの、気持ち悪……ッ」
言葉の途中で声が裏返る。粘液が腰へ達し、エプロンの内側へと滑り込み、腹を、脇腹を、包み込んだ。まるで柔らかい手が体を撫で回すように、しかし温度も圧も人間ではない。逃げ場を塞ぐように、背中まで回り、肩口へ、首へと迫る。
ちなつはカウンターに手をつき、事務机の上の電話に伸ばした。指が触れる寸前、指先が粘液に呑まれ、関節の動きが鈍くなる。ぬるり、と透明な膜が手袋のように覆い、指が自分のものではなくなったみたいに重い。
「くそっ……!」
叩きつけるように腕を振る。抵抗する。振りほどく。だが、そのたびに、粘液は体表で波を作り、より深く、より丁寧に、ちなつの「中身」へ入り込んでいった。
痺れが強まる。筋肉が、思考の指令を受け取るより先に力を抜いてしまう。息を吸うと、粘液が喉元に密着し、声が「ぶくぶく」と泡に変わって漏れた。鼻先には、スーパー特有の洗剤と生鮮の匂い――その奥に、甘ったるい、知らない匂いが混じる。
「……っ、はぁ……っ」
みっともない吐息が出た。悔しい。怖い。なのに、体は変に敏感になり、触れられるたびに脳が白く弾けそうになる。自分の身体の反応が、何よりも腹立たしかった。
ちなつは、最後の意地で背中を反らせ、肩から粘液を剥がそうとした。すると、粘液は喜ぶように圧を強めた。肩甲骨の間に、甘い電流が走る。抵抗が刺激になり、刺激が痺れになり、痺れが「快」へと歪んでいく。
「ち、違う……こんなの、違……っ!」
言い聞かせるほど、言葉が薄くなる。意識の輪郭が、湯に溶ける砂糖みたいにほぐれていく。伝票の数字が読めない。今が閉店後だという当然の前提が、遠い。自分の名前が、ほんの少し遅れて口に浮かぶ。
六田――ちなつ。
その「ちなつ」の輪郭に、粘液がぴたりと貼り付き、舌でなぞるように、記憶を啜った。
過去の断片が浮かぶ。レジ打ちの手順。店長の癖。パートさんの家庭事情。誰かの相談を聞いて、笑って、家に誘って――そのまま、という後ろ暗い愉悦。全てが、粘液に引っ張られていく。
「……あ……がっ…………」
口が勝手に動いた。自分の声なのに、泡立ったように歪む。粘液が頬にまで広がり、顎のラインを撫で、唇を塞ぐ。息が抜ける。視界が滲む。目の前の事務室の光が、遠ざかる。
最後に残ったのは、怒りだったはずだ。なのに、その怒りすら、じわりと溶け、ぬるい幸福感の皮膜の下で、やがて沈んでいった。
床に、こぼれた伝票が散らばっている。椅子が倒れている。その中心で、赤いエプロンの女は――いつの間にか、形を失っていた。人の輪郭は崩れ、肉の色は淡い光沢を帯び、全身が一つの粘体へと帰していく。骨が折れる音も、血もない。ただ、どろり、と静かな「溶解」の音だけが、冷蔵ケースの唸りに混じった。
しばらくして、事務室に動くものは一つだけになった。
床に広がった粘液が、呼吸するように脈打つ。中心が盛り上がり、ゆっくりと人の形を模し始める。腰、胸、肩――形が整うにつれて、過剰なほど立派な曲線が再現され、エプロンの赤まで粘液が色を合わせた。髪の色、帽子の色、肌の艶。まるで「六田ちなつ」という情報を粘液が学習し、最適解として出力しているかのようだ。
完成した“それ”は、首を傾げ、まばたきの練習をした。瞳の奥だけが、明らかに人間ではない濁りを抱えている。笑みはちなつの笑みをなぞっているのに、底が冷たい。
「……クク……」
喉から漏れる音は、笑いのようで、喉鳴りのようでもあった。次に出た声は、確かにちなつの声色だが、セリフ回しがぎこちない。
「イイ……カラダ……ヲ……テニ……イレタ……タダノヒトデハ…ナイ…チカラヅヨイ…」
「アー……アー……ワタし……チナツ。コノ……スーパー……ノ……テンイン……」
言葉が途切れるたびに、口の端がぬらりと伸びる。粘液は、喉の奥で声帯の使い方を覚え、記憶をなぞり、必要な素振りを組み立てていった。
「……話……キコウカ?」
ちなつがよく口にする台詞を、歪んだ調子で繰り返す。まるで、その言葉の用途を理解していないのに、便利な鍵として拾い上げているような不気味さがあった。
ちなつの姿をしたスライムは、事務室を見回し、散らばった伝票に指を伸ばした。紙が指先に触れた瞬間、紙の繊維の間に微細な粘液が染み込み、文字のインクを舐め取っていく。数字、担当者名、仕入れのリスト。誰が何を担当し、明日どの棚に何が並ぶか。それらが理解として吸い上げられていった。
次にそれが向かったのは、バックヤードの冷蔵庫である。
扉を開ける。冷気が流れる。整然と並ぶ食品――パック詰めの肉、豆腐、プリン、総菜のパック、翌朝並ぶ弁当の箱。透明なフィルムの下で、世界は静かに眠っている。
それは、その棚に手を置いた。指先がじわりと溶け、細い糸状の分身が何本も伸びた。糸はパックの隙間に滑り込み、フタの内側へと潜る。封を破らず、気付かれず、ほんの一滴ずつ――命の種を置いていく。
「アタラシイ…チカラ…コレ……ヨイ……ナカマ……フエル……」
「アサ……オキャク……クル……クク……」
言葉は相変わらず片言だが、計画はとても狡猾だった。明日、昼、夕方。誰かがそれを手に取り、家へ持ち帰り、冷蔵庫に入れ、口にする。あるいはこぼし、触れ、広げる。近隣の家庭が、スライムの苗床と化すのだ。
最後にそれは、冷蔵庫の扉を丁寧に閉めた。鍵をかける動作も記憶通りだ。バックヤードの電気を落とし、事務室へ戻り、倒れた椅子を直す。散らばった伝票も一枚ずつ拾い、元の場所へ戻す。完璧な片付けである。人間の職場のルールを、そのまま真似ることが最も安全だと理解している。
シャッターを降ろす。最後に、ブレーカーに手をかけ――一瞬だけ、ちなつの笑顔が、ふっと柔らかくなったように見えた。だが次の瞬間、口角は不自然に吊り上がり、目の奥の暗い光が戻る。
「……オヤスミ……ミンナ……」
そう囁く声だけが、誰もいない店内に落ちた。
外から見れば、スーパー「しばとら」はいつも通り閉店しただけだ。ネオンは消え、駐車場は闇に沈み、夜は更けていく。
ただ、冷蔵ケースの奥。透明なフィルムの内側で――小さな泡が、いくつも、静かに弾けていた。
挿絵:黒蜂
SS:腹心A
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この4日間の作品は、少し文章を長く仕上げました。
これから反応を見ながら長さを調整したいと思います。