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暴虐王女の国2ー③

③ミシェルとユナ  地下室での謁見が終わると女王はミシェルに“準備があるから少し待っていて頂戴?”と告げメイド達に彼女を別室へと案内させた。  別室と言っても入り口は鉄格子が備わっていて、周りは地下室と同じ材質の石壁が囲っていて外に繋がる窓すらない。  部屋の中にはいちお腰を落ち着ける為の簡易的なベッドと小さな丸テーブルが用意されてはいるが、ベッドは手入れが行き届いていない事を示すように薄汚れていてカビ臭くそこに横になる気にはなれない。テーブルも地面に固定されているタイプであり動かす事も持ち上げる事も叶わない。  本当に簡易的な牢獄というイメージのその部屋に入れられ、ミシェルは落胆の溜息を零してベッドの端に座って腰を落ち着けた。 「はぁ……。私としたことが……かなりマズったわね……」  先程の地下室とこの部屋は木製の扉を一つ隔たれて隣同士となっている。だからか、隣で何かしらの作業を行っている音がドアの小さな隙間から漏れ聞こえてきている。  金属製の何かを引き摺る音……それを持ち上げ立て掛けているような音……  何かのネジをはめ込んでいるような音……鎖状の金具が擦れ合うような音……  それらが漏れ聞こえてきて、ミシェルは徐々に不安な気分が再燃し始めてしまう。  きっと、部屋の中では自分を拘束する為の機材が組み立てられている所なのだろう……  罪人である自分を罰する為の準備が着々と進められているのだろう……  その無機質な金属音を聞かされるとその様な不安が強く募ってしまう。  まるで、処刑を待つ死刑囚のように……自分が拘束されるであろう器具が出来上がっていく様子を思い浮かべて不安が増長されていく。  こんな所で……死にたくない! こんな所で……女王の慰み者になりたくない!  っと、思えば思う程不安が強くなり、同時に……自分を嵌めたエリィの存在が憎く思えて来る。  組織を裏切っただけでなく、組織を壊滅させる先導まで行う愚か者に成り下がっていたとは……  まさかエリィがその様な愚かな女になっていたとは露とも思わず、彼女の言葉を信じ彼女の為に繋ぎを取ろうと思ってしまった自分の事が悔やまれてならない。  そのせいで組織を危機に陥れ、自分も捕まってしまったのだから申し訳が立たない。  もう少し自分が慎重にエリィの事を見ていれば……このような事にはならなかった筈なのに……  幼馴染であり親友であったことが枷になって、ついつい甘さを見せてしまった。  彼女のためなら……と、考え無しに協力した事が自分の大きな敗因だった……  エリィを憎む反面、自分の愚行にうんざりさせられる。  組織の方からも“エリィはもう帰っては来ない、忘れろ”と伝達されていたのに……それを無視して協力してしまった。  なにせ……死んだと思っていた親友が何事もなかったかのようにフラリと帰ってきたのだから、喜ばない訳にはいかない。  きっとエリィの事だから、牢屋から脱獄したに違いない……脱獄したから逃亡先として組織の隠れ家に身を潜めたいと思ったに違いない……と、思い至るのが普通だ。  だから、軽率にその要求を受け入れてしまった……  罠があるかもしれないと警戒する事も怠って…… 「こんな事になるのだったら……あんな奴のいう事聞かずに、ザックの好意にさっさと甘えておくべきだったわ……」  ミシェルは自身の右肩に纏めて垂れさせてあった茶色い髪の束を左手で弄りながら、後悔とも取れる切なげな溜息を零し遠い目をする。  逮捕される前日、ミシェルは調査員の一人であるザックという青年に忠告を受けていた。  ザックは主に王都周辺の現状調査という任に就いていたが、任務とは別でミシェルと親しく交友を持つ間柄でもあった。  童顔でミシェルよりも背が低く見た目には少年と間違われかねない姿をしているが、中身はミシェルと同じで成人した立派な大人だった。  そんな彼がミシェルに好意を寄せていたのはミシェル自身も薄っすらと感じ取れていた。その好意自体ミシェルは内心嬉しいと思っており、いずれはザックの想いに応えようと密かに自身の想いも固めていた所であったのだが……  酒場襲撃前の日に彼からはこう告げられていた。  “組織狩りがまた活発になってきている。この酒場に居座るのは危険だ”と。  そして、続けてこのようにも言ってくれた…… “もしミシェルが嫌じゃなきゃ、僕と一緒に国を離れて別の国へ亡命しよう……。隣の国で僕の知人が匿ってくれる算段が付いている”と。  ミシェルはこの時随分と心を揺らされたが、しかし彼女は丁度エリィと約束をしてしまった後であった為にすぐには行動に移せなかった。  せめてこの友人の願いだけでも叶えてからザックと共に国を離れたい……と、義理を優先して申し出を保留してしまったのだ。  それが命取りだった。  まさか……友人だと思っていた人間に裏切られ自分が逮捕されてしまうなんて……悔やんでも悔やみきれない。手を伸ばせば助かる道もあったのだ……と、考えてしまうと裏切られた事への怒りが余計に助長され、エリィを憎まないと気が済まなくなる。  こんな事になるのだったら、エリィなど見捨ててザックと共に逃げ延びれば良かった……  ミシェルの頭の中ではその事だけが渦巻いて、晴らせない怒りと憤りが渦巻いて募っていく。そしてまた溜息をついてしまう……  そんな折、もう何度目かも分からない深い溜息をついたミシェルに隣の壁から弱々しい声が発せられ、彼女は隣に自分以外の誰かが捕らえられていた事に気付かされる事となった。 「あ、あ、あのぉ……ミシェルさん……ですよね?」  その声は怯えるように震えていてか細く、準備を進める金属音に危うく掻き消されてしまいそうな儚い声に聞こえた。 「……貴女……もしかして、あの時一緒に捕まった……ユナとかいう子だったっけ?」 「はい……ユナ=ユリウスと申します。三日前に組織に入ったばかりの……その……新人です……」 「そう。災難だったわね……。まさか、こんな事になるなんて……」 「はい……。私もいきなり酒場の会合に参加しろと言われて……何が何だか分からず……」  そのか細い声にミシェルは目を閉じて“可哀そうに……”と、同情を込めた言葉を心に浮かべた。  ユナという娘を見たのは捕まる直前の数時間だけだったが、彼女のあの不安そうにおどおどした姿は今でも目を閉じれば思い起こされる。  薄い黄色の髪を三つ編みにしておさげにした、まだあどけなさの残る幼い容姿。年齢は確か18歳だと言っていたが、年齢の割に幼く見え身長も体つきも貧相に映る華奢さが目立っていた。  酒場に訪れた際もエリィを待っている時間も常におどおどして落ち着かず……自分が何をしたらいいのかすらも理解出来ていなかった状態であったため、組織に問い合わせて確認しようとミシェルは思ったくらいだった。だけど……その確認が成される前に憲兵によって場を押さえられてしまった為ユナもミシェルも互いに面識が薄いまま連行される事を余儀なくされた。  自分はまぁ……組織の繋ぎ役としてどっぷり犯罪に手を染めていたから諦めもつくが、しかし彼女は訳も分からず派遣されて訳も分からないままに捕まり女王の尋問を受けようとしているのだ……彼女の心境を察すると不憫過ぎて言葉が紡げない。  せめて励ますくらいの言葉は伝えてあげたいと思うのだけど……殆ど彼女の素性を知らないミシェルは、どんな言葉をかけてあげるのが正解か分からず口を噤んでしまう。  そんな重い沈黙が数秒流れた後、ユナは再び怯えるよな声でミシェルに問いの言葉を零した。 「あの……私達……これから……どうなるので……しょうか?」  その声は不安に思っている事を隠そうともせずに震え、語尾は今にも泣き崩れそうに裏返ってしまっている。  不安からか呼吸が落ち着いていない様子も過剰に吐かれる呼吸の多さで判断できる。きっと心臓も自分とは比べものにならない程早く打っていて正気を保つのもいっぱいいっぱいなのだろうと察しが付く。だからせめてその不安を少しでも除いてあげられる言葉を伝えてあげたいとミシェルは思うのだが…… 「貴女も……組織に入りたいと申し出た時に覚悟してたんでしょ? この国で組織の人間として捕まればどんな目に遭わされるか……」  ユナを慰める言葉を言うどころか、彼女を追い詰めてしまう言葉しか口から出てこない。それだけミシェルも追い詰められているという事の裏返しではあるが、そのあまりに冷たい“自己責任だ”と言わんばかりの事実の付きつけにユナは頬にポロポロと涙を伝わらせ泣き始めてしまう。 「私は……組織の人に拾われた身でしたから……その……あまり……覚悟とかそういうのは……持ってなくて……」  ミシェルの言葉に、グスグス泣きながら困惑している顔が透けて見えるような声でユナが応える。それを聞いたミシェルは自分が思慮に欠けた言葉を吐いた事に苦い後悔を浮かべ、フゥと気持ちを切り替える為の息を一つつく。 「そっか……貴女は身を寄せる所が無くて組織に拾われた子なのね?」 「……そうです。食べ物も食べられない私の事を組織の人が見かねて保護してくれて……」  ミシェルはそれを聞いて改めて女王の言葉に憤りの念を抱く。 『なにが“町は活気に溢れている”よ! 孤児が路頭に迷っている地域もあるというのに……よくも抜け抜けとあんな言葉を吐けたものね……』  女王のあの思慮に欠けた言葉に怒りを覚えるミシェルだが、それと同等の怒りを自身の古巣である地下組織にも向ける。 『組織も組織よ! 何も知らないこんな末席の子を囮に使うだなんて……昔のリーダーなら絶対に許さなかった所業よ!』  女王、組織と両方に怒りの感情が湧き立ってきたミシェルは、とにかくユナだけでも元気づけようと声をかけ直す。 「良い? これから女王が貴女の事を尋問すると思うけど……知ってる事は全部吐いちゃっていいわ。聞かれた事には素直に応えなさい!」 「……え? い、良いんですか? そんな事して……」 「えぇ、正直に話せば女王も私達を殺そうとは思わない筈……だから、まずは自分の身を最優先に考えて行動するの。分かった?」 「は、はい……」 「組織の事は気にしなくて良い……。貴女の事を捨て駒だと切り捨てた連中の事を庇ってやる必要は無いわ、私だって……知ってる事は話してしまう予定だし……」  っと、そこまで言うとミシェルの頭に不意にザックの顔が浮かんだ。  彼の事は……ミシェルが“三日だけ待って”と言って引き留めてしまっていた。もしかしたら……彼はまだ自分が捕まったのを知らないかもしれない……  だとするなら、必要以上に組織の情報を流せば組織狩りに彼までも巻き込んでしまう可能性だってあり得る。  ……それだけは避けねばならない。  組織がどうなろうともはや知った事ではないが、しかしザックを巻き込む事だけはしたくはない……と、ミシェルは強く思っている。  ユナは組織の事を殆ど知らない新人であるから大した情報を吐く事は無いだろうけど、組織を深くまで知っている自分はそうもいかない。  組織と調査員の橋渡しとして居続けた自分はユナ以上に厳しい追及が成されるに違いない。  そう思っているからこそ、尚の事覚悟を決めなくてはならない。  自分の方は死んでも情報は漏らせない……。少なくともザックの身を危険に晒すような情報だけは吐くわけにはいかない……と、ユナに投げかけた言葉とは裏腹に自分を鼓舞する言葉を自分自身に言い留める。 「ユナ……大丈夫よ。貴女が組織の事を何も知らないってことは私がきっぱり伝えてあげるから! だから心配しないで……。怖がらなくて大丈夫だから……」  ミシェルの言葉にユナは小さく「はい」と言葉を零してズズっと鼻をすすった。すると、二人の話が一段落するのを待っていたかのように二人の女王付きのメイドが扉から入って来て並びになっている牢屋部屋を一瞥すると、ユナの居る部屋を見定めて呼び出しの言葉を告げた。 「ユナ=ユリウス、女王様がお呼びです……同行願います」  その声が掛かった瞬間、ユナは動揺するように握っていた鉄格子をガチャリと鳴らせ掠れた悲鳴を上げてしまう。  メイド達はそんなユナの怯える態度など気にも留めず鉄格子へと近寄り、鍵を開錠して嫌がっているユナの手を強引に引っ張って檻から彼女を引き摺り出した。  ミシェルは連行されていくユナに必死に「大丈夫だから! 怖がらなくていいから!」と声をかけて落ち着かせようとするが、容赦なく力でユナを引き摺って部屋を出ていくメイド達の姿に気圧され……最後の方は声をかける事も忘れ唖然となってユナが連れて行かれる様子を見送るほかなかった。 『っ!? あれは……拘束台??』  ミシェルの位置からは扉の隙間からは部屋の中がほんの少しだけ覗き見えていた。その部屋には今しがた組み立てたであろう、人の身長よりも少し大きなX字型の拘束台が床から垂直に立てられている様子が視界に映り込んだ。  扉はユナが連行されると同時に再びしっかりと閉じられてしまうが、ミシェルの目にはしっかりとその拘束台の姿が目に焼き付いた。  これからあの台にユナを拘束して尋問を行うのだろう……と、その後の展開までも想像が出来ミシェルは無念さに唇を噛みしめて下を向く事しか出来ない。  やがて、扉の隙間からはユナの嫌がる泣き声と、彼女の手足を拘束しているであろう枷の金属音が鳴り聞こえ、彼女があの台に拘束されているの過程が想像させられた。  それからしばらくはユナのグスグスと涙ぐむ声がその隙間から漏れ聞こえてきたが、ある程度時間が経つとその声は途切れミシェルの耳に届かなくなる。  恐らく今……女王がユナに言葉を紡いでいる最中なのだろう……ユナの声よりも女王の低く脅すような声が薄っすらと耳の鼓膜を揺らしてくる。  なんと脅しているのかは聞き取れないが、恐らくろくな事を言っていないだろうと思えるいやらしい喋り口調が印象として残る。もうそれを聞いただけでも嫌な予感は勝手に高められ、聞き耳を立てているミシェルにも緊張を強いてしまう。 「なに? 女王は……ユナに何を聞いているの?」  耳をいくら傾けても女王の声は言語として耳に届かない。何かを喋っているという状況は確認できるが、ユナが鳴らす手枷・足枷のガチャガチャ音の方が大きく正確に聞き取る事が出来ない。  時折……女王が不敵に笑っている声だけは聞き取れる。何かを企んでいるかのような……そんな妖艶な笑い方を彼女が零しているのは理解出来る。 『そう言えば……私じゃなくてユナを先に尋問しようと思ったのは……何で? 私の方が組織と繋がりが深い事くらい調べて分かっていたでしょうに……』  女王が本当に組織の情報を得たがっているのであれば、素人丸出しなユナではなく経験豊富な自分の方こそ時間をかけて尋問するべきだ。時間が惜しいのであればまず真っ先に自分の方を尋問に掛けるのが道理であるはずなのに……なぜ、何も知らなそうなユナの方を先に?  っと、ミシェルは自分自身に問いかけるように疑問を浮かべていると、ふと思い出したかのようにあの“噂”が頭を過り思わず口端をピクリと反応させてしまった。 『い、いや……あんな噂……本当な訳がない。ば、馬鹿馬鹿しいにも程があるし……それに……女王がいい歳してそんな事する訳が……』  ミシェルが“噂”として聞いた女王の裏の顔は……言葉にするのも馬鹿らしいと思える程荒唐無稽で、普通の常識では到底信じがたい話でしかなかった。  ミシェルも“それ”を聞かされた時は「んな訳ないでしょ」と一笑に付して記憶にも留めようとはしなかったのけど……しかし、先程見えたあの“拘束具”を思い起こすと、その荒唐無稽な話も真実味を帯びてきてしまう。 『あの拘束台……両手を万歳させる様に拘束できるし……足も足底を少し浮かせられるように高さを持たせてあった……』  もしも女王が組織の情報を得る為の尋問ではなく、もっと別の目的であの拘束台を組み立てさせたとすると……話は変わってきてしまう。  アレが……“そういう”目的で使われる台なのであれば……尋問する順番など関係など無いだろう……  情報を知ってそうなミシェルを先に選ばず、いかにも何も知らなそうなユナを先に連れて行ったという事実がそれを物語っている。 『ば、馬鹿馬鹿しい……。女王ともあろう人がそんなふざけた理由で組織の人間を捕まえようと思うだなんて……そんな筈は……』  扉の隙間から聞こえて来るガチャリガチャリという枷の鳴る音……そして、床をツカツカと歩くハイヒールの音……  女王は裸足であったのは間違いなかったから、恐らくこの音はメイド達の靴が歩く音だろう。  それらの靴音が歩みを止めて一瞬、シンと静まり返ったかと思うと……  一際大きな金属音がガチャリと鳴り響いて、ユナの大きな声がミシェルの部屋へと流れ込んで来た。 「ーーーーーーっッ! っあぁ!」  その声は最初こそ悲鳴のような体を成していたが、すぐに声が明るく楽し気な抑揚をつけ始め悲鳴ではない別の叫び声となって扉の隙間から漏れ聞こえてくる。 「……っ!? え?? う、嘘……? ユナ……? もしかして……笑ってる??」  あの小柄で華奢な身体の何処からその様な声が上げられているのか疑問だが、扉から聞こえる声は悲鳴を上げているようにも助けを呼んでいるようにも聞こえる激しい声量だった。  しかしその激しい声の端々には“アハハハ、ギャハハハハハ”という笑っている時特有の声が挟まれていて、それがただの悲鳴でない事を如実にミシェルに伝え困惑させる。  その悲鳴だか笑い声だか分からない叫び声は何秒経っても、何分経っても声量を落とす事も休む事もなく続き……ユナも時折笑い声に混じって“やめて、止めて”などの言葉を発している。  それを聞いてミシェルはようやく……ユナが今、隣の部屋で何をされているのかを明確に察してしまう。 「まさか……本当に? ただの噂じゃ……なかったというの?」  察したミシェルは思わず呟いてしまう。  あの荒唐無稽だと思っていた噂話が……実は本当に行われていた事だと……理解して……  そして、ユナの今の状況を想像して……ブルリと身震いを起こしてしまう。  自分が同じことをヤられたら……と想像して、途端に肩が震え唇が波立つように歪んでしまう。 「うぅっ……やだ! 想像したらコッチまで……」  ミシェルは理解している。  今……ユナが笑っているのは、決して自分の意思で笑っているのではないという事を……  ユナは……あのメイド達によって無理やり“笑う事”を強制されている状態なのだろう……  女王はそういう“プレイ”が好きだと、噂で聞いた。捕らえた組織の若い女性を拘束して……無理やり笑わせ……苦しめるという行為が好きで裏ではそれに執着している……と、伝え聞いた。  そんな馬鹿な話があるか……と思っていたが、ここまで状況証拠が揃っていてはもはや否定はできない。  あの噂は真実であったのだろうと……納得するしかない。  だって……さっきまで半べそかいて嫌がっていたユナが突然笑い出したのだ……  あの陰気な地下部屋で、気が弱そうな彼女があのように快活に笑える道理など“アレ”以外に有り得ない。  想像するとゾッとしてしまう。  もしも自分の身にそれが加えられたらと思うと……鳥肌が立って寒気を催し居ても立ってもいられなくなってしまう。  身体の芯が嫌だと拒否反応を起こしてしまう…… 「あははははははははははははははは、ぃやはははははははははははははははははは、やめて! やめてくださいぃぃぃひひひひひひひひひひひひひ、女王様ぁっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!」  ユナの笑い声は時間経過と共に小さくなるどころか激しさを増すばかりだ。  そしてその笑い方は常に必死で休まる余裕すらも与えられていない。  普通なら、笑いを生む原因が除かれれば自然と笑いは収まる方へと向いていく筈なのだが、ユナは気でも狂ってしまったかのように笑う事を止められなくなっている。  このようになってしまう原因は一つしか考えられない。  こんな状況で笑いを生む方法など“コレ”以外考えられない。 「ふ、ふざけてる! まさか本気で……あの女王は……」  ミシェルの頭の中では先程扉の隙間から見えたあのX字型の拘束台に磔にされているユナの姿が思い浮かべられていた。そのユナが、頭を左右に振って苦しそうに笑い悶えている姿が想像出来た。  そしてそんな磔の格好にされたユナの背後には女王のメイドの一人が立って居て、足元にはもう一人のメイドが腰を屈めて座っている様子がハッキリと思い起こせる。 「あはっっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは、だめぇへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ、苦しいぃぃひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ、笑うの苦しいぃぃぃひひひひひひひひひひひひひ!! 助けてぇへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ!!」  メイド達は一様にユナの無防備な身体の一部を刺激してこの“笑い”を誘っている。  別に面白いことを言っている訳でもない。面白い顔を見せている訳でもない。ユナの笑いはこの“刺激”にのみ反応して引き起こされているに過ぎない。  その刺激というのが……子供の頃に誰もが経験した事があるであろう……  “くすぐり”の刺激……。 「ユナの事……メイド達に指示して……くすぐらせているんだ……。抵抗できないよう拘束したユナの体を……」  馬鹿馬鹿しいとさえ思っていた噂話が、にわかに真実味を帯び始めた事にミシェルは戦慄した。  今まで意識にすら上がってきた事のない他愛ない行為が、隣の部屋では“特別な事”として扱われユナに施されている……  それが分かった瞬間、ミシェルの背筋にゾワリとした寒気が何度も往復して走った。  隣の部屋を見ている訳でもないのにユナの笑い声を聞いただけで、体中の神経が湧き立つ感覚を覚えてしまう。  メイドがユナの腋をくすぐっている光景を想像すると、自分自身の腋が無性にこそばゆく感じてきて思わず腋を庇おうと両手を交差させて守りの姿勢を取ってしまう。  メイドが彼女の足裏をコショコショと撫でている姿を想像すると、途端に足裏にもどかしい痒みを覚えて床に足裏を擦り付けたくなってしまう。  ミシェルは……ユナが笑わされている声を延々と聞かされ、想像を掻き立てられ悶えてしまう。  その時間があまりに長い時間であったため、ミシェルは想像だけで身体中がくすぐったさを感じるようになってしまっていた。  そして……永遠とも思える長い時間を笑い狂ったユナは、とうとう笑う力も無くしたかのように声が遠く小さくなっていき……最後には、笑い声も抵抗しようと鳴らしていた枷の音すらも聞こえなくなり、彼女が意識を手放す事となった。  扉の隙間からは何やら指示を下す女王の低い声と、その指示に従ってユナの手足の拘束を解き身体を拘束台から降ろす音が漏れ聞こえてきた。  それを聞いたミシェルは顔を真っ青に染めて唇を震えさせ始める。  そして……心の中で言葉を紡ぐ…… 『次は……私の……番!?』と。


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