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暴虐王女の国2−②

②:ミシェル=ウェンディ 「貴女が組織を裏切るなんて思わなかったわ……エリィ!」  翡翠色の鋭い眼光が女王の横に佇むエリィに向けられ、彼女を責め立てるように声が荒げている。  その言葉を受けエリィは苦虫を噛み潰したような悲痛な表情を浮かべ、視線を床の方へと彷徨わせてバツが悪そうな態度を取ってしまう。  後ろ手に縄で縛られ床に臥す様に押し付けられているミシェルは、悔し気に歯を食いしばりながらも睨み目を尚鋭くさせて無言のエリィに侮蔑の視線を突き刺していく。 「まぁまぁ……そんなに怒ってあげないで? 彼女だって……貴女を捕まえる為に仕方なく協力させられたのよ? 私に人質が取られているから……」  陰鬱な石室のような薄暗い地下室の端に場違いな赤い絨毯を敷き、その上に玉座を模したような豪奢な椅子が置かれ……その椅子には素足に白いバスローブを羽織っただけというラフな姿で着座している、この国の現女王であるルイーザ=カルロッテの姿があった。  彼女は普段謁見の間で見せるような王族らしい衣装や装飾品は着けておらず、寝る前の余暇時間をくつろぐ為の格好と言わんとするような姿で座っており、手にしている赤ワインのグラスを時折煽ってはその美しい頬をほんのり赤く染め、トロンとした目でミシェルを見下ろしている。 「ルイーザ女王……! 貴女がエリィに命令したのですね? 私を捕まえる為に……」  酒場での仕事着のまま連行されたミシェルは、赤を基調とした牧歌的なフリルスリーブのワンピースに白いエプロンを着用した……いかにも酒場で給仕をする娘を表わすような格好をしている。  頭には白いフリルの付いたカチューシャを付け、長い茶色の髪はリボンで一つに纏めて右肩の方からゆるりと垂らす大人っぽい髪型に整えてある。  顔は若干強気な表情を浮かべているが……それは弱みを見せない為の必死な強がりであり、普段の彼女は穏やかで優しいお姉さんのイメージがピッタリくる牧歌美人的な人物だった。  そんな彼女が友人に裏切られたと知り、捕らえられて女王の前で押し伏せる格好を強いられているのだから、その様なおっとりとした表情を浮かべる余裕など有りはしない。  だからミシェルは、女王付きのメイドに頭を床に押さえつけられ平伏する格好を強いられながらも、自分よりも1段高い位置にある椅子の隣を鋭く睨みつけて怒りを露にしている。少しでもエリィの裏切りに視線の刃を刺してやろうと、その目に強い恨みの火を灯し彼女の項垂れる顔を強く睨みつけている。 「…………うぅ……」  ミシェルのそんな恨みがましい視線に晒され、エリィは顔を俯かせたまま唸り声を上げる事しか出来ない。その姿勢は申し訳ない気持ちが溢れているが、自身の行いを後悔して謝罪するという態度を示す事はない。  それはエリィが女王に指示されてやった事であるのを如実に表しているのだとミシェルは感じ取り、怒りの矛先を女王本人へと向け睨み目を強める事となる。 「うふ……怖い顔♥ 美人が台無しよ?」  ミシェルの怒りの眼差しに晒されたルイーザ女王はその様に小さく零し、飲みかけのワイングラスを椅子の隣に置いてあった丸テーブルの上に置く。そしてテーブルの上に置いてあった“調査報告書”と題字が書かれた紙を拾い上げて、恭しい態度でそれに目を通して言葉を紡いでいく。 「ミシェル=ウェンディ……女。未婚で19歳。国の商業地区に祖父の代に構えたウェンディズバーと言う名の酒場で看板娘を務めるウェンディ家の長女……」  女王がボソリとその様に呟くとミシェルはビクリと肩を揺らせて、怒りの眼に僅かながら不安の混じる影を過らせてしまう。 「町の人々からは気立てが良くて優しく明るい……誰からも好感が持てる素敵な女性だ、と……報告を受けているけれど、まさか裏で“あの組織”と繋がっていただなんて……ねぇ?」  女王が資料の上からその鋭い眼光をキラリと光らせてミシェルを見ると、彼女は思わず目を逸らして悔しがるような呻き声を小さく上げる。  本当は反論して身の潔白を主張したい所ではあるが、地下組織の人間と繋ぎを持たせようとしていた現場を押さえられてしまっているのだから言い訳のしようがない。だから、せめて態度だけでも反抗的であろうと、話しかけて来る女王を見ようともせず話を無視して顔はそっぽを向かせようとする。しかし、その態度は抑え込んでいるメイドによって正される事になり、ミシェルは嫌がりながらも女王の顔を見上げる事を余儀なくされる。 「この国で、あの組織……“深紅の鈎爪”と繋がっていると分かればどんな処分が下されるか……賢い貴女なら分かっていた筈でしょうに……」  頭を掴まれ強制的に女王の顔を見るように仕向けられているミシェルは、女王のその物言いにギリリと歯を軋ませ恨みがましい目で睨み上げる。  そして、自分がもう助からないだろうという事を察し……ここぞとばかりに礼を欠く言動で女王を糾弾し始める。 「貴女が我が同志に負わせた懲罰は不当そのものよ! 我々は別に国家転覆を狙っていた訳でも暗殺を企てていた訳でもない……国に危険な兆候が無いかを調査していただけなのに! それを貴女は……」 「私が即位した際……言ったわよね? そういう諜報活動は厳罰に処す……って。国に危険が迫っているかどうかは私達王族が調査し判断するって告げた筈よ?」 「国に全部丸投げすれば……前の国王のように自分に都合のいい事実だけが流布される! だから深紅の鉤爪は独自に調査をして正しい情報を広げるよう努力していたのよ!」  必死に弁明と糾弾を行うミシェルを女王はフンと鼻を鳴らし一笑に付してしまう。  その一笑はまるで“犯罪者が何を言っているのかしら?”と馬鹿にするような笑い方で、ミシェルを更に苛立たせる事となる。 「国民が真実を知ることの何が悪いのです! 後ろめたいことが無いのならば堂々としていればいいだけでしょうに!」 「私が駄目だと言ったら駄目なのよ。それをやれば国家反逆罪になるってわざわざ伝えてあげているのに……なぜ貴女達はそれに逆らうのかしら?」 「我々がそれを怠れば……また前国王の愚行が再現されかねない! それだけは避けなければならないと皆思っているから……」 「そう思っているのは貴女達だけじゃない? 国民はそんな事言う者は一人としていないわよ?」 「それは……貴女が言論の自由を縛っているから……」 「縛ってなんかないわよ。だって……今だってあなたの言葉に耳を傾けているじゃない……」 「……っ! ち、違う! 貴女は……国民を……暴力でなく“威圧”で制している! 減税とか商業の斡旋とか……聞こえは良い政策を宣っているけど、常に前国王の悪事を持ち出して圧をかけているじゃない! 言う事を聞かないと……前のように圧政を引くぞ、って……」 「それは誤解じゃないかしら? 私は前の圧政を反面教師にしてより良い国造りをしようと前向きに考えているのよ? その証拠に……町は活気に溢れているじゃない♥」 「前の国王だって……最初“だけ”は表向き立派に見える政策を打ち出していたわ! でもそれも……半年も持たずに瓦解した……」 「それは前国王の話でしょ? 私は違うわ……」 「いいえ! 貴女もあの国王の意思を受け継いでいる! その片鱗が時折覗いていると……我々の調査報告に上がっているわ!!」  ミシェルのその言葉を聞き女王はピクリと片方の眉を持ち上げ、それが真実かどうかを見極めるように眼光を鋭くさせる。 「……へぇ? 夫の片鱗が……私に……ねぇ?」  その獲物を睨む様な視線に晒されたミシェルは、再び身体をビクリと震わせ自分が“喋り過ぎた”と思い至り思わず口を噤んでしまう。 「それは気になるわね……。私……どんな調査をされたのかしらぁ? 私の“何”を見てそう判断されたのかしらぁ? ねぇ? 教えて下さらない?」  女王の問い詰めにミシェルはうぐっと喉を鳴らして緊張の色を顔に浮かべる。  調査報告にあった通り……女王は大衆向けに見せる笑顔と、地下室で見せる笑顔は違う。彼女が地下室で組織の人間を尋問する時に浮かべる笑顔は、前国王が国民を蔑ろにする笑顔にそっくりであると記載されていた。その笑顔が、まさに今……ミシェルに向けられている。  美しい尊顔を“何かしら”の欲に歪ませて笑うその顔は……天使に擬態した悪魔のように醜悪で尚美しくも見えてしまう。  その笑顔が恐ろし過ぎて……ミシェルは歯をカチカチと鳴らせて怯えの色を見せてしまう。 「詳しく調べたのだったら……もう、知っているのよね? 私の……裏の顔……を♥」  女王は手にしていた調査報告書を傍で待機したしていたメイドに手渡して、代わりにワイングラスを再びその細い手に持ち直す。そしてクピっと一口で中身を飲み干すと、酒の回った据わった目でミシェルを見降ろし突然クスクスと上品な笑い声を零し始める。 「知っているのだったら……これから自分がどんな目に遭わされるか……分かっているわよね?」  椅子の上で片足を組み、わざと自分の美しく伸びた素足を見せつけるように掲げると……足先をクニクニと動かして見せ意味ありげにミシェルの視線をその足へと誘導する。女王の素足など見る機会など無かったミシェルは、余りに艶めかしく動くその足指と足裏の美しさに思わず言葉に詰まってしまう。  バスローブの端から覗く美しい二本の美脚……それが太腿を交差させて組まれている格好はとても1児の母とは思えぬ色気と妖艶さを兼ね備えて見せており、ミッシェルは同性でありながらも頬に熱気を帯びさせゴクリと生唾を呑み込んでしまう。  誘うように動く赤いペディキュアを塗った美しい足指……色気の粋を集めた細く美しく伸びた脚……。そして足裏……  その足裏を見た瞬間……ミシェルは思い出してしまう。  同志が集めてきた情報の中に不可解な情報が混じっていた事を……  嘘か誠か判断できない、信じるのも馬鹿馬鹿しくなるような情報がそこにはあった。  ミシェルはその情報を見て思わず眉根を寄せて呆れる声を零し、諜報員がふざけているんじゃないかと疑ったが……しかし、今の彼女の態度を見ればその情報があながち荒唐無稽ではなかったのだという事に気付かされる。 「私が裏で……捕らえてきた組織の人間をどんな風に扱って……どういう事をしてきたか……分かっているのよね……ミシェル=ウェンディ?」  足裏を見せつけ、足指をクニクニとワザとらしく曲げて……頬を赤らめながら挑発する女王の態度に……ミシェルは確信してしまう。  あの情報は……間違いではなかったのだ……と。


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