SakeTami
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66.古代遺跡②

 現われたのは、トレイを幾分分厚くしたかのような円柱形の物体でした。

 前方に目のような部分があり、その両脇に穴が開いています。


「ランバートさん、あれが敵ということでよろしくて?」

「うん。自走式のメンテナス&警備ロボットだ」


 ロボットという単語には聞き覚えがあります。

 以前、レイお母様が話してくれたことがありました。

 何でも科学文明では似たような形で自動でお掃除をしてくれる機械があり、それをお掃除ロボットと呼んでいたそうです。


「トラップに引っかからない限り、襲ってこないんじゃなかったの!?」

「し、シモーヌちゃん、ランバートさんと一緒に下がってください!」


 リリィ様と一緒に前に出ると、わたくしは油断なくそれを警戒しました。


「通してくださるつもりはなくて?」

「照合中……登録スタッフに適合者なし。速やかな退去を命じます」

「生憎、この奥に用がありますのよ」

「警告。ただちに立ち去らない場合、害意ありと見なして排除行動を取ります」

「さっきの個体は問答無用で撃ってきたじゃないですのよ」


 すると、奥の方で爆発音がしました。


「プロトコル故障の個体は破棄しました。再度、警告します。退去を」

「そう言われましてもね」


 わたくしが剣を構えると、それは甲高く無機質な音を発しました。


「――!?」


 それはいわゆる警笛のようなものだったのか、壁に隙間が生じると、そこから次々と同型の敵が現われました。


「最終勧告。退去しなさい」

「……リリィ様、行けそうでして?」

「ちょ、ちょっときつそうですけれど、なんとか」

「なら……行きますわよ!」

「はい!」


 わたくしは前に飛び出しました。


「敵対行動と見なします。これより排除を開始します」


 ロボットはそう告げると、次々に銃なるものを発射してきました。

 わたくしはそれを体捌きで避け、剣で払い、間合いに入ったものを次々に切り伏せていきます。


 しかし――。


「やりづらいですわね!」


 自走する弓のようなもの、とランバートさんは言っていましたが、まさにそのような相手です。

 生きてはおらず、意志がありません。

 それはつまり、殺気がないということに他なりません。

 さらに始末が悪いことに、弓のような攻撃の「起こり」もなく、攻撃を読むことが困難を極めました。


「リリィ様、目に頼ることになりそうですわ。死角に入れないように!」

「わ、分かりました。」


 人間相手の切り合いならば、気配を察知して死角からの攻撃にも対応できますが、この敵にそれは通じません。

 死角から撃たれた場合、遠距離なら弾丸の音で避けることも可能でしょうが、近距離ではそれも適わないはずです。

 自然、目に頼った戦い方を選ばざるを得ません。


 とはいえ、リリィ様とわたくしは戦闘経験は豊富です。

 段々とロボット相手の戦闘にも適応していきます。

 銃とやらも常人であれば回避はほぼ不可能ですが、リリィ様もわたくしも身のこなしは人の域を大きく外れています。

 空気の微細な動きや音を始めとする微細な情報を頼りにしつつ、直撃を避けてロボットたちを切り伏せて行きました。


 斬ったときの手応えも、最初はむやみやたらと硬かったですが、慣れてくると装甲の継ぎ目や薄い場所を狙って斬れるようになってきました。

 ただ、集中力と体力が持つかどうかは微妙なところでした。


「アレアちゃん、もう少しだけもたせてもらえるかい!」

「父さん!?」


 ランバートさんが、壁に向かって何かを操作しながら言いました。


「何か策が――?」

「動きを止められるかもしれない!」


 ランバートさんの意図は分かりませんが、ここは任せるしかありません。

 斬っても斬っても後から補充されるので、このままではじり貧だと思われました。


「優先順位を設定。個体識別番号1、仮称:剣士に攻撃を集中」

「!?」

「あ、アレアちゃん!」


 敵の動きが露骨に変わりました。

 これまではわたくしたち四人を均等に攻撃していましたが、それでは埒があかないと踏んだのか、攻撃をわたくしに集中し始めました。


「ランバートさん、急いでくださる!? 長くはもちませんわ!」

「もう少し!」


 少しずつ被弾するようになりつつも、なんとか直撃は避けて身をかわし続けます。

 しかし、もうほとんど防戦一方です。


「攻撃手段の変更を提案……承認。物理弾から魔法弾へ切り替え」

「――!」


 これで音を頼りにすることも難しくなりました。

 せめて無色の能力が生きていれば、なんということはなかったのに――!


「アレアちゃん、前後の交代を!」

「無理ですわ!」

「父さん!」

「大丈夫、間に合った――!」


 ランバートさんが何かのボタンを押すと同時、敵ロボットたちがいっせいに動きを停止しました。

 それまでの喧噪が嘘のように、辺りが静まりかえりました。


「た、助かりましたわ……」

「あ、危なかったですぅ……」


 正直、あと数秒遅かったら、わたくしもリリィ様も仕留められていた可能性があります。

 リリィ様には治癒魔法があるとはいえ、それでもそう長くは持たなかったでしょう。


「ランバートさん、助かりましたわ」

「お、恩にきますぅ……!」

「でも、父さん、何をしたの?」

「クラッキングっていう技術であのロボットたちの制御権限を奪ったんだよ」


 くらっきんぐ?


「それは魔法ですの?」

「いや、科学文明の技術だね。魔力を介さない、純粋な物理現象だよ」

「ま、魔法よりも魔法みたいでした……」

「父さん……すご……」


 わたくしには理解の及ばぬ技術ですが、原理としてはマナリア様のスペルブレイカーに近いものだということでした。


「ただ、制御キィが階層ごとに違うから、毎回、それを解析するまでアレアちゃんとリリィ様には頑張って貰うことになるよ」

「それくらいならお安いご用ですわ」

「り、リリィも頑張ります!」


 などと言っていると、


「アタシだけお荷物になってるわね……ごめん」


 シモーヌが苦笑いを浮かべました。


「何を言っていますの。シモーヌには最後に大仕事が待っているでしょう?」

「そ、そうです。シモーヌちゃんがいなかったら、そもそもこのダンジョンアタックそのものが成立しません」

「それはそうだけど、アタシにももっと戦う力があったらなとは、やっぱり思っちゃうわね」


 シモーヌが言うことも分かります。

 分かりますが、


「適材適所、でしてよ、シモーヌ」

「アレア……」

「シモーヌには普段、たくさんお世話になっていますわ。勉学や学校生活一般。メイも含めた四人でいるとき、リーダーシップを取ってくださったのも、あなたでしたわ」

「……そうだったかしら」

「謙遜はこの場合、美徳ではなくてよ? ともかく、ただ戦う能力に欠けていることくらいなんですのよ。シモーヌにはシモーヌの良さがたくさんありますわ」

「そ、そうですよ!」


 わたくしとリリィ様が口を揃えると、シモーヌを少しだけ表情を固くしたあと、


「あ~~~! アタシらしくない!」


 そう言って、ほっぺたをパンと叩きました。


「ごめん! 今はどうでもいいことだったわ! とにかく、今はこのダンジョンを踏破してダンジョンコアを手に入れること。つまんない劣等感とかどうでもいいわ!」

「……シモーヌにも劣等感ってあったんですのね」

「どういう意味よ!?」

「そ、そうですよ、アレアちゃん。シモーヌちゃんは繊細な人です」

「そ、そういう言い方されると、なんかそれはそれで恥ずかしいけども……」


 わたくしたち三人がそんな話をしていると、


「そろそろ移動しよう。クラッキングは一時的なものだ。制御権限を奪い返される前に、下の階層に移動したい」

「承知しましたわ。みんな、警戒を続けつつ先へ進みましょう」

「し、殿はリリィに任せてください」

「頼むわね、リリィ様」


 そう言ってランバートさんの横に並んだシモーヌに、


「いい友だちを持ったね」


 ランバートさんはそう言って笑いかけると、シモーヌも、


「ええ、最高の友だちよ」


 と笑い返しました。



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