過去作です。以前海で船遊びするイラストで登場した2人の話。
野球部設定ですが野球はあんまり上手くない模様。
先輩のほうが芳樹で後輩のほうが秀雄です。
早朝の野球部部室、ユニフォームを着た部員がふたり。
朝練の時間にはまだ早く、他に人はいない。
「なあ、お前も確か別の世界に行けるタイプだろ?」
一つ上の先輩が発した質問に、後輩は元気よく答える。
「ハイ、行けるっスよ!」
ほぼ同時に次の質問が飛ぶ。
「じゃあ初ノルマん時、どうしてあんなに疲れてたんだよ」
それを受けて、後輩はそのときの顛末を話し始めた。
「あー、それはッスね……」
――
「……それで一匹すばしっこいのが居て、逃がしちゃったんスよね」
「おう」
「そいつ人ごみの中に逃げ込んじゃって~」
「うん?」
「かきわけて探したんスけどなかなか見つからなくって~」
「……」
「やっと見つけたと思ったらなんか可愛く思えてきてッスね~(※実は人違い)」
「はあ」
「抜くの手伝って貰ったんス!」
「何故そうなる……ってか、かきわけた小人も捕まえてりゃ楽に100匹集まったろ」
「あっ……」
「お前ってホント……」
「それでそれでそれで!なんかメチャクチャ頑張ってくれて!」
「ほう」
「でもイったときに一緒に飛んでっちゃって~」
「まあ、死ぬわなぁ」
「いや木に引っ掛かって無事だったんスけど~」
「そっか、よかったな」
「よくないっスよ!二回目は殆ど動いてくんなくって~」
「おいそれは……」
「ハラ減ってたんでそいつ食って次探そうと思ったんスけど~」
「うんまあそれでいいよ」
「もう皆逃げちゃった後で~」
「だろうな」
「逃げ遅れたのをちまちま探してたらなかなか見つかんなくて、
100匹集まった頃には日が暮れそうになってたーって感じっス」
「そ、そうか……」
先輩の方は、何かを決心したように、
「今度の休み空いてるか?いっしょに小人捕まえに行くぞ」
と告げた。
「はい、行くッス!」
後輩は嬉しそうな顔で即答した。勿論スケジュールなど確認していない。
――
日曜、朝。誰も居ない部室に再度集まったふたり。
先輩の方が2年の桜井芳樹、後輩は1年の高科秀雄という。
「彼女と遊ぶ約束してたんスけど、大事な用あるからって断ったッス」
「オイオイちゃんと確認しただろ。良かったのかよ…ってか彼女居んのかお前」
「結構可愛いッスよ~」
そう言って写メを見せる後輩、秀雄。実際、彼女は芳樹から見ても可愛く思えた。
「お気の毒にな……」
「え、どういう意味ッスか?」
「いやあ……そうだ、彼女のこと縮めたいとかは思わねーの?」
「別にアイツのこと食べたいとは思わないッスしね~」
「」
秀雄の中では小さい人間=食べ物という図式が出来上がっているらしい。
「そういや、先輩なんで水着なんスか?」
Tシャツにスウェットパンツの秀雄に対し、芳樹は競パンにパーカーを羽織っただけだ。
「あん?今から小人捕まえに行くんだろ」
「そうスけど……???」
「俺の能力、水に浸かんないと発動しないんだよ」
「あー」
「小人が溺れっからジップ○ック欠かせねぇんだよなー」
「先輩!」
「なんだよ」
「よかったら俺ので行きませんか?」
――
芳樹は驚愕した。たった100匹捕まえることにあれだけ苦労していた後輩の能力が
自分の、いや“部”内の誰よりも使い勝手の良いものだったからだ。
秀雄は野球部の用具入れのドアに手をかけた。
「こうやって適当なドアを念じながら開けたら……ほら」
そこに広がっていたのは、ふたりにとっては見慣れた、しかし普通ではない光景。
ドアと殆ど同じ幅の三車線道路が真っ直ぐ伸び、その上を自動車が走っている。
押し開けられたドアの向こうにも何台か走行していたのだろう、秀雄の手には
確かにその感触が伝わっていたが、慣れっこなのか特に気にする様子はない。
向こうの世界に突如出現した扉。その裏側でも無数の衝突事故が発生していた。
開くドアとの衝突をまぬがれた数台が、止まり切れずにこちら側へ侵入してくる。
「あっ入ってきちゃだめッスよ」
秀雄は自動車より大きなスニーカーの腹でそれを蹴とばした。
蹴られた自転車は何度も地面への衝突と回転を繰り返しながら、渋滞した車の
列に突っ込む。そんなことを繰り返している巨大な人間を見て、ドライバー達は
慌てて車から降り、歩道に向かって走り出した。
「大きさから何から良い感じに歪んで繋がるらしいんスよね~。多少なら好きに指定も出来るし」
そう得意げに言いながら秀雄は一歩、また一歩と道路に踏み出していく。
その度に踏みしめた部分の舗装は沈み込み、何本もの大きなひびが入る。
「やっぱ地面やわらかいな~」
下も見ずに歩くものだから、小指大の人間が何人かスニーカーの下敷きになっていた。
「ん?あ、あああ。この靴昨日洗ったばっかしなのに……」
「お前何しに来たんだよ……」
「潰しちゃったの勿体ないッスね~」
「どうせ怪我してた奴とかだろ。ってかお前小人潰さねーの?」
「あっ先輩!あっちに沢山ビルがあるっスよ!」
「聞けよ……」
秀雄は乗り手を失った自動車を蹴散らしながらズンズン進んでいく。
ドアの出現位置付近には高い建物はなかったが、秀雄の向かった方向にはふたりと同じくらい背の高いビルが立ち並んでいた。
(続)